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第百十五話 暗躍
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食堂に通されると、すでにテーブルの上には食事が準備されていた。
「さぁ、眺めてないで食べてくれ。そっちのリカオンとか言うやつもな。料理はどんどん運ばれてくるから、遠慮しなくていいぞ」
そうしてあとからあとから運ばれてくる海の幸に、アルメリアもリカオンも舌鼓を打った。
一通り食事がすみ、場所をドローイング・ルームへ移しお茶をいただいていると、ヘンリーは改まって言った。
「今日、お嬢ちゃんをわざわざここまで呼び出したのは、お嬢ちゃんをもてなしたいってのもある。だが、あともうひとつ理由があってな」
「お砂糖の件じゃありませんの?」
そう質問すると、ヘンリーは苦笑する。
「その話だけなら良かったんだがな。お嬢ちゃんは、ローズクリーン貿易って組織はチューベローズの息のかかった貿易組織だと知っているか?」
アルメリアはぞっとした。ここにきて、チューベローズという思いもよらぬ名前が出たからだ。
「それは……知りませんでしたわ」
驚くアルメリアをじっと見つめ、ヘンリーは眉をよせると言った。
「まだ驚くのは早いぞお嬢ちゃん。その貿易船がなにを運んでいるのか知ったら、驚くなんてもんじゃない」
アルメリアは直感で、それがなんなのかわかった。
「もしかして、子どもたちですの?」
「お嬢ちゃんもしかして、知っていたのか?! その通りだ。以前ツルス港に不審船がいたもんで、拿捕したらその中に子どもたちがいたんだ。それと、禁止薬物も積まれていた。その船は最初アンジートランスポートを名乗っていたんだが、それが嘘なのは最初からわかっていたからな、徹底的に調べたんだ。そしたらローズクリーン貿易の名前が出てきた」
アルメリアは唖然とした。今までは貴族へ子どもたちを売っているだけかと思っていたが、国外へも売っていたとは思いもしなかったからだ。
大きく息を吐くとヘンリーは言った。
「まぁ、教会の奴らも堂々と貿易組織を運営してる訳じゃない。俺らみたいに海に通じてる奴らだけは、暗黙の了解でローズクリーンがチューベローズの組織だって知っているってだけなんだが」
「ローズクリーン貿易が教会と関係があるという噂でもありますの?」
ヘンリーは苦笑しながら答える。
「いや、そういうことじゃないんだ。なんたってローズクリーンの連中、平服きてるがなんと言うかその、振る舞いや言葉遣いなんかが、教会の連中そのものだからな。まぁ、そんな感じでその貿易組織とチューベローズが、繋がっているっていうはっきりとした証拠は今のところはないんだけどな」
「船に乗っていた子どもたちはどうしましたの?」
「親元に返そうとしたが、全員孤児だとわかってうちのサトウキビ農園で引き取った。親切でした訳じゃないぜ? うちだって数人ぐらい養える財力はあるし、奴らが大きくなれば農園を手伝ってもらえるだろう? それに何人かの孤児は、農園で働いている子どものいない夫婦に引き取られることになってる」
アルメリアはほっとしながら大きく頷く。
「そうなんですの、良かったですわ……。ところで、その船が子どもたちや、違法薬物を運んでいた証拠は残ってますのね?」
「そうそう、それなんだ。大切な証拠だから報告書にまとめて、証拠と一緒に直接お嬢ちゃんのところへ持っていこうと思ってたんだ。そしたらこっちに来るってんで、直接渡そうと思ったのよ」
ヘンリーがそう言うと、背後に控えていたエドワードが書類を持ってきた。それを受けとると、ポケットからどこかの鍵を取り出した。
「報告書と船に残ってた証拠書類だ。それから違法薬物は倉庫に保管してある。お嬢ちゃんが城下へ持っていってくれ。上にどう報告するかは、任せる」
アルメリアは鍵と書類を受けとる。
「私が預かってもよろしいの?」
「いや、正直もて余してたからな。お嬢ちゃんがこの厄介事を引き受けてくれるなら、それに越したことはないのさ」
そう言って盛大に笑った。
屋敷へもどると、アルメリアは早速ヘンリーから渡された報告書に目を通す。
