45 / 49
番外編
「慣れない暮らしは色々大変②」
しおりを挟む
ざかざかと音を立てて箒を動かす。最近、風が強い。そのせいで、朝だけではなく夜も掃除をしなければ追いつかない。
ただでさえ、初音はこういった家事に不慣れだ。一回やった程度では、片づかないことも多い。
(それなのに、明晴ったら仕事をどんどん増やすんだから――)
初音は深いため息を吐いた。
以前から感じていたが――安部明晴は意外とだらしがない。
夜は遅くまで起きているし、朝もそのせいで起きられないことが多い。
(あと――意外と口が悪いっ!)
だん! と音を立てながら箒を地面に叩きつける。ぶみゃんっ、と通りすがりの野良猫が悲鳴を上げて逃げて行った。
明晴は、初音のことを侍女として扱わない。紅葉が提案した通り、「同居人」として扱う。
初音にとっても、明晴は恩人――であると同時に、年下なこともあってか、弟のような思いがあった。
(弟なんていないから、よく分からないけれど……)
明晴は、全体的にだらしがない。
物は出しっぱなし。食事中も本を読むこともある。体を拭けと言っても「あとでやる」と言ったまま朝になっていることもあるし、目を悪くするから早く寝ろと言うと、「今やろうと思ったのに」と必ず拗ねた態度を取る。
最初は、「世間知らずな子どもだから」と、自分が大人になるよう努めていた初音だが、最近は限界を感じていた。
『明晴は、子どもらしからぬところがあるんだ』
以前、紅葉が言っていた。
明晴を育てたのは十二天将――特に紅葉の影響を強く受けていると。
紅葉は口が悪く尊大。そんな紅葉とばかり接していたせいで、明晴は他人の感情の機微に疎いところがある、と。
『信長のような、ある意味浮世離れした変人や、大抵のことをうまく聞き流せる万見仙千代ならば、気にならないだろうが……。もし、年頃の娘であるお前に不愉快な気持ちにさせたら、それは俺のせいだ。許せ』
紅葉が危惧した通り、明晴はかなり同居人としては暮らしにくい相手であった。
極めつけは、今朝の発言である。
『食べ物なんて胃袋に入れれば同じ』
「誰のために頑張ってると思ってるのよ――――――!」
初音の悲鳴が、金華山に響き渡った。
「おやまあ」
軽やかな品のある声が耳朶を打つ。
「え」
聞き馴染みのあるその声に、初音は目を真ん丸くした。
「久しぶりじゃな、初音。元気そうで何より」
そこに立っていたのは、かつて仕えていた相手。
織田信長の正室・帰蝶であった。
ただでさえ、初音はこういった家事に不慣れだ。一回やった程度では、片づかないことも多い。
(それなのに、明晴ったら仕事をどんどん増やすんだから――)
初音は深いため息を吐いた。
以前から感じていたが――安部明晴は意外とだらしがない。
夜は遅くまで起きているし、朝もそのせいで起きられないことが多い。
(あと――意外と口が悪いっ!)
だん! と音を立てながら箒を地面に叩きつける。ぶみゃんっ、と通りすがりの野良猫が悲鳴を上げて逃げて行った。
明晴は、初音のことを侍女として扱わない。紅葉が提案した通り、「同居人」として扱う。
初音にとっても、明晴は恩人――であると同時に、年下なこともあってか、弟のような思いがあった。
(弟なんていないから、よく分からないけれど……)
明晴は、全体的にだらしがない。
物は出しっぱなし。食事中も本を読むこともある。体を拭けと言っても「あとでやる」と言ったまま朝になっていることもあるし、目を悪くするから早く寝ろと言うと、「今やろうと思ったのに」と必ず拗ねた態度を取る。
最初は、「世間知らずな子どもだから」と、自分が大人になるよう努めていた初音だが、最近は限界を感じていた。
『明晴は、子どもらしからぬところがあるんだ』
以前、紅葉が言っていた。
明晴を育てたのは十二天将――特に紅葉の影響を強く受けていると。
紅葉は口が悪く尊大。そんな紅葉とばかり接していたせいで、明晴は他人の感情の機微に疎いところがある、と。
『信長のような、ある意味浮世離れした変人や、大抵のことをうまく聞き流せる万見仙千代ならば、気にならないだろうが……。もし、年頃の娘であるお前に不愉快な気持ちにさせたら、それは俺のせいだ。許せ』
紅葉が危惧した通り、明晴はかなり同居人としては暮らしにくい相手であった。
極めつけは、今朝の発言である。
『食べ物なんて胃袋に入れれば同じ』
「誰のために頑張ってると思ってるのよ――――――!」
初音の悲鳴が、金華山に響き渡った。
「おやまあ」
軽やかな品のある声が耳朶を打つ。
「え」
聞き馴染みのあるその声に、初音は目を真ん丸くした。
「久しぶりじゃな、初音。元気そうで何より」
そこに立っていたのは、かつて仕えていた相手。
織田信長の正室・帰蝶であった。
2
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏公務の神様事件簿 ─神様のバディはじめました─
只深
ファンタジー
20xx年、日本は謎の天変地異に悩まされていた。
相次ぐ河川の氾濫、季節を無視した気温の変化、突然大地が隆起し、建物は倒壊。
全ての基礎が壊れ、人々の生活は自給自足の時代──まるで、時代が巻き戻ってしまったかのような貧困生活を余儀なくされていた。
クビにならないと言われていた公務員をクビになり、謎の力に目覚めた主人公はある日突然神様に出会う。
「そなたといたら、何か面白いことがあるのか?」
自分への問いかけと思わず適当に答えたが、それよって依代に選ばれ、見たことも聞いたこともない陰陽師…現代の陰陽寮、秘匿された存在の【裏公務員】として仕事をする事になった。
「恋してちゅーすると言ったのは嘘か」
「勘弁してくれ」
そんな二人のバディが織りなす和風ファンタジー、陰陽師の世直し事件簿が始まる。
優しさと悲しさと、切なさと暖かさ…そして心の中に大切な何かが生まれる物語。
※BLに見える表現がありますがBLではありません。
※現在一話から改稿中。毎日近況ノートにご報告しておりますので是非また一話からご覧ください♪
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
奪われし者の強き刃
ゆうさん
ファンタジー
ある科学者によって人ならざるものに世界の大半を侵食された現代
魔物に対抗するために[ギフト]と呼ばれる異能力を手にした師団長たちと団員たちが領土防衛と奪還にために立ち向かう
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

好きになった人は吸血鬼でした。-さくらの血契1-【完】
桜月真澄
ファンタジー
-さくらのちぎり-
初めて好きになった人は吸血鬼でした。
+++
私を助けてくれたのは、銀の瞳をした吸血鬼。
勝手に私を助けて、血を与える主にならないかって言ったくせに、目覚めたらもういなかった。
もう一度逢いたい。でも、名前しか知らない。
‥そんな風に思っていたら、親友が入院してる病院で再会!?
しかも切羽詰っていた私、「彼氏になって!」とか言ってしまいました!
「……もう、逢わないって言ったのに……どうして、今いてくれるの?」
「言った。でも……逢えたらいいな、とは思っていた」
私は、逢いたいと思っていた。
……でも、傍にいられないのは私の方だった。
16歳の誕生日。
封じられていた血が目覚める――。
+++
桜木真紅
Sakuragi Mako
隠された正体のために、自分の出自を知らず育った。
小埜黎
Ono Rei
半分が日本の鬼、半分が英国の吸血鬼の青年。
真紅を助けたが、姿を消してしまう。
桜城架
Sakuragi Kakeru
真紅のクラスメイト。王子様然としている。
梨実海雨
Nashimi Miu
真紅の親友。病気がちで入院中。
桜木紅亜
Sakuragi Kurea
真紅の母。
影小路黒藤
Kagenokozi Kuroto
影小路家の後継者の陰陽師。
月御門白桜
Tsukimikado Hakuou
月御門家当主で黒藤の幼馴染。同じく陰陽師。
秘された本性がある。
+++
2022.5.10~6.3
Sakuragi presents
吸血鬼と陰陽師と退鬼師。
血をめぐるダークファンタジー?(ラブコメ寄り)開演です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる