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第六話
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最初の侵入後、何かしら王宮から言われるのではないかと思っていたのだが、何も言われることはなかった。
一週間後の夜中に再び侵入すると、図書室のテーブルに、殿下が座って待っておりアザレアの姿を見つけると微笑む。
「待っていた。幻覚でもいいから会いたかった」
アザレアは表情を崩さずに返す。
「申し訳ありません、あまり何度も伺うのは迷惑だろうと思っていたもので」
殿下は苦笑すると言った。
「そのように思わせてしまっていたのだな、申し訳なかった。だが、私はそんなふうに思ったことはただの一度もない。この前会ったときにも言ったが、君が婚約者候補を辞退したと聞いて、かなりショックをうけたほどだ」
そう言うと、真剣な顔になり話を続ける。
「これからは感謝の気持ちや、君に対する気持ちは正直に伝えることにしようと思う。その、今の君は幻覚なのだったな。チャンスをもらえるなら、幻覚ではない君と直接話がしたいところなのだが。そのチャンスをもらうためにも、まずは幻覚の君に、誠意を示していこうと思う。だから、君にはいつでも好きなときにここにきて欲しい」
これでアザレアは、表面上は幻覚という扱いをうけることが確定した。
殿下のお墨付きも頂けたので、時々はここへ来ることにした。これで後々この件に関して何か問いただされても、知らぬ存ぜぬで通せるだろう。
アザレアは婚約者候補のときに冷遇されていたことを思いだし、殿下が謝っているのはそのときのことではないかと考えた。
人から拒絶されることがあまりない殿下は、婚約者候補を辞退したアザレアから、拒絶されたと思い落ち込んで、関係を改善したいだけなのかもしれない。
婚約者候補に関しては、自分の生死がかかっているので、自分の命を最優先として、安全が確認できるまでは断固としてお断りだった。
それ以前に、殿下は私を婚約者候補としては望んでいないだろう。
そうとなればと、殿下を気にせずアザレアは早速本棚へ向かった。後ろから殿下が微笑みながら無言でついてきたが、放っておいた。
殿下は何も言わずに私が本を手に取ると、なんの本を取ったのか背後から覗き込んでいた。その距離が物凄く近い。
時々耳の後ろやうなじに殿下の息がかかる。距離の近さに緊張しながらも、気にしてないふうを装って、本を手にとっては戻すを繰り返した。
そのうち読んだことのない恋愛小説を見つけたので、それを抱えるとテーブルへ向かった。王妃殿下も恋愛小説を読まれたりするのだろうか? などと考えなからそれを読み始める。
殿下がいなければ自室へ持ち帰るところだが、この状況でそれは叶わないだろう。
殿下は向かいに座るとそんなアザレアをしばらく眺めていた。正直なところ酷く居心地が悪い。なんとか小説に夢中になろうと読み進めていると殿下が突然訊いてきた。
「君はいつも恋愛小説を好んで読んでいるの?」
そんなことを殿下が知ってどうするのですか? と聞き返したいが、自分が幻覚の身分とはいえ、その態度は流石に不敬だと考えた。
「本は何でも読みますが、恋愛小説も好んで読みます」
とそっけなく返し、また本に目を落とした。すると更に
「では恋愛小説なら、どのような内容の話が好きなんだ?」
と、殿下はアザレアの視線を本から引き戻した。暇なのだな、と思い本を読むことは諦め殿下としばらく話すことにした。
殿下も、相手が幻覚と言う設定だから気安く話せるのだろう。
「主人公が溺愛されるとか束縛される話しをこのんで読みます」
わざと殿下とは正反対の人物像を言ってみた。自分でも気づいていなかったが、今まで『婚約者』ではなく『婚約者候補』とはいえ、そこまで優しくされなかったことに、腹を立てていたのかも知れなかった。すると殿下は、驚いた様子でアザレアの顔を見た。
「そうか、私は君はそう言ったことが嫌いだと勘違いしていたが……、束縛されることは嫌ではないのだな、それは良かった」
と微笑んだ。真面目に取られても困ってしまう。他の婚約者候補にはせいぜい優しくしてくださいませ。と心の中でつぶやく。その時、殿下が何かを思いついたように言った。
「参考にしたいので、君のおすすめの恋愛小説を何冊か教えてくれないか?」
この王子本気なのだろうか? 女性向けの恋愛小説を? と思いつつも、期待した眼差しで見つめられているため、仕方がなく席を立つと、恋愛小説の並んでいる本棚の前に行き、本を探す。
正直本当は溺愛とか束縛される話が特別に好きなわけではなく、意趣返しのつもりだったので本を選ぶのに少々困ってしまった。しかしどうせなら、男性の殿下からしたら『なんだこの内容、とんでもないな!』と、思うような内容の物を選ぶことにした。
記憶をフル回転させて溺愛・束縛の要素が強い恋愛小説を思い出し探す。
それを読んで殿下の思考が変わり、のちの婚約者殿に迷惑をかけるかもしれないが。婚約者候補たちに最低限の接触しかしない殿下には、それくらい溺愛や束縛の強い話の方が良い参考になるのかもしれない。
2冊ほど見繕い、背後に立っていた殿下に渡す。それにしてもなぜ殿下はいちいちついてくるのだろう。
「この本が君の好みなんだね?」
と、渡された本を抱えると殿下は微笑んだ。すみれ色の美しい瞳で彫りが深く整った顔。その微笑みはとろけるような笑顔で、とても眩しい。
そんな本を抱えて、そんな眩しい笑顔しないでください、とても怪しい人に見えてしまいます。と心の中で呟く。
本を渡したので、これでお互いに本に夢中になれるだろうと、テーブルへ戻ると、小説の続きに戻った。殿下も先程座っていた席に戻る。しばらく静かになったので、本気であの本を読んでいるのかと殿下を盗みみると、目が合った。
「その本も面白いか?」
どうやらやっぱり何か話をしていたいらしい。今日は読書は諦めよう。そう思いながら殿下に応じる。
「まだ読み始めたばかりなのでなんとも。殿下は普段、どのような本を読まれるのですか?」
アザレアは逆に質問仕返して、殿下に喋らせる作戦を取ることにした。
「私か? 私は歴史書をよく読む」
アザレアも歴史書はよく読むが、主に勉強のためだ。殿下は良くも悪くも真面目過ぎると思った。
「殿下、歴史書を読むのは勉強というのでは? 推理するような話など、娯楽的な物は読みませんの?」
すると少し考え答える。
「そういうことか、好みの話なら冒険物が好きだ」
なるほど、殿下は視察以外王都を離れないからだろう。
「殿下は立場上、そのような体験できませんものね」
そう返すと、殿下ははっとした。
「そういうことなら、君も恋愛小説を読むのはそういった恋愛ができないからなのか?」
いや、私のことはどうでも良いのです。殿下の話をなさってください。そう思いながらアザレアはそっけなく答えた。
「そうですわね、そうかもしれません」
すると殿下は頷いて言った。
「わかった、覚えておこう」
覚えてなくて結構です。こちらが婚約者候補を辞退した途端この態度。一体どういう風の吹き回しなのだろう。
そこで思いつく、もしかすると殿下は何でも気軽に話せるような、親友が欲しかったのかもしれない。今現在のアザレアは、婚約者候補ではない。だからこそ、気軽に色々話すこともできると考えたのではないだろうか。
アザレアも、友達づき合いをするぶんには問題ない。そう言うことなら何でも話を聞こうと思った。だが、そう思ったとき、一時は殿下に思いを寄せていたので、複雑な気分でもあった。
そんなやり取りをしていると、気が付けばすでに深夜3時を回っていた。
「殿下、もうおやすみになられてください、これ以上起きているのは御身体に触ります」
と言うと、明らかにがっかりした様子になった。
「そうか、楽しい時間というものは過ぎるのが早いね」
楽しかったのなら良かった。アザレアは、これだけの書物を目の前にして読書ができなかったのを、少し残念に思っていたが、少しは殿下のことを理解することができて、こんな時間も悪くないと思った。
だが、本も読みたいので、次に来るときは殿下のいない時間を狙って来よう。そう思っていると、気持ちを見透かしたかのように
「次はいつ来れる? 日時を聞いておけば、私は毎日、焦がれながら君を待たずにすむ。今決めることはできるか?」
と、先手を打たれた。そこまで言われてしまうと断ることはできず、次回の約束をしてロングピークへ戻った。
一週間後の夜中に再び侵入すると、図書室のテーブルに、殿下が座って待っておりアザレアの姿を見つけると微笑む。
「待っていた。幻覚でもいいから会いたかった」
アザレアは表情を崩さずに返す。
「申し訳ありません、あまり何度も伺うのは迷惑だろうと思っていたもので」
殿下は苦笑すると言った。
「そのように思わせてしまっていたのだな、申し訳なかった。だが、私はそんなふうに思ったことはただの一度もない。この前会ったときにも言ったが、君が婚約者候補を辞退したと聞いて、かなりショックをうけたほどだ」
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「これからは感謝の気持ちや、君に対する気持ちは正直に伝えることにしようと思う。その、今の君は幻覚なのだったな。チャンスをもらえるなら、幻覚ではない君と直接話がしたいところなのだが。そのチャンスをもらうためにも、まずは幻覚の君に、誠意を示していこうと思う。だから、君にはいつでも好きなときにここにきて欲しい」
これでアザレアは、表面上は幻覚という扱いをうけることが確定した。
殿下のお墨付きも頂けたので、時々はここへ来ることにした。これで後々この件に関して何か問いただされても、知らぬ存ぜぬで通せるだろう。
アザレアは婚約者候補のときに冷遇されていたことを思いだし、殿下が謝っているのはそのときのことではないかと考えた。
人から拒絶されることがあまりない殿下は、婚約者候補を辞退したアザレアから、拒絶されたと思い落ち込んで、関係を改善したいだけなのかもしれない。
婚約者候補に関しては、自分の生死がかかっているので、自分の命を最優先として、安全が確認できるまでは断固としてお断りだった。
それ以前に、殿下は私を婚約者候補としては望んでいないだろう。
そうとなればと、殿下を気にせずアザレアは早速本棚へ向かった。後ろから殿下が微笑みながら無言でついてきたが、放っておいた。
殿下は何も言わずに私が本を手に取ると、なんの本を取ったのか背後から覗き込んでいた。その距離が物凄く近い。
時々耳の後ろやうなじに殿下の息がかかる。距離の近さに緊張しながらも、気にしてないふうを装って、本を手にとっては戻すを繰り返した。
そのうち読んだことのない恋愛小説を見つけたので、それを抱えるとテーブルへ向かった。王妃殿下も恋愛小説を読まれたりするのだろうか? などと考えなからそれを読み始める。
殿下がいなければ自室へ持ち帰るところだが、この状況でそれは叶わないだろう。
殿下は向かいに座るとそんなアザレアをしばらく眺めていた。正直なところ酷く居心地が悪い。なんとか小説に夢中になろうと読み進めていると殿下が突然訊いてきた。
「君はいつも恋愛小説を好んで読んでいるの?」
そんなことを殿下が知ってどうするのですか? と聞き返したいが、自分が幻覚の身分とはいえ、その態度は流石に不敬だと考えた。
「本は何でも読みますが、恋愛小説も好んで読みます」
とそっけなく返し、また本に目を落とした。すると更に
「では恋愛小説なら、どのような内容の話が好きなんだ?」
と、殿下はアザレアの視線を本から引き戻した。暇なのだな、と思い本を読むことは諦め殿下としばらく話すことにした。
殿下も、相手が幻覚と言う設定だから気安く話せるのだろう。
「主人公が溺愛されるとか束縛される話しをこのんで読みます」
わざと殿下とは正反対の人物像を言ってみた。自分でも気づいていなかったが、今まで『婚約者』ではなく『婚約者候補』とはいえ、そこまで優しくされなかったことに、腹を立てていたのかも知れなかった。すると殿下は、驚いた様子でアザレアの顔を見た。
「そうか、私は君はそう言ったことが嫌いだと勘違いしていたが……、束縛されることは嫌ではないのだな、それは良かった」
と微笑んだ。真面目に取られても困ってしまう。他の婚約者候補にはせいぜい優しくしてくださいませ。と心の中でつぶやく。その時、殿下が何かを思いついたように言った。
