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第二十三話
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アザレアは、自分が時空魔法持ちだと気づいたときから、平凡な人生は歩めないかも知れないとは思っていた。それでも目立たずにひっそり生きていくつもりだった。
だが、国王はそれを許してはくれなかったようだ。こんなに目立ってしまえば、自分の死が近づくのではないかと不安になる。
そう思っていると、カルが手を差し伸べてきた。
「アザレア、私と一曲踊ってくださいませんか?」
アザレアはその手を取り、二人はホールの中央に出た。みんなに注目される中、二人とも完璧なステップを踏んだ。そして、曲がスローテンポに入るとカルはアザレアの耳元で囁いた。
「アズ、まずは父上が君になにも話さずに、ことを運んでしまったことを謝罪したい。私を信頼してくれていたのに、裏切るようで心苦しいよ」
アザレアはまだ気持ちの整理がつかず、黙ってカルのテンポに合わせていた。
「ケルヘール公爵から話は全て聞いている。君は今、不安に思っていることだと思う。だけどこれからは国が君を宮廷魔導師として、全力で守ることになった。だから大丈夫だ、安心していてほしい」
アザレアは驚いてカルを見上げる。
「君は自分がどれだけ凄い力を手にしているかわかっているか? 使い方によっては国一つ、いや世界すら滅ぼすことのできる力なんだ。もちろん、私たちは君がそんなことをする人間ではないと知っているが、他の者はどう思うだろうか。それに、君は利用されるかもしれない。だからこそ、君を保護しなければ危険だということをわかって欲しい」
アザレアは時空魔法の恐ろしさをわかっていたつもりになっていた。そうなのだ、この力は人が持つには余りある力だ。
王宮で倒れたあの日から、国王やリアトリスはアザレアが自由に過ごしている裏で、このことについて慎重に話し合っていたのだろう。
曲が終わると、カルはアザレアから少し体を離した。
「父上に呼ばれているので、少し行ってくるよ。すぐ戻る。後でゆっくり話をしよう」
カルはアザレアの手の甲にキスをすると、瞳を見つめた。
「不安に思っている君から、少しでも離れるのは私としても不本意だが仕方ない。フランツ! 彼女を頼む、だが彼女には絶対に触れるなよ。何かあったらただではすまないことを肝に銘じておけ」
そう言ったあと、アザレアを見て微笑む。
「じゃあ、行ってくる」
カルはアザレアの額にキスをして去っていった。呆気に取られているアザレアを、フランツが心配して声をかける。
「ケルヘール公爵令嬢、大丈夫ですか? 色々あったので戸惑われたでしょう?」
アザレアはなんとか笑顔を作った。
「大丈夫です」
しばらく沈黙が続く。意を決したようにフランツは話し始めた。
「僕はケルヘール公爵令嬢にいつも差し入れをしてもらっていたのに、ちゃんとお礼も言ってませんでしたね。殿下が仰っていたのですがあれは全てケルヘール公爵令嬢の手作りだそうで、感激いたしました」
カルはどこまでしゃべったのだろうか? 二人の秘密と思っていたので、アザレアは少しショックを受けた。
「いいえ。大したものではありませんから。それより、あの、カルは……陛下はそのことをフランツ様にお話になったのですのね」
するとフランツはクスクスと笑いだした。
「それが、先日殿下が突然『アザレアからの差し入れを食べたのは誰と誰だ!』と騒ぎはじめましてね。調べましたら、人気があるのでほとんどの使用人が口にしたことがあったんです。それを報告致しましたら『そんなにいたのか……』と、大変ショックを受けた様子になりまして」
アザレアは話の先が読めず、とりあえず頷く。
「そして『今後は量が多くとも、アザレアの作った物を許可なく口にすることは許さない』と仰ったんです。それで僕たちは、あの差し入れがケルヘール公爵令嬢の手作りだったのだと知りました」
アザレアは恥ずかしくて俯いた。これではただのバカップルである。フランツはそんなアザレアに優しく微笑み言った。
「僕や使用人たちは、殿下とケルヘール公爵令嬢がご結婚なされば、毎日あの美味しい手作りの物が食べられるのでは? と少し、期待しているほどです」
フランツは、俯いてしまっているアザレアをじっと見つめ話を続ける。
「他の婚約者候補の方を貶める訳ではないのですが、他の婚約者候補の方にくらべてケルヘール公爵令嬢は、王宮の使用人にも親切になさってくださるので、人気もありますし。婚約されないにせよ、今日の発表は国としてもとても喜ばしいことです」
最後にフランツは呟くように言った。
「それにこれで、僕も色々踏ん切りがつくかもしれません」
その言葉にアザレアは顔を上げ、フランツを見た。だが、フランツはアザレアの後方を見て口を閉じ真顔になり一礼していた。
「こんばんわ、レア」
後ろからの声に振り向くと、ピラカンサが立っていた。
「まぁ、貴女は主役ですのにこんなところにいましたのね。今日はまだましな格好なさってるから見つけられましたけれど」
ピラカンサはそう言うと、アザレアを上から下まで見て、満足そうに微笑んで言った。
「貴女、地味なんですから、いつもそのような格好なさっては?」
今日のドレスを褒めているのだろう。
「こんばんわ、ピラカンサ様。お褒めにいただきありがとうございます」
アザレアがそう返すと、ピラカンサは呆れ顔で言う。
「もう、本当にお人好しですこと」
そして、ため息をついて言った。
「でも、私とレアとの差はそこですのね。悔しいですけれど、こうなるのはわかっていましたわ」
アザレアは疑問をなげかけるような表情でピラカンサを見た。
「だって、貴女の謁見の時だけ王室関係者用の通路に通されていましたし……」
と言うと、持っていた扇子で手のひらをポン、と叩く。
「そうですわ、貴女、やっと引きこもりからもどられたんですもの、私の開くお茶会に参加しなさいな。なにもわかっていない貴女に色々教えて差し上げますわ。殿下もそれぐらいならお許しになるでしょ?」
アザレアは不思議に思い、訊く。
「なぜ殿下のお許しが必要なんですの?」
ピラカンサはにこりと笑う。
「貴女ってば本当になんにもわかっていませんのね。貴女はもう国の庇護下にある身ですわ。今までのように自由にはいきませんわよ?」
そう言ってアザレアの背後にいる貴族に目をやる。
「私、貴女と違って忙しいんですの。挨拶もすんだし、これで失礼しますわ。ごきげんよう」
そう言って、他の貴族の所へ挨拶に行ってしまった。
だが、国王はそれを許してはくれなかったようだ。こんなに目立ってしまえば、自分の死が近づくのではないかと不安になる。
そう思っていると、カルが手を差し伸べてきた。
「アザレア、私と一曲踊ってくださいませんか?」
アザレアはその手を取り、二人はホールの中央に出た。みんなに注目される中、二人とも完璧なステップを踏んだ。そして、曲がスローテンポに入るとカルはアザレアの耳元で囁いた。
「アズ、まずは父上が君になにも話さずに、ことを運んでしまったことを謝罪したい。私を信頼してくれていたのに、裏切るようで心苦しいよ」
アザレアはまだ気持ちの整理がつかず、黙ってカルのテンポに合わせていた。
「ケルヘール公爵から話は全て聞いている。君は今、不安に思っていることだと思う。だけどこれからは国が君を宮廷魔導師として、全力で守ることになった。だから大丈夫だ、安心していてほしい」
アザレアは驚いてカルを見上げる。
「君は自分がどれだけ凄い力を手にしているかわかっているか? 使い方によっては国一つ、いや世界すら滅ぼすことのできる力なんだ。もちろん、私たちは君がそんなことをする人間ではないと知っているが、他の者はどう思うだろうか。それに、君は利用されるかもしれない。だからこそ、君を保護しなければ危険だということをわかって欲しい」
アザレアは時空魔法の恐ろしさをわかっていたつもりになっていた。そうなのだ、この力は人が持つには余りある力だ。
王宮で倒れたあの日から、国王やリアトリスはアザレアが自由に過ごしている裏で、このことについて慎重に話し合っていたのだろう。
曲が終わると、カルはアザレアから少し体を離した。
「父上に呼ばれているので、少し行ってくるよ。すぐ戻る。後でゆっくり話をしよう」
カルはアザレアの手の甲にキスをすると、瞳を見つめた。
「不安に思っている君から、少しでも離れるのは私としても不本意だが仕方ない。フランツ! 彼女を頼む、だが彼女には絶対に触れるなよ。何かあったらただではすまないことを肝に銘じておけ」
