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第三十八話

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 数日後、聖女のお披露目パレードの打ち合わせをすることになった。

 アザレアは自分は主役ではないのだし、国民に宮廷魔導師だと発表したあとは、王宮で後ろの方に立っているだけで良いはずだから、打ち合わせに出る必要はないのでは? そう思った。

 そのままをカルに言うと、アザレアがそのパレードの列に加えられていることを説明された。

「ちゃんと伝わっていなかったようで、すまなかった」

 カルは謝ったが、自分も確認しなかったのが悪かったと返した。

 アザレアは先日ファニーがドレスを新調するために、細かくデザイン指定をしたのはそのためだったのか、と今頃になって気づく。

 それにパレードの打ち合わせには聖女も参加すると聞き、少し緊張した。聖女のことは前世の物語で知ってはいるものの、実際にどんな人物かは全く情報が来ていなかったからだ。

 それに前世の物語の中で、アザレアと聖女が対面するシーンはなかった。

 打ち合わせ当日、緊張しているアザレアにカルが声をかける。

「大丈夫かい?」

 心配そうにアザレアの顔を覗き込んだ。アザレアは平静を装って答える。

「大丈夫てすわ、ありがとう」

 するとカルは、そっとアザレアの手を握ってくれた。アザレアもカルのてを握り返す。そして、意を決して会議室に入った。

 会議室には中央に縦長の大きなテーブルがあり、上座は空席になっていた。国王陛下は打ち合わせには参加しないということだった。カルに全てを任せると言うことなのだろう。

 チューザレ大司教が椅子の前に立っており、その横の椅子にサラサラストレートの黒髪をハーフアップにした、いかにも清純そうな、クリクリした瞳の女の子が、前世の物語のイラストに書かれていた高校の制服を着て座っている。

 彼女が聖女の丹家栞奈たんげかんなで間違いなさそうだ。

 カルがチューザレ大司教に向かって言う。

「遅くなってしまったようですまない」

 そう言うと、空いている席に向かってアザレアの手を引いて歩き始めた。チューザレ大司教は恐縮した様子で頭を下げる。

「王太子殿下、と、とんでもないことでございます。わざわざこのような場をもうけていただきありがとうございます」

 その横で聖女はカルをキラキラした瞳で見ている。カルはそんな聖女に目もくれず言った。

「聖女のパレードは国にとっても大切な祭事だ、問題ない」

 チューザレ大司教の向かいの席にカルが座り、カルに促されその隣にアザレアが座る。続いてその横にスパルタカス宰相、そしてリアトリス、ヴィバーチェ公爵、コシヌルイ公爵と三大公爵が並んで座った。

 アザレアは自分の座る位置に驚いたが、悟られてはいけないと思い、平静を装う。それとリアトリスが来るのは知らなかったので、それだけで心強く感じた。カルが大司教に命令する。

「大司教も座れ」

 チューザレ大司教はカルの正面の席に背中を丸め小さくなりながら、申し訳なさそうに座る。

「恐縮です。失礼いたします」

 アザレアが顔を上げると、真正面に座っている聖女が負のオーラをまといながらこちらを睨んでいた。どうしたのかといぶかしんでいると、突然立ち上がりアザレアを指差すと、その可愛い顔を歪め、チューザレ大司教に向かって言い放つ。

「なんで死んでるはずのこの女がここにいるの! 話が違うわ!!」

 場が静まり返った。チューザレ大司教もあまりのことに呆気に取られている。その時、カルが口を開いた。

「聖女よ、落ち着いて。それはどう言うことなのかできれば詳しく説明してくれると助かるのだが」

 優しく問いかけた。聖女は微笑むとカルに向き直る。

「発言を許していただき有り難うございます。あっ、その前に自己紹介させてください。私、丹家栞奈たんげかんなといいます」

 栞奈かんなが頓珍漢なことを言っているが、みんな辛抱強く聞いている。

「それはわかったが、まずは座らないかい?」

 カルは諭すように言った。栞奈かんなは満足そうに微笑む。

「有り難うございます、では失礼して」

 そう言って座ると話し始めた。

「実は私、先見の力があるのです」

「ぶふっ!」

 と、リアトリスが吹いた。カルは咳払いをすると栞奈かんなに話の先を促す。

「続けて」

 栞奈かんなはリアトリスをチラリと見て怪訝な顔をしたがすぐに調子を取り戻す。

「その先見の力だと、アザレア公爵令嬢は今日のこの時点でとっくに毒殺されて死んでいるはずなのです。そして、アザレア公爵令嬢を愛していたカルミア様を私がお慰めして……、私と二人で犯人を突き止め真実の愛を誓うのです」

 栞奈かんなは空を見つめてうっとりしている。カルは満面の笑みになり、栞奈かんなに訊く。

「本当に、君の先見の力によると既にアザレア公爵令嬢は亡くなっているのか?」

 栞奈かんなは大きく頷く。

「ハイ! 本当はもっと早く死んでるはずなんですよ。だから、まだ生きているのはおかしいのです。きっとそのせいで私がカルミア様と会うことが許されたのもこんなに遅れたんだわ! 私思うんだけど、きっとなにか裏があるんですよ。そう考えると、死んでいるはずのアザレア公爵令嬢が怪しくないですか?」

 あまりの発言にアザレアは呆気にとられていた。だが、カルとリアトリスは嬉しそうに立ち上がり、目を合わせるとアザレアを見た。

「アズ、君はとりあえず助かったらしいぞ!」

 そう言うと、アザレアの腕をつかみ立ち上がらせて思い切り抱き締めた。リアトリスも駆け寄るとカルごと抱き締める。

「アジャレ~これほどうでじいことはないじょ、うばぁ」

 そう言って泣きじゃくっている。続いてスパルタカス宰相、ヴィバーチェ公爵、コシヌルイ公爵もなぜかアザレアたちの周囲を囲んで、良かった、良かった。と頷きながら肩を叩き合って、祝福ムードになっている。

 その光景を聖女とチューザレ大司教は口をあんぐり空けて眺めていたが、栞奈かんなは突然立ち上がって叫んだ。

「どう言うことなの! せっかく半年も早く召喚されたって言うのに、死んでるはずの女は生きてるし! なによ、なんなのよ! 私はこんなの納得いかないんだから!! だって私は聖女なのよ? この国を救うの! 無視するなんてそんな態度とって許されるわけないじゃない!! そんな態度で後で後悔するわよ!」

 そう言うと

「もう帰る!!」

 と出ていってしまった。チューザレ大司教はおろおろしながら言った。

「王太子殿下、聖女様の失礼な言動どうかお許しください。聖女様はこの国のルールがまだわからぬ赤子のようなものなのです」

 カルはチューザレ大司教をチラリと見る。

「大司教が苦労しているのは察するが、しっかりと教育を施すことがあの者のためでもある。頼んだぞ」

 そうカルが返すと、チューザレ大司教は深く頭を下げた。

「寛大な処置、有り難うございます。それでは失礼いたします」

 そう言って、栞奈かんなを追うように退室していった。

 アザレアは知らせていなかったのだが、会議室にいた宰相、三大公爵はアザレアが毒殺されてしまうかもしれない、ということを知っていたそうだ。

 そして、箝口令かんこうれいを敷き、厳重に保護し守ってくれていたそうだ。それで全員あの反応だったのだろう。

 とりあえずアザレアの毒殺が免れたとは言え、犯人はわかっていない。これからも油断はできないだろう。だが、まず毒殺を免れたことは喜ぶべきことだった。

 結局このあと、打ち合わせにはならずお祝いの晩餐会がそこにいたメンバーで執り行われ、聖女の御披露目パレードの打ち合わせは後日となった。

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