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11 誘拐
しおりを挟む翌朝。ルークは自然と緩んでしまう顔を必死に押し留めて、いつもの冷静な顔を作っていた。しかし昨日の事を思い出してしまうと、どうしても顔が緩んでしまう。
……あー、昨日のレイは可愛かったなぁ。僕がいなくなるの心配して泣きそうになるなんて。レイがあんまり可愛すぎるから、本当に我慢するの大変だった。あのまま抱いて、泣かせてもよかったけど、最初がそれだと後々抱かせてくれなくなるかもしれないし。あー、それにしても早く抱いて僕のものにしたいな。そしたら僕のでレイの中をいっぱい満たして、僕なしじゃ生きていけない体にするのに。あーーーー、またレイの精液を飲みたいし、僕の精液を飲ませたいなぁ。
「おい、お前。変な事考えてるだろ」
隣に立つポールは顔を引きつらせてルークに尋ねた。
「別に変な事なんて考えてない。レイを早く僕のモノにして、ぐちゃぐちゃに乱したいなって思ってただけだ」
にっこりと笑って言い、ポールは顔を強張らせた。しかしこれまでの経験上、何言ってもルークが聞かない事はわかっていたので、ポールはただただレイの身を案じるしかなかった。
「お前、ほどほどにな? ……それより竜国の方々も今日までだな。お前、どうするんだ? 竜国に誘われているだろう?」
ルークと共に竜人の警護に当たっているポールは、ルークと宰相が話しているのを聞いていた。そして竜人達がファウント王国に滞在するのも今日まで。
「答えは決まっている。僕がレイから離れるなんてありえない」
「まあ、そう答えるのはわかっていたけど」
「いい加減、諦めてもらう」
ルークはきっぱりと言ったが、ポールはそんなに簡単だろうか、と思った。
目の前で竜人の凄まじい執着心を見てきたのだ。同じ竜人である宰相が諦めるだろうか? とポールは心の中で危惧していた。
◇◇
その頃、『コールソン書店』の店先には珍しく臨時休業の張り紙がされていた。
「あ、頭がぁ……」
レイはダイニングのソファに寝ころんで頭を抑えた。
昨日飲み過ぎたレイは完璧な二日酔いになっていた。おかげで今日は臨時休業だ。
いい大人になって、俺は何をしているんだ。と項垂れながら思うが、仕事ができる状態じゃない。
……うぅー、気持ち悪い。
こんな風に二日酔いになったのは久しぶりだった。でも、しっかりと昨日の事を覚えている。無体を働き、ルークにまた世話をして貰ったことを。
……あぁ~っ! 俺はなんて駄目な父親なんだ。ていうか、ルークの奴、色っぽ過ぎるだろ!
レイはぐいっと腰を寄せてきたルークの顔を思い出す。飢えた男の目を。
……いつまでも子供だと思っていたのに、いつの間にあんなに成長したんだ。俺をあんな目で見るなんて。
レイは一人、顔を赤らめたが、また頭がガンガンと痛くなってきた。
「頭痛い、魔草クリーム塗ろ」
レイは一人呟き、ソファから立ち上がるとよたよたと歩いて、絆創膏やガーゼを入れている棚の引き出しを開けた。そこにはポールに貰った魔草クリームも入っている。
ポールはお尻に使えと言っていたが、レイは容器を取り出し、蓋を開けるとクリームを指先で少しだけ掬い取って額にちょこっと塗った。魔草クリームは額に塗るだけでも頭痛を和らげる効果があるのだ。するとポールの言った通り、魔草が多く含まれているのか、すぐに効果は現れて頭痛が少し治まってきた。尚且つ、爽やかな香りで頭がちょっとすっきりしてきた。
……ポール、本当にいいやつをくれたんだな。
レイはうっすら緑色のクリームを見つめたが、ポールの“お尻に使え”発言を思い出してレイは顔を赤くした。
ポールの奴、何言ってるんだか、とレイは頬に熱を感じながら容器の蓋を閉めた。でもレイは不意に思う。
ルークの気持ちはどこまで本気なんだろうか? と。
不安が胸の奥で疼く。自分は三十七歳のおっさんで、美形でもない。自信を持つには、少々歳を取りすぎていた。それにレイにはどうしても、あれだけ愛を囁かれてもルークの気持ちを信じられないある理由があった。
……でも俺がルークに言っても、ルークが話を聞かない事は目に見えてるしな。はぁ。
レイはため息をついて、肩を竦めた。
だがそんな折、コンコンコンッと珍しく誰かが裏口玄関のドアをノックする。
一体誰だろう? と思いつつも、レイは警戒心もなく返事をした。
「はい、今出ます!」
レイはドアに向かい、手に持っていた魔草クリームをズボンのポケットに入れてから、鍵を外してドアを開けた。
しかしドアを開けた向こうに立っていたのは長い赤髪に青い瞳を持つ、ルークにも劣らない美形の男だった。レイは思わず息を飲み、その美形に見惚れていると、にっこりと男は笑ってレイに声をかけた。
「貴方がレイ殿ですね?」
尋ねられて、レイは反射的に「そうですけど……俺に何か?」と聞き返した。
だが、レイの返事を聞いた途端、赤髪の男は人とは思えない力でレイの口を片手で塞ぎ、持っていた小瓶を開けて中身をレイに嗅がせた。レイは突然の事に驚き、男の腕を取ろうともがくが、男の腕はビクともしない。
「んーんんーっ!」
何かの匂いをレイは嗅がされ、あっと今に意識が遠のいていく。
……なんでこんな事……っ。
レイは意識を失くし、その場に倒れこむが、その体を赤髪の男は支えるように腕に抱いた。
「少々手荒いですが、これで来てもらいますよ。ルーク殿」
微かに残った意識の中でレイは男が呟いたのが聞こえた。
◇◇◇◇
それから数時間後、『コールソン書店』の母屋ではルークの声が響いた。
「レイ! レイッ!」
ルークは家中を必死に探すが、そこにはレイの姿はない。ルークはその場に立ち尽くし、途端、ルークの瞳は怒りに満ちた色をする。
……あいつらっ、やっぱりレイを!
数時間前、竜人達が竜国に帰ることになり、ルークはポールや団長と共に見送った。その際、ずっと竜国に来るように催促していた宰相があまりにあっさりと引き下がり、二人の護衛と共に帰っていったのだ。
その事におかしいとは思っていたが、まさか宰相がレイを誘拐してまで自分をおびき出すとはルークも思ってもいなかった。けれど、妙な胸騒ぎがして家に帰ってみれば、案の定だ。
……こうなるかもしれないと奴らがいる間、レイとの距離を取っていたのにッ。
ルークは怒りで無意識に拳を握る。
ルークがよそよそしくしていた理由は、レイに言ったことも事実だが、本当はレイが自分の大事な人である事を知られないようする為だった。だが、それは無意味だったようだ。
ルークはぎりっと奥歯を噛み締める。
しかし、そこへルークの後を追いかけてきたポールがやってきた。
「おい、ルーク! お前、急に走り出して、どうしたんだ?!」
ポールは声をかけるが、ルークは振り返りもせず、返事もしない。
「おい、ルーク。……っ!」
堪らずポールはもう一度呼びかけ、ルークはやっと自分に振り返ったが、そのルークを見て、ポールは息を飲んだ。ルークが今までにないぐらい怒り、殺気を放っていたからだ。その殺気はポールの動きさえ封じた。
「ポール、僕は奴らの後を追う。団長にもそう伝えておいてくれ」
ルークはそう言うと、身動きできないポールの横を通り抜け、家を出た。
その瞬間、竜巻が起こったような風の音が聞こえ、すぐに外の道を行き交う人たちの声が上がる。
「お、おい! 銀の竜だッ!」
その声に、ポールはやっとルークの金縛りが解けて、慌てて外に出て空を見上げた。そこには銀の竜が飛んでいた。
それは今まで一度も見たことのない、ルークの竜姿だった。
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