34 / 42
花の名を君に
24 本当の願い ※
しおりを挟む「あっあっ、もぉ、や、ああああっ!」
ローアンの膝の上に乗り、対面に座る僕の肩を背中から回した腕でぐっと掴み、僕の体の奥に精液をどくどくっと吐き出した。
僕は気を失いかけ、ぱたっと寝台に倒れる。相変わらず手は縛られたままだ。
でも、そんな僕にローアンは息を乱しながら短く言葉を発した。
「はぁっ……股を、開け」
ローアンの瞳はまだ獰猛に光っている。
僕はくたくたの体で、なんとか足を広げた。すると、無遠慮にローアンの肉棒が僕の中にまた突き入ってくる。こうなったら僕は喘ぎ声を上げるしかなかった。
「あっあっ、んんんっ!」
あれから僕は寝室に監禁され、ローアンに毎日飽きることなく抱かれていた。
寝室に来ればローアンは何も言わずに、貪るように激しく抱く。
僕は何も言わずに、それを受け入れた。
それしか僕にはできなかった。こんなことでローアンの辛さや悲しさが、少しでも晴れるなら構いやしなかった。
けれど、悲しいことに数日もすると僕は極端に体力を失くしていった。
元々、森に戻る時間が少なくて邪気を貯め込んでいた体だ。森に戻れず、邪気にまみれた城に居続ければどうなるか。その上、毎日ローアンに抱かれて僕の体は疲弊した。
僕は衰弱し、そんな僕をさすがのローアンも気に始めた。
毎日、毎日、違う食事を差し出され、食べるように言われた。でも僕は人間の食べ物は昔も今も食べられない。僕には人間の食べ物は毒なのだ。
ローアンはそれを知らないから、僕が反抗しているように思ったようだった。そうじゃないのに。
そして、ある日の事だった。
寝室に戻ってきたローアンは僕の衰弱ぶりを見て、僕を縛っていた紐を小刀で切り払った。
「出ていけ、どこへなりと行くがいい」
ローアンはそう僕に言った。僕に恩情をかけたつもりだろう、でも僕は出て行きたくなかった。
大体、出て行けというローアンの顔には出て行かないで欲しいとありありと書いてある。その目が、行くなと、告げていた。
どうしてそんな君を一人置いていけるだろう。
僕はフラフラの体で床に下り、頭を下げてローアンにお願いした。
「陛下、僕を側において」
お願いする僕にローアンは驚いた顔を見せた。
「お前はどうしてそこまでする。お前は私に何を求める?」
ローアンは戸惑った、素に近い声で僕に問いかけた。顔を見上げれば、ローアンは困ったように僕を見ていた。それは子供の頃と同じように。
だから僕は自然と微笑んでいた。
「何も……。何も求めない。僕は……君の、傍にいたいだけ」
本当にそれだけなんだよ。君の傍にいたいだけなんだ。生きて欲しいだけなんだ。
それは言葉にできずに僕は段々と意識を失っていく。
……ああ、なんて僕は無力で弱いんだろう。
そう思った。
でもその時、ローアンが小さく呟いた言葉を僕は確かに聞いた。とても大事な言葉を……。
まどろみの中にいると、遠くでチェインが泣いているのが聞こえた。
『王、目を覚まして。主、死んじゃうっ』
悲痛なチェインの声だ。
『人間達、主を殺そうとしてる。王、起きて。早くしないと、主が!』
チェイン、僕も起きたいけれど体が動かないんだ。もう少し待って、それまで僕の代わりにローアンの傍に……。すぐに行くから。
僕はその言葉を発せたのかわからない。でも駆けていくチェインの足音が遠ざかっている事だけは聞こえた。
「……ん」
目を覚ますと、見慣れたねぐらの大木の中に僕はいた。
「ひかり! 精霊王が起きたっ!」
そう可愛い声が僕に聞こえた。視線を向けると影の精霊がいた。前の影の精霊は大人だったのに、新しく生まれた影の精霊は幼い子供で、もう数百年も経つが未だに姿は変わらない。
「影?」
「精霊王様! お目覚めになられましたかっ」
僕が影の精霊に気を取られていると、その後ろから光の精霊がやってきた。
「光……どうして」
「精霊王様、酷く衰弱していたんですよ」
「衰弱……」
寝起きの僕の頭は上手く働かなくて、オウム返しのように光の精霊の言葉を呟いた。
「私がチェインに言って連れ戻させました。あのままでは精霊王様は永い眠りに落ちてしまわれたでしょうから」
光の精霊に言われて僕はハッとし、顔を青ざめさせた。
「ローアンは! 僕はどれくらい眠っていた!」
少し前、僕は邪気に蝕まれて眠ってしまった。その期間は一年といわない。
「大丈夫、ほんの数日眠られていただけです」
光の精霊の言葉に僕はほっとした。
「……数日か」
しかし数日もの間、ローアンから離れてしまった。ローアンの元に戻らなくては。
ねぐらの大木から出ようとする僕を影の精霊が止めた。
「精霊王、どこに行くの?」
見た目も精神も幼い影の精霊は僕にそう尋ねた。影の精霊を見ていると、自分が生まれたばかりの事を思い出す。何も知らなかったあの頃を。
今はもう何もかも知りすぎた、この複雑に入り組む感情も。
僕は影の精霊の頭を優しく撫でた。
「影、僕は行かなきゃいけないんだ。……ローアンの元に戻る」
僕が告げると、光の精霊は厳しい顔をした。
「こんなになるまで痛めつけられても、まだあの者が好きなのですね」
「ああ、そうなんだ。どんなにされても傍にいたい」
僕が答えると光の精霊は大きなため息を吐いた。
「あんなことを貴方に言うべきではなかった。……このままでは精霊王様はまた傷ついてしまう」
光の精霊は後悔していた、僕に言った事を。僕がこんな風になってしまったから。
でもそれは違う。
「いいや、違うよ。光の言う通りだった。おかげで僕はわかったんだ」
僕はハッキリと光の精霊に告げた。
「僕は愚かだった……。本当に死を望む人間がどこにいるのだろう。そうせざる得ないだけで誰しも本当はそんな事、望んじゃいない。僕はそんな事もわかっていなかった」
僕は目を伏せて言った。自分の無能さに呆れながら。
「……ローアンが本当に死を望んでいるとばっかり勘違いして。そんな訳ないのに……。ローアンは今、その立場からどこにも逃げることができない。だから死を望むことしかできないんだ。……僕はそんな簡単な事に、今頃気が付いたんだ」
僕は気を失った時の事を思い出した。
薄れゆく意識の中でローアンは切ない声で小さく、本当に小さく呟いた。
『お前と生きられたならどれだけいいだろう。身分も関係なく傍にいられるなら……願いが叶うなら、どこへでも行くというのに』
ローアンは眠った僕の頬を指で撫で、本音をぼそりと呟いた。でもその後、ハッとしてすぐに僕から手を引いた。でもあれは紛れもない本心だった。
僕は愚かだ。ローアンがどうやったら死を望まないでくれるかどうかばかりを考えていた。でも、最初からローアンは死なんか望んでいやしなかったんだ。
そこにしか救いがなくて、死に縋るしかなかった。こんな悲しいことがあるだろうか。
なら、僕がすることはただ一つ。
「だから、ローアンの元に行くよ。そして森に連れてくる」
僕がきっぱりと告げると光の精霊はハッとした。
「まさか、あの者を精霊に?」
「……いいやしないさ。ただ、傍にいるだけ」
僕が傍にいる事、それがローアンを死から遠ざける方法なのだ。そして幸せにする方法。
これがいいのかはわからない。ローアンを森に連れてくる事が、僕が傍にいる事が。
悪いことになるかもしれない。
でもローアンは願い、僕はそれを叶えたい。今まで僕はローアンの願いを叶えた事なんてないのだから。
僕は瞳を瞬かせ、心を決める。
「だから光、僕は行くよ」
「精霊王様……」
光の精霊は僕を呼ぶだけで、もう引き留めはしなかった。
僕は光と影の精霊を残し、城へ向かった。
0
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
真夜中の恋人
chatetlune
BL
唯我独尊傲慢なモテ男、法医学助教俺様攻京助×極端なダサ男だが、実は美貌の主で推理作家兼法学部助教毒舌我儘勝気受千雪のどちらも譲らないぞラブ。
千雪にとってそれは思い出してもそれは最低最悪な朝だった。徹夜明けで京助に引っ張りまわされた挙句、京都から戻って以来べったりな京助のベッドに引っ張り込まれ寝不足も手伝って死んだように眠っていた千雪は、傍らに立ったのがてっきり京助だと思った。だが、違和感を感じて目を開けるとそこには見知らぬ男がいた。千雪を「噂の真夜中の恋人」などと呼び、京助の友人だというその男を蔑視線で睨みつけると、とっとと京助の部屋を出た千雪は京助への怒りに任せて携帯の電源を切った。ところがなんと、大学に出向くと、またしてもその男がいて、アメリカの大学から心理学教室の共同プロジェクトで来日している速水だと名乗ったのだ。ダサさマックスのコスプレ中の千雪を京助の部屋で出くわした「真夜中の恋人」とは露ほども思わなかったらしい。京助は京助で、速水に「噂の真夜中の恋人」に会ったなどと言われ、いきなり千雪が携帯の電源を切った理由を即座に知ることとなり、速水からカードキーを取り上げ、二度と勝手に部屋に来るなと言い渡したものの、またぞろ千雪の機嫌を損ねることになったことを後悔するのだった。
京助×千雪シリーズです。「花のふる日は」の後、「メリーゴーランド」の前のエピソードになります。
工藤×良太シリーズのまだ良太が入社前の工藤も登場します。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
グッバイシンデレラ
かかし
BL
毎週水曜日に二次創作でワンドロライ主催してるんですが、その時間になるまでどこまで書けるかと挑戦したかった+自分が読みたい浮気攻めを書きたくてムラムラしたのでお菓子ムシャムシャしながら書いた作品です。
美形×平凡意識
浮気攻めというよりヤンデレめいてしまった
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが
古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。
女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。
平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。
そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。
いや、だって、そんなことある?
あぶれたモブの運命が過酷すぎん?
――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――!
BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。
純情将軍は第八王子を所望します
七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。
かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。
一度、話がしたかっただけ……。
けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。
純情将軍×虐げられ王子の癒し愛
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる