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第三十九話

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 アザレアは、先日栞奈かんなを交えた話し合いのときに、気になることがあった。

 栞奈かんながアザレアが死んでいるはずだと言及したことだった。

 カルたちは、栞奈かんなに本当に先見の力があると思っているのか、栞奈かんなが聖女だからなのか、それを栞奈かんなが知っていると言う事実を気にしていないようだった。

 だが、前世の記憶があるアザレアだけは栞奈かんなが先見の力で知ったのではなく、彼女もこの世界の物語を読んで知っているのだろうと気づいた。

 アザレアの記憶はかなり古いもので、あやふやなところもたくさんある。それに比べて、栞奈かんなの方は物語を詳細に知っているようだった。

 召喚されたばかりなので、記憶が新しいのは当然だが、もしかしたら、続編が出ていて栞奈かんなはそれを読んだのかもしれないとも思った。

 どちらにしろ、アザレアは栞奈かんなの動きには今後十分気をつけることにした。




 聖女の御披露目パレードについて、栞奈かんなの要求が多く、その要求をのまないなら栞奈かんながテーブルにつかないとごねるため、打ち合わせが進まずにいた。

 このままだとパレードは延期せざる終えなくなるだろう。

 パレードの件に関してはアザレアにできることはなく、気にせず普段通りに過ごすしかなかった。

 まだ暗殺される危険性はあるものの、毒殺を免れたかもしれないと言う事実は、アザレアにとっては気を緩める一助となった。なので、以前より頻繁にマユリさんの工房に出掛けたり、城下町へ買い物にも出かけるようになった。



 城下町には王宮の右サイドにアゲラタムの大聖堂がある。その大聖堂の右横にある森を少し抜けると、ミツカッチャ神が降臨したと言われているミツカッチャ洞窟がある。

 その洞窟は、伝承でミツカッチャ神が目映い光と共に消えた瞬間に、その姿が岩肌に刻まれたと言われている御尊容がある。

 そこで月に一度、アゲラタムの大司教がミツカッチャ神を祭る祭事をやっている。ちょうど出かけた日にその祭事をやっていたため、アザレアは行ってみることにした。

 洞窟へ続く森はかなり整備されていて、祭事が行われているのもあって通りはいつもより賑い、かなりの人出があった。

 洞窟に入り100メートルほど進むと、急に広くなった空間にでる。その空間の壁に大きくミツカッチャ神の御尊容が刻まれている。

 御尊容の手前に祭壇が作られていて、アングレカム大司教が、他の神官たちと何事か儀式を行っていた。

 アザレアは、ミツカッチャ神に見覚えがあるような気がしたが、このミツカッチャ神の御尊容はお土産用のカードなどにも描かれていたりするので、そのどこかで見たのだろうと思った。

 皆と同じように祭壇に礼をしたあと洞窟を出た。洞窟を出ると土産屋が並んでいるのが目に入り、シラーやシモーヌ達の土産を買うことにして店先を見て回った。

 そこに前方からノクサが歩いて来るのが見えた。目が合うと挨拶を交わす。

「ノクサさんも、ミツカッチャ神の御尊容を拝みにいらしたんですか?」

 そう訊くと、ノクサは満面の笑みになった。

「それもあるのですが、家族が来ているものでね、覗きにきたのです」

 アザレアは、ノクサの嬉しそうな顔を見て暖かい気持ちになり、自然と笑顔になった。

「ご家族と仲がよろしいんですね」

 そう返す。と、その瞬間、洞窟の方から爆発音のような音とズン! と言う低い響くような音がした。次の瞬間、地面がゆれてバランスを崩しアザレアは転びそうになった。

 そしてそれに続き、今度は何かが崩れ落ちる音がしたと思ったら、更に地面がゆれた。

 揺れがおさまって来た時、なんとか地面に手をついてバランスを保っていたアザレアは、振り向き洞窟の方向を見た。

 物凄い土埃の向こうに、崩れ落ちた大小の岩が積み上がった山が見えた。そこにあったはずの洞窟の入り口の面影は一切なく、どこが洞窟の入口であったかすらわからない状況だった。

 一瞬何が起きたのか分からなかったが、しばらくして何らかの理由により洞窟の入り口が倒壊し、塞がってしまったと分かった。

 周囲では人々が泣き叫んだり、状況を理解できずにぼんやりする者、何人かは怪我をし頭から血を流す者もいた。

 かなり大勢の人がいたはずである。何人巻き込まれたのか、皆生きているのか皆目検討がつかなかった。アザレアは慌ててノクサを見た。

 ノクサはゆっくり地面に両膝をつくと、震える両手で顔を覆った。

「家族が、息子が中におるのです……おぉ、神よ、誰かお願いです息子を助けて下さい」

 アザレアはノクサに駆け寄ると肩に手を置いて言った。

「ノクサさん、息子さんは洞窟の奥の方にいらっしゃるの? 大丈夫、わたくしが助けます」

 ノクサはアザレアを見ると

「お嬢さん、何を言っているのです? 無茶でしょう。見てみなさいあの岩を。それにお嬢さんの身に何かあったら……」

 そう言うと、涙をこぼした。アザレアは、もしも何か意味があって自分に時空魔法が授けられたのだとしたら、この時のためだ。と、命を張る決心をし、ノクサに言った。

「大丈夫です。ここはわたくしに任せて、危ないですから二次被害が出る前にノクサさんはどこか安全な場所に移動してください」

 ノクサは驚いた顔をした。

「お嬢さんを危ない目に合わせられん、無理をしてはいかん」

 そう言って、アザレアを止めようとするが、意思の強さをみてとると、頭を下げた。

「息子を、宜しくお願いします」

 アザレアは頷くと、急いで時空魔法で洞窟内に移動した。思っていた通り、崩れてしまったのは入り口のあたりだけで、洞窟内にはたくさんの人々が取り残されていた。

 洞窟の入り口付近は岩が積み上がっており、下手にそれらをどかしたら更なる倒壊を招きそうな状況であった。外から岩を動かすとしても、慎重にせねば振動が起きて、連鎖的に内部が倒壊する恐れがあるだろう。

 岩をどこかに移動することも考えていたが、それは無理だと早々に判断した。内部の残された大勢の人々の中には、怪我人や小さな子供達も含まれているため、この状況で長時間は耐えられそうになかった。

「すみません、まずは重症人の怪我の治癒を優先し、お子さんや体の弱い方から順番に外へ移動します」

 と呼び掛けた。

「なにいってんだ出られるわけないだろう」

「俺たちはここで死ぬんだ、ミツカッチャ神の生け贄だ」

 などと叫びパニックになってしまう人もいたが、冷静な人達も一定数いた。

「なにもしないよりましだ、とにかく重症の人間をここに運んで、奥に人が残っていないか確認しろ」

 そう言って手伝ってくれたり、助かった大司教の説得により、怪我人が集められた。そしてアザレアは集まった怪我人に一気に治癒魔法をかける。

 その時点で何人かがアザレアを聖女様と言い始めた。

わたくしは聖女ではありません」

 ピシャリと否定したが、聞く耳を持たないので、否定も肯定もせず指示に従うように話した。

 そして何人かで手をつないでグループを作ってもらうと片っ端から洞窟外に送り出した。
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