「参考にしたいので、君のおすすめの恋愛小説を何冊か教えてくれないか?」
この王子本気なのだろうか? 女性向けの恋愛小説を? と思いつつも、期待した眼差しで見つめられているため、仕方がなく席を立つと、恋愛小説の並んでいる本棚の前に行き、本を探す。
正直本当は溺愛とか束縛される話が特別に好きなわけではなく、意趣返しのつもりだったので本を選ぶのに少々困ってしまった。しかしどうせなら、男性の殿下からしたら『なんだこの内容、とんでもないな!』と、思うような内容の物を選ぶことにした。
記憶をフル回転させて溺愛・束縛の要素が強い恋愛小説を思い出し探す。
それを読んで殿下の思考が変わり、のちの婚約者殿に迷惑をかけるかもしれないが。婚約者候補たちに最低限の接触しかしない殿下には、それくらい溺愛や束縛の強い話の方が良い参考になるのかもしれない。
2冊ほど見繕い、背後に立っていた殿下に渡す。それにしてもなぜ殿下はいちいちついてくるのだろう。
「この本が君の好みなんだね?」
と、渡された本を抱えると殿下は微笑んだ。すみれ色の美しい瞳で彫りが深く整った顔。その微笑みはとろけるような笑顔で、とても眩しい。
そんな本を抱えて、そんな眩しい笑顔しないでください、とても怪しい人に見えてしまいます。と心の中で呟く。
本を渡したので、これでお互いに本に夢中になれるだろうと、テーブルへ戻ると、小説の続きに戻った。殿下も先程座っていた席に戻る。しばらく静かになったので、本気であの本を読んでいるのかと殿下を盗みみると、目が合った。
「その本も面白いか?」
どうやらやっぱり何か話をしていたいらしい。今日は読書は諦めよう。そう思いながら殿下に応じる。
「まだ読み始めたばかりなのでなんとも。殿下は普段、どのような本を読まれるのですか?」
アザレアは逆に質問仕返して、殿下に喋らせる作戦を取ることにした。
「私か? 私は歴史書をよく読む」
アザレアも歴史書はよく読むが、主に勉強のためだ。殿下は良くも悪くも真面目過ぎると思った。
「殿下、歴史書を読むのは勉強というのでは? 推理するような話など、娯楽的な物は読みませんの?」
すると少し考え答える。
「そういうことか、好みの話なら冒険物が好きだ」
なるほど、殿下は視察以外王都を離れないからだろう。
「殿下は立場上、そのような体験できませんものね」
そう返すと、殿下ははっとした。
「そういうことなら、君も恋愛小説を読むのはそういった恋愛ができないからなのか?」
いや、私のことはどうでも良いのです。殿下の話をなさってください。そう思いながらアザレアはそっけなく答えた。
「そうですわね、そうかもしれません」
すると殿下は頷いて言った。
「わかった、覚えておこう」
覚えてなくて結構です。こちらが婚約者候補を辞退した途端この態度。一体どういう風の吹き回しなのだろう。
そこで思いつく、もしかすると殿下は何でも気軽に話せるような、親友が欲しかったのかもしれない。今現在のアザレアは、婚約者候補ではない。だからこそ、気軽に色々話すこともできると考えたのではないだろうか。
アザレアも、友達づき合いをするぶんには問題ない。そう言うことなら何でも話を聞こうと思った。だが、そう思ったとき、一時は殿下に思いを寄せていたので、複雑な気分でもあった。
そんなやり取りをしていると、気が付けばすでに深夜3時を回っていた。
「殿下、もうおやすみになられてください、これ以上起きているのは御身体に触ります」
と言うと、明らかにがっかりした様子になった。
「そうか、楽しい時間というものは過ぎるのが早いね」
楽しかったのなら良かった。アザレアは、これだけの書物を目の前にして読書ができなかったのを、少し残念に思っていたが、少しは殿下のことを理解することができて、こんな時間も悪くないと思った。
だが、本も読みたいので、次に来るときは殿下のいない時間を狙って来よう。そう思っていると、気持ちを見透かしたかのように
「次はいつ来れる? 日時を聞いておけば、私は毎日、焦がれながら君を待たずにすむ。今決めることはできるか?」
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