21 / 43
20
しおりを挟む
そう答えると、グランツはしばらく考えた様子になってから言った。
「返却された君のリボンはもちろん受けとるが、一度でもエーリクの手元にあったものを身に付けるのは気分が悪い。どうだろう、新しく君がリボンを作ってくれないか?」
「私の手作りでよろしいのですか?」
するとグランツは満面の笑みで返す。
「そうだ、君の手作りがいい」
オルヘルスは顔が熱くなるのを感じ、グランツから視線を逸らすとうつむいて小さな声で言った。
「なら、精一杯心を込めて作りますわ……」
「わかった、とても楽しみにしている」
こうしてオルヘルスは、グランツに渡すリボンを新たに手作りすることになった。
デザインを決めると手作りにこだわり、レースを編み細かい刺繍や装飾も丁寧に時間をかけて仕上げ婚約に備えた。
数日後、オルヘルスのリボンが無事に手元に戻りハインリッヒからは丁寧なお詫びの手紙をもらった。
手紙の中ではエーリクについても少し触れており、しっかり対応してあらためて謝罪の場をもうけることも書かれていた。
すでにホルト家、コーニング家の両家から婚約解消直後に正式な謝罪をステファンが受けている。その謝罪があったことで、どちらが悪かったのかがはっきりした。
オルヘルスにとってもリートフェルト家にとっても、これはとても重要なことだった。
これで事実上、社交界ではオルヘルスは潔白でありエーリクやアリネアが問題を起こした令息と令嬢と見なされることになるからだ。
これだけでもエーリクにとっては痛手だろうが、ハインリッヒはそれだけではエーリクを許さないということなのだろう。
それにしても、とオルヘルスは思う。これだけどちらに非があるのかはっきりしているのに、なぜ彼らはあんなに平然としていられるのだろう?
そうして少し考えて、リートフェルト家が男爵家であることから見下しているのではないかと思った。
確かに爵位は低いが、それとこれとは話が違うのだが彼らはそれがわかっていないのだろう。
オルヘルスは読み終えた手紙を封筒に戻すと大きくため息をついた。
そのあと、グランツに無事にリボンが手元に戻ったことを報告すると、婚約の日取りの調整がされ、一か月後に婚約の契約を結ぶこととなった。
これは公のものではないため、あらためて発表の場をもうけるとのことだった。
日取りが決まると、オルヘルスはやっとはっきりと自分が王妃になるのだという実感が沸いてきた。
こうして婚約に向けて準備を整えているとき、カヴァロクラブが開催する乗馬会の招待状が届いた。
カヴァロクラブとは社交界でも権力の強い貴族たちが運営しているクラブで、半年に一度だけ乗馬会を開催している。
これに誘われるのは社交界では名誉なことであり、ステータスでもあった。
乗馬会と言っても乗馬ばかりするわけではなく、馬のオーナーたちが集まりお茶を楽しみながら馬の話をする場でもあるため、オルヘルスのように乗馬ができない者にも誘いがあっておかしくはなかった。
ステファンにこれからのことを考えて出席するべきだと言われ、行きたくはなかったがイーファと共に出席することを決めた。
「せっかくなのだから、スノウを連れて行って乗馬ができるところをみんなに見せて驚かせればいい」
ステファンが嬉しそうにそう提案すると、イーファも賛成とばかりにうなずく。
「そうだな、いい機会だと私も思う」
「でも、うまくできるかしら。やっと一人で乗れるようになったばかりですのに」
そうオルヘルスが不安を口にすると、イーファは優しくオルヘルスの頭をなでた。
「自信を持て。お前はとても優秀なのだから」
それに次いでステファンが言った。
「それに、この短期間でそこまで馬を操ることができるようになるとはな。これはみなも驚くだろう。私も鼻が高い」
そう褒められたが、オルヘルスはむくれ顔で言った。
「おだてればいいと思って! お父様もお兄様も!」
そんなオルヘルスを見て、イーファとステファンは声をだして笑った。
こうしてオルヘルスは初めて公の場で自分の乗馬の腕前をお披露目することになり、より一層練習に励んだ。
そんな中、お忍びでグランツが訪ねてきた。
「今日は乗馬の練習はお休みにして、私と一緒に出かけてくれないか?」
「もちろんですわ。どこへ連れていってくださるの?」
そう質問するオルヘルスを屋敷の裏口にエスコートしながら、グランツは答える。
「君がカヴァロクラブの乗馬会に出ると聞いてね。ならば、乗馬服を新しく新調したほうがよいだろう」
「ですが、先日お兄様にも乗馬服をいただいたばかりなんですの」
すると、グランツは驚いた顔をした。
「まさか、その服を着て行くと? ダメだ。私がしばらく君のそばを離れたせいだとはわかっているが、君が他の異性からプレゼントされた服を着るというのは気分が悪い」
「殿下?! 異性と言っても、兄からのプレゼントですわ。そういった意味はありませんのよ?」
驚いてそう返すと、グランツは渋い顔をした。
「それはわかっているが、そういう問題ではない。とにかく、君には私がプレゼントしたものだけ着ていてほしい」
その有無を言わせぬ言い方に、オルヘルスは思わずうなずいた。
「わかりましたわ。でも、敷地から外に出ないときは着てもよろしいですわよね?」
「まぁ、そうだな。練習のときに着るぐらいなら」
そう言って馬車に乗るのを手伝った。
オルヘルスは思う。これから王宮へ嫁ぐのだ、身に付けるものにも気を付けなければならないのだと。
グランツが御者に合図し、馬車が走り出したところでオルヘルスは言った。
「そうですわね、私は殿下のものですもの、着るものもそれ相応のものでなければいけませんわよね」
それを聞いてグランツは笑顔のまま固まった。
「殿下? どうされたのですか?」
オルヘルスは心配で、グランツの顔を覗き込むと、グランツはオルヘルスを見つめ呟く。
「君は、私のもの……」
「つわもの? 殿下、強者とは私のことですの? そんなことはありませんわ。これから精進いたします」
すると、グランツは我に返ったようにはっとするとオルヘルスに慌てて言った。
「は?! いやいや、君はそのままで十分だろう。これ以上、無自覚な強者になっては困る」
オルヘルスは、自分のどこが強者なのかわからず困惑しながら答える。
「そうですの? 殿下がそう仰るなら……」
「そうしてくれ」
そんな会話をしているうちに、馬車はファニーの屋敷へ到着した。
「返却された君のリボンはもちろん受けとるが、一度でもエーリクの手元にあったものを身に付けるのは気分が悪い。どうだろう、新しく君がリボンを作ってくれないか?」
「私の手作りでよろしいのですか?」
するとグランツは満面の笑みで返す。
「そうだ、君の手作りがいい」
オルヘルスは顔が熱くなるのを感じ、グランツから視線を逸らすとうつむいて小さな声で言った。
「なら、精一杯心を込めて作りますわ……」
「わかった、とても楽しみにしている」
こうしてオルヘルスは、グランツに渡すリボンを新たに手作りすることになった。
デザインを決めると手作りにこだわり、レースを編み細かい刺繍や装飾も丁寧に時間をかけて仕上げ婚約に備えた。
数日後、オルヘルスのリボンが無事に手元に戻りハインリッヒからは丁寧なお詫びの手紙をもらった。
手紙の中ではエーリクについても少し触れており、しっかり対応してあらためて謝罪の場をもうけることも書かれていた。
すでにホルト家、コーニング家の両家から婚約解消直後に正式な謝罪をステファンが受けている。その謝罪があったことで、どちらが悪かったのかがはっきりした。
オルヘルスにとってもリートフェルト家にとっても、これはとても重要なことだった。
これで事実上、社交界ではオルヘルスは潔白でありエーリクやアリネアが問題を起こした令息と令嬢と見なされることになるからだ。
これだけでもエーリクにとっては痛手だろうが、ハインリッヒはそれだけではエーリクを許さないということなのだろう。
それにしても、とオルヘルスは思う。これだけどちらに非があるのかはっきりしているのに、なぜ彼らはあんなに平然としていられるのだろう?
そうして少し考えて、リートフェルト家が男爵家であることから見下しているのではないかと思った。
確かに爵位は低いが、それとこれとは話が違うのだが彼らはそれがわかっていないのだろう。
オルヘルスは読み終えた手紙を封筒に戻すと大きくため息をついた。
そのあと、グランツに無事にリボンが手元に戻ったことを報告すると、婚約の日取りの調整がされ、一か月後に婚約の契約を結ぶこととなった。
これは公のものではないため、あらためて発表の場をもうけるとのことだった。
日取りが決まると、オルヘルスはやっとはっきりと自分が王妃になるのだという実感が沸いてきた。
こうして婚約に向けて準備を整えているとき、カヴァロクラブが開催する乗馬会の招待状が届いた。
カヴァロクラブとは社交界でも権力の強い貴族たちが運営しているクラブで、半年に一度だけ乗馬会を開催している。
これに誘われるのは社交界では名誉なことであり、ステータスでもあった。
乗馬会と言っても乗馬ばかりするわけではなく、馬のオーナーたちが集まりお茶を楽しみながら馬の話をする場でもあるため、オルヘルスのように乗馬ができない者にも誘いがあっておかしくはなかった。
ステファンにこれからのことを考えて出席するべきだと言われ、行きたくはなかったがイーファと共に出席することを決めた。
「せっかくなのだから、スノウを連れて行って乗馬ができるところをみんなに見せて驚かせればいい」
ステファンが嬉しそうにそう提案すると、イーファも賛成とばかりにうなずく。
「そうだな、いい機会だと私も思う」
「でも、うまくできるかしら。やっと一人で乗れるようになったばかりですのに」
そうオルヘルスが不安を口にすると、イーファは優しくオルヘルスの頭をなでた。
「自信を持て。お前はとても優秀なのだから」
それに次いでステファンが言った。
「それに、この短期間でそこまで馬を操ることができるようになるとはな。これはみなも驚くだろう。私も鼻が高い」
そう褒められたが、オルヘルスはむくれ顔で言った。
「おだてればいいと思って! お父様もお兄様も!」
そんなオルヘルスを見て、イーファとステファンは声をだして笑った。
こうしてオルヘルスは初めて公の場で自分の乗馬の腕前をお披露目することになり、より一層練習に励んだ。
そんな中、お忍びでグランツが訪ねてきた。
「今日は乗馬の練習はお休みにして、私と一緒に出かけてくれないか?」
「もちろんですわ。どこへ連れていってくださるの?」
そう質問するオルヘルスを屋敷の裏口にエスコートしながら、グランツは答える。
「君がカヴァロクラブの乗馬会に出ると聞いてね。ならば、乗馬服を新しく新調したほうがよいだろう」
「ですが、先日お兄様にも乗馬服をいただいたばかりなんですの」
すると、グランツは驚いた顔をした。
「まさか、その服を着て行くと? ダメだ。私がしばらく君のそばを離れたせいだとはわかっているが、君が他の異性からプレゼントされた服を着るというのは気分が悪い」
「殿下?! 異性と言っても、兄からのプレゼントですわ。そういった意味はありませんのよ?」
驚いてそう返すと、グランツは渋い顔をした。
「それはわかっているが、そういう問題ではない。とにかく、君には私がプレゼントしたものだけ着ていてほしい」
その有無を言わせぬ言い方に、オルヘルスは思わずうなずいた。
「わかりましたわ。でも、敷地から外に出ないときは着てもよろしいですわよね?」
「まぁ、そうだな。練習のときに着るぐらいなら」
そう言って馬車に乗るのを手伝った。
オルヘルスは思う。これから王宮へ嫁ぐのだ、身に付けるものにも気を付けなければならないのだと。
グランツが御者に合図し、馬車が走り出したところでオルヘルスは言った。
「そうですわね、私は殿下のものですもの、着るものもそれ相応のものでなければいけませんわよね」
それを聞いてグランツは笑顔のまま固まった。
「殿下? どうされたのですか?」
オルヘルスは心配で、グランツの顔を覗き込むと、グランツはオルヘルスを見つめ呟く。
「君は、私のもの……」
「つわもの? 殿下、強者とは私のことですの? そんなことはありませんわ。これから精進いたします」
すると、グランツは我に返ったようにはっとするとオルヘルスに慌てて言った。
「は?! いやいや、君はそのままで十分だろう。これ以上、無自覚な強者になっては困る」
オルヘルスは、自分のどこが強者なのかわからず困惑しながら答える。
「そうですの? 殿下がそう仰るなら……」
「そうしてくれ」
そんな会話をしているうちに、馬車はファニーの屋敷へ到着した。
1,081
お気に入りに追加
2,220
あなたにおすすめの小説
【完結済み】婚約破棄致しましょう
木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。
運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。
殿下、婚約破棄致しましょう。
第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。
応援して下さった皆様ありがとうございます。
リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。
全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。
さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。
“私さえいなくなれば、皆幸せになれる”
そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。
一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。
そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは…
龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。
ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。
よろしくお願いいたします。
※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる