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その中で平民が叙爵し、こうして社交界から認められていることはすごいことかもしれなかった。
「曾祖父様のお陰ですわね」
そう答えると、グランツは苦笑した。
「いや他にもステフの人脈といい、イーファも跡継ぎとしてもうその頭角を表している。リートフェルト家と親しくしたい貴族は山ほどいるだろう」
オルヘルスは初めて第三者から見たリートフェルト家の評価を聞いて驚いた。オルヘルスからしたら、ステファンもイーファもそんなに凄い人物には到底思えない。
そうして驚いているオルヘルスにグランツは言った。
「中にいればそのすごさはわからないもの、君自身についてもエーリクと婚約する前からすこぶる評判がいい」
「そうですの?!」
「まぁね。そのせいでエーリクにしてやられたが。さて、話を本題に戻そう。表向きアリネアがその婚約話を突っぱねたことになっているが、私は逆なのではないかと思っている」
「では、お兄様がお断りしたと?」
「そうだ。イーファはとても君を大切に思っているからな。君のこと以外眼中にないのでは?」
「えっ? お兄様がですの?」
イーファは騎士団に入っており、ほとんど屋敷にもいない。とてもストイックで、よく言えば硬派、悪く言うと朴念仁である。
オルヘルスにもあまり話しかけてくることはなく、女性にもまったく興味がないようだった。
「それはありませんわ。屋敷で私と会っても、ほとんど会話もしませんもの」
「そうか、屋敷ではそうなのだな。まぁいい。アリネアがあれほど君にこだわるのは、その件もあってではないかと私は思っている」
「そんな、お兄様ほどの男性なんていくらでもいますのに……」
すると、グランツは声を出して笑った。
「君の兄上は社交界でとても人気がある。それなのに一番愛されている妹にそう言われてはイーファも可哀想だ」
そうは言われても、とオルヘルスは困惑仕切りだった。
それにしても、イーファとグランツはどこで接点があったのだろうかと不思議に思った。
「殿下はお兄様と、どこかでご一緒したことが?」
グランツは苦笑する。
「まぁな。彼とは少し共闘することになってね」
「そうですのね」
共闘とは穏やかではないと思いながら、イーファが騎士団に所属していることを考えると、そこで接点があるのだろうと納得した。
グランツはそこで、不意になにかを思い出したかのように微笑んだ。それに気づいたオルヘルスが尋ねる。
「殿下、どうされましたの?」
「いや、先ほど君がアリネアたちに向かって、『殿下を信じてる』と言ってくれたことを思い出してね」
そう言われてオルヘルスは顔を赤くした。
「わ、忘れてくださいませ!」
「いいや、私は絶対に忘れない。そんなふうに思ってくれていたとは。とても嬉しいよ」
「だって、本当のことですもの……」
オルヘルスはグランツの顔を見ることもできずに、そう言ってうつむいた。
グランツはそんなオルヘルスをじっと見つめ呟く。
「あぁ、食べてしまいたい」
その言葉に驚いて、オルヘルスは顔を上げる。
「あら、殿下、お腹がすいてますの? よかったら残りのお菓子は殿下が召し上がってください」
「い、いや。お腹は空いていない。いや、ある意味空いているというか、デザートだけ食べたいというか。とにかく今のところまだ大丈夫だ、我慢できる。心配ない」
「はい……」
殿下はどうしてしまったのだろう?
そう思いながらグランツを見つめていると、グランツはやや大袈裟に咳払いをしていった。
「とにかく、厄介ごとは早急に片付けなければならないな」
厄介ごととは、アリネアたちのことだろう。オルヘルスはうなずいて答える。
「はい。ですが、アリネア様もエーリク様とご結婚されて、お子を授かったりすれば落ち着くかもしれませんわ。それまでの辛抱かも知れませんわね」
「子……か。オリ、それは私たちもだな」
そう言ってグランツはオルヘルスを見つめた。
オルヘルスはそう言われて気づく。自分が本当にこのままグランツと結婚すれば、世継ぎを生んで立派に育てるという大役が待っているのだと。
殿下も、お世継ぎに期待されているのだわ。
オルヘルスはそう思い、その気持ちに答えようと思った。
「はい、殿下。私頑張って努めますわ!」
すると、グランツは口に含んでいたお茶を吹き出した。
「殿下、大丈夫ですの?」
むせこむグランツの背中をオルヘルスがなで、しばらくして咳が落ち着くとグランツはオルヘルスの顔を呆然と見つめたあと素早く視線を逸らす。
そして目を固く閉じると眉間を揉んで言った。
「いや、いや待て。君はそこまで頑張らなくとも、ほどほどでいい」
「はい? いえ、そういうわけにはいきませんわ。一人でできることではありませんもの」
グランツはガバッと顔を上げオルヘルスを見た。
「はっ?! ま、まぁそうだな、まぁ、そうだ」
そう言ったあと、グランツはうつむき目を閉じ苦しそうな顔をした。
「殿下? 体調がすぐれませんの?」
「いや、大丈夫だ。しばらくすれば落ち着く」
そう言ったあと深呼吸し呼吸を整えると、やっと顔を上げオルヘルスに向けて微笑んだ。
「オリ、私もそれをとても楽しみにしている。素晴らしいものにすることを約束しよう」
オルヘルスは満面の笑みで答える。
「はい、殿下。私もですわ!」
このあと、結局グランツの体調が芳しくないとのことでおひらきとなり、二人は屋敷に戻った。
屋敷まで送ると、グランツはオルヘルスの手を取り名残惜しそうにしながら言った。
「しばらく忙しくなる。さっさと障害を取り除き、今日約束したことを果たしたい。用がすんだらすぐに君のもとへ戻るよ」
「わかりました。お待ちしております」
オルヘルスがそう返すと、グランツは熱のこもった眼差しでオルヘルスを見つめ、額にキスをすると去っていった。
グランツを見送るとオルヘルスは自室へ向かいながら、しばらくグランツと会えないことを寂しく思った。
どれぐらい会えないのだろう? 一ヶ月だろうか?
そんなことを考えているとき、イーファの部屋の扉が開いていることに気づく。
イーファは騎士団に入っており、赴任先からしばらく帰らないはずだ。エファもステファンも勝手に部屋にはいるとは思えない。
「曾祖父様のお陰ですわね」
そう答えると、グランツは苦笑した。
「いや他にもステフの人脈といい、イーファも跡継ぎとしてもうその頭角を表している。リートフェルト家と親しくしたい貴族は山ほどいるだろう」
オルヘルスは初めて第三者から見たリートフェルト家の評価を聞いて驚いた。オルヘルスからしたら、ステファンもイーファもそんなに凄い人物には到底思えない。
そうして驚いているオルヘルスにグランツは言った。
「中にいればそのすごさはわからないもの、君自身についてもエーリクと婚約する前からすこぶる評判がいい」
「そうですの?!」
「まぁね。そのせいでエーリクにしてやられたが。さて、話を本題に戻そう。表向きアリネアがその婚約話を突っぱねたことになっているが、私は逆なのではないかと思っている」
「では、お兄様がお断りしたと?」
「そうだ。イーファはとても君を大切に思っているからな。君のこと以外眼中にないのでは?」
「えっ? お兄様がですの?」
イーファは騎士団に入っており、ほとんど屋敷にもいない。とてもストイックで、よく言えば硬派、悪く言うと朴念仁である。
オルヘルスにもあまり話しかけてくることはなく、女性にもまったく興味がないようだった。
「それはありませんわ。屋敷で私と会っても、ほとんど会話もしませんもの」
「そうか、屋敷ではそうなのだな。まぁいい。アリネアがあれほど君にこだわるのは、その件もあってではないかと私は思っている」
「そんな、お兄様ほどの男性なんていくらでもいますのに……」
すると、グランツは声を出して笑った。
「君の兄上は社交界でとても人気がある。それなのに一番愛されている妹にそう言われてはイーファも可哀想だ」
そうは言われても、とオルヘルスは困惑仕切りだった。
それにしても、イーファとグランツはどこで接点があったのだろうかと不思議に思った。
「殿下はお兄様と、どこかでご一緒したことが?」
グランツは苦笑する。
「まぁな。彼とは少し共闘することになってね」
「そうですのね」
共闘とは穏やかではないと思いながら、イーファが騎士団に所属していることを考えると、そこで接点があるのだろうと納得した。
グランツはそこで、不意になにかを思い出したかのように微笑んだ。それに気づいたオルヘルスが尋ねる。
「殿下、どうされましたの?」
「いや、先ほど君がアリネアたちに向かって、『殿下を信じてる』と言ってくれたことを思い出してね」
そう言われてオルヘルスは顔を赤くした。
「わ、忘れてくださいませ!」
「いいや、私は絶対に忘れない。そんなふうに思ってくれていたとは。とても嬉しいよ」
「だって、本当のことですもの……」
オルヘルスはグランツの顔を見ることもできずに、そう言ってうつむいた。
グランツはそんなオルヘルスをじっと見つめ呟く。
「あぁ、食べてしまいたい」
その言葉に驚いて、オルヘルスは顔を上げる。
「あら、殿下、お腹がすいてますの? よかったら残りのお菓子は殿下が召し上がってください」
「い、いや。お腹は空いていない。いや、ある意味空いているというか、デザートだけ食べたいというか。とにかく今のところまだ大丈夫だ、我慢できる。心配ない」
「はい……」
殿下はどうしてしまったのだろう?
そう思いながらグランツを見つめていると、グランツはやや大袈裟に咳払いをしていった。
「とにかく、厄介ごとは早急に片付けなければならないな」
厄介ごととは、アリネアたちのことだろう。オルヘルスはうなずいて答える。
「はい。ですが、アリネア様もエーリク様とご結婚されて、お子を授かったりすれば落ち着くかもしれませんわ。それまでの辛抱かも知れませんわね」
「子……か。オリ、それは私たちもだな」
そう言ってグランツはオルヘルスを見つめた。
オルヘルスはそう言われて気づく。自分が本当にこのままグランツと結婚すれば、世継ぎを生んで立派に育てるという大役が待っているのだと。
殿下も、お世継ぎに期待されているのだわ。
オルヘルスはそう思い、その気持ちに答えようと思った。
「はい、殿下。私頑張って努めますわ!」
すると、グランツは口に含んでいたお茶を吹き出した。
「殿下、大丈夫ですの?」
むせこむグランツの背中をオルヘルスがなで、しばらくして咳が落ち着くとグランツはオルヘルスの顔を呆然と見つめたあと素早く視線を逸らす。
そして目を固く閉じると眉間を揉んで言った。
「いや、いや待て。君はそこまで頑張らなくとも、ほどほどでいい」
「はい? いえ、そういうわけにはいきませんわ。一人でできることではありませんもの」
グランツはガバッと顔を上げオルヘルスを見た。
「はっ?! ま、まぁそうだな、まぁ、そうだ」
そう言ったあと、グランツはうつむき目を閉じ苦しそうな顔をした。
「殿下? 体調がすぐれませんの?」
「いや、大丈夫だ。しばらくすれば落ち着く」
そう言ったあと深呼吸し呼吸を整えると、やっと顔を上げオルヘルスに向けて微笑んだ。
「オリ、私もそれをとても楽しみにしている。素晴らしいものにすることを約束しよう」
オルヘルスは満面の笑みで答える。
「はい、殿下。私もですわ!」
このあと、結局グランツの体調が芳しくないとのことでおひらきとなり、二人は屋敷に戻った。
屋敷まで送ると、グランツはオルヘルスの手を取り名残惜しそうにしながら言った。
「しばらく忙しくなる。さっさと障害を取り除き、今日約束したことを果たしたい。用がすんだらすぐに君のもとへ戻るよ」
「わかりました。お待ちしております」
オルヘルスがそう返すと、グランツは熱のこもった眼差しでオルヘルスを見つめ、額にキスをすると去っていった。
グランツを見送るとオルヘルスは自室へ向かいながら、しばらくグランツと会えないことを寂しく思った。
どれぐらい会えないのだろう? 一ヶ月だろうか?
そんなことを考えているとき、イーファの部屋の扉が開いていることに気づく。
イーファは騎士団に入っており、赴任先からしばらく帰らないはずだ。エファもステファンも勝手に部屋にはいるとは思えない。
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