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 すると、土埃の中にモンスターのシルエットが見えた。

「アレクシ殿下、あれ!」

「なんだ?! なぜこんなところに?!」

 段々と土埃が消えていき、はっきり周囲か見えてくるとそこにデビルドラゴンの姿があった。

 そして、こちらがその存在に気づいたと同時に向こうもこちらに気づき、アドリエンヌとデビルドラゴンは数秒見つめ合った。

 次の瞬間、デビルドラゴンはブレスを吐き出すために口を半開きにした。それに気づくとアドリエンヌはデビルドラゴンを瞬間的に浄化した。

 まばゆく七色に光輝くデビルドラゴン。アレクシはアドリエンヌをその光から庇うように抱き締めた。

 しばらくしてアドリエンヌはそっと目を開け、アレクシの肩越しにデビルドラゴンがいた方向を確認する。と、そこにいたのはブルードラゴンだった。

 ブルードラゴンはドラゴン族の中でもとても少なく、ほとんどその姿を見ることのできない優雅でとても神秘的な存在だった。

 そもそもドラゴン族はどちらかというと神の眷属に近い存在で、人間ともあまり関わりを持たない種族でもある。

 あの凶悪なデビルドラゴンの正体がブルードラゴンだったということに驚きながら、アドリエンヌは話しかける。

「あの、大丈夫ですか?」

 するとブルードラゴンはアドリエンヌを見つめて言った。

「あなたが私をモンスターからもとの姿に戻してくれたのですか?」

「はい」

「そうなのですね、ありがとう」

 アドリエンヌは怪我をしているブルードラゴンの傷を治療すると、アレクシに言った。

「殿下、ここにこのままブルードラゴンさんがいれば、きっとみんな彼がここを襲ったと勘違いしますわ!」

「確かにその通りだな。では申し訳ないが、彼を移動できるか?」

「言ってくださればどこへでも」

 アレクシはしばらく考えて、王宮のダンスホールを指定したので、アドリエンヌはすぐにブルードラゴンをそこへ移動した。

 そして、ブルードラゴンにはそこにいるように伝えると、とにかく怪我をした人の治療や逃げ遅れた者を救助することに尽力した。

 その間にルシールやエメとアトラスも無事だということが確認でき、最終的に怪我人は出たものの死人は一人もいなかったことがわかり、アドリエンヌはほっとした。

 そうして胸を撫で下ろしているところへ突然シャウラがやってくると、オーバーに言った。

「ほかに怪我人はいませんか?!」

 そうして、歩き回りながらアレクシに気づくとこちらに駆け寄る。

「アレクシ殿下、もう大丈夫ですわ。モンスターはわたくしが排除しましたわ!」

 その台詞を聞いて、アドリエンヌもアレクシも呆気に取られながらシャウラの顔を見つめた。

 シャウラは勝ち誇ったようにアドリエンヌの顔を見ると、満面の笑みで周囲に言い始めた。

「みなさーん! もう大丈夫ですわ! 落ち着いてくださいませ。このわたくしがモンスターを倒しましたわ」

 その光景を見てアドリエンヌは遡る前のことを思い出していた。

 エアーバードを捕らえる課題の最中、モンスターが現れたあのあとシャウラは今と同じように大声で自分がモンスターを退治したとアピールしていたのだ。

 そうして当時を思い出したその時、アレクシが今のように一番最初にアドリエンヌを守ってくれたことを思い出す。

 アドリエンヌはアレクシの顔を見上げた。

「なんだ、どうした?」

「アレクシ殿下、いつも助けてくださってありがとうございます」

 突然そんなことを言われたせいか、アレクシは少し恥ずかしそうに目を逸らした。

 その様子を見てアドリエンヌは、アレクシは気持ちを表現するのが下手なだけだったのかもしれないと思った。

 しばらくしてアレクシは調子を取り戻すと苦笑して答える。

「大切なものを守るのは、当たり前のことだろう」

 そう答えるとアドリエンヌをじっと見つめる。二人がそうして見つめ合っていると、肩に乗っていたリオンが咳払いをした。

「先ほどからこの非常時に、なにをいちゃいちゃしている! 早くあのブルードラゴンに話を聞きに行くぞ」

 するとアレクシは我に返ったように言った。

「そうだな、ここは騎士団にまかせて私たちはブルードラゴンに話を聞きに行こう。あのくだらないシャウラの芝居にも付き合ってられないしな」

 そう言うと、近くで避難を呼び掛けていたエメたちに声をかけた。アトラスはシャウラの動向を探るためにも、父親とここに残ると言ったのでルシールとエメを連れてブルードラゴンのところへ向かった。

「待っていました、神の子よ」

 ホールへ行くとブルードラゴンは開口一番そう言った。

「お待たせしてしまってごめんなさい。少しお話を聞かせてもらえないでしょうか」

「わかりました。ですがその前に、このままの姿ではあなた方とは話しにくい」

 そう言うとすっと人の姿に変わった。抜けるような白い肌に淡く輝きを放つ水色の長髪、それに瞳は金色でその姿はとても神秘的だった。

「神の子よ、あなたは私の命の恩人です。なんでもお話しします」

「あの、なぜあなたはあの姿で王宮に?」

 するとブルードラゴンは悲しそうに言った。

「わかりません。気がついたらあの場にいたのです」

「では、誰かがあの場に連れてきたということですの?」

「そうだと思います。モンスター化すると、心の中が怒りや憎しみに支配されてしまいます。理性を奪われとにかく全ての命を奪うことしか考えられなくなるのです」

 それを聞いて、全てのモンスターがそうなのかと思うとアドリエンヌは胸を締め付けられた。だが、今は感傷に浸っている場合ではない。気を取り直して話を続ける。

「では、あなたを捕らえた人間たちのことなんて覚えてないですわね」

 するとブルードラゴンは首をふる。

「いいえ、それだけははっきり覚えています。私はあの人間たちだけは絶対に許せそうにありませんから」

 そう言うと悲しそうに微笑んだ。そこでアレクシが質問する。

「では、もしその人間に合ったなら見分けられるということか?」

「えぇ、はっきりと識別できます」

 それを聞いてみんなで顔を見合わせた。これで犯人を追い詰めることができる。

わたくしたちはその犯人を囚えたいと思ってますの。協力していただけるかしら」

「もちろんです。協力させてください。きっと他にも捕らえられている仲間がいるはずです」

 そこでエメが険しい顔で言った。

「それなら、彼の存在は極秘にしておかなければならないでしょう。見つかれば相手はなんとしてでも口封じをしようとするかもしれません」

 その時ルシールが口を挟んだ。

「でも、向こうはブルードラゴンさんの顔をしらないはずよ? そんなに心配しなくても大丈夫じゃないかしら」

 それにブルードラゴンが答える。

「お嬢さん、私が捕らえられたのはこの姿の時なのです。彼らは対話しようと私に近づき、油断させてから私を捕らえました」

 それを聞いてアドリエンヌは憤りを感じた。おそらくその場にいたもの全員がそうだったに違いない。
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