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殿下、ちょっと待って!!

13 フェニの捜索 後編

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「フェニを探しに行ってきます」

 部屋を出て行こうとする俺をレオナルド殿下は腕を掴んで引き留めた。

「待ちなさい、セス。一人でこの広い城の中を探すつもりかい?」
「そうです。だから手を放して」

 俺は間髪入れずに答えた。だが俺の腕をレオナルド殿下は放してくれなかった。

「セス、少し待ちなさい。私の魔力探知でフェニを探すから。フェニ程の魔力があれば、すぐに見つかるだろう」

 レオナルド殿下はそう言ってから俺の手を放した。フェニは不死鳥だ。その身に潜めている魔力量は人よりも多い。魔獣と呼ばれているだけはあるのだ。
 レオナルド殿下は地面に膝をつき、床に手を置くと目を瞑った。

「セス、安心しろ。レオナルドの魔力探知は高精度のものだ。すぐに見つかるだろう」
「ええ、そうですよ」

 ランス殿下は俺を安心させるように言い、騒ぎを聞いて駆けつけてくれたノーベンさんも頷いた。
 でも、床から手を放したレオナルド殿下の表情は険しかった。

「……どうやら困ったことになったようだ」

 その一言でランス殿下は理解したみたいだった。

「まさか、見つからなかったのか? ……これは非常事態だな。エリオット、すぐに兄上と父上に報告を」
「ノーベン、すぐに城の出入り口を封鎖させろ。誰一人出すな。使用人達を全員起こせ」

 ランス殿下とレオナルド殿下は素早く自分の従者達に指示を出した。
 従者達はすぐに「「ハッ」」と答えると部屋を飛び出るように出て行った。

「手際のよい者なら、すぐに城を出ている可能性が高いな。町の重役に声をかけて不審な者がいなかったか探して貰おう」

 ランス殿下はそういうと部屋を出て行った。
 それを見送り、事態を把握できていない俺はレオナルド殿下に視線を向けた。

「一体、どういうことですか? フェニを見つけられるんじゃ……」

 俺が尋ねるとレオナルド殿下は渋い顔を見せた。

「ああ、私の魔力探知でならフェニを見つけられたはずだ。この城、そして半径三キロ以内にいたなら。……しかし何も引っ掛からなかった。恐らくフェニは魔力探知を跳ね返す魔具の中にいるか、もしくは三キロ以上離れた場所にいる。どちらにしろ捕まっている可能性が高い」
「捕まって!? 一人で飛び出したとかじゃなくて?!」
「部屋を飛び出しても城を飛び出すまではないだろう。フェニにとって城の外はまだ未知だ。それに巣立ちにしてはおかしい。セスに何も言わずに姿を消すなんて、フェニはしないだろう」
「……つまり誰かが」

 俺が呟くように言うと、レオナルド殿下は深く頷いた。

「ああ、連れ去ったと考えるべきだ。……まさかフェニ自ら部屋を出るとは。これならば外側だけでなく内側にもドアに結界を張っておくべきだった」

 レオナルド殿下は油断した、とため息交じりに呟き、何も出来ない俺は立ち尽くすしかなかった。

 ……フェニを一人にするんじゃなかった。俺が傍にいたらっ。せめてノーベンさんに見て貰っていれば。

 後悔がどんどん溢れ出す。でもそんな俺の手をレオナルド殿下は力強く握った。

「セス、そんな顔をしなくても大丈夫だ。必ずフェニを見つけ出す。約束しただろう? フェニが巣立つ時は一緒に見送ろうって……私を信じて」

 嘘のないサファイアの瞳が俺を見つめた。

「はい」

 俺は返事をして手を握り返した。


















 その頃、フェニは。

「ぴっ?!」

 フェニは酷い揺れに目を覚ました。

 クッションが敷かれているが体がぐわんぐわんっと上下に動き、身が定まらない。そして辺りを見回すと何かの中のなのか、真っ暗闇だった。馬が駆け走る蹄の音が身近に響き、フェニはパニックに陥った。

「ピピ―――ッ! ピピピィーッ!!」

 甲高い声で鳴き、暗闇の中でパタパタっと羽を動かして飛び、柔らかな壁に体当たりしてみる。しかしビクともしない。壁からは革の匂いがした。

 ……なんで!? ここ、どこ!? えちゅは?! えちゅっ!!

 バサバサッと羽を動かして何度も壁に体当たりする。すると「どうどう」と男の声が聞こえ、馬が立ち止まった。

 ……誰? えちゅのとこ、帰りたいッ。

 フェニはそう思いながら「ぴぴぃ」と小さく鳴いた。そんなフェニが入っている鞄の蓋を誰かがぺらりと捲った。

「ピーピーっうるせぇ、少し黙ってろ」

 暗闇の中、はっきりはわからなかったが男の声がして、プシュッと液体のようなものをかけられた。
 フェニはけほけほっと咳き込んだが、すぐに眠たくなる。

 ……んむ、ねむ、たい……えちゅ、の、とこ、か、え、り……。

 フェニはそのまますぴーすぴーっと眠ってしまった。
 男はそれを見るとバサッと鞄の蓋をしっかりと閉めて背負った。

「早く国を出ないと見つかっちまうからな」

 ……まさか本当に不死鳥の雛が手に入るとは俺はラッキーだぜ。こいつを売り飛ばしちまえば、賭けで貯まった借金は全部チャラだ!

 男はニタリと醜く笑い、馬の腹を蹴って、また森の中の道を走らせた。
 目指すは国境、男は他国でフェニを法外な値段で売り飛ばす気でいた。





 だが、フェニの鳴き声があるモノを呼び起こしていたことを男は気が付いていなかった。


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