逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。

みゅー

文字の大きさ
上 下
16 / 41

16

しおりを挟む
 アリエルはアラベルと二人きりにされ気分が悪くなったので、アラベルを視界に入れず無言で湖を見つめた。

 なんの目的でエルヴェとアラベルはここへ来たのだろうかと考えていると、アラベルが勝手に話し始めた。

わたくし、昨日もエルヴェに誘われて王宮へ行ってましたの。そこでアリエルお姉様の話になったんですわ。それで、わたくしもオパール様とルーモイの別荘に行ってみたかったとうっかり言ったものだから、エルヴェが今日ここまで連れてきてくれたんですのよ?」

「そう、よかったわね。なら、貴女も楽しんで」

 森の方へ向かった二人の姿が見えなくなると、アリエルはアンナと湖畔を散歩することにした。
 本当は別荘へ戻りたかったが、ヴィルヘルムに声もかけずに勝手に戻ってしまうのは失礼だろう。

「アリエルお姉様、せっかく湖に来たのですもの一緒にボートに乗りませんこと?」

 アラベルの誘いにアリエルは悪寒がした。二人きりでボートに乗ったら突き落とされかねない。

「あら、アラベルは殿下と一緒に乗ったらどうかしら? その方がわたくしと乗るより楽しいですわよ」

 するとアラベルは頬を染め、エルヴェとヴィルヘルムが行った森の方に一瞬だけ視線を向けると前方を見つめ呟く。

「ハイライン公爵令息はわたくしがエルヴェとボートに相乗りしたらどう思うかしら?」

 そしてはっとした様子でアリエルを見た。

「アリエルお姉様、ごめんなさい。ハイライン公爵令息はアリエルお姉様のお友達でしたわね。でも、同じ顔ならどちらを選ぶかなんてわかりませんわよね?」

 そう言って微笑んだ。

 アリエルは呆れてため息をつくと、アラベルを無視してアンナに声をかけようとした。

 するとその瞬間、アラベルがわざとらしくよろけてアリエルにぶつかり、アリエルがバランスを崩すと軽く突き飛ばした。
 アリエルはその場に転倒し、ぬかるんでいる場所へ思い切り尻餅をついた。

「アリエルお姉様、ごめんなさい! わざとではありませんのよ?」

 アラベルは大きな声でそう言ったが、今のはどう考えてもわざとだった。

「お嬢様! 大丈夫ですか?!」

 アンナが駆け寄る。

「大丈夫よ、ドレス以外はね」

 アリエルはアンナの手を借りて起きあがるとため息をついて言った。

「アラベル、貴女本当に幼稚ね」

 そう言うと、状況がわかっておらず呆気に取られているアンナに向き直る。

「アンナ、別荘に戻るわ。行きましょう」

「お嬢様、よろしいのですか?」

「構わないわ。ドレスも汚れてしまったし、ハイライン公爵令息もお許しになるでしょう」

 そう言うとアンナにドレスの泥のついた部分をつまんで見せた。その背後からアラベルが瞳を潤ませてアリエルに訊く。

「アリエルお姉様、わたくしはどうしたら?」

 アリエルは微笑んで返す。

「せっかく来たのですもの、貴女はゆっくり楽しんだらどうかしら?」

 そう言って、ハイライン家のメイドにヴィルヘルムへの伝言を残し別荘に向かって歩き始めた。

 別荘に戻るとオパールに見られる前にドレスを着替えようと素早く部屋へ戻るつもりが、途中でオパールに見つかってしまった。

「お姉様?! そのドレスどうしたんですの? お兄様は?!」

「心配しないで、ちょっと転んでしまっただけですわ。怪我もありませんし、とりあえず屋敷内が汚れてしまわないようにドレスを着替えてきますわね?」

 そう言って部屋に戻り着替えて、オパールのいる客間へ向かった。

 客間ではオパールが険しい顔でメイドから湖でなにがあったのか話を聞いているようだったが、着替えてきたアリエルに気づくとアリエルに抱きついた。

わたくしがあの場に残っていれば、お姉様にこんなことさせませんでしたのに! わたくしのせいですわ!」

 アリエルは優しくオパールの頭を撫でる。

「オパールのせいではありませんわ。わたくしの不注意ですもの」

 アリエルがそう答えると、オパールはアリエルに抱きついたまま顔を見上げる。

「違いますわ、メイドから聞きましたのよ? お姉様は卑劣なことをされたのでしょう? わたくし絶対に許せませんわ!」

 アリエルはメイドがオパールにどのよう説明をしたのか気になったが、あえてなにも言わずに微笑んで返した。

 それは前回、言い訳をすればするほどアリエルは自分の立場を悪くしただけだったからだ。

 むくれているオパールを愛らしく思いながらアリエルは言った。

「でも、こうしてオパールと一緒にいられる時間ができたんですもの、わたくしはそれでも良かったと思いますわ」

「お姉様、本当?」

「もちろんですわ。今日はオパールの好きなことをして過ごしましょう」

 そう答えると、オパールは満面の笑みを浮かべた。

「でしたらわたくし、お姉様に刺繍を教えてもらいたいですわ!」

「そんなことでよければ、いくらでも」

 アリエルは微笑むとメイドに刺繍道具のかごを持ってくるように言い、オパールとソファに座った。

 その時、ヴィルヘルムが部屋の入り口に立っているのに気づいた。その背後にはエルヴェと少し不満そうなアラベルもいた。

「お兄様、見損ないましたわ! お姉様を守らないなんて! お姉様はとても酷いことをされたんですのよ?!」

 ヴィルヘルムの姿を見ると突然オパールがそう言って怒り、エルヴェがそれを制した。

「私がヴィルヘルムに話があって呼び出したんだ、彼ばかりは責められない」

 そこで、背後にいたアラベルが一歩前に出た。

「アリエルお姉様はなんと仰ったかわかりませんけれど、悪いのは全てわたくしなのです。わたくしがよろけたばかりに……ごめんなさい」

 そう言って頭を下げた。するとオパールはアラベルを一瞥いちべつし、怒りを抑えるように前方のなにもない空間を見つめた。
 
「お姉様はなにも言いませんでしたわ。わたくしはお姉様付きのメイドになにを見たのか聞いただけです」

 アラベルは目に涙を溜めて訴える。

「あぁ、ではアリエルお姉様はご自分でそのメイドにことの経緯を説明されたのですね?」

 オパールは鼻で笑うと、アラベルを冷たい目で見つめる。

「貴女、なにが仰りたいのかしら? お姉様にはわたくしが護衛のメイドを付けてることを伝えてませんのよ? 今回は守れませんでしたけれど。だからお姉様がメイドに経緯を説明することなんてできませんわ」

 そう言うとアリエルに向き直る。

「お姉様、護衛のこと黙っていてごめんなさい」

 アリエルはかぶりを振った。

「そんなことで怒ったりしませんわ。ありがとうオパール」

 オパールは物言いたげなアラベルを無視してエルヴェとヴィルヘルムに向き直る。

「お姉様はエルヴェよりお兄様に相応しいと思ってましたけれど、こんなことでは安心して任せられませんわ!」

 するとアラベルは泣き出した。

「きっとオパール様はなにか誤解されているのですわ」

 オパールはアラベルを睨んだ。

「名前で呼ばないでちょうだい! 貴女にそれを許可した記憶はありませんわ!」

 そう言われたアラベルは、酷く傷ついた顔をすると部屋を飛び出していった。
 エルヴェはため息をつくと、そばにいたメイドにアラベルを追いかけるように指示しアリエルの前にひざまずいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

window
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました

くも
恋愛
 王都の社交界で、ひとつの事件が起こった。  貴族令嬢たちが集う華やかな夜会の最中、私――セシリア・エヴァンストンは、婚約者であるエドワード・グラハム侯爵に、皆の前で婚約破棄を告げられたのだ。 「セシリア、お前との婚約は破棄する。お前のような地味でつまらない女と結婚するのはごめんだ」  会場がざわめく。貴族たちは興味深そうにこちらを見ていた。私が普段から控えめな性格だったせいか、同情する者は少ない。むしろ、面白がっている者ばかりだった。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

処理中です...