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殿下、俺じゃダメですか?
7 貴方を想う ※
しおりを挟む……そう言えばレオナルド殿下としたのは、もうずっと前で、色々ありすぎて自分でもしてなかったな。
俺は茹で上がってきた頭で思い出し、お風呂からザバッと上がった。そして浴室の床に座って、まだ大人しい前を自分で握る。
だけど握って擦るだけじゃ、全然気持ちよくならなくて。俺はレオナルド殿下の手と声を思い出しながら、一人でゴシゴシと擦った。
「んっ、はぁっ……レオ」
『セスはここが好きだよね?』
レオナルド殿下の声を思い出すと、途端に堪らない気持ちになる。
俺は目を瞑って、必死にレオナルド殿下の手の動きを思い出す。
……レオナルド殿下、いつもこうやって触ってくれてた。
『セス、気持ちいい?』
「んんっ、気持ちい、レオ……ッ」
ぬちゅぬちゅっと卑猥な水音を出しながら、俺はすっかり硬くなった自分の性器を耽るように擦った。先っぽから、とろとろと先走りの汁が溢れてくる。
でも、やっぱりまだ物足りなくて。
後ろがレオナルド殿下の大きなイチモツを求めるように自然とパクパクッと動き始める。あの硬くて太くて、火傷しそうな熱を。
「レオッ、レオッ」
俺は右手で自分の性器を扱きながら、左手を伸ばして後孔を触った。そこはヒクヒクっと動いて、何かを求めてる。一年前はただの排泄器官だったのに、今はそれだけじゃない。
俺は自分で指を咥え、唾液をつけてから、左手の指先をつぷりっと自分の中に指を入れた。するとギュムギュムッと俺の指を食い締める、だけど……。
これじゃない。こんな細いものじゃない。
そう身体は言うけど本物がない今、俺は自分の指で我慢するしかなかった。
クチュッと中を自分で掻き回して、自分で気持ちいいところを探す。でも全然見つからない。
……レオの熱が欲しいっ。
俺はレオナルド殿下の熱を求めるみたいに指をグチュグチュと激しく動かした。けど、やっぱり気持ちよくなれなくて。
「はっはぁっ、レオッ……欲しいよぉ」
レオナルド殿下の全てが欲しい。あの俺を愛してくれた身体が。
『セス、もっと私を求めて』
「欲しい、もっと……レオぉ」
後ろの物足りなさを誤魔化すように性器を強く扱いて、俺はようやく達した。はーはーっと息を吐きながら、びゅくっと精液を床にまき散らして。
でも中途半端な気持ち良さで達した俺の体は物足りないって叫んでいて。
……昔は一人でしても、こんな風にはならなかったのに。レオナルド殿下が俺の体をこんな風にしたせいだ。
「レオナルド殿下のばか」
それなのに俺を置いて他国に行っちゃって。
「レオナルド殿下なんて嫌い」
お風呂の中で一人呟いた言葉は静かに響いて、それが余計に俺のむなしさを掻き立てる。
いつもはいい香りの石鹸の匂いが俺の精液の匂いと混じって、まるで俺の今の滑稽さを表しているようだ。
「……っ」
俺は浴槽の縁にこつんと頭を乗せて、胸いっぱいの悲しさを吐き出すように小さく、震えた声を出した。
「……会いたいよ」
それが俺の何よりの正直な気持ちだった。
例え、どんな理由があろうとも。ルナ様に本当に恋に落ちてしまっていても。
ただレオナルド殿下に会いたかった。
あの煌めく青いサファイアの瞳を見たい。それだけだった。
その頃ーーーー。
「レオナルド様、少しよろしいですか?」
明かりを灯し、部屋で本を読んでいたレオナルドの元に誰かがドアをノックした。
「どうぞ」
レオナルドが答えるとドアを開けて現れたのはルナの従者だった。黒髪の少し気弱そうな青年。
「ああ、エドワード。何かな?」
レオナルドは本を閉じてにこやかに対応した。そんなレオナルドにルナの従者エドワードはぺこりと頭を下げる。
「夜遅くに申し訳ありません」
「構わないよ。何かな?」
レオナルドが尋ねるとエドワードは少し躊躇った後、思い切った様子で口を開いた。
「レオナルド様。ルナ様の事、本気なのですか……?」
「本気、というのは?」
レオナルドは余裕たっぷりで聞き、エドワードは再び問いかけた。
「レオナルド様はルナ様とご結婚されるおつもりなのですか?」
真剣な顔で尋ねるエドワードに対し、レオナルドはにこっと笑った。
「ああ、そのつもりだ……それが何か?」
レオナルドが断言するとエドワードは困惑した様子を見せた。
「……いえ。ただ今までそのような素振りはありませんでしたから、あまりに急で。もしかしたら、貴国で何かあったのかと思いまして」
エドワードは窺うような目で見た、だがそれも仕方がなかった。
実はレオナルドとルナは同じ王族という事で幼い頃から度々顔を合わせる仲だった。そして幼い頃からルナの従者として傍にいたエドワードはそれを見てきたのだ。
二人は良き友人同士ではあったが、今までそんな甘い雰囲気になったことは一度もなかった。それなのに、まるで手のひらを返したかのようなレオナルドの態度。
エドワードが不思議に思うのも無理はなかった。
「それにレオナルド様はセス様と結婚されていましたし」
エドワードはちらりとレオナルドを見て言った。しかし、そんなエドワードにレオナルドは言い返した。
「確かに急だったかもしれない。だが恋とはそう言うものじゃないか? 私は久しぶりに会ったルナ様に一目惚れしてしまったんだよ。彼女は昔とは随分と変わった。エドワードだってそう思うだろう?」
確かにレオナルドの言う通り、ルナはここ一年で随分と変わったのだ。昔はぽっちゃりとした体格で、可愛いとは言えても、綺麗だとはお世辞にも言えない容姿だった。
ところがこの一年で痩せ、髪や肌を念入りに手入れをするようになって、まるで蛹が蝶に変身するように美しくなった。
それから多くの貴族から求婚の申し出があり、そんな中バーセル王国に行ってレオナルドがルナに恋に落ちた。だがエドワードは……。
「確かにルナ様は変わられました。けれど、あの方の内面は昔から何一つお変わりありません」
エドワードはハッキリと言い、レオナルドはくすっと笑った。
「エドワードは相変わらずだな。だが君が思うような理由は何もないさ。セスとは、ここだけの話だが形式上の結婚だったのでね」
「形式上の?」
「ああ、我が国で同性婚が施行されたのは知っているだろう? あれを広める為にセスと結婚したのさ」
「そうだったのですか? ……しかし」
エドワードは口を濁した。エドワードはルナについていき共にバーセル王国に行ったが、その時のそのような話を周りから一度も聞いたりしなかった。
二人は仲睦まじく、レオナルドの方がセスに惚れているのだと聞いた。そして突然、セスを放ってルナに親しくし始めたレオナルドの変わり身に周りが戸惑っていた事も。
……レオナルド様は久しぶりに会われたルナ様に恋をした? そしてセス様を置いて、この国に? ……矛盾はないが、何か引っ掛かる。
疑問に思うエドワード。しかしレオナルドはそれ以上エドワードに考える隙を与えないかのように言い放った。
「何かおかしいかな? まあ、確かに私の行動は突然だったかもしれない。しかし、ルナ様が我が国に来たのは、たまたま彼女が遊びに来たから。そうだろう? そこで私はルナ様に恋をした、それだけの事さ。それとも……エドワードは私がここにいて何か不満でも?」
レオナルドは挑発的に尋ね、エドワードは慌てて首を横に振った。
「いえ、そう言う事では」
「そうだよな? 私は他国とは言え王族で、ルナ様とは幼い頃から気心知れた仲だ。何も問題あるまい? 例え私がルナ様と結婚しようとも」
レオナルドが凄んで言うと、エドワードは何か言いたそうな顔をしたが、それを喉の奥に引っ込めて頷いた。
「はい……その通りです、レオナルド様」
エドワードが答えると、レオナルドはエドワードの答えに満足したかのように笑みを浮かべた。
「なら、もういいかな? そろそろ眠りにつきたいのでね」
「はい、夜分に申し訳ありませんでした」
「いや、構わない。これからもよろしく頼むよ、エドワード。長い付き合いになるのだし」
レオナルドの言葉にエドワードはぐっと拳を握る。しかしエドワードは笑顔を見せた。
「はい……。では失礼します」
エドワードはそう言うと丁寧に頭を下げて、部屋を出て行った。
ドアがパタンッと閉まり、レオナルドは疲れたようにふぅっと息を吐く。
「やれやれ……」
そしてゆっくりと自分の左薬指に視線が向かう。そこには何もない。
「これで良かったんだ」
レオナルドは目を瞑って一人静かに呟いた。
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