そう言ったあと、アザレアを見て微笑む。
「じゃあ、行ってくる」
カルはアザレアの額にキスをして去っていった。呆気に取られているアザレアを、フランツが心配して声をかける。
「ケルヘール公爵令嬢、大丈夫ですか? 色々あったので戸惑われたでしょう?」
アザレアはなんとか笑顔を作った。
「大丈夫です」
しばらく沈黙が続く。意を決したようにフランツは話し始めた。
「僕はケルヘール公爵令嬢にいつも差し入れをしてもらっていたのに、ちゃんとお礼も言ってませんでしたね。殿下が仰っていたのですがあれは全てケルヘール公爵令嬢の手作りだそうで、感激いたしました」
カルはどこまでしゃべったのだろうか? 二人の秘密と思っていたので、アザレアは少しショックを受けた。
「いいえ。大したものではありませんから。それより、あの、カルは……陛下はそのことをフランツ様にお話になったのですのね」
するとフランツはクスクスと笑いだした。
「それが、先日殿下が突然『アザレアからの差し入れを食べたのは誰と誰だ!』と騒ぎはじめましてね。調べましたら、人気があるのでほとんどの使用人が口にしたことがあったんです。それを報告致しましたら『そんなにいたのか……』と、大変ショックを受けた様子になりまして」
アザレアは話の先が読めず、とりあえず頷く。
「そして『今後は量が多くとも、アザレアの作った物を許可なく口にすることは許さない』と仰ったんです。それで僕たちは、あの差し入れがケルヘール公爵令嬢の手作りだったのだと知りました」
アザレアは恥ずかしくて俯いた。これではただのバカップルである。フランツはそんなアザレアに優しく微笑み言った。
「僕や使用人たちは、殿下とケルヘール公爵令嬢がご結婚なされば、毎日あの美味しい手作りの物が食べられるのでは? と少し、期待しているほどです」
フランツは、俯いてしまっているアザレアをじっと見つめ話を続ける。
「他の婚約者候補の方を貶める訳ではないのですが、他の婚約者候補の方にくらべてケルヘール公爵令嬢は、王宮の使用人にも親切になさってくださるので、人気もありますし。婚約されないにせよ、今日の発表は国としてもとても喜ばしいことです」
最後にフランツは呟くように言った。
「それにこれで、僕も色々踏ん切りがつくかもしれません」
その言葉にアザレアは顔を上げ、フランツを見た。だが、フランツはアザレアの後方を見て口を閉じ真顔になり一礼していた。
「こんばんわ、レア」
後ろからの声に振り向くと、ピラカンサが立っていた。
「まぁ、貴女は主役ですのにこんなところにいましたのね。今日はまだましな格好なさってるから見つけられましたけれど」
ピラカンサはそう言うと、アザレアを上から下まで見て、満足そうに微笑んで言った。
「貴女、地味なんですから、いつもそのような格好なさっては?」
今日のドレスを褒めているのだろう。
「こんばんわ、ピラカンサ様。お褒めにいただきありがとうございます」
アザレアがそう返すと、ピラカンサは呆れ顔で言う。
「もう、本当にお人好しですこと」
そして、ため息をついて言った。
「でも、私とレアとの差はそこですのね。悔しいですけれど、こうなるのはわかっていましたわ」
アザレアは疑問をなげかけるような表情でピラカンサを見た。
「だって、貴女の謁見の時だけ王室関係者用の通路に通されていましたし……」
と言うと、持っていた扇子で手のひらをポン、と叩く。
「そうですわ、貴女、やっと引きこもりからもどられたんですもの、私の開くお茶会に参加しなさいな。なにもわかっていない貴女に色々教えて差し上げますわ。殿下もそれぐらいならお許しになるでしょ?」
アザレアは不思議に思い、訊く。
「なぜ殿下のお許しが必要なんですの?」
ピラカンサはにこりと笑う。
「貴女ってば本当になんにもわかっていませんのね。貴女はもう国の庇護下にある身ですわ。今までのように自由にはいきませんわよ?」
そう言ってアザレアの背後にいる貴族に目をやる。
「私、貴女と違って忙しいんですの。挨拶もすんだし、これで失礼しますわ。ごきげんよう」
そう言って、他の貴族の所へ挨拶に行ってしまった。
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