上 下
166 / 190

第百六十四話 晩餐会

しおりを挟む
 招待状には是非リカオンも招待したいと書かれていたので、リカオンに確認するとすぐに行くことを了承してくれた。

 約束の日は時間に合わせてアウルスが用意した馬車が迎えにきたので、それでアウルスの仮の屋敷へ向かった。

 門をくぐり屋敷のエントランスホールへ通されると、先に到着していたリカオンが待っていた。

「お嬢様、最近とても素敵なドレスをお召しになられていますね。それが陛下のプレゼントでなければもっと良いのですが……」

 リカオンは差し出されたアルメリアの手を取ると、そう言ってじっと見つめた。

「ありがとう。リカオンは今日も素敵ですわね」

 そう言って微笑み返した。すると後ろから声がした。

「アンジー、よくきてくれたね!」

 その声に振り向くと、アウルスが立っておりアルメリアを出迎えてくれた。その後ろにはイーデンともう一人見覚えのない青年が控えている。

「わざわざきてもらってすまない。実は今日は彼を紹介したくてね」

 アウルスはそう言うと、後ろに控えている青年に合図した。

「お初にお目にかかります、マニウスと申します」

 マニウスと名乗った青年はゆっくりと優雅にお辞儀をした。アウルスが補足する。

「彼は私の部下なんだが、詳しい話しは食事の後で話そう。君たちもお腹がすいているだろう?」

 アウルスはアルメリアの手を取り、食堂へエスコートした。

 全員が席につくとアウルスは改めて言った。

「みんなきてくれてありがとう。今日は私の部下との顔合わせと、親睦をかねてゆっくり食事を楽しむために招待させてもらった」

 そう言うとアルメリアの方を向いた。

「君の口に合うかわからないができうる限りのもてなしをしよう。十分に堪能してほしい」

「ありがとうございます」

 それを合図に食事が運ばれてくると、前菜が目の前に並び各々の飲み物が準備され食事が始まった。
 そこでアルメリアはアウルスに質問する。

「今日イーデンがここに居るのはなぜですの?」

「今日、マニウスを紹介したかったと私は言っただろう? なぜ紹介したいのか説明するためにイーデンには来てもらった。というわけでイーデン、君からまず話してくれ」

「はい。まず、お嬢様は件の令嬢が私を気に入り城下へ呼び寄せたことはご存知でしたよね? その後ご指示の通り特使の方と組んで横領をしていることにした、偽の証拠書類をあの令嬢に横流しいたしました」

 アルメリアは、頷くと訊いた。

「そこまでで向こうに怪しまれることはありませんでしたの?」

「はい。なんというかあの令嬢は謎に自信があるというか、周囲のものが自身に有利に動いて当然とおもっているようで、私のことを疑いもしませんでした。それどころか私が彼女と接触を図ると『やはりヒロインの都合よくできてますのね』とかなんとか」

 アルメリアは危うく、口に運ぼうとしていた野菜を落としそうになった。そして、ため息をついて気を取りなおすと言った。

「それでもこの短期間でダチュラに近づけるなんて、本当にすごいですわ」

「いえ、お嬢様に事前情報をいただいていたので、あの令嬢と特別親しい人間に帝国の話を少しちらつかせただけです。そんなに特別なことはなにも」

 遠慮がちにイーデンはそう言ったが、苦労したに違いなかった。イーデンはそこまで言って一息つくと話を更に続ける。

「帝国の特使と私が旧知の仲で証拠を手に入れることができた、と話して証拠書類を渡しました。するとあの令嬢は、帝国の特使に会わせろと要求してきたのです」

「それは当然かもしれませんわね。でも……」

 ダチュラは皇帝の顔を知っているようなので、アウルスは会うことはできない。そう思いアウルスの方を見ると、彼は微笑んで頷いた。

「そう、私が会うわけにはいかない。だからマニウスを呼んだ。彼には帝国の特使の役をこなしてもらうことにしたよ。帝国から特使がきて滞在していることは周知の事実だが、私のことを知るものは少ないからね。紹介したら見事に騙されたようだ」

 マニウスがそれに次いで言った。

「僕が件の令嬢と話した感じでは、まったく疑う様子はありませんでしたよ。もしもあれが芝居だとしたら、あの令嬢は相当頭の切れる方だと思いますが、僕が話をした限りそれはないでしょう。ところでクンシラン公爵令嬢に一つお訊きしたいことがあるのですが……」

「なんですの?」

「あの令嬢、僕に向かって『こんなキャラいたかしら?』と言っていましたが、一体なんのことでしょう? 貴女はわかりますか?」

 それを聞いてアルメリアは思わずリカオンとアウルスに視線をやると、その三人で見つめ会い笑いだした。
 イーデンとマニウスは困惑した顔でそんな三人を見つめた。

 その後は特別な報告はなかったので、この晩餐会を楽しんでしまおう。そう思い食事を十分に楽しんだ。
 リカオンは帝国に興味があるようで、マニウスに色々帝国のことを質問して話が弾んでいるようだった。

 晩餐会が楽しく進んでいる中、アルメリアは化粧室を借りることにした。アウルスに声をかけ席をはずすと、化粧室へ向かう。その途中でメイドたちが楽しそうに噂話に花を咲かせているところに遭遇した。

「シェフレラ様との話、あんた知ってる?」

 それを聞いて、アルメリアは思わず足を止めメイドたちの話を盗み聞いた。

「そりゃあ知ってるわよ、有名だもの。昔からシェフレラ様と愛し合っていたのに、シェフレラ様の出自が問題で反対されて、爵位のある出自のしっかりしたあの令嬢を選ばなければならなくて……」

「そうそう。でも、二人は愛を貫いたのよ!」

「本当に切ない話よね~!」

 そこへ突然メイド長と思われる年配の女性が現れた。

「貴女たち、おしゃべりはやめなさい!」

 叱責され、おしゃべりしていた二人のメイドはすごすごと仕事へ戻っていった。

 今の話は一体どういうことですの?

 アルメリアは知りたくない、認めたくない真実を突きつけられたような気がして胸が締め付けられた。
 そして自分が認めようとしなかった真実から目をそらすことをやめて、事実を受け止めなければと思った。

 今話していたことは、アウルスとシェフレラのことで間違いなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜

湊未来
恋愛
 王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。  二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。  そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。  王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。 『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』  1年後……  王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。 『王妃の間には恋のキューピッドがいる』  王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。 「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」 「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」 ……あら?   この筆跡、陛下のものではなくって?  まさかね……  一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……  お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。  愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

処理中です...