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殿下、どうしたんですか??
2 翌日
しおりを挟む翌日の昼過ぎ。
「よぉ、みんな元気にしてるかー?」
父さんは薬科室にひょっこり顔を出した。
「ウィル薬長!」
すぐさまウィギー薬長や同僚たちが声を上げた。でもそんなウィギー薬長に父さんは苦笑した。
「おいおい、今の薬長はウィギーだろ?」
そう言って薬科室の中に入ってきた。父さんはウィギー薬長に任せる四年前までここで薬剤魔術師長として働いていたのだ。なので、みんな父さんに近寄って声をかける。
父さんは性格はアレだが、薬剤魔術師としては一流だ。父さんがこの薬科室にいた頃、色々な新薬を開発をしたのは有名な話。
俺にはそういう才能はなかったけど……。
俺が父さんと一緒に働いたのは一年だけ。難しい試験に合格して、見習いで入った時に親子の関係なく厳しく教えてもらった。
その後はウィギー薬長に面倒を見て貰っているのだが。
「あ、セス! こんなところにいたのかぁ