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おまけ

泣いた理由は?3

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 それから十五年後、年が明ける前の冬。
 レオナルドとセスの仲違いが一件落着した後の事。


「お義父さん、私の勝ちですね?」

 パチリと暖炉の薪が燃える音が響く中、レオナルドはニコニコしながらチェス盤を前に言った。そしてレオナルドの前には、城に滞在していたウィルが座っており、むっすりと不機嫌顔だった。

「でぇい! 俺をお義父さんと呼ぶな!」
「勝負に勝ったら呼んでいいと言ったじゃないですか」
「誰も一回勝負とは言ってない!」
「いいでしょう。何回勝負にしますか?」

 レオナルドは笑いながら答えた。その涼し気な顔にはありありと『何回でも勝ちますけどね?』と書かれていた。だから余計にウィルはイラっとしてしまう。

 ……くっそぉ、セスと仲直りしたからって調子に乗りやがって。やっぱり許すんじゃなかった!

 しかし、そこに紙袋を手にセスが戻ってきた。

「ただいま~」
「「セス!」」

 ウィルとレオナルドは同時にセスを呼び、セスは二人に声をかけた。

「あれ? 二人でゲームしてたの?」

 セスはチェス盤を見て言ったが、ウィルはハッとして慌ててチェス盤を片付けた。レオナルドに負けたとセスにバレたくなかったからだ。

「あ、ああ、まあな。ところで、その紙袋はどうしたんだ?」
「あ、これ? 今日は街に行って部屋の片づけをしてきたんだけど、リッキーに会ってパンを貰ったんだ」
「リッキーと?」
「うん。またお城に住むことになったって言ったら、『またしばらくは買いにこれなくなるな』って言って、くれたんだ~。でも、なんだかちょっと泣きそうな顔してたんだよね。なんでだろ?」

 セスは首を傾げて不思議そうに答えた。しかしウィルにはありありとリッキーの気持ちがわかってしまった。

 ……リッキーの奴、セスの事まだ好きだったんだな。

 しかしリッキーの気持ちを知らない、というか気がついていないセスは首を傾げたままだった。

「別にもう二度と買いに行けない訳じゃないのになぁ」

 ……そういう事じゃないんだが。このセスの鈍感さはどこから来ているのか。

「「ふぅっ」」

 ウィルとレオナルドはほぼ同時にため息を吐いた。そして同時に互いを見る。どうやら同じことを思っていたらしい、と互いの表情を読み取って察した。

「レオナルド殿下? 父さん?」
「いや、なんでもないよ」
「ああ、そうだぞ」

 セスに声をかけられ、二人は慌てて答えた。

「そう? ところで……母さんとフェニが見当たらないけど」
「ああ、二人は母上に呼び出されていてね」

 レオナルドはそう言うと席を立った。

「セス、一緒にフェニを救出に行こうか。母上にもみくちゃにされているかもしれないから」
「確かに」

 レオナルドの母で王妃のカレンは、セスそっくりのフェニを可愛がっている。フェニが怯えるぐらいに。

「では、お義父さん。ゲームの続きはまた後で」
「フンッ、次は俺が勝つ!」

 ウィルは息巻いて言ったがレオナルドは終始笑顔のままだった。

「じゃあ、父さん。俺達、行ってくるね」

 セスはそう言うとパンの香りがする紙袋をテーブルに置き、レオナルドはセスと共に部屋を出て行った。そして一人残ったウィルは、頬杖をついてふぅっと息を吐く。

 ……誰にもやらんつもりだったんだがなぁ。

 しかしレオナルドと共に出て行ったセスの笑顔を思い出せば、ウィルは何も言えない。そしてレオナルドがセスの為に、馬鹿な事をして身を引こうとした事を思い出せば、レオナルドを認めない訳にもいかなかった。

 ……レオナルドの奴、最初からセスに言えばよかったんだ。まあセスの事を想って、言えなかったあいつの気持ちもわからなくもないけどな。俺も似た経験があるし。

 ウィルはチェスの駒をついついっと突きながら、自分の過去を思い出した。
 『時忘れ』の花粉を被った時、婚約者だったリーナに別れて欲しいとウィルは頭を下げて頼んだ。『時忘れ』を被った自分では、子供は望めないからだ。
 勿論、別れを告げることが辛くなかったわけがない。でもそれ以上に、愛しい人から子供をもつ権利を奪いたくはなかった。そして不死鳥の涙を飲んだセスに、レオナルドもきっと同じような事を考えたのだろう。不妊ではなくなったセスを想って。

 ……気に食わんが、俺とあいつってそういう所が似てるんだよなぁ。まあセスを泣かした理由にはならんけど。ああ、もう一発ぐらい殴ってりゃ良かった。

 ウィルはむすっとした顔でぐっと拳を握ったが、しかし。別れを切り出したウィルもリーナに泣いて怒られた口なので、レオナルドばかりを批判はできなかった。

『二人じゃ幸せになれないって言うの?! 私は貴方といて幸せなのに、その幸せをあなたが奪うの!?』

 そうリーナに泣かれた時の事をウィルは忘れられない。

「あれ以上の口説き文句はないよなぁ。さすがリーナさんと言うか」

 ウィルはふふっと笑って、その後の事を思い返す。
 結局、告白を受けたウィルはリーナと結婚することに決めて、それからしばらくは二人で幸せに暮らしていた。いつでも新婚みたいな気分で。
 けれど、結婚十年目に思わぬことが起こった。ウィル達の元にセスがやってきたからだ。

 柔らかくて弱くて目が離せない大切な大切な生き物、それが最初のセスの印象だった。

 けれどその小さな生き物は段々笑うようになって、喋るようになって、立つようになって。気がつけば、あっという間に成長して、大人になってしまった。
 もっと色々な事を教えて、色々なものを与えたかったのに。もっとじっくり傍で見守りたかったのに。

 ……親ってのは切ないもんだな。後生大事に育てても、いつかは手放さなきゃいけないんだから。

 ウィルは寂しさを誤魔化すように、しんしんっと雪が降る窓の外を眺めた。だがヒヤッとした寒さに「くしゅん」と小さなくしゃみをする。

「うぅっ、冷えてきたな」

 ぶるっと身を震わせて呟いた。

 ……何か、上着でも取ってこようかな。

 ウィルはそう思って椅子から立ち上がろうとした。だがちょうどその時、ノックもなしにドアが開き、ウィルが視線を向けるとそこには出て行ったはずのセスが立っていた。

「セス? ……迎えに行ったんじゃないのか?」
「うん、そうだけど。ひざ掛けを持ってきたの」

 セスはそう言うと、ウィルに近寄ってあったかいひざ掛けを被せた。

「寒いかと思って。父さん、いつも薄着だし」
「俺の為に?」

 ウィルが尋ねるとセスはにこっと笑うだけだった。

「じゃあ父さん。俺、今度こそフェニを迎えに行ってくるね」

 セスはそれだけを言うと足早に部屋を出て行った。外でレオナルドが待っているからだろう。ドアはパタンっと閉められ、ウィルは暖かなひざ掛けをぐっと握った。
 セスの優しさに体だけじゃなく、心まで温まる。

「はぁ……また幸せの借金が増えちまったな。俺は一体どうやって返せばいいのか」

 ウィルはふふっと笑ったが、その目尻にはきらりと輝くものがあった。

「俺をお父さんにしてくれて、ありがとうな。セス」

 そうぽつりと呟いた言葉は薪が爆ぜる音にかき消えた。



おわり


*****************
ここからはおまけ↓↓↓↓


 とある日のウィルとちびっ子セス。

「なあ、セス。弟妹が欲しいって思ったりするか?('ω')」
「きょーだい? ……ううん(._.)」

(あれ? 欲しいって言うかと思ったんだけどな。でもセスが生まれてきてくれただけで奇跡みたいなものだから、弟妹が欲しいって言われても困るんだが(-_-;))

「そうか」
「うん。だってきょーだいができたらおとーしゃん、ひとり占めできなくなっちゃうもん(´・ω・`)」

(ズキュゥゥゥンッ!!Σ(゜Д゜))

「だからべつに……おとーしゃん? どうしたの、おムネをおさえて?(´・ω・)?」
「(呼吸困難中)ハァーハァーッ、いや、何でもないんだ(;´Д`)」

(セスは俺を萌え殺す気か?! なに、俺をひとり占めしたいって!! んもーっ、これまでもこれからもセスの専属お父さんでいるよ!!(●´ω`●))

 セスへの愛がまた深まったウィルなのであった……(笑)



***********

「父の日」って父親に感謝する日なのに、逆になってしまいました。でもウィルが幸せそうなので、許してください(笑)
おまけは実験的に顔文字付きにしてみましたが、どうだったかな?
楽しく読んで頂けたら嬉しいです。

お気に入り登録、ありがとうございます!(*´▽`*)/
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