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殿下、どうしましょう?

エピローグ 百年後のピクニック

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 ―――――時間は少し遠のいて、百年後の森の中。
 一人の青年と彼より年上の男が綺麗な池の側でピクニックをしていた。

「ジーク。ほら、野いちごのジャム! フェニが作ったんだよ、パンに塗って食べよ~!」

 青年はジャム瓶を見せて言った。その中にはつやつやの野いちごのジャムが詰まっている。

「そう言えば昨日家の中が甘い匂いがしてたな。これか」
「うん。昔、レオに作り方を教えてもらったのを思い出して!」

 青年はニコニコしながら言い、瓶の蓋を開けて二つのパンにたっぷりとジャムを塗った。それを見つめながら、年上の男はくすっと笑う。

「そう言えば、お前が野いちごと間違えて、毒のあるベネーノベリーを摘んできて喧嘩した事があったな」
「あ、あれは知らなかったからだもん! 今はもう間違えないし!」

 青年が恥ずかし気にしながら答えつつパンを渡す、すると年上の男は「どうだか」と笑いながら言い、そして渡されたジャムがたっぷりと塗られたパンをぱくっと食べた。

「ん、うまい」

 美味しいと言われて青年は満足そうに頬を紅潮させる。そして自分もぱくりっとパンを食べた。そうすれば口いっぱいに甘酸っぱい野いちごの味が広がる。
 だが同時に懐かしくて、サファイアのような青と鮮やかな緑の優しい瞳に見つめられて、幾度となくピクニックをした楽しい思い出も蘇る。

『ほら、フェニ。口元にまたついてるよ』

 そう言いながらジャムのついた口の端を拭ってくれたあの人の声さえもジャムの味と共に聞こえてくるよう。けれど、もう二度とその声は聞けないから、ちょっぴりだけ寂しくなる。

 ……えちゅ。

 でも、その気持ちを感じ取ったのか年上の男は青年の口元についていたジャムをペロッと舐めて取った。

「ジーク!」
「全く、お前はいつまで経っても子供だな」

 ふふっと笑われて、青年はむっとする。

「フェニ、子供じゃないもん! もう大人になったもん!!」
「どうだか」

 年上の男はくすくすと笑いながらパンをもう一口頬張り、青年もむすっとしたままだが、つられるようにもう一口食べる。でもそんな青年に年上の男は言った。

「ジャムをつけていたら俺がまた取ってやる」

 甘さのない言葉だったが、それは彼の精一杯の優しさである事はもう青年にはわかっていたので、青年はにこっと笑って元気よく返事をした。

「うん!」



おわり


************

今回はフェニが戻ってきたお話でしたが、どうでしたか?
というか、このお話の本編は一旦終わったはずなんですが、なんだかんだとここまでやってきまいました。終わる終わる詐欺で申し訳ないです。でも書いちゃったし、折角だから……ね?(笑)
ともかく楽しく読んで頂けたなら幸いです。

そしてこの続きですが、また気が向いたら……と言う事で(汗)
(この後の構想はあるのですが、新キャラ出てセスが他国に誘拐されたり……で、たぶん二十話越えの長編になりそうなので)

また、たくさんの『いいね!』をありがとうございます!
いいね、がいっぱいで作者は喜んでおります(/^ω^)/いえーい!

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