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最終章「プロポーズは指輪と共に!」
21 フィズ
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「リャーナ様、どうかお許しください。バレンシア様が約束を破ったのは確かですが……親が子に会いたいと思う気持ちはいけないことでしょうか?」
お爺が真摯に告げると俺の肩を掴むリャーナ様の手が少しだけ強張る。そしてリャーナ様は親し気にお爺を呼んだ。
「フィズ」
聞き慣れない名前に俺は、一瞬誰? と思うけれど、思えばお爺の名前がフィズだったことを思い出した。
……でも、リャーナ様がお爺を親し気に呼ぶなんて、お爺ってやっぱ何者?
疑問に思いながらお爺をじぃーっと見つめれば、俺の視線に気がついたお爺は申し訳なさそうに微笑み、答えた。
「坊ちゃん、今まで言わずに申し訳ありません。実は、私はバレンシア様の眷属なのです」
「お爺がバレンシア様の眷属!」
俺はやっぱり驚くが、なんだか妙に納得できた。なにせお爺はちょっと人間離れしてるところがあるから。
……お爺が眷属。この事、母様は知ってんだろうか? てか、眷属って確か不老不死に近い体で長い時を生きるって話じゃ。……え、お爺って実はいくつ? 俺が子供の頃から変わんないけど、まさか??
でも俺がそんな事を考えている横で、リャーナ様は話を続けた。
「フィズ、貴方が言う事もわかるわ。でも約束を破った事と、その事については別の話よ。そして、その罰はこの子。この子には私と一緒に天界にいてもらう。……まぁ、フィズがこの子の代わりになってもいいけれど?」
リャーナ様が言うと、お爺は躊躇いなく答えた。
「私で良ければ、喜んで残りましょう」
……お爺!?
あんまりに躊躇いなく答えたので、俺の方が驚いてしまう。でも、俺の驚きもつかの間、今度はレノが声を上げた。
「いいえ、私が残ります」
……おいおい、レノまで何言ってんだ!?
「いや、これは私の問題だ。だからリャーナ、罰なら私が受けよう」
今度はバレンシア様も声を上げた。
「私がいけなかったんだ。神聖国でレノを見て……ついついもっと話したいと思ってしまった。少しだけでも傍で見たいと」
バレンシア様はレノをじっと見て言った。その表情は親そのものだ。だから、バレンシア様がレノの親だという事が俺は今になってよくわかる。
そしてリャーナ様も俺と同じように感じたようだ。
「バレンシア。貴方の気持ち、わからなくもないわ。でも、私達は勝手な事は許されない立場にいるのよ」
厳しいリャーナ様の言葉にバレンシア様は深く頷く。
「ああ、そうだな。だからこそ、その罰は私が受けよう。……だからキトリー君を返しておくれ」
バレンシア様は手を差し出して言った。しかしリャーナ様は首を横に振った。
「駄目よ。バレンシアではダメ、貴方の息子でもね」
「では、私ならよろしいのですか? リャーナ様、私で良ければ坊ちゃんの代わりに残りましょう。それで許しては下さいませんか?」
お爺はすぐさま声を上げ、バレンシア様は引き留めようとした。
「フィズ、お前に何の!」
「フィズがそこまで言うのなら、この子の代わりを貴方が引き受けてもいいわ」
バレンシア様の声を遮るようにリャーナ様は答える。けど、そんなリャーナ様に俺は尋ねた。
「リャーナ様、預かるって話だけど、それってどれくらい?」
「ずっとよ」
「ずっと?」
「そう、命が尽きるまで。まあ、フィズが代わるから貴方は解放よ」
リャーナ様はあっさりと俺に告げた。しかし俺の脳裏にお爺との話が蘇る。
……ずっと!? 命尽きるまでって。お爺には好きな人がいるのにッ!
「何ですって!?」
俺が心の中で叫べば、リャーナ様は悲鳴のような声を上げた。そして両手で俺の肩をがっしりと掴むと、ぶんぶんっと揺さぶる。
「今の話、詳しく聞かせなさい!」
「うをぉぉぉぉっ!? い、今の、話ってぇぇ?!」
……お爺に好きな人がいるって事? なんか、身分違いの恋で一緒になれないって話だけどォ。
俺は困惑しながらも心の中で答える。そうすればリャーナ様は揺さぶるのを止めて、俺の肩を掴んだままふるふると震えるとニョキッと頭に牛の角が生やした!!
……角! そういや、バレンシア様が蛇で、クト様は狐、リャーナ様が動物に変身する時は牛だっけ!?
「や、やっとフィズが手に入ると思ったのに」
「え、お、お爺?」
「好きな人がいるなんてっ。あの時、やっぱりフィズを無理やりにでも奪った方がよかったんだわ!」
リャーナ様は嘆き、穏やかだった庭園にざわざわと不穏な風が吹き始め、空に暗雲が立ち込める。
「ちょ、リャーナ様?」
「あの時、バレンシアがフィズを渡さないなんて言うから、フィズは他の人に! それなのにバレンシアは好きな相手と子供まで作って……ずるいわ!!」
リャーナ様は叫び、その妬むような声を聞いて俺はハッとした。
……この声! リャーナ様に鏡の中へ引っ張られた時、聞こえたのと同じだ! でも、ずるいってどういう意味なんだ? てか、肩を掴んでる手が痛いです!
俺はわからずに困惑するが、リャーナ様はお怒りで鼻息を荒くするばかりだ。けれど、同時に強風が吹き荒れる。
「リャーナ、落ち着け!」
バレンシア様が叫ぶが、怒りに満ちたリャーナ様には届かない。そして、暗雲広がる空に雷のいななきが響く直前。
「はぁーい、すとっぷ、すとっぷぅー!」
パンパンッと両手を叩いて言ったのは、どこからともなく現れたクト様だった。
お爺が真摯に告げると俺の肩を掴むリャーナ様の手が少しだけ強張る。そしてリャーナ様は親し気にお爺を呼んだ。
「フィズ」
聞き慣れない名前に俺は、一瞬誰? と思うけれど、思えばお爺の名前がフィズだったことを思い出した。
……でも、リャーナ様がお爺を親し気に呼ぶなんて、お爺ってやっぱ何者?
疑問に思いながらお爺をじぃーっと見つめれば、俺の視線に気がついたお爺は申し訳なさそうに微笑み、答えた。
「坊ちゃん、今まで言わずに申し訳ありません。実は、私はバレンシア様の眷属なのです」
「お爺がバレンシア様の眷属!」
俺はやっぱり驚くが、なんだか妙に納得できた。なにせお爺はちょっと人間離れしてるところがあるから。
……お爺が眷属。この事、母様は知ってんだろうか? てか、眷属って確か不老不死に近い体で長い時を生きるって話じゃ。……え、お爺って実はいくつ? 俺が子供の頃から変わんないけど、まさか??
でも俺がそんな事を考えている横で、リャーナ様は話を続けた。
「フィズ、貴方が言う事もわかるわ。でも約束を破った事と、その事については別の話よ。そして、その罰はこの子。この子には私と一緒に天界にいてもらう。……まぁ、フィズがこの子の代わりになってもいいけれど?」
リャーナ様が言うと、お爺は躊躇いなく答えた。
「私で良ければ、喜んで残りましょう」
……お爺!?
あんまりに躊躇いなく答えたので、俺の方が驚いてしまう。でも、俺の驚きもつかの間、今度はレノが声を上げた。
「いいえ、私が残ります」
……おいおい、レノまで何言ってんだ!?
「いや、これは私の問題だ。だからリャーナ、罰なら私が受けよう」
今度はバレンシア様も声を上げた。
「私がいけなかったんだ。神聖国でレノを見て……ついついもっと話したいと思ってしまった。少しだけでも傍で見たいと」
バレンシア様はレノをじっと見て言った。その表情は親そのものだ。だから、バレンシア様がレノの親だという事が俺は今になってよくわかる。
そしてリャーナ様も俺と同じように感じたようだ。
「バレンシア。貴方の気持ち、わからなくもないわ。でも、私達は勝手な事は許されない立場にいるのよ」
厳しいリャーナ様の言葉にバレンシア様は深く頷く。
「ああ、そうだな。だからこそ、その罰は私が受けよう。……だからキトリー君を返しておくれ」
バレンシア様は手を差し出して言った。しかしリャーナ様は首を横に振った。
「駄目よ。バレンシアではダメ、貴方の息子でもね」
「では、私ならよろしいのですか? リャーナ様、私で良ければ坊ちゃんの代わりに残りましょう。それで許しては下さいませんか?」
お爺はすぐさま声を上げ、バレンシア様は引き留めようとした。
「フィズ、お前に何の!」
「フィズがそこまで言うのなら、この子の代わりを貴方が引き受けてもいいわ」
バレンシア様の声を遮るようにリャーナ様は答える。けど、そんなリャーナ様に俺は尋ねた。
「リャーナ様、預かるって話だけど、それってどれくらい?」
「ずっとよ」
「ずっと?」
「そう、命が尽きるまで。まあ、フィズが代わるから貴方は解放よ」
リャーナ様はあっさりと俺に告げた。しかし俺の脳裏にお爺との話が蘇る。
……ずっと!? 命尽きるまでって。お爺には好きな人がいるのにッ!
「何ですって!?」
俺が心の中で叫べば、リャーナ様は悲鳴のような声を上げた。そして両手で俺の肩をがっしりと掴むと、ぶんぶんっと揺さぶる。
「今の話、詳しく聞かせなさい!」
「うをぉぉぉぉっ!? い、今の、話ってぇぇ?!」
……お爺に好きな人がいるって事? なんか、身分違いの恋で一緒になれないって話だけどォ。
俺は困惑しながらも心の中で答える。そうすればリャーナ様は揺さぶるのを止めて、俺の肩を掴んだままふるふると震えるとニョキッと頭に牛の角が生やした!!
……角! そういや、バレンシア様が蛇で、クト様は狐、リャーナ様が動物に変身する時は牛だっけ!?
「や、やっとフィズが手に入ると思ったのに」
「え、お、お爺?」
「好きな人がいるなんてっ。あの時、やっぱりフィズを無理やりにでも奪った方がよかったんだわ!」
リャーナ様は嘆き、穏やかだった庭園にざわざわと不穏な風が吹き始め、空に暗雲が立ち込める。
「ちょ、リャーナ様?」
「あの時、バレンシアがフィズを渡さないなんて言うから、フィズは他の人に! それなのにバレンシアは好きな相手と子供まで作って……ずるいわ!!」
リャーナ様は叫び、その妬むような声を聞いて俺はハッとした。
……この声! リャーナ様に鏡の中へ引っ張られた時、聞こえたのと同じだ! でも、ずるいってどういう意味なんだ? てか、肩を掴んでる手が痛いです!
俺はわからずに困惑するが、リャーナ様はお怒りで鼻息を荒くするばかりだ。けれど、同時に強風が吹き荒れる。
「リャーナ、落ち着け!」
バレンシア様が叫ぶが、怒りに満ちたリャーナ様には届かない。そして、暗雲広がる空に雷のいななきが響く直前。
「はぁーい、すとっぷ、すとっぷぅー!」
パンパンッと両手を叩いて言ったのは、どこからともなく現れたクト様だった。
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