9 / 46
9
しおりを挟む
「うむ。では諸君らには自分の得意とする属性を選んでもらうことにするかの。得意属性がわからない者は、どの属性魔法を強化するか自身で選んでかまわないぞ」
こう指導を受けることは知っていたので、アドリエンヌは先にどの属性を得意とするかもう決めていた。それは治癒属性だった。
どの属性も自由自在に操れるが攻撃魔法を使うと、とんでもない威力になってしまいそれを制御しながら使うとなると逆に面倒だったのもある。
ルシールの得意属性は水属性だった。お互いに違う属性が得意なことで、次の課題もチームを組むことができる。アドリエンヌはそれがなによりも嬉しかった。
次の課題はチームを組んで、学園敷地内にあるモンスターがいる森の中へ入り、一番奥にある学園の刻印が入った石を取ってくるというものだ。
アドリエンヌは遡る前、シャウラ、アレクシとチームを組んだのだが、チーム内の雰囲気が悪くて最悪だったのを思い出す。
だが今回はシャウラと同じチームになることは絶対にない。なぜならシャウラの得意魔法が治癒魔法だからだ。
きっとシャウラは、このままアレクシとペアを組むことを希望するに違いない。そうなれば一つのチームに治癒属性は二人も必要ないので、アドリエンヌは自然とアレクシとチームを組むことも避けられる。まさに一石二鳥だった。
各々、自分の得意属性を決めた者たちはニヒェルにそれを申告すると、特訓するために演習場へ移動し、そこでそれぞれの属性に特化した先生から魔法を習うことになった。
アドリエンヌはシャウラと同じ治癒属性の魔法を学ぶため、同じアウラ先生から学ぶことになった。
なるべくシャウラのそばに寄らないようにし、アウラの説明を聞いているのにシャウラの方から近づいてきて耳元で囁いた。
「アドリエンヌ様、治癒属性にしたんですのね。確かに治癒魔法を使えるものは少ないですものね。選べるなら治癒魔法にしますわよね」
「どういう意味ですの?」
アドリエンヌが迷惑そうに言い返すと、シャウラはにっこりと微笑んだ。
「そんなに警戒しなくても、私はアドリエンヌ様の味方ですわ」
「ほら、そこ! 私語は慎みなさい!」
アウラに注意され、シャウラは落ち込んだ顔をした。
「は、はい。すみませんでした」
シャウラはそう答えるとアドリエンヌの方を見る。
「アドリエンヌ様、今後は気を付けてくださいませ」
なぜ私が言われなければならないんですの? 意味がわからないですわ。
そう思いシャウラを無視した。
そんな二人の様子を見てアウラはため息をつくとあらためてシャウラに向かって言った。
「説明をしっかり聞くのはあなたのためでもあるのですよ? では、わかっているとは思いますが、まず治癒魔法の復習をします」
アウラは気を取りなおし、前方を向くと手のひらから美しい光の粒子を出した。その光の粒子はアウラを包み込むとまもなく消えた。
「治癒魔法は体内の気の流れをコントロールし、患部へ集中して気を流し込んだり、今見せたように癒しの気で全身を包み込むことによって治療します。ではまず貴女たちの力量を見たいので、一人ずつ魔法を使ってみて下さい」
生徒たちが一人ずつ治癒魔法を使って見せると、アウラは一人一人に指導をし始めた。
アドリエンヌには一言。
「貴女は力を出し抑えてるだけね。その調子で自信を持ちなさい、大丈夫」
そう言って微笑んだ。
先生の目は誤魔化せない。遡る前、もしかすると先生たちの中にはアドリエンヌの不正に気づいている者もいたかもしれない。
そう思いながらアウラに頷いて返すと、シャウラが後ろからアドリエンヌに囁く。
「注意するなら、ドミニクに注意するべきですわよね。アドリエンヌ様は完璧ですわ、気にしてはいけませんわよ」
いちいち腹が立つ。そう思いながらアドリエンヌは振り向くとシャウラに言った。
「シャウラ様は完璧ですものね。他人のことが気になってしかたがないんですのね? なんて親切なのかしら。でも、私のことは大丈夫ですから、お気になさらず」
アドリエンヌはそう言うと、まだなにか言いたそうなシャウラから距離を取った。
ある程度の威力が出せるようになれば、あとは課題の日までは各々で練習を重ねるだけとなる。
シャウラと離れて行動したかったアドリエンヌは、なんとかギリギリそれをクリアして見せると、同じくクリアしてきたルシールと合流した。
課題までの間他の属性を練習するものもいれば、得意属性のみをひたすら練習する者もいた。
アドリエンヌたちはまず課題をクリアするために組むチームメンバーを探すことにした。
チームは最高四人まで。課題の森には先生たちの用意したモンスターが潜んでいて、そのモンスターを協力して倒すことも課題に含まれている。
ルシールは呟く。
「アドリエンヌが治癒魔法を使えてよかった。あとは強力な攻撃魔法の使い手を探せばいいだけだもの」
治癒魔法の使い手は地味なせいもあって、人気がなく数も少ない。早めに確保しておかなければ治癒魔法の使い手なしに課題をこなさなければならず、課題が難しくなる。
その分評価も高くなるので、わざと攻撃魔法のみのチームもいるが、余程攻撃力が高くなければかなり厳しい。
「ルシール、私でも役に立てるように頑張りますわね!」
その時背後から声がかかった。
「アドリエンヌ様、ルシールさん」
振り向くとそこにアトラスとエメが立っていた。
アトラスはアレクシの母方の従兄で、エメはアレクシの側近である。そんな二人がなんの用かとかまえていると、無愛想なアトラスとは逆にエメはとても優しく微笑んで言った。
「僕たちと次の課題でチームを組みませんか?」
アドリエンヌとルシールは顔を見合わせてから、エメに向きなおると訊いた。
「私たちとですの? とても有難い申し出ですけれど、モレ公爵令息もロワ伯爵令息も、私たちではなく成績の良い方と組んだ方がよろしいのではないかしら? 私たちでは足を引っ張ってしまうかもしれませんわ」
ルシールが横で大きく顔を縦に振った。するとエメが答える。
「僕は土属性、アトラスは火属性の使い手です。アドリエンヌ様は治癒魔法を、ルシールさんは水属性の使い手だ。これはとてもバランスがよいと思うのです」
確かに、土属性で守りを固めて火と水で攻撃。そしてアドリエンヌの治癒魔法で回復すればバランスが良い。
こう指導を受けることは知っていたので、アドリエンヌは先にどの属性を得意とするかもう決めていた。それは治癒属性だった。
どの属性も自由自在に操れるが攻撃魔法を使うと、とんでもない威力になってしまいそれを制御しながら使うとなると逆に面倒だったのもある。
ルシールの得意属性は水属性だった。お互いに違う属性が得意なことで、次の課題もチームを組むことができる。アドリエンヌはそれがなによりも嬉しかった。
次の課題はチームを組んで、学園敷地内にあるモンスターがいる森の中へ入り、一番奥にある学園の刻印が入った石を取ってくるというものだ。
アドリエンヌは遡る前、シャウラ、アレクシとチームを組んだのだが、チーム内の雰囲気が悪くて最悪だったのを思い出す。
だが今回はシャウラと同じチームになることは絶対にない。なぜならシャウラの得意魔法が治癒魔法だからだ。
きっとシャウラは、このままアレクシとペアを組むことを希望するに違いない。そうなれば一つのチームに治癒属性は二人も必要ないので、アドリエンヌは自然とアレクシとチームを組むことも避けられる。まさに一石二鳥だった。
各々、自分の得意属性を決めた者たちはニヒェルにそれを申告すると、特訓するために演習場へ移動し、そこでそれぞれの属性に特化した先生から魔法を習うことになった。
アドリエンヌはシャウラと同じ治癒属性の魔法を学ぶため、同じアウラ先生から学ぶことになった。
なるべくシャウラのそばに寄らないようにし、アウラの説明を聞いているのにシャウラの方から近づいてきて耳元で囁いた。
「アドリエンヌ様、治癒属性にしたんですのね。確かに治癒魔法を使えるものは少ないですものね。選べるなら治癒魔法にしますわよね」
「どういう意味ですの?」
アドリエンヌが迷惑そうに言い返すと、シャウラはにっこりと微笑んだ。
「そんなに警戒しなくても、私はアドリエンヌ様の味方ですわ」
「ほら、そこ! 私語は慎みなさい!」
アウラに注意され、シャウラは落ち込んだ顔をした。
「は、はい。すみませんでした」
シャウラはそう答えるとアドリエンヌの方を見る。
「アドリエンヌ様、今後は気を付けてくださいませ」
なぜ私が言われなければならないんですの? 意味がわからないですわ。
そう思いシャウラを無視した。
そんな二人の様子を見てアウラはため息をつくとあらためてシャウラに向かって言った。
「説明をしっかり聞くのはあなたのためでもあるのですよ? では、わかっているとは思いますが、まず治癒魔法の復習をします」
アウラは気を取りなおし、前方を向くと手のひらから美しい光の粒子を出した。その光の粒子はアウラを包み込むとまもなく消えた。
「治癒魔法は体内の気の流れをコントロールし、患部へ集中して気を流し込んだり、今見せたように癒しの気で全身を包み込むことによって治療します。ではまず貴女たちの力量を見たいので、一人ずつ魔法を使ってみて下さい」
生徒たちが一人ずつ治癒魔法を使って見せると、アウラは一人一人に指導をし始めた。
アドリエンヌには一言。
「貴女は力を出し抑えてるだけね。その調子で自信を持ちなさい、大丈夫」
そう言って微笑んだ。
先生の目は誤魔化せない。遡る前、もしかすると先生たちの中にはアドリエンヌの不正に気づいている者もいたかもしれない。
そう思いながらアウラに頷いて返すと、シャウラが後ろからアドリエンヌに囁く。
「注意するなら、ドミニクに注意するべきですわよね。アドリエンヌ様は完璧ですわ、気にしてはいけませんわよ」
いちいち腹が立つ。そう思いながらアドリエンヌは振り向くとシャウラに言った。
「シャウラ様は完璧ですものね。他人のことが気になってしかたがないんですのね? なんて親切なのかしら。でも、私のことは大丈夫ですから、お気になさらず」
アドリエンヌはそう言うと、まだなにか言いたそうなシャウラから距離を取った。
ある程度の威力が出せるようになれば、あとは課題の日までは各々で練習を重ねるだけとなる。
シャウラと離れて行動したかったアドリエンヌは、なんとかギリギリそれをクリアして見せると、同じくクリアしてきたルシールと合流した。
課題までの間他の属性を練習するものもいれば、得意属性のみをひたすら練習する者もいた。
アドリエンヌたちはまず課題をクリアするために組むチームメンバーを探すことにした。
チームは最高四人まで。課題の森には先生たちの用意したモンスターが潜んでいて、そのモンスターを協力して倒すことも課題に含まれている。
ルシールは呟く。
「アドリエンヌが治癒魔法を使えてよかった。あとは強力な攻撃魔法の使い手を探せばいいだけだもの」
治癒魔法の使い手は地味なせいもあって、人気がなく数も少ない。早めに確保しておかなければ治癒魔法の使い手なしに課題をこなさなければならず、課題が難しくなる。
その分評価も高くなるので、わざと攻撃魔法のみのチームもいるが、余程攻撃力が高くなければかなり厳しい。
「ルシール、私でも役に立てるように頑張りますわね!」
その時背後から声がかかった。
「アドリエンヌ様、ルシールさん」
振り向くとそこにアトラスとエメが立っていた。
アトラスはアレクシの母方の従兄で、エメはアレクシの側近である。そんな二人がなんの用かとかまえていると、無愛想なアトラスとは逆にエメはとても優しく微笑んで言った。
「僕たちと次の課題でチームを組みませんか?」
アドリエンヌとルシールは顔を見合わせてから、エメに向きなおると訊いた。
「私たちとですの? とても有難い申し出ですけれど、モレ公爵令息もロワ伯爵令息も、私たちではなく成績の良い方と組んだ方がよろしいのではないかしら? 私たちでは足を引っ張ってしまうかもしれませんわ」
ルシールが横で大きく顔を縦に振った。するとエメが答える。
「僕は土属性、アトラスは火属性の使い手です。アドリエンヌ様は治癒魔法を、ルシールさんは水属性の使い手だ。これはとてもバランスがよいと思うのです」
確かに、土属性で守りを固めて火と水で攻撃。そしてアドリエンヌの治癒魔法で回復すればバランスが良い。
348
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説
逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。
悪役令嬢なお姉様に王子様との婚約を押し付けられました
林優子
恋愛
前世を思い出した悪役令嬢なジョゼフィーヌは妹エリザベートに王子の婚約者役を押し付けることにした。
果たしてエリザベート(エリリン)は断罪処刑を回避出来るのか?
コメディです。本当は仲良し姉妹です。高飛車お姉様が手下の妹と執事見習いのクルトをこき使って運命を変えていきます。
婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ
水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。
それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。
黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。
叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。
ですが、私は知らなかった。
黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。
残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】冷酷な悪役令嬢の婚約破棄は終わらない
アイアイ
恋愛
華やかな舞踏会の喧騒が響く宮殿の大広間。その一角で、美しいドレスに身を包んだ少女が、冷ややかな笑みを浮かべていた。名はアリシア・ルミエール。彼女はこの国の公爵家の令嬢であり、社交界でも一際目立つ存在だった。
「また貴方ですか、アリシア様」
彼女の前に現れたのは、今宵の主役である王子、レオンハルト・アルベール。彼の瞳には、警戒の色が浮かんでいた。
「何かご用でしょうか?」
アリシアは優雅に頭を下げながらも、心の中で嘲笑っていた。自分が悪役令嬢としてこの場にいる理由は、まさにここから始まるのだ。
「レオンハルト王子、今夜は私とのダンスをお断りになるつもりですか?」
気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました
みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。
前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。
同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。
陰謀は、婚約破棄のその後で
秋津冴
恋愛
王国における辺境の盾として国境を守る、グレイスター辺境伯アレクセイ。
いつも眠たそうにしている彼のことを、人は昼行灯とか怠け者とか田舎者と呼ぶ。
しかし、この王国は彼のおかげで平穏を保てるのだと中央の貴族たちは知らなかった。
いつものように、王都への定例報告に赴いたアレクセイ。
彼は、王宮の端でとんでもないことを耳にしてしまう。
それは、王太子ラスティオルによる、婚約破棄宣言。
相手は、この国が崇めている女神の聖女マルゴットだった。
一連の騒動を見届けたアレクセイは、このままでは聖女が謀殺されてしまうと予測する。
いつもの彼ならば関わりたくないとさっさと辺境に戻るのだが、今回は話しが違った。
聖女マルゴットは彼にとって一目惚れした相手だったのだ。
無能と蔑まれていた辺境伯が、聖女を助けるために陰謀を企てる――。
他の投稿サイトにも別名義で掲載しております。
この話は「本日は、絶好の婚約破棄日和です。」と「王太子妃教育を受けた私が、婚約破棄相手に復讐を果たすまで。」の二話の合間を描いた作品になります。
宜しくお願い致します。
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる