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31 何見てる!?
しおりを挟むピーチチチッと朝を告げる鳥の鳴き声が聞こえる。
いつもと同じ時間に目が覚め、天井を見上げる。いつもと変わらない天井だ。しかし、自分が仰向けだという事に気が付いて、ハッとする。
昨晩、俺の背中にはシュリがぴたりと張り付いていた。もしかして押しつぶしているんじゃ!? と俺は慌てて体を少し起こす。だが俺の傍には起きて正座をしているシュリがいた。
……ほっ、よかった。押しつぶしてなかった。
俺は安堵したが、なぜかシュリは正座したまま考え込んだように俺の腰辺りをじっと見ている。
……何を見ているんだ?
そう思って視線を向けると、いつの間にかズボンもパンツもずりおろされて、ぴんっと天に向かう俺の朝勃ちしたものをシュリがまじまじと見ていた。
ギャーーーーッ!
俺は心の中で叫んで、慌てて身を起こした。
「シュリッ! 何見てるんだッ!」
俺は朝から大声を出して、恥ずかしさから素早くズボンとパンツを履きなおした。
……なんだって、ズボンもパンツもずれてるんだ!
俺は恥ずかしさでシュリの顔も見れないのに、シュリはなんてことない顔で「あ、おはよ、アレクシス」と呑気に俺に挨拶をした。
「いや、なんか苦しそうだったからズボンを下ろしたんだけど……どうしたらいいのかわかんなくて。けど、寝ててもそういう風になるんだなぁ。相変わらずアレクシスのちんこはおっき」
俺はパフッとシュリの口を手で塞いだ。
……エルサルはシュリに朝勃ちの事も教えてないのか? 昔の性教育はどうなってるんだ!
俺はシュリの口を塞いだまま、心の中で会ったこともないエルサルに文句を言う。だがそんな俺にシュリは話しかけてきた。
「ふごふごっ」
俺に口を塞がれているから、シュリがなんて言っているのかわからない。恐る恐る俺はそっとシュリの口から手を離してみる。
「アレクシス、いつもはどうなってるんだ? いつもそんなにおっきかったら大変」
パフッと俺はまたシュリの口に蓋をする。
……エルサル、もっとちゃんとシュリに性教育しててくれ。
そう俺は心の中で嘆いた。窓から見える外はもう太陽が顔を出し、明るかった。
◇◇◇◇
「なー、アレクシス。大丈夫か?」
寮を出て、シュリは俺の隣を歩きながらげっそりする俺に尋ねた。俺は朝からシュリに軽く性教育をして精神を疲れさせていた。
……なんで俺が朝勃ちすることや、平常時の時の事まで教えなきゃならないんだ。
慣れないことを人に教え、恥ずかしい限りだった。なのにシュリは「へー、そうなんだ」と恥ずかしさもなく俺の話を興味深く聞いてて、これだったら騎士たちの合同訓練に付き合った方がまだマシだと思えた。
「なぁ、アレクシス。やっぱり街歩きは次の機会にするか? なんか、疲れてる?」
シュリは俺の服を引っ張って俺に尋ねた。一体誰のせいだ、と思いつつも心配げに見られてはそんな言葉も喉の奥に引っ込んでしまう。
「大丈夫だ。それにシュリの服を買うと約束しただろ」
「でも、アレクシス。疲れてるみたいだし、朝の話が良くなかったのか? あさだ」
パフッとシュリの口を塞ぐ。
「シュリ」
じろっと見るとシュリの目は、ごめん、言わない約束だったな。と俺に訴えていた。俺ははぁと息を吐き、手を離す。
「さっさと行くぞ」
俺が言うとシュリは「うん!」と俺の手をぎゅっと握った。
慣れない人肌に俺はやっぱりどきりとしてしまうけれど、シュリが迷子にならないように、と言い訳をしてそっとその小さくて柔らかな手を握り返した。
それから俺はシュリを連れて町に下り、エルサル広場に向かう。
あそこにはあまり行きたくないのだが、エルサル広場が町のすべての通りの起点になっている。なので買い物や町案内をするには、あそこに行くしかないのだ。
またあの魔法陣が現れたら、と思うと少し怖い気もするが、楽し気にしているシュリを連れて行かないわけにもいかない。そもそも魔法陣が現れれば、シュリは向こうに帰れるかもしれないのだ。それはそれでいいことだろう。
けれど、どうしてだろうか。一昨日会ったばかりなのに、俺はシュリがいなくなる、と考えると胸がツキリと痛くなった。その方がシュリの為だというのに。
だがそんなことを考えながら歩いているとシュリがこちらをじぃーっと見ている事に気が付いた。
「なんだ?」
俺が尋ねるとシュリはふふっと笑った。
「いや、やっぱりアレクシスの私服姿は新鮮だなーっと思ってさ」
シュリは俺を見て言った。今日は非番で町を歩く為、服は私服だ。いつもの隊服じゃない。
今日の俺は白のシャツに紺色のベスト、黒のズボンとブーツを履いていた。詰襟の隊服よりはずっとラフな格好だ。普通の格好だが、シュリはよほど俺の私服が物珍しいのか、俺をじろじろと見る。
あんまり見ないで欲しい……。
「変か?」
これで変だと言われたら言われたでショックだが、シュリはぶんぶんっと首を横に振った。
「違うよ。よく似合ってる! でもアレクシスって誰よりも隊服を格好よく着こなしていたからさ、なんだか新鮮で。私服が悪いってわけじゃないよ?」
シュリは裏表もなくことも何気に言い、俺は思わず照れる。
「そ、そうか? ……そういうシュリも似合ってるぞ、ロニーの服」
「そう?」
シュリは返事をして自分が着ている服に視線を向ける。
シュリは大きい隊服を無理に着ていた昨日とは違い、ちゃんとした服を着ている。
実は今朝がた、階層は違えど同じ寮に住んでいるロニーがわざわざ自分の服を貸しに来てくれたのだ。
『折角の街歩きなのに、体格の合っていない隊服で行くもの大変でしょう。よければ僕のを使ってください』
そう言って自分の服を持ってきてくれた。なんともできた部下だ。
そしてシュリの体に体格が似通っているロニーの服はぴったりと合っていた。
今のシュリは茶色の帽子に大きめの白のシャツ、茶色の吊りズボン。そしていつもの靴を履いていた。
……シュリによく似合っている。さすがロニーのセレクトだ。
しかしそのできた部下は耳聡く、大浴場での一件も聞いていたようで。
シュリに服を渡した後、ふふっと生温かい目で俺を見て言った。
『隊長も大変ですね、街歩きも気を付けてくださいね』
そう不吉な予言もして。
……全く、そんな予言しないで欲しい。何事もなく街歩きが終わればいいが。
「あ、お店が見えてきた!」
そう言って、俺の手をぐいぐい引っ張るシュリの手を離さないように、俺はぎゅっと握るしかなかった。
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