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第五章「告白は二人っきりで!」
6 姉の涙には弱いのです
しおりを挟む『――りっちゃん、この神聖国で問題が起きてることは知ってる?』
『跡継ぎ問題ってやつ? エンキ様に枢機卿のどっちの娘を嫁がせるかってことで揉めてるっていう。アシュカから聞いたけど』
俺はそう言った後、アシュカが続けて言っていたことを思い出した。その娘の後ろ盾に聖人を立てようとしているという事を。
……アシュカもってことは姉ちゃんもってことか。
『そう、エンキ様に二人の枢機卿が言い寄っていてね。でもエンキ様には結婚する気はないし。けど枢機卿達は後継者を作ろうと躍起になっていて……今、この大神殿内は二つの派閥に分かれてるのよ~。それで私やアシュカに後ろ盾になって欲しいって毎日のようにお願いされてねー。もう面倒ったらないの』
姉ちゃんはフゥっとため息を吐いた。これは本当に面倒くさいことになっているのだろう。
『そもそもエンキ様、その気もないのに無理やり結婚させるのは違うと思うし。でも、枢機卿達を私は止められないし』
『つまりエンキ様の結婚を止めて、後継者問題をどうにかしろと?』
尋ねると姉ちゃんは迷うことなく『うん』と答えた。なので、俺は足早にドアに向かう。
『やっぱ、帰らさせて頂きます』
『ちょっとちょっとぉー!』
姉ちゃんは後ろから俺に抱き着いて慌てて引き留めた。けれど、他国出身の俺がどーにかできる案件じゃないことは明白だ。
『そんなの俺にどーしろってゆーの!』
『りっちゃんなら何とかしてくれるでしょー!?』
出て行こうとする俺を姉ちゃんは必死に引き留める。だが、俺は『無茶言うな!』と構わずドアへ向かおうとした。でもやっぱり姉ちゃんは離してくれない。
『大丈夫よー、りっちゃんならぁー!』
『どこにそんな根拠が! そもそも、そんなの聖人様が一言言って止めた方が早いんじゃないの!?』
『私達、聖人はそーいう政治的な事には介入はできないの!』
『だからって、俺にも無理に決まってんでしょー!』
俺はそう言ってウギギギと姉ちゃんから離れようとした。すると姉ちゃんはパッと俺から離れ、俺はその反動でドアに思いっきりぶつかりそうになる。
幸い、なんとかドアにぶつかる前に踏みとどまれたが。
『じゃ、俺は帰、ぃっ!!』
俺は振り返って途中まで言ったが、佇む姉ちゃんを見て言葉に詰まった。だって、目の縁にいっぱいの涙を溜めて立ってるんだもん。
『お姉ちゃんが困ってるのに、りっちゃんは助けてくれないの?』
うるうると潤んだ瞳で見詰められ、尋ねられれば俺は『うっ』と身を固くする。
『りっちゃんだけが頼りなのに。……でも、そうよね。りっちゃんに無理言っちゃダメよね。もう正真正銘赤の他人だもんね』
姉ちゃんはグサグサッと俺の胸に言葉の矢を飛ばしてくる。
……もー、そんないい方されたら断れないじゃん!!
『あー、もうっ、わかったよ! やるから! それでいいんだろ?!』
俺が頭をくしゃくしゃっと掻いて言えば、姉ちゃんはすぐに笑顔を取り戻した。さっきまであった涙はもう消えている。はやっ!
『さっすが、りっちゃん! 頼りになるわ~』
姉ちゃんはニコニコしながら言い、嵌められた感が否めないが仕方がない。
……姉ちゃんの頼みだからな。
『早速、明日にはエンキ様に会えるようにこっちで調整しておくわね! あと、大神殿の中はウロウロしていいから。何かあったら私の名前を出して』
『わかったわかった。でも、どうにかなるかは保証しないからな?!』
俺はそう言ったが、姉ちゃんは『はいはーい』と聞いていなかったのだった。
……全く~っ!
「――まぁ、そんなわけでランネット様が俺に頼んできたんだよ。この神聖国のゴタゴタをどうにかしてって」
俺は隣に座るレノに軽く説明する。
「なるほど、そのような話を。……ですが、どうしてそんな大事な事をキトリー様にお願いされたんですか? 会ったのは今日が初めてでしょう」
痛いところを突かれ、俺は目を彷徨わせる。まさか前世の姉だからとはいえまい。
「あ、そ、それはっ……えーっと。俺の手腕を買ってじゃないかなー? ランネット様、顔が広いみたいで色々と知ってたし、アシュカから聞いたんじゃない? 俺の事」
俺はなんとか誤魔化してみる。するとレノは疑いの目を俺に向けたが、それ以上は尋ねてこなかった。
「そうですか。……しかし面倒な事になりましたね、どうなさるおつもりですか」
「どーも、こーもないよ。ランネット様に頼まれた以上はなんとかしなくちゃだろ。まあ、明日にはエンキ様に会えるよう手配してくれるみたいだから、まずは渦中の人物であるエンキ様に話を聞いてからだな」
「……はぁ、本当に貴方は何かと巻き込まれるのがお上手ですね」
レノは呆れた顔で言うから、俺はちょっとムッとする。
……俺だって好き好んで巻き込まれとるんじゃないわい! みんなが俺を巻き込むんだ!
俺は心の中で呟くが、レノはくすっと笑った。
「まあ、だからこそキトリー様、なのかもしれませんが」
「どーゆう意味よ、それ」
「そのままの意味ですよ。それより、こちらに滞在するならその事も含めて別邸に手紙を出さなければいけませんね」
レノは小さくため息を吐きながら言った。
「そうねー。みんな、俺達の帰りを待ってるだろうからな」
俺は出てきた時のことを思い出す。みんなには『心配しなくても、すぐ帰ってくるよ』と言ったが、この状況ではすぐには帰れないだろう。
……俺ののんびり転生ライフは一体いつになったら送れるのやら。
しかしそんな事を思っているとドアがノックされた。
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