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第二十二話
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誕生日を明日に控え、アザレアが一番注意を払っている相手はアスター・ディ・ヴィバーチェ公爵だった。
ヴィバーチェ公爵家は三大公爵家のひとつに入っていて、アザレアより、一つ年上の娘がいる。イベリス・ディ・ヴィバーチェ公爵令嬢である。彼女も婚約者候補だ。
ヴィバーチェ公爵家は良く言えば中立派、悪く言うと日和見的な一族で、その分状況判断に長けている。何かあれば強い方につくので非常にわかりやすく、害は無いが敵にしてしまうと厄介な一族だ。
実はアザレアが前世でみた物語の後半で、ヴィバーチェ公爵家はアザレアの毒殺を図った主犯とされており、ほとんど表舞台に出ること無くイベリス公爵令嬢共々断罪され処刑されてしまっている。
しかし、アザレアは前世でその物語を読んでいた時、中立の日和見的なこの公爵家がそんな大胆なことをするものだろうか? と疑問に思っていた。
実際物語の作者も一旦はここで完結はしているものの、続編が出ることを巻末で匂わせており、ファンの間では次巻で真相が明らかになるのでは? と言われていた。
アザレアは、ヴィバーチェ公爵と公爵令嬢とは実際に何度もあったことがあり、彼らのことはよく知っている。
今の立場から見ても、ビバーチェ公爵がアザレアを毒殺するなどあり得ないことに感じた。なぜなら例えアザレアを排除したとしても、ヴィバーチェ公爵の令嬢が婚約者になれるとは限らないからだ。この日和見な一族にとってアザレアの毒殺は、リスクを負うだけで得になることがなに一つないのだ。
もしも、本当に犯人なのだとしたらその裏に何かあるのか、それとも完全に嵌められてしまったのかのどちらかだろう。
犯人はさておき、アザレアが毒殺されるかもしれないと言うことはわかっていた。それがわかっていれば対応は取れるので、毒殺は避けることができるだろう。
アザレアは前世の記憶を思い出してからは、常に口にいれるもの全てスキャンし、確認して食べていた。
毒物スキャンの魔法は水属性ができれば誰でもできるものだ。理屈上では食べ物内の水分を食べ物の粒子ごと振動させ、その振動の波長の長さで毒物が混入していないか確認する。
だが、どの物質がどのくらいの波長の長さなのか覚えたり、ごく微量の物質の混入でも関知できるようにするためには、訓練が必要だ。理屈で言うと難しいが、実際はほとんど感覚的に関知しているので、波長の長さがどうのと、理屈ずくめでスキャンするのは本格的にそのスキルに卓越した学者レベルの者達だけだ。
アザレアは妃教育の一環で、200種類以上の毒物のスキャン能力と、極少量の異物混入でも関知できるスキルは有している。
ここから推察すると一つの仮説が浮かぶ。前世の物語内でアザレアは、信頼できる者からもらった食べ物に仕込まれた毒物によって死んだのではないか? と言うことだ。
でなければ、これだけのスキャン能力を有しているアザレアが毒殺されるはずかない。
悲しい事だが、どんなに親しい間柄の者から供された物でも、必ずスキャンせねばならないと言うことになる。
そんなことを考えていたが、今度は明日の誕生会のことについて思考を巡らせる。
国王陛下がアザレアの誕生会を開きたいと言うのには目的があると考えられた。その目的がなんであるかわからないが、ここまで来てしまったら何とか乗り切るしかない。
アザレアは覚悟を決めてベッドにもぐった。
八月八日、いよいよ誕生日当日となった。自分の誕生日ではあるものの、我が家にて行われるためアザレアはホストのリアトリスとお客様を出迎えなければならない。
アザレアはまだデビュタントではないので、お客様に挨拶をして顔を覚えてもらうのが第一目的となっている。これがデビュタントであったなら、結婚相手を探すための出会いの場とばかりに、色々な方と会話し積極的に前にでなければならなかったところだ。
アザレアはリアトリスの後ろに控え、礼儀的に一通り杓子定規な挨拶を交わす、と言うことを何度も繰り返した。
アザレアはお妃教育を受けていたので、ホストの振る舞いから挨拶の所作を身に付けていた。もちろん招待客の顔と名前は全て把握していた。
招待客が全員揃ったころで、国王陛下と王太子殿下が到着した。リアトリスの後ろでカーテシーをし、声をかけられるまで頭を下げていた。
リアトリスと国王陛下の挨拶が終わるのを待つ。やっと国王陛下よりお声がかかり顔を上げた。
カルがアザレアに微笑みかけていた。図書室でみるラフな格好のカルとは違い、正装している王太子殿下としてのカルはまるで別人のようで、物凄く距離を感じた。
リアトリスが国王陛下と王妃殿下を玉座に案内しながら歩き出した後ろで、アザレアはカルに手を取られた。
「さぁ、アザレア私達も行こう」
腰に手をあてて玉座の横までエスコートされる。国王陛下が用意された玉座に着き、その後ろにリアトリスが控える。玉座の横にカルとアザレア。アザレアはとんでもない展開に額から汗が吹き出た。
国王陛下はシャンパンのそそがれたグラスを持ち立ち上がると
「今日集まったのは他でもない、リアトリス・ファン・ケルヘール公爵の娘、サイデューム王国のアレキサンドライトこと、アザレア・ファン・ケルヘール公爵令嬢の十六回目の誕生日を祝うためだ。素晴らしいことにケルヘール公爵令嬢は、なんと時空属性魔法を習得した」
国王の発言に会場がどよめく。アザレアは、このときようやく国王の意図していることを理解した。アザレアを国にとどめるために先手を打って発表したのだろう。
カルはアザレアの手を握りしめ、耳元で囁く。
「アズ、大丈夫か?」
アザレアはなんとか頷く。そんな中、国王陛下の挨拶は続く。
「しかもケルヘール公爵令嬢は、宮廷魔導師になる道を選んだ。これは我がサイデューム王国の発展や繁栄のためにも、とても喜ばしいことだ」
そうして国王陛下はアザレアに視線を移した。
「今後は王太子共々、若い二人がますますサイデューム王国を盛り立ててくれるだろう」
と、グラスを高くかかげた。アザレアはとんでもないことになってしまった、とこの状況に眩暈がした。
ヴィバーチェ公爵家は三大公爵家のひとつに入っていて、アザレアより、一つ年上の娘がいる。イベリス・ディ・ヴィバーチェ公爵令嬢である。彼女も婚約者候補だ。
ヴィバーチェ公爵家は良く言えば中立派、悪く言うと日和見的な一族で、その分状況判断に長けている。何かあれば強い方につくので非常にわかりやすく、害は無いが敵にしてしまうと厄介な一族だ。
実はアザレアが前世でみた物語の後半で、ヴィバーチェ公爵家はアザレアの毒殺を図った主犯とされており、ほとんど表舞台に出ること無くイベリス公爵令嬢共々断罪され処刑されてしまっている。
しかし、アザレアは前世でその物語を読んでいた時、中立の日和見的なこの公爵家がそんな大胆なことをするものだろうか? と疑問に思っていた。
実際物語の作者も一旦はここで完結はしているものの、続編が出ることを巻末で匂わせており、ファンの間では次巻で真相が明らかになるのでは? と言われていた。
アザレアは、ヴィバーチェ公爵と公爵令嬢とは実際に何度もあったことがあり、彼らのことはよく知っている。
今の立場から見ても、ビバーチェ公爵がアザレアを毒殺するなどあり得ないことに感じた。なぜなら例えアザレアを排除したとしても、ヴィバーチェ公爵の令嬢が婚約者になれるとは限らないからだ。この日和見な一族にとってアザレアの毒殺は、リスクを負うだけで得になることがなに一つないのだ。
もしも、本当に犯人なのだとしたらその裏に何かあるのか、それとも完全に嵌められてしまったのかのどちらかだろう。
犯人はさておき、アザレアが毒殺されるかもしれないと言うことはわかっていた。それがわかっていれば対応は取れるので、毒殺は避けることができるだろう。
アザレアは前世の記憶を思い出してからは、常に口にいれるもの全てスキャンし、確認して食べていた。
毒物スキャンの魔法は水属性ができれば誰でもできるものだ。理屈上では食べ物内の水分を食べ物の粒子ごと振動させ、その振動の波長の長さで毒物が混入していないか確認する。
だが、どの物質がどのくらいの波長の長さなのか覚えたり、ごく微量の物質の混入でも関知できるようにするためには、訓練が必要だ。理屈で言うと難しいが、実際はほとんど感覚的に関知しているので、波長の長さがどうのと、理屈ずくめでスキャンするのは本格的にそのスキルに卓越した学者レベルの者達だけだ。
アザレアは妃教育の一環で、200種類以上の毒物のスキャン能力と、極少量の異物混入でも関知できるスキルは有している。
ここから推察すると一つの仮説が浮かぶ。前世の物語内でアザレアは、信頼できる者からもらった食べ物に仕込まれた毒物によって死んだのではないか? と言うことだ。
でなければ、これだけのスキャン能力を有しているアザレアが毒殺されるはずかない。
悲しい事だが、どんなに親しい間柄の者から供された物でも、必ずスキャンせねばならないと言うことになる。
そんなことを考えていたが、今度は明日の誕生会のことについて思考を巡らせる。
国王陛下がアザレアの誕生会を開きたいと言うのには目的があると考えられた。その目的がなんであるかわからないが、ここまで来てしまったら何とか乗り切るしかない。
アザレアは覚悟を決めてベッドにもぐった。
八月八日、いよいよ誕生日当日となった。自分の誕生日ではあるものの、我が家にて行われるためアザレアはホストのリアトリスとお客様を出迎えなければならない。
アザレアはまだデビュタントではないので、お客様に挨拶をして顔を覚えてもらうのが第一目的となっている。これがデビュタントであったなら、結婚相手を探すための出会いの場とばかりに、色々な方と会話し積極的に前にでなければならなかったところだ。
アザレアはリアトリスの後ろに控え、礼儀的に一通り杓子定規な挨拶を交わす、と言うことを何度も繰り返した。
アザレアはお妃教育を受けていたので、ホストの振る舞いから挨拶の所作を身に付けていた。もちろん招待客の顔と名前は全て把握していた。
招待客が全員揃ったころで、国王陛下と王太子殿下が到着した。リアトリスの後ろでカーテシーをし、声をかけられるまで頭を下げていた。
リアトリスと国王陛下の挨拶が終わるのを待つ。やっと国王陛下よりお声がかかり顔を上げた。
カルがアザレアに微笑みかけていた。図書室でみるラフな格好のカルとは違い、正装している王太子殿下としてのカルはまるで別人のようで、物凄く距離を感じた。
リアトリスが国王陛下と王妃殿下を玉座に案内しながら歩き出した後ろで、アザレアはカルに手を取られた。
「さぁ、アザレア私達も行こう」
腰に手をあてて玉座の横までエスコートされる。国王陛下が用意された玉座に着き、その後ろにリアトリスが控える。玉座の横にカルとアザレア。アザレアはとんでもない展開に額から汗が吹き出た。
国王陛下はシャンパンのそそがれたグラスを持ち立ち上がると
「今日集まったのは他でもない、リアトリス・ファン・ケルヘール公爵の娘、サイデューム王国のアレキサンドライトこと、アザレア・ファン・ケルヘール公爵令嬢の十六回目の誕生日を祝うためだ。素晴らしいことにケルヘール公爵令嬢は、なんと時空属性魔法を習得した」
国王の発言に会場がどよめく。アザレアは、このときようやく国王の意図していることを理解した。アザレアを国にとどめるために先手を打って発表したのだろう。
カルはアザレアの手を握りしめ、耳元で囁く。
「アズ、大丈夫か?」
アザレアはなんとか頷く。そんな中、国王陛下の挨拶は続く。
「しかもケルヘール公爵令嬢は、宮廷魔導師になる道を選んだ。これは我がサイデューム王国の発展や繁栄のためにも、とても喜ばしいことだ」
そうして国王陛下はアザレアに視線を移した。
「今後は王太子共々、若い二人がますますサイデューム王国を盛り立ててくれるだろう」
と、グラスを高くかかげた。アザレアはとんでもないことになってしまった、とこの状況に眩暈がした。
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