エルフェニウムの魔人

神谷レイン

文字の大きさ
上 下
31 / 81

31 何見てる!?

しおりを挟む

 ピーチチチッと朝を告げる鳥の鳴き声が聞こえる。
 いつもと同じ時間に目が覚め、天井を見上げる。いつもと変わらない天井だ。しかし、自分が仰向けだという事に気が付いて、ハッとする。
 
 昨晩、俺の背中にはシュリがぴたりと張り付いていた。もしかして押しつぶしているんじゃ!? と俺は慌てて体を少し起こす。だが俺の傍には起きて正座をしているシュリがいた。

 ……ほっ、よかった。押しつぶしてなかった。

 俺は安堵したが、なぜかシュリは正座したまま考え込んだように俺の腰辺りをじっと見ている。

 ……何を見ているんだ?

 そう思って視線を向けると、いつの間にかズボンもパンツもずりおろされて、ぴんっと天に向かう俺の朝勃ちしたものをシュリがまじまじと見ていた。

 ギャーーーーッ!

 俺は心の中で叫んで、慌てて身を起こした。

「シュリッ! 何見てるんだッ!」

 俺は朝から大声を出して、恥ずかしさから素早くズボンとパンツを履きなおした。

 ……なんだって、ズボンもパンツもずれてるんだ!

 俺は恥ずかしさでシュリの顔も見れないのに、シュリはなんてことない顔で「あ、おはよ、アレクシス」と呑気に俺に挨拶をした。

「いや、なんか苦しそうだったからズボンを下ろしたんだけど……どうしたらいいのかわかんなくて。けど、寝ててもそういう風になるんだなぁ。相変わらずアレクシスのちんこはおっき」

 俺はパフッとシュリの口を手で塞いだ。

 ……エルサルはシュリに朝勃ちの事も教えてないのか? 昔の性教育はどうなってるんだ!

 俺はシュリの口を塞いだまま、心の中で会ったこともないエルサルに文句を言う。だがそんな俺にシュリは話しかけてきた。

「ふごふごっ」

 俺に口を塞がれているから、シュリがなんて言っているのかわからない。恐る恐る俺はそっとシュリの口から手を離してみる。

「アレクシス、いつもはどうなってるんだ? いつもそんなにおっきかったら大変」

 パフッと俺はまたシュリの口に蓋をする。

 ……エルサル、もっとちゃんとシュリに性教育しててくれ。

 そう俺は心の中で嘆いた。窓から見える外はもう太陽が顔を出し、明るかった。




 ◇◇◇◇




「なー、アレクシス。大丈夫か?」

 寮を出て、シュリは俺の隣を歩きながらげっそりする俺に尋ねた。俺は朝からシュリに軽く性教育をして精神を疲れさせていた。

 ……なんで俺が朝勃ちすることや、平常時の時の事まで教えなきゃならないんだ。

 慣れないことを人に教え、恥ずかしい限りだった。なのにシュリは「へー、そうなんだ」と恥ずかしさもなく俺の話を興味深く聞いてて、これだったら騎士たちの合同訓練に付き合った方がまだマシだと思えた。

「なぁ、アレクシス。やっぱり街歩きは次の機会にするか? なんか、疲れてる?」

 シュリは俺の服を引っ張って俺に尋ねた。一体誰のせいだ、と思いつつも心配げに見られてはそんな言葉も喉の奥に引っ込んでしまう。

「大丈夫だ。それにシュリの服を買うと約束しただろ」
「でも、アレクシス。疲れてるみたいだし、朝の話が良くなかったのか? あさだ」

 パフッとシュリの口を塞ぐ。

「シュリ」

 じろっと見るとシュリの目は、ごめん、言わない約束だったな。と俺に訴えていた。俺ははぁと息を吐き、手を離す。

「さっさと行くぞ」

 俺が言うとシュリは「うん!」と俺の手をぎゅっと握った。

 慣れない人肌に俺はやっぱりどきりとしてしまうけれど、シュリが迷子にならないように、と言い訳をしてそっとその小さくて柔らかな手を握り返した。

 それから俺はシュリを連れて町に下り、エルサル広場に向かう。
 あそこにはあまり行きたくないのだが、エルサル広場が町のすべての通りの起点になっている。なので買い物や町案内をするには、あそこに行くしかないのだ。

 またあの魔法陣が現れたら、と思うと少し怖い気もするが、楽し気にしているシュリを連れて行かないわけにもいかない。そもそも魔法陣が現れれば、シュリは向こうに帰れるかもしれないのだ。それはそれでいいことだろう。

 けれど、どうしてだろうか。一昨日会ったばかりなのに、俺はシュリがいなくなる、と考えると胸がツキリと痛くなった。その方がシュリの為だというのに。
 だがそんなことを考えながら歩いているとシュリがこちらをじぃーっと見ている事に気が付いた。

「なんだ?」

 俺が尋ねるとシュリはふふっと笑った。

「いや、やっぱりアレクシスの私服姿は新鮮だなーっと思ってさ」

 シュリは俺を見て言った。今日は非番で町を歩く為、服は私服だ。いつもの隊服じゃない。
 今日の俺は白のシャツに紺色のベスト、黒のズボンとブーツを履いていた。詰襟の隊服よりはずっとラフな格好だ。普通の格好だが、シュリはよほど俺の私服が物珍しいのか、俺をじろじろと見る。
 あんまり見ないで欲しい……。
 
「変か?」

 これで変だと言われたら言われたでショックだが、シュリはぶんぶんっと首を横に振った。

「違うよ。よく似合ってる! でもアレクシスって誰よりも隊服を格好よく着こなしていたからさ、なんだか新鮮で。私服が悪いってわけじゃないよ?」

 シュリは裏表もなくことも何気に言い、俺は思わず照れる。

「そ、そうか? ……そういうシュリも似合ってるぞ、ロニーの服」
「そう?」

 シュリは返事をして自分が着ている服に視線を向ける。
 シュリは大きい隊服を無理に着ていた昨日とは違い、ちゃんとした服を着ている。

 実は今朝がた、階層は違えど同じ寮に住んでいるロニーがわざわざ自分の服を貸しに来てくれたのだ。
 
『折角の街歩きなのに、体格の合っていない隊服で行くもの大変でしょう。よければ僕のを使ってください』

 そう言って自分の服を持ってきてくれた。なんともできた部下だ。

 そしてシュリの体に体格が似通っているロニーの服はぴったりと合っていた。
 今のシュリは茶色の帽子に大きめの白のシャツ、茶色の吊りズボン。そしていつもの靴を履いていた。

 ……シュリによく似合っている。さすがロニーのセレクトだ。

 しかしそのできた部下は耳聡く、大浴場での一件も聞いていたようで。
 シュリに服を渡した後、ふふっと生温かい目で俺を見て言った。

『隊長も大変ですね、街歩きも気を付けてくださいね』

 そう不吉な予言もして。

 ……全く、そんな予言しないで欲しい。何事もなく街歩きが終わればいいが。

「あ、お店が見えてきた!」

 そう言って、俺の手をぐいぐい引っ張るシュリの手を離さないように、俺はぎゅっと握るしかなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃ですが、敵国のイケメン王に味見されそうになっています、どうしたらいいですか?

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

悩ましき騎士団長のひとりごと

きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。 ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。 『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。 ムーンライト様にも掲載しております。 よろしくお願いします。

天使と悪魔と保護者のお兄さん

ミクリ21
BL
天使と悪魔の双子を拾ったお兄さんは、保護者として大事に育てることに致しました!

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...