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「うむ。では諸君らには自分の得意とする属性を選んでもらうことにするかの。得意属性がわからない者は、どの属性魔法を強化するか自身で選んでかまわないぞ」

 こう指導を受けることは知っていたので、アドリエンヌは先にどの属性を得意とするかもう決めていた。それは治癒属性だった。

 どの属性も自由自在に操れるが攻撃魔法を使うと、とんでもない威力になってしまいそれを制御しながら使うとなると逆に面倒だったのもある。

 ルシールの得意属性は水属性だった。お互いに違う属性が得意なことで、次の課題もチームを組むことができる。アドリエンヌはそれがなによりも嬉しかった。

 次の課題はチームを組んで、学園敷地内にあるモンスターがいる森の中へ入り、一番奥にある学園の刻印が入った石を取ってくるというものだ。

 アドリエンヌは遡る前、シャウラ、アレクシとチームを組んだのだが、チーム内の雰囲気が悪くて最悪だったのを思い出す。

 だが今回はシャウラと同じチームになることは絶対にない。なぜならシャウラの得意魔法が治癒魔法だからだ。

 きっとシャウラは、このままアレクシとペアを組むことを希望するに違いない。そうなれば一つのチームに治癒属性は二人も必要ないので、アドリエンヌは自然とアレクシとチームを組むことも避けられる。まさに一石二鳥だった。

 各々、自分の得意属性を決めた者たちはニヒェルにそれを申告すると、特訓するために演習場へ移動し、そこでそれぞれの属性に特化した先生から魔法を習うことになった。

 アドリエンヌはシャウラと同じ治癒属性の魔法を学ぶため、同じアウラ先生から学ぶことになった。

 なるべくシャウラのそばに寄らないようにし、アウラの説明を聞いているのにシャウラの方から近づいてきて耳元で囁いた。

「アドリエンヌ様、治癒属性にしたんですのね。確かに治癒魔法を使えるものは少ないですものね。選べるなら治癒魔法にしますわよね」

「どういう意味ですの?」

 アドリエンヌが迷惑そうに言い返すと、シャウラはにっこりと微笑んだ。

「そんなに警戒しなくても、わたくしはアドリエンヌ様の味方ですわ」

「ほら、そこ! 私語は慎みなさい!」

 アウラに注意され、シャウラは落ち込んだ顔をした。

「は、はい。すみませんでした」

 シャウラはそう答えるとアドリエンヌの方を見る。

「アドリエンヌ様、今後は気を付けてくださいませ」

 なぜわたくしが言われなければならないんですの? 意味がわからないですわ。

 そう思いシャウラを無視した。

 そんな二人の様子を見てアウラはため息をつくとあらためてシャウラに向かって言った。

「説明をしっかり聞くのはあなたのためでもあるのですよ? では、わかっているとは思いますが、まず治癒魔法の復習をします」

 アウラは気を取りなおし、前方を向くと手のひらから美しい光の粒子を出した。その光の粒子はアウラを包み込むとまもなく消えた。

「治癒魔法は体内の気の流れをコントロールし、患部へ集中して気を流し込んだり、今見せたように癒しの気で全身を包み込むことによって治療します。ではまず貴女たちの力量を見たいので、一人ずつ魔法を使ってみて下さい」

 生徒たちが一人ずつ治癒魔法を使って見せると、アウラは一人一人に指導をし始めた。

 アドリエンヌには一言。

「貴女は力を出し抑えてるだけね。その調子で自信を持ちなさい、大丈夫」

 そう言って微笑んだ。

 先生の目は誤魔化せない。遡る前、もしかすると先生たちの中にはアドリエンヌの不正に気づいている者もいたかもしれない。

 そう思いながらアウラに頷いて返すと、シャウラが後ろからアドリエンヌに囁く。

「注意するなら、ドミニクに注意するべきですわよね。アドリエンヌ様は完璧ですわ、気にしてはいけませんわよ」

 いちいち腹が立つ。そう思いながらアドリエンヌは振り向くとシャウラに言った。

「シャウラ様は完璧ですものね。他人のことが気になってしかたがないんですのね? なんて親切なのかしら。でも、わたくしのことは大丈夫ですから、お気になさらず」

 アドリエンヌはそう言うと、まだなにか言いたそうなシャウラから距離を取った。

 ある程度の威力が出せるようになれば、あとは課題の日までは各々で練習を重ねるだけとなる。

 シャウラと離れて行動したかったアドリエンヌは、なんとかギリギリそれをクリアして見せると、同じくクリアしてきたルシールと合流した。

 課題までの間他の属性を練習するものもいれば、得意属性のみをひたすら練習する者もいた。

 アドリエンヌたちはまず課題をクリアするために組むチームメンバーを探すことにした。

 チームは最高四人まで。課題の森には先生たちの用意したモンスターが潜んでいて、そのモンスターを協力して倒すことも課題に含まれている。

 ルシールは呟く。

「アドリエンヌが治癒魔法を使えてよかった。あとは強力な攻撃魔法の使い手を探せばいいだけだもの」

 治癒魔法の使い手は地味なせいもあって、人気がなく数も少ない。早めに確保しておかなければ治癒魔法の使い手なしに課題をこなさなければならず、課題が難しくなる。

 その分評価も高くなるので、わざと攻撃魔法のみのチームもいるが、余程攻撃力が高くなければかなり厳しい。

「ルシール、わたくしでも役に立てるように頑張りますわね!」

 その時背後から声がかかった。

「アドリエンヌ様、ルシールさん」

 振り向くとそこにアトラスとエメが立っていた。

 アトラスはアレクシの母方の従兄で、エメはアレクシの側近である。そんな二人がなんの用かとかまえていると、無愛想なアトラスとは逆にエメはとても優しく微笑んで言った。

「僕たちと次の課題でチームを組みませんか?」

 アドリエンヌとルシールは顔を見合わせてから、エメに向きなおると訊いた。

わたくしたちとですの? とても有難い申し出ですけれど、モレ公爵令息もロワ伯爵令息も、わたくしたちではなく成績の良い方と組んだ方がよろしいのではないかしら? わたくしたちでは足を引っ張ってしまうかもしれませんわ」

 ルシールが横で大きく顔を縦に振った。するとエメが答える。

「僕は土属性、アトラスは火属性の使い手です。アドリエンヌ様は治癒魔法を、ルシールさんは水属性の使い手だ。これはとてもバランスがよいと思うのです」

 確かに、土属性で守りを固めて火と水で攻撃。そしてアドリエンヌの治癒魔法で回復すればバランスが良い。
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