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第五章「告白は二人っきりで!」

8 三神

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 そして俺達がフルーツタルトとお茶を食べ飲み終わった頃、タイミングよくノアさんが戻ってきた。

「キトリー様、便箋とペンをお持ちいたしました」

 ノアさんの手にはおしゃれな便箋と羽ペン、インクがある。

「ありがとうございます。あと、お茶とお菓子も美味しく頂きました」

 俺は空になったお皿とティーカップにちらっと視線を向けて言う。そうすればノアさんは朗らかに笑った。

「そうですか。お気に召して頂けたようでなによりです。お茶のお代わりをお持ちいたしましょうか?」

 ノアさんはそう提案してくれたけど、もうお腹いっぱいだ。なので俺は別の事を頼むことにした。

「いいえ、大丈夫です。それよりノアさん、この大神殿を少し案内してくれませんか? ランネット様が出歩いていいと言っていたので、少し見て回りたいんです」
「勿論、よろしいですよ。ランネット様からもキトリー様が出歩きたいと言った時には案内する様に仰せつかっておりますから」

 俺が尋ねれば、ノアさんは快く引き受けてくれた。そして俺は姉ちゃんの手回しに感謝する。

「ありがとうございます。じゃあ、早速今からお願いしてもいいですか?」
「はい、では参りましょうか」

 ノアさんは頷き、俺達はノアさんのガイドで大神殿内を観光、もとい少し案内してもらう事になった。
 大神殿は王城(行政機関)も兼ねているので、本当に広い。庭園もあるので、じっくり見て回ると一日がかりになるのだとか。ノアさん曰く、新人神官として入った当初は何度も迷子になったらしい。

 ……これは俺も迷子になりそう。道順覚えとかなきゃ。

 俺は気を付けようと心に留めておく。だが色々と図書室や神官達が使う食堂なども見せてもらっている内に、俺達は大神殿の中心までやってきた。
 そこには拝殿と呼ばれる神様に祈りを捧げる場が設けられていて、市民にも一般開放されている。

 広い空間の中では誰もが自由に歩き回り、拝殿の奥には三体の巨大な神様の銅像があった。そして俺はノアさんに案内されるまま、その三体の神様の前に立つ。

 ……うーん。やっぱり神聖国なだけあって、銅像も大きいなぁ。そして、いつも見てもこっちの神様たち超美形~っ。

 俺は彫られた三体の銅像を眺めながら思う。

 空を司る神・クト様は十歳位の美しい子供の姿で、肩には衣をまとい、その姿は一見天使にも見えなくもない。だが、その大きな瞳は不正を許さず罪人を見抜いて罰を下してしまうとか。……くわばら、くわばら。

 そしてその横には、海を司る神・リャーナ様が威風堂々とした姿で建っている。
 リャーナ様は上半身は筋肉隆々、腹筋もバッキバキの男性の姿だが、海の神様と言うだけに、下半身は人魚よろしく尾ひれを持つ魚の姿をしている。ギリシャ神話に出てくるトリトンのような感じだ。

 でもリャーナ様は腰まで伸びている長い髪を後ろに流し、宝石の付いた金の杖を始め、首や手首には装飾品を付けているので、見た目はおしゃれ美男子。
 海の神なので、基本港や漁師さんに崇められているが。女性を守る神をしても有名で、女性に不埒な事をした奴には宝石の付いた金の杖で懲らしめるのだとか。……こえぇ~っ。

 そして最後の神様は、大地を司る神・バレンシア様。
 バレンシア様はとても美しい女性の姿をしていて、まさに凛々しい女神様って感じ。三人の神様の中では一番人間っぽい姿をしているが、太ももから足先まで鱗の文様があり、華奢な見た目からは想像できないほどの怪力の持ち主らしい。

 なのでバレンシア様の力にあやかりたい騎士達や男の子に人気がある。……まあバレンシア様、美人だしな。
 でもバレンシア様は大地を司るので、農家にはバレンシア様のタペストリーや小さな像を飾っている家も多く、実りが多い年はバレンシア様の機嫌が良かった年だとも言われている。

 そして、この三人がこの世界の神様たち。何度見ても、みーんな美形である。

 ……この世界の美形率が異様に高いのって神様たちが綺麗だからかな?

 俺は銅像を眺めながら思う。
 ちなみに神様の名前をもじって子供に名前を付けることも多く。本邸執事長のセリーナの名はリャーナ様からもじってお爺がつけたのだとか。

 ……確かレノの父ちゃんもバレンって名前だから、バレンシア様から名付けられたのかもなー。

 俺はバレンシア様を見つめて思う。でも、ぼんやりしていると後ろからにわかに人々が騒ぎ始めた。

 ……ん? どうしたんだろう?

「あれ、ジルド枢機卿の娘さんじゃない?」
「ああ、それにあっちにはエルダー枢機卿の娘さんもいるぞ」

 お祈りに来ていた市民たちの声が俺の耳に入る。なので振り返ってみれば、そこにはお付きの人を連れた二人の女の子が入り口に立っていた。
 二十代ぐらいの、どっちもいい所のお嬢さんって感じの子だ。

「ノアさん。あの二人って、もしかしてエンキ様のお相手に選ばれてる方ですか?」

 俺はこそこそっと尋ねると、ノアさんは小さな声で教えてくれた。

「はい、そうです。お二人とも、この時間帯にいつもお祈りに来られるんです」
「そうなんだ」

 ……信心深いんだなぁ。俺なんて年に二度ぐらいしか行かないもんなぁ。いや、神様をないがしろにしてるわけじゃないんだけど、俺ってば忙しいし、ね?

 俺は心の中で言い訳をする。だが今日は後ろに神様たちの銅像があるからか、いつもよりちょっと心苦しい。

 ……にしても、あの二人がエンキ様のお相手候補か。二人ともエンキ様の相手役を狙ってるのかな? でもエンキ様って確かもう四十ぐらいじゃなかったっけ? あの二人、二十代っぽかったけど。

 ちょっと年が離れすぎているような気もしつつ、俺は顎に手を当てて考える。けれどそんな俺にノアさんは声をかけた。

「ではキトリー様、そろそろお部屋に戻りましょうか」

 ノアさんに声をかけられ、俺は「あ、はい!」と我に返って返事をした。そしてノアさんについていく。しかしレノが来ない。

「レノ?」

 俺が声をかけると神様たちの銅像を眺めていたレノは「すみません」と返事をして駆け寄ってきた。

 ……レノも大きな銅像に圧倒されたのかな?

 俺はそう思ったが、深くは聞かなかった。
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