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最終章「プロポーズは指輪と共に!」

18 リャーナ様

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 ――夜も更けた頃、ある家の戸がドンドンッと力強く叩かれる。
 すると、少し間を置いてドアが開いた。

「誰だ? こんな夜遅くに……って、レノじゃないか。それに」

 ドアを開けたのはシアだった。そしてドアを叩いたのはレノで、その後ろにはお爺も控えていた。シアはレノとお爺の顔を見て、眉間に皺を寄せる。

「一体、どうしたんだ? 何かあったのか?」

 シアが尋ねれば、レノはシアの腕を掴んだ。

「お願いです、力を貸してください」
「力を? 一体、どうしたんだ? 何かあったのか?」

 シアが尋ねるとレノはメッセージカードを差し出した。シアはそれを受け取り、書かれている一文を読む。

「これは……っ」
「貴方ならどうにかできるでしょう?」

 レノが尋ねれば、シアは驚いた顔をレノに見せる。

「まさか、お前」
「レノは貴方の正体に気がついています」

 シアが呟くと、後ろに控えていたお爺が告げた。けれどレノはシアの正体など今はどうでもよかった。

「その話は後です。キトリー様がこのカードの置いていった人物に誘拐されました」
「……私のせいだな」

 シアはメッセージカードを手に言い、そしてレノに視線を向けた。

「迎えに行こう。一緒に」

 シアの言葉にレノはすぐさま頷いた。



 ◇◇◇◇



 ―――一方、誘拐された張本人と言えば。

「んぁ?」

 俺は目を覚ました。なんだか良く寝た気がするぅ。おかげで頭もスッキリ、目覚めもぱっちり。

「んー、快眠。……今、何時だ?」

 俺はむくりと起きて、背伸びをしつつ辺りを見回した。そうすれば、そこは見た事のない部屋で。

「………………ドコ?」

 俺はぽつりと呟く。そして寝る前の事を思い返す。

 ……えーっと、寝る前に何してたんだっけ? 確か、昨日は飯食って風呂入って、レノにプンプン怒ってたけど、仲直り(?)して、それからレノに。

 俺は思い出してボッと顔を熱くする。

『キスマークが消えたらもっとえっちな事、しましょうって言ったでしょ?』

 ……あばばっ、そうだった。レノにえっちな事をされそうになってたんだ!! けど、確か何かが割れた音がしてレノは見に行って。その時に俺は俺で鏡を見たら、鏡からごつい手が生えて。それでその手に引っ張られて……え、ってことはここは鏡の中の世界?! 

「でも、一体誰が俺を。あのごつい手は?」

 俺は一人呟く。しかし考え込む俺に誰かが突っ込んだ。

「ごついって失礼ね。逞しいって言ってちょうだい」
「へ?」

 思わぬ返事に顔を上げれば、そこには思わぬ人物(?)がいた。

「ほぇっ!? あ、貴方はッ!!」

 俺は声の持ち主を見て、驚きの声を上げた。
 だって、そこには深い海の色を思わせるような紺色の長髪を後ろに流し、色とりどりの宝石が付いた金の杖を持って、筋肉隆々、マッチョな出で立ちの海を司る神様・リャーナ様が立っていたからだ。
 まさに神殿で良く見る姿がそこにある。

「りゃ、リャーナ様!?」

 俺は驚いて、リャーナ様を上から下へと見る。しかし下に視線を向ければ、その体には二本の足があった。神殿の彫刻や絵は人魚のような尾びれだと言うのに。

「あ、足が生えてる!」 
「ここは海じゃないんだし、足がないと立ってられないでしょ」

 俺が思わず呟けば、リャーナ様に言い返された。

 ……た、確かに。でも、なんでリャーナ様が? え、目の前にいるのはリャーナ様だよな?

 俺は突然現れた神様を前に目をぱちぱちと瞬かせる。そうすると、リャーナ様は俺の心を読んだかのように答えた。

「足があるけれど、私はリャーナよ」
「やっぱりリャーナ様!? な、なんでリャーナ様が!」

 俺は当然驚くが、ハッとリャーナ様の金の杖に視線が向かう。

 ……確か、リャーナ様は女性に不埒な事をした奴を金の杖でボコるって話が。

「え、俺は女性に不埒な事はしてませんよ!?」

 ……むしろ、幼い頃から傍にいる侍従に不埒な事されてますゥッ!

 俺は思わず叫ぶ。勿論心の声の内容は口にはしなかったが。
 でもそんな俺をリャーナ様はちょっと呆れた顔をしてみた。

「わかってるわよ。貴方を呼んだのは、そういう理由じゃないわ。というか、ボコるって失礼ね。懲らしめてるだけよ」

 リャーナ様は言いながら少し不服そうな顔を見せる。しかし俺は理由が違うという事がわかって、ホッとした。あんなのでボコ、いや懲らしめられたら流血沙汰だ。

「まあ、そんなことはどうでもいいわ。初めまして、キトリー・ベル・ポブラット」

 フルネームで名前を呼ばれ、俺はまたも驚く。

「どうして俺の名前!」
「私は神様よ? そんな事、知ってるわ。貴方の前世の名前もね」

 リャーナ様に言われて、俺は目をぱちくりさせる。

「どうして俺の前世の事……っ」

 俺は呟きながらも、不意に神聖国でクト様に言われた事を思い出した。

『全く面白い子だなぁ、キミは。……でも、彼がキミを選んでよかった。この星に連れてきたのがキミで』

 ……もしかして、あれはリャーナ様の事か? この星に連れてきたって、やっぱり転生させたって意味だったのか?

 俺はクト様の言葉を思い出しながら、じっとリャーナ様を見つめる。けれど、リャーナ様はあっさりと答えた。

「それ、私じゃないわよ」
「へ!?」
「あなたをこの世界に呼んだのは私じゃないの」

 ……心の声を読まれた?! そういえば、クト様も俺の心を読んでいたっけ!?

「そーよ、さっきから貴方の心を読んでるわ」
「ちょ、俺の心の声に返事しないでください!」

 俺は胸に手を当ててリャーナ様に言う。胸に当てたところで心の声が抑えられるわけじゃないんだけど。

「でも、私じゃないってことはリャーナ様も俺をこの世界に転生させたのが誰なのか知ってるんですね?」
「そーよ。その事についても話があるから……まあ、とりあえずはお茶にしましょ。庭園に用意しているの」

 リャーナ様はそう言って俺を誘った。
 俺は寝起きでちょっと喉が乾いていたから、ありがたい申し出だ。けれど、一つ聞いておかなければならないことがある。

「あの……リャーナ様、お茶は嬉しいんですけど。ここってどこですかネ?」

 俺が尋ねれば、リャーナ様はすぐに教えてくれた。
 でもその答えを聞いて、俺は「えええええっ!?」と大きな声を出すのだった。


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