33 / 38
番外編
2 イサールの手紙
しおりを挟む
「ぽーる! しおちゃん!」
ルイはそう言うと、ひょいっとイサールの膝から下りて、てってけてーっと二人の元に駆けよった。
店にやってきたのは、フェインの息子でありこの国の第一王子のシオンとその護衛ポールだった。
「よぉー、ルイ。元気にしてたか?」
「久しぶりだね、ルイ」
ポールとシオンはそれぞれに声をかけ、ポールはその場にしゃがむとルイの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「へへへーっ、ルーはげんきだよぉ!」
ルイは頭をくしゃくしゃにされても嬉しそうに笑い、ポールは口元に手を当てた。
「あいつもルイぐらい可愛げがありゃよかったのに。……いや、この可愛さはおじさん譲りか」
一人呟くポールにやれやれといった視線を向けながら、シオンはカウンター席に座るイサールに視線を向けた。
「おはようございます、イサールさん。……またルークに頼まれたんですか?」
シオンの質問にイサールは苦笑しながら「ええ、まあ」と答えた。
イサールは王子であるシオンに本来ならこんな軽口を利ける立場ではないが『堅苦しい挨拶は止めにしませんか? 僕、苦手なんです。畏まられるのって』と以前城で会った時に困った様子で言われ、それ以降は努めて気軽な態度で接している。それはフェインにも同じだ。
「大変ですね」
「いえ、これも大事な仕事ですから」
イサールは答えながら、自分の元に戻ってきたルイをひょいっと持ち上げて、また膝の上に乗せた。ルイはまるで、お膝にのせて貰えていいでしょー! と言わんばかりの満面の笑みで二人を見る。
「まあ、ルイは楽しそうだな」
ポールが苦笑しつつ言った後、黙っていたフェインが二人に声をかけた。
「ところであんた達が二人で店に来るなんて、どうしたの?」
父親であるフェインはシオンに尋ねると、シオンは思い出したように「ああ」と呟き、それから胸ポケットに入れていたメモを取り出した。
「母様からお使いを頼まれてね。はい、これ。父さんに用意してって」
シオンはメモをフェインに渡した。それをフェインは読んでいく。
「なになにー? 『いつもの特製ブレンド茶、パウンドケーキとクッキーが食べたい。あと愛してる』……やっだーもー、サリアってば~! 私も愛してる~♡」
フェインは自分で読んで、顔を赤くして照れている。そしてすぐに息子に声をかけた。
「今すぐ用意するから待ってて、ちょうだ~い!」
フェインはもはや踊りだしそうな勢いで用意し始め、そんな父親をシオンは苦笑しながら見つめた。
そして、苦笑するシオンにイサールは尋ねる。
「ところで、お二人は本当にお使いだけでこちらに?」
何気なくイサールが尋ねるとシオンはこくりと頷いた。
「ええ、たまには市井の暮らしを直に見て勉強してこいって、こうやってお使いを頼まれるんです。まあ、実際のところは父さん手作りのお菓子を食べたいのとお茶を切らしたからってところでしょうけど」
……国王陛下、王子をお使いに出すのはいかがなものかと。
そうイサールは思ったが、さっきから実は気になっていたことを尋ねた。
「でも、お二人だけで? 他の護衛の方は?」
イサールは他に護衛がいない事に不審に思って尋ねた。これがこの国の普通である事を知らず。
「あー、イサールさん。護衛は俺だけなんですよ」
ポールは頭をがしがしっと掻いた。その言葉にイサールは驚く。シオンは王子であり、次の国王だ。もっと他に護衛がいてもいいはずだった。
「まあ、驚くのが普通ですよね。まあ俺も他に護衛はつけた方がいいと思うんですが、シオン様がいらないっておっしゃられまして」
ポールがそう言うとシオンはにこっと笑った。
「だって、ポールは強いし、僕も魔法が使えるから。あと、ポール。城の外では様も敬語もいらないっていってるだろう?」
「そうはいきませんよ。こっちは勤務中なんですから」
そんなポールの言葉にシオンはむっとした顔をする。
でもそんな二人を見てイサールは思い出した。
ポールは実は代々優秀な騎士を輩出する名門の出であり、以前は騎士をしていた竜人のルークと肩を並べるほどの強さだった。つまり人としては、ずば抜けて強いのだ。
なので今ではルークの抜けた後、ファウント王国一の騎士になっている。
そしてシオンは最強魔法師としての名を轟かせていたフェインの息子で、王子でありながら上級魔法師の資格を有している……つまり。
「……なるほど、お二人なら護衛はいらないということですね」
「まあ、何よりこの国が平和だからっていうのも大きな理由のひとつですけどね」
シオンは笑って言ったが一番説得力ある言葉にイサールは納得した。
最強魔法師であり王配でもあるフェインが普通に喫茶店のママをしている事。
王弟であるレイが本屋の店主をしている事。
何より、竜国の元国王であるルークをすんなりと受け入れた。
そんな事が出来るのはこの国が平和だからだ。
そして、その平和を維持している国王陛下。
……改めて考えるとすごい方だ。
イサールは心の中で思ったが、膝の上にいるルイが「どちたの、イサちゃん」と不思議そうに大きな瞳を向けて尋ねるから、イサールは素直に答えた。
「貴方の伯母さまはすごい方だな、と思ったのですよ」
でもその言葉の意味が分かったのは大人達だけで、ルイは首をこてんっと傾けた。
「おばしゃま? ……さっちゃんのこと??」
「そうよぉ、私のサリアはすごいの! うふふ♡」
フェインは照れながら頬に手を当てて言った。
「さっちゃん、しゅごいの? ルー、さっちゃんに会いたーい!」
ルイはぴょいっと小さな手を上げて主張した。
「あら、それならシオン達について行けばいいわ。ついでにルイちゃん、これをシオンと一緒にサリアの元に届けてくれる?」
フェインは小さな紙袋をカウンターに置いた。
「はーい! ルー、さっちゃんのとこにもってくぅ!」
「お願いね」
フェインはパチッとウインクしてルイに言い、それから「イサールさんもお願いね」とイサールに視線を向けて頼んだ。
「こ、国王陛下にですか。……しかしこんな格好で、お会いしてよろしいのでしょうか」
イサールはまさか今日国王に会うと思っていなかったので、かなりラフな格好をしていた。だが尋ねたイサールにフェインは大声で笑って答えた。
「だいじょーぶよぉ! サリアはそんな事、気にするような人じゃないから」
「そうですよ、イサールさん。大丈夫ですよ。それに母様もルイに会いたがっていましたし」
フェインの後にシオンが言葉を続けていった。
二人が大丈夫というのなら、大丈夫なのだろう。とイサールは思うが、国王に会うのはやはりやや緊張する思いだった。
なにせイサールがルークに伴って、ファウント王国に来てから国王と面会したのは片手で数えられる程度だ。
……確かに気さくな方ではあったが、ご不興を買わないように気を付けよう。
イサールは一人そう思ったが、ルイはフェインに渡された紙袋をむんずと掴んで、ぴょんっとイサールの膝の上から飛び降りた。
「イサちゃん、さっちゃんに会いにいこー!」
ルイはにこっと笑って言い、イサールは「わかりました」とカウンター席から立ち上がった。
だが、その横でフェインはシオンに別の紙袋を渡していた。
恐らく、シオンに渡した紙袋にはケーキやクッキー、ルイに渡した紙袋には揺すっても大丈夫な紅茶が入っているのだろう。
イサールがその事に気が付き、フェインを視線を向けると、笑顔と共にぱちりっとウインクをされた。
『よろしくね』と言われた気がして、イサールはこくりと頷く。
「じゃあ、城に戻りますか。ルイ、俺達から離れてどっかに行くなよ?」
ポールが言うと、ルイは「はあーい!」と元気に返事をした。
◇◇
――――それから歩いて三十分ほど。
城に着き、イサール一行は王の執務室に訪れていた。
「さっちゃぁーん!」
ルイは出迎えたサリアを見つけるなり弾丸のように走って、その足元にぺちょっとくっついた。
「久しぶりだな、ルイ。元気にしてたか?」
「うん、げんきしてた! さっちゃんは?」
「私も元気だ」
サリアがしゃがんで言うと、ルイはにこーっと笑った。でも、ハッと自分の持っている紙袋を思い出して、ずいっとサリアに差し出す。
「はい、これ! ふぇーちゃんから!」
「ああ、これを持って来てくれたのか。ありがとう」
サリアは紙袋の中身を確認して、お礼を言い、頭を撫でた。ルイは嬉しそうににこにこ笑って、終始ご満悦だ。そんなルイからサリアは三人の男に視線を向けた。それは勿論、イサールとシオン、ポールにだ。
「イサール、久しぶりだな」
イサールはサリアに声をかけられ、頭を下げた。
「国王陛下、お久しぶりです」
「こちらの生活には慣れただろうか?」
「はい、すっかり」
「そうか。何か不自由があれば遠慮なく言ってくれ。すぐに手を回す」
温かいサリアの言葉にイサールは顔を上げる。他国の一護衛にここまで言える王がどれだけいるだろうか。
「ありがとうございます。ですがおかげ様で、なに不自由なく暮らせておりますのでご安心を」
「そうか、ならばよかった。エルマン殿にもよろしく頼まれているからな。……しかし今日もルイの子守りか? ルー坊は元気な事だな、レイが死んでなきゃいいが」
サリアはくすくす笑った。その言葉の意味が分かるイサールは顔を引きつらせたが、シオンが「母様」と諫めた。
「いや、すまん。ついな」
サリアは答えた後、シオンからも紙袋を受け取った。
「シオンとポールもご苦労だった、午後の休憩に頂こう。ところで二人共、折角ルイとイサールが来たんだ。いい機会だから城の中を案内してあげなさい」
サリアの言葉にイサールは「え!?」と声を上げた。てっきり、紙袋を渡して挨拶をしたら帰ると思っていたからだ。
「これからも、何度か城に来る機会は増えるだろう。城の中を知っておくにはちょうどいい」
サリアはそう言って、ルイに視線を向けた。
ルイは市井で暮らしているが、王弟であるレイの息子だ。王族に連なる身分を幼いながらに持っている。成長していけば、その身分から城に呼ばれることも増えるだろう。
「はい、わかりました。母様」
シオンは返事をし、ポールはこくりと頷いた。
「どこかに行くの?」
ルイは何のことかわからなかったのか、こてんっと首を傾げて尋ねた。そんなルイにポールがしゃがんで教えた。
「これから城探検だ!」
ポールが言うと、ルイは両手を上げて、ぴょんっぴょんっと飛び跳ねた。
「わーい! たんけーんっ!」
****************
一気投稿をしたかったのですが編集が追い付かず、続きはまた明日(;・∀・)
ちなみにこちらのお話は短編ですので、あと4話ほどです。
またお気に入り登録、いいね、エール(動画を見てくれた)方々、ありがとうございます!
一気投稿は初めてでしたし、どうせ誰も読まないよね~、とか思っていたらBLランキング上位に入っててビックリしました。
明日も楽しみに待っていて頂けると嬉しいです('ω')ノ
ルイはそう言うと、ひょいっとイサールの膝から下りて、てってけてーっと二人の元に駆けよった。
店にやってきたのは、フェインの息子でありこの国の第一王子のシオンとその護衛ポールだった。
「よぉー、ルイ。元気にしてたか?」
「久しぶりだね、ルイ」
ポールとシオンはそれぞれに声をかけ、ポールはその場にしゃがむとルイの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「へへへーっ、ルーはげんきだよぉ!」
ルイは頭をくしゃくしゃにされても嬉しそうに笑い、ポールは口元に手を当てた。
「あいつもルイぐらい可愛げがありゃよかったのに。……いや、この可愛さはおじさん譲りか」
一人呟くポールにやれやれといった視線を向けながら、シオンはカウンター席に座るイサールに視線を向けた。
「おはようございます、イサールさん。……またルークに頼まれたんですか?」
シオンの質問にイサールは苦笑しながら「ええ、まあ」と答えた。
イサールは王子であるシオンに本来ならこんな軽口を利ける立場ではないが『堅苦しい挨拶は止めにしませんか? 僕、苦手なんです。畏まられるのって』と以前城で会った時に困った様子で言われ、それ以降は努めて気軽な態度で接している。それはフェインにも同じだ。
「大変ですね」
「いえ、これも大事な仕事ですから」
イサールは答えながら、自分の元に戻ってきたルイをひょいっと持ち上げて、また膝の上に乗せた。ルイはまるで、お膝にのせて貰えていいでしょー! と言わんばかりの満面の笑みで二人を見る。
「まあ、ルイは楽しそうだな」
ポールが苦笑しつつ言った後、黙っていたフェインが二人に声をかけた。
「ところであんた達が二人で店に来るなんて、どうしたの?」
父親であるフェインはシオンに尋ねると、シオンは思い出したように「ああ」と呟き、それから胸ポケットに入れていたメモを取り出した。
「母様からお使いを頼まれてね。はい、これ。父さんに用意してって」
シオンはメモをフェインに渡した。それをフェインは読んでいく。
「なになにー? 『いつもの特製ブレンド茶、パウンドケーキとクッキーが食べたい。あと愛してる』……やっだーもー、サリアってば~! 私も愛してる~♡」
フェインは自分で読んで、顔を赤くして照れている。そしてすぐに息子に声をかけた。
「今すぐ用意するから待ってて、ちょうだ~い!」
フェインはもはや踊りだしそうな勢いで用意し始め、そんな父親をシオンは苦笑しながら見つめた。
そして、苦笑するシオンにイサールは尋ねる。
「ところで、お二人は本当にお使いだけでこちらに?」
何気なくイサールが尋ねるとシオンはこくりと頷いた。
「ええ、たまには市井の暮らしを直に見て勉強してこいって、こうやってお使いを頼まれるんです。まあ、実際のところは父さん手作りのお菓子を食べたいのとお茶を切らしたからってところでしょうけど」
……国王陛下、王子をお使いに出すのはいかがなものかと。
そうイサールは思ったが、さっきから実は気になっていたことを尋ねた。
「でも、お二人だけで? 他の護衛の方は?」
イサールは他に護衛がいない事に不審に思って尋ねた。これがこの国の普通である事を知らず。
「あー、イサールさん。護衛は俺だけなんですよ」
ポールは頭をがしがしっと掻いた。その言葉にイサールは驚く。シオンは王子であり、次の国王だ。もっと他に護衛がいてもいいはずだった。
「まあ、驚くのが普通ですよね。まあ俺も他に護衛はつけた方がいいと思うんですが、シオン様がいらないっておっしゃられまして」
ポールがそう言うとシオンはにこっと笑った。
「だって、ポールは強いし、僕も魔法が使えるから。あと、ポール。城の外では様も敬語もいらないっていってるだろう?」
「そうはいきませんよ。こっちは勤務中なんですから」
そんなポールの言葉にシオンはむっとした顔をする。
でもそんな二人を見てイサールは思い出した。
ポールは実は代々優秀な騎士を輩出する名門の出であり、以前は騎士をしていた竜人のルークと肩を並べるほどの強さだった。つまり人としては、ずば抜けて強いのだ。
なので今ではルークの抜けた後、ファウント王国一の騎士になっている。
そしてシオンは最強魔法師としての名を轟かせていたフェインの息子で、王子でありながら上級魔法師の資格を有している……つまり。
「……なるほど、お二人なら護衛はいらないということですね」
「まあ、何よりこの国が平和だからっていうのも大きな理由のひとつですけどね」
シオンは笑って言ったが一番説得力ある言葉にイサールは納得した。
最強魔法師であり王配でもあるフェインが普通に喫茶店のママをしている事。
王弟であるレイが本屋の店主をしている事。
何より、竜国の元国王であるルークをすんなりと受け入れた。
そんな事が出来るのはこの国が平和だからだ。
そして、その平和を維持している国王陛下。
……改めて考えるとすごい方だ。
イサールは心の中で思ったが、膝の上にいるルイが「どちたの、イサちゃん」と不思議そうに大きな瞳を向けて尋ねるから、イサールは素直に答えた。
「貴方の伯母さまはすごい方だな、と思ったのですよ」
でもその言葉の意味が分かったのは大人達だけで、ルイは首をこてんっと傾けた。
「おばしゃま? ……さっちゃんのこと??」
「そうよぉ、私のサリアはすごいの! うふふ♡」
フェインは照れながら頬に手を当てて言った。
「さっちゃん、しゅごいの? ルー、さっちゃんに会いたーい!」
ルイはぴょいっと小さな手を上げて主張した。
「あら、それならシオン達について行けばいいわ。ついでにルイちゃん、これをシオンと一緒にサリアの元に届けてくれる?」
フェインは小さな紙袋をカウンターに置いた。
「はーい! ルー、さっちゃんのとこにもってくぅ!」
「お願いね」
フェインはパチッとウインクしてルイに言い、それから「イサールさんもお願いね」とイサールに視線を向けて頼んだ。
「こ、国王陛下にですか。……しかしこんな格好で、お会いしてよろしいのでしょうか」
イサールはまさか今日国王に会うと思っていなかったので、かなりラフな格好をしていた。だが尋ねたイサールにフェインは大声で笑って答えた。
「だいじょーぶよぉ! サリアはそんな事、気にするような人じゃないから」
「そうですよ、イサールさん。大丈夫ですよ。それに母様もルイに会いたがっていましたし」
フェインの後にシオンが言葉を続けていった。
二人が大丈夫というのなら、大丈夫なのだろう。とイサールは思うが、国王に会うのはやはりやや緊張する思いだった。
なにせイサールがルークに伴って、ファウント王国に来てから国王と面会したのは片手で数えられる程度だ。
……確かに気さくな方ではあったが、ご不興を買わないように気を付けよう。
イサールは一人そう思ったが、ルイはフェインに渡された紙袋をむんずと掴んで、ぴょんっとイサールの膝の上から飛び降りた。
「イサちゃん、さっちゃんに会いにいこー!」
ルイはにこっと笑って言い、イサールは「わかりました」とカウンター席から立ち上がった。
だが、その横でフェインはシオンに別の紙袋を渡していた。
恐らく、シオンに渡した紙袋にはケーキやクッキー、ルイに渡した紙袋には揺すっても大丈夫な紅茶が入っているのだろう。
イサールがその事に気が付き、フェインを視線を向けると、笑顔と共にぱちりっとウインクをされた。
『よろしくね』と言われた気がして、イサールはこくりと頷く。
「じゃあ、城に戻りますか。ルイ、俺達から離れてどっかに行くなよ?」
ポールが言うと、ルイは「はあーい!」と元気に返事をした。
◇◇
――――それから歩いて三十分ほど。
城に着き、イサール一行は王の執務室に訪れていた。
「さっちゃぁーん!」
ルイは出迎えたサリアを見つけるなり弾丸のように走って、その足元にぺちょっとくっついた。
「久しぶりだな、ルイ。元気にしてたか?」
「うん、げんきしてた! さっちゃんは?」
「私も元気だ」
サリアがしゃがんで言うと、ルイはにこーっと笑った。でも、ハッと自分の持っている紙袋を思い出して、ずいっとサリアに差し出す。
「はい、これ! ふぇーちゃんから!」
「ああ、これを持って来てくれたのか。ありがとう」
サリアは紙袋の中身を確認して、お礼を言い、頭を撫でた。ルイは嬉しそうににこにこ笑って、終始ご満悦だ。そんなルイからサリアは三人の男に視線を向けた。それは勿論、イサールとシオン、ポールにだ。
「イサール、久しぶりだな」
イサールはサリアに声をかけられ、頭を下げた。
「国王陛下、お久しぶりです」
「こちらの生活には慣れただろうか?」
「はい、すっかり」
「そうか。何か不自由があれば遠慮なく言ってくれ。すぐに手を回す」
温かいサリアの言葉にイサールは顔を上げる。他国の一護衛にここまで言える王がどれだけいるだろうか。
「ありがとうございます。ですがおかげ様で、なに不自由なく暮らせておりますのでご安心を」
「そうか、ならばよかった。エルマン殿にもよろしく頼まれているからな。……しかし今日もルイの子守りか? ルー坊は元気な事だな、レイが死んでなきゃいいが」
サリアはくすくす笑った。その言葉の意味が分かるイサールは顔を引きつらせたが、シオンが「母様」と諫めた。
「いや、すまん。ついな」
サリアは答えた後、シオンからも紙袋を受け取った。
「シオンとポールもご苦労だった、午後の休憩に頂こう。ところで二人共、折角ルイとイサールが来たんだ。いい機会だから城の中を案内してあげなさい」
サリアの言葉にイサールは「え!?」と声を上げた。てっきり、紙袋を渡して挨拶をしたら帰ると思っていたからだ。
「これからも、何度か城に来る機会は増えるだろう。城の中を知っておくにはちょうどいい」
サリアはそう言って、ルイに視線を向けた。
ルイは市井で暮らしているが、王弟であるレイの息子だ。王族に連なる身分を幼いながらに持っている。成長していけば、その身分から城に呼ばれることも増えるだろう。
「はい、わかりました。母様」
シオンは返事をし、ポールはこくりと頷いた。
「どこかに行くの?」
ルイは何のことかわからなかったのか、こてんっと首を傾げて尋ねた。そんなルイにポールがしゃがんで教えた。
「これから城探検だ!」
ポールが言うと、ルイは両手を上げて、ぴょんっぴょんっと飛び跳ねた。
「わーい! たんけーんっ!」
****************
一気投稿をしたかったのですが編集が追い付かず、続きはまた明日(;・∀・)
ちなみにこちらのお話は短編ですので、あと4話ほどです。
またお気に入り登録、いいね、エール(動画を見てくれた)方々、ありがとうございます!
一気投稿は初めてでしたし、どうせ誰も読まないよね~、とか思っていたらBLランキング上位に入っててビックリしました。
明日も楽しみに待っていて頂けると嬉しいです('ω')ノ
117
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる