竜人息子の溺愛!

神谷レイン

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番外編

2 イサールの手紙

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「ぽーる! しおちゃん!」

 ルイはそう言うと、ひょいっとイサールの膝から下りて、てってけてーっと二人の元に駆けよった。
 店にやってきたのは、フェインの息子でありこの国の第一王子のシオンとその護衛ポールだった。

「よぉー、ルイ。元気にしてたか?」
「久しぶりだね、ルイ」

 ポールとシオンはそれぞれに声をかけ、ポールはその場にしゃがむとルイの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「へへへーっ、ルーはげんきだよぉ!」

 ルイは頭をくしゃくしゃにされても嬉しそうに笑い、ポールは口元に手を当てた。

「あいつもルイぐらい可愛げがありゃよかったのに。……いや、この可愛さはおじさん譲りか」

 一人呟くポールにやれやれといった視線を向けながら、シオンはカウンター席に座るイサールに視線を向けた。

「おはようございます、イサールさん。……またルークに頼まれたんですか?」

 シオンの質問にイサールは苦笑しながら「ええ、まあ」と答えた。
 イサールは王子であるシオンに本来ならこんな軽口を利ける立場ではないが『堅苦しい挨拶は止めにしませんか? 僕、苦手なんです。畏まられるのって』と以前城で会った時に困った様子で言われ、それ以降は努めて気軽な態度で接している。それはフェインにも同じだ。

「大変ですね」
「いえ、これも大事な仕事ですから」

 イサールは答えながら、自分の元に戻ってきたルイをひょいっと持ち上げて、また膝の上に乗せた。ルイはまるで、お膝にのせて貰えていいでしょー! と言わんばかりの満面の笑みで二人を見る。

「まあ、ルイは楽しそうだな」

 ポールが苦笑しつつ言った後、黙っていたフェインが二人に声をかけた。

「ところであんた達が二人で店に来るなんて、どうしたの?」

 父親であるフェインはシオンに尋ねると、シオンは思い出したように「ああ」と呟き、それから胸ポケットに入れていたメモを取り出した。

「母様からお使いを頼まれてね。はい、これ。父さんに用意してって」

 シオンはメモをフェインに渡した。それをフェインは読んでいく。

「なになにー? 『いつもの特製ブレンド茶、パウンドケーキとクッキーが食べたい。あと愛してる』……やっだーもー、サリアってば~! 私も愛してる~♡」

 フェインは自分で読んで、顔を赤くして照れている。そしてすぐに息子に声をかけた。

「今すぐ用意するから待ってて、ちょうだ~い!」

 フェインはもはや踊りだしそうな勢いで用意し始め、そんな父親をシオンは苦笑しながら見つめた。
 そして、苦笑するシオンにイサールは尋ねる。

「ところで、お二人は本当にお使いだけでこちらに?」

 何気なくイサールが尋ねるとシオンはこくりと頷いた。

「ええ、たまには市井の暮らしを直に見て勉強してこいって、こうやってお使いを頼まれるんです。まあ、実際のところは父さん手作りのお菓子を食べたいのとお茶を切らしたからってところでしょうけど」

 ……国王陛下、王子をお使いに出すのはいかがなものかと。

 そうイサールは思ったが、さっきから実は気になっていたことを尋ねた。

「でも、お二人だけで? 他の護衛の方は?」

 イサールは他に護衛がいない事に不審に思って尋ねた。これがこの国の普通である事を知らず。

「あー、イサールさん。護衛は俺だけなんですよ」

 ポールは頭をがしがしっと掻いた。その言葉にイサールは驚く。シオンは王子であり、次の国王だ。もっと他に護衛がいてもいいはずだった。

「まあ、驚くのが普通ですよね。まあ俺も他に護衛はつけた方がいいと思うんですが、シオン様がいらないっておっしゃられまして」

 ポールがそう言うとシオンはにこっと笑った。

「だって、ポールは強いし、僕も魔法が使えるから。あと、ポール。城の外では様も敬語もいらないっていってるだろう?」
「そうはいきませんよ。こっちは勤務中なんですから」

 そんなポールの言葉にシオンはむっとした顔をする。
 でもそんな二人を見てイサールは思い出した。

 ポールは実は代々優秀な騎士を輩出する名門の出であり、以前は騎士をしていた竜人のルークと肩を並べるほどの強さだった。つまり人としては、ずば抜けて強いのだ。
 なので今ではルークの抜けた後、ファウント王国一の騎士になっている。
 そしてシオンは最強魔法師としての名を轟かせていたフェインの息子で、王子でありながら上級魔法師の資格を有している……つまり。

「……なるほど、お二人なら護衛はいらないということですね」
「まあ、何よりこの国が平和だからっていうのも大きな理由のひとつですけどね」

 シオンは笑って言ったが一番説得力ある言葉にイサールは納得した。

 最強魔法師であり王配でもあるフェインが普通に喫茶店のママをしている事。
 王弟であるレイが本屋の店主をしている事。
 何より、竜国の元国王であるルークをすんなりと受け入れた。
 そんな事が出来るのはこの国が平和だからだ。

 そして、その平和を維持している国王陛下。

 ……改めて考えるとすごい方だ。

 イサールは心の中で思ったが、膝の上にいるルイが「どちたの、イサちゃん」と不思議そうに大きな瞳を向けて尋ねるから、イサールは素直に答えた。

「貴方の伯母さまはすごい方だな、と思ったのですよ」

 でもその言葉の意味が分かったのは大人達だけで、ルイは首をこてんっと傾けた。

「おばしゃま? ……さっちゃんのこと??」
「そうよぉ、私のサリアはすごいの! うふふ♡」

 フェインは照れながら頬に手を当てて言った。

「さっちゃん、しゅごいの? ルー、さっちゃんに会いたーい!」

 ルイはぴょいっと小さな手を上げて主張した。

「あら、それならシオン達について行けばいいわ。ついでにルイちゃん、これをシオンと一緒にサリアの元に届けてくれる?」

 フェインは小さな紙袋をカウンターに置いた。

「はーい! ルー、さっちゃんのとこにもってくぅ!」
「お願いね」

 フェインはパチッとウインクしてルイに言い、それから「イサールさんもお願いね」とイサールに視線を向けて頼んだ。

「こ、国王陛下にですか。……しかしこんな格好で、お会いしてよろしいのでしょうか」

 イサールはまさか今日国王に会うと思っていなかったので、かなりラフな格好をしていた。だが尋ねたイサールにフェインは大声で笑って答えた。

「だいじょーぶよぉ! サリアはそんな事、気にするような人じゃないから」
「そうですよ、イサールさん。大丈夫ですよ。それに母様もルイに会いたがっていましたし」

 フェインの後にシオンが言葉を続けていった。
 二人が大丈夫というのなら、大丈夫なのだろう。とイサールは思うが、国王に会うのはやはりやや緊張する思いだった。
 なにせイサールがルークに伴って、ファウント王国に来てから国王と面会したのは片手で数えられる程度だ。

 ……確かに気さくな方ではあったが、ご不興を買わないように気を付けよう。

 イサールは一人そう思ったが、ルイはフェインに渡された紙袋をむんずと掴んで、ぴょんっとイサールの膝の上から飛び降りた。

「イサちゃん、さっちゃんに会いにいこー!」

 ルイはにこっと笑って言い、イサールは「わかりました」とカウンター席から立ち上がった。

 だが、その横でフェインはシオンに別の紙袋を渡していた。
 恐らく、シオンに渡した紙袋にはケーキやクッキー、ルイに渡した紙袋には揺すっても大丈夫な紅茶が入っているのだろう。
 イサールがその事に気が付き、フェインを視線を向けると、笑顔と共にぱちりっとウインクをされた。
『よろしくね』と言われた気がして、イサールはこくりと頷く。

「じゃあ、城に戻りますか。ルイ、俺達から離れてどっかに行くなよ?」

 ポールが言うと、ルイは「はあーい!」と元気に返事をした。






 ◇◇




 ――――それから歩いて三十分ほど。
 城に着き、イサール一行は王の執務室に訪れていた。

「さっちゃぁーん!」

 ルイは出迎えたサリアを見つけるなり弾丸のように走って、その足元にぺちょっとくっついた。

「久しぶりだな、ルイ。元気にしてたか?」
「うん、げんきしてた! さっちゃんは?」
「私も元気だ」

 サリアがしゃがんで言うと、ルイはにこーっと笑った。でも、ハッと自分の持っている紙袋を思い出して、ずいっとサリアに差し出す。

「はい、これ! ふぇーちゃんから!」
「ああ、これを持って来てくれたのか。ありがとう」

 サリアは紙袋の中身を確認して、お礼を言い、頭を撫でた。ルイは嬉しそうににこにこ笑って、終始ご満悦だ。そんなルイからサリアは三人の男に視線を向けた。それは勿論、イサールとシオン、ポールにだ。

「イサール、久しぶりだな」

 イサールはサリアに声をかけられ、頭を下げた。

「国王陛下、お久しぶりです」
「こちらの生活には慣れただろうか?」
「はい、すっかり」
「そうか。何か不自由があれば遠慮なく言ってくれ。すぐに手を回す」

 温かいサリアの言葉にイサールは顔を上げる。他国の一護衛にここまで言える王がどれだけいるだろうか。

「ありがとうございます。ですがおかげ様で、なに不自由なく暮らせておりますのでご安心を」
「そうか、ならばよかった。エルマン殿にもよろしく頼まれているからな。……しかし今日もルイの子守りか? ルー坊は元気な事だな、レイが死んでなきゃいいが」

 サリアはくすくす笑った。その言葉の意味が分かるイサールは顔を引きつらせたが、シオンが「母様」と諫めた。

「いや、すまん。ついな」

 サリアは答えた後、シオンからも紙袋を受け取った。

「シオンとポールもご苦労だった、午後の休憩に頂こう。ところで二人共、折角ルイとイサールが来たんだ。いい機会だから城の中を案内してあげなさい」

 サリアの言葉にイサールは「え!?」と声を上げた。てっきり、紙袋を渡して挨拶をしたら帰ると思っていたからだ。

「これからも、何度か城に来る機会は増えるだろう。城の中を知っておくにはちょうどいい」

 サリアはそう言って、ルイに視線を向けた。
 ルイは市井で暮らしているが、王弟であるレイの息子だ。王族に連なる身分を幼いながらに持っている。成長していけば、その身分から城に呼ばれることも増えるだろう。

「はい、わかりました。母様」

 シオンは返事をし、ポールはこくりと頷いた。

「どこかに行くの?」

 ルイは何のことかわからなかったのか、こてんっと首を傾げて尋ねた。そんなルイにポールがしゃがんで教えた。

「これから城探検だ!」

 ポールが言うと、ルイは両手を上げて、ぴょんっぴょんっと飛び跳ねた。

「わーい! たんけーんっ!」






****************

一気投稿をしたかったのですが編集が追い付かず、続きはまた明日(;・∀・)
ちなみにこちらのお話は短編ですので、あと4話ほどです。


またお気に入り登録、いいね、エール(動画を見てくれた)方々、ありがとうございます!
一気投稿は初めてでしたし、どうせ誰も読まないよね~、とか思っていたらBLランキング上位に入っててビックリしました。

明日も楽しみに待っていて頂けると嬉しいです('ω')ノ
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