内容は不審船がいつ、どこで、どのようにして拿捕されたのか、拿捕したときの状況はどうだったのかなど、きちっと事細かに時系列でまとめられており、ヘンリーの有能ぶりが伺えた。
その不審船が所持していたとされる書類には、ツルス港への船の乗り入れの偽装許可証や、積み荷目録などもあった。だが、それらには一切ローズクリーンの名は出てこない。
それがなぜ、ローズクリーンの船だとわかったかというと、ツルス港を使用する時には船舶番号を必須としていたからだ。
その船舶番号は、わかりやすいところに一ヶ所表記し、もう一ヶ所はツルス港を管理している保安部が、船の持ち主も知らないところへ焼き印を押すことになっている。
保安部が船舶番号を焼き印をすることは、持ち主にも伝えていないが、入船許可証に『犯罪防止のために保安部が焼き印をすることがある』と明記されているため、言い逃れはできないようになっている。
これが犯罪抑止の一助となっているのか、悪さをしようとしてもすぐに身元がばれてしまうため、現在ツルス港での犯罪率はとても低くなっていた。
そして、今回もその保安部の焼き印による船舶番号により、ローズクリーン貿易の船だということがわかったとのことだった。
乗組員は、積荷がなんだか分からなかったとしらを切っているそうだ。ヘンリーの方で拘束しているとのことで、アルメリアは彼らがなにをしていたのか外部へもれないようにしながら、秘密裏に城下へ移すことにした。
彼らをこちらで捕らえているとチューベローズに知られては彼らの命が狙われる恐れもあり、秘密裏に移動する必要があった。
それに城下には尋問に長けている者もいるので、時間をかければなにか情報を引き出せるかもしれないと考えた。
あとは、ローズクリーンとチューベローズが、裏でつながっているという証拠を探さなければならなかった。
その二日後、思いもよらぬ人物の来訪があった。
「お嬢様、スペンサー伯爵令息がお見えです」
その報告に、アルメリアは思わずペルシックを凝視した。ペルシックもじっとアルメリアを見つめ返すと、無言で頷く。
「わかりましたわ。すぐに客間に通してちょうだい」
そういうと、アルメリアも急いで客間へ向かった。
「さぁ、眺めてないで食べてくれ。そっちのリカオンとか言うやつもな。料理はどんどん運ばれてくるから、遠慮しなくていいぞ」
そうしてあとからあとから運ばれてくる海の幸に、アルメリアもリカオンも舌鼓を打った。
一通り食事がすみ、場所をドローイング・ルームへ移しお茶をいただいていると、ヘンリーは改まって言った。
「今日、お嬢ちゃんをわざわざここまで呼び出したのは、お嬢ちゃんをもてなしたいってのもある。だが、あともうひとつ理由があってな」
「お砂糖の件じゃありませんの?」
そう質問すると、ヘンリーは苦笑する。
「その話だけなら良かったんだがな。お嬢ちゃんは、ローズクリーン貿易って組織はチューベローズの息のかかった貿易組織だと知っているか?」
アルメリアはぞっとした。ここにきて、チューベローズという思いもよらぬ名前が出たからだ。
「それは……知りませんでしたわ」
驚くアルメリアをじっと見つめ、ヘンリーは眉をよせると言った。
「まだ驚くのは早いぞお嬢ちゃん。その貿易船がなにを運んでいるのか知ったら、驚くなんてもんじゃない」
アルメリアは直感で、それがなんなのかわかった。
「もしかして、子どもたちですの?」
「お嬢ちゃんもしかして、知っていたのか?! その通りだ。以前ツルス港に不審船がいたもんで、拿捕したらその中に子どもたちがいたんだ。それと、禁止薬物も積まれていた。その船は最初アンジートランスポートを名乗っていたんだが、それが嘘なのは最初からわかっていたからな、徹底的に調べたんだ。そしたらローズクリーン貿易の名前が出てきた」
アルメリアは唖然とした。今までは貴族へ子どもたちを売っているだけかと思っていたが、国外へも売っていたとは思いもしなかったからだ。
大きく息を吐くとヘンリーは言った。
「まぁ、教会の奴らも堂々と貿易組織を運営してる訳じゃない。俺らみたいに海に通じてる奴らだけは、暗黙の了解でローズクリーンがチューベローズの組織だって知っているってだけなんだが」
「ローズクリーン貿易が教会と関係があるという噂でもありますの?」
ヘンリーは苦笑しながら答える。
「いや、そういうことじゃないんだ。なんたってローズクリーンの連中、平服きてるがなんと言うかその、振る舞いや言葉遣いなんかが、教会の連中そのものだからな。まぁ、そんな感じでその貿易組織とチューベローズが、繋がっているっていうはっきりとした証拠は今のところはないんだけどな」
「船に乗っていた子どもたちはどうしましたの?」
「親元に返そうとしたが、全員孤児だとわかってうちのサトウキビ農園で引き取った。親切でした訳じゃないぜ? うちだって数人ぐらい養える財力はあるし、奴らが大きくなれば農園を手伝ってもらえるだろう? それに何人かの孤児は、農園で働いている子どものいない夫婦に引き取られることになってる」
アルメリアはほっとしながら大きく頷く。
「そうなんですの、良かったですわ……。ところで、その船が子どもたちや、違法薬物を運んでいた証拠は残ってますのね?」
「そうそう、それなんだ。大切な証拠だから報告書にまとめて、証拠と一緒に直接お嬢ちゃんのところへ持っていこうと思ってたんだ。そしたらこっちに来るってんで、直接渡そうと思ったのよ」
ヘンリーがそう言うと、背後に控えていたエドワードが書類を持ってきた。それを受けとると、ポケットからどこかの鍵を取り出した。
「報告書と船に残ってた証拠書類だ。それから違法薬物は倉庫に保管してある。お嬢ちゃんが城下へ持っていってくれ。上にどう報告するかは、任せる」
アルメリアは鍵と書類を受けとる。
「私が預かってもよろしいの?」
「いや、正直もて余してたからな。お嬢ちゃんがこの厄介事を引き受けてくれるなら、それに越したことはないのさ」
そう言って盛大に笑った。
屋敷へもどると、アルメリアは早速ヘンリーから渡された報告書に目を通す。
内容は不審船がいつ、どこで、どのようにして拿捕されたのか、拿捕したときの状況はどうだったのかなど、きちっと事細かに時系列でまとめられており、ヘンリーの有能ぶりが伺えた。
その不審船が所持していたとされる書類には、ツルス港への船の乗り入れの偽装許可証や、積み荷目録などもあった。だが、それらには一切ローズクリーンの名は出てこない。
それがなぜ、ローズクリーンの船だとわかったかというと、ツルス港を使用する時には船舶番号を必須としていたからだ。
その船舶番号は、わかりやすいところに一ヶ所表記し、もう一ヶ所はツルス港を管理している保安部が、船の持ち主も知らないところへ焼き印を押すことになっている。
保安部が船舶番号を焼き印をすることは、持ち主にも伝えていないが、入船許可証に『犯罪防止のために保安部が焼き印をすることがある』と明記されているため、言い逃れはできないようになっている。
これが犯罪抑止の一助となっているのか、悪さをしようとしてもすぐに身元がばれてしまうため、現在ツルス港での犯罪率はとても低くなっていた。
そして、今回もその保安部の焼き印による船舶番号により、ローズクリーン貿易の船だということがわかったとのことだった。
乗組員は、積荷がなんだか分からなかったとしらを切っているそうだ。ヘンリーの方で拘束しているとのことで、アルメリアは彼らがなにをしていたのか外部へもれないようにしながら、秘密裏に城下へ移すことにした。
彼らをこちらで捕らえているとチューベローズに知られては彼らの命が狙われる恐れもあり、秘密裏に移動する必要があった。
それに城下には尋問に長けている者もいるので、時間をかければなにか情報を引き出せるかもしれないと考えた。
あとは、ローズクリーンとチューベローズが、裏でつながっているという証拠を探さなければならなかった。
その二日後、思いもよらぬ人物の来訪があった。
「お嬢様、スペンサー伯爵令息がお見えです」
その報告に、アルメリアは思わずペルシックを凝視した。ペルシックもじっとアルメリアを見つめ返すと、無言で頷く。
「わかりましたわ。すぐに客間に通してちょうだい」
そういうと、アルメリアも急いで客間へ向かった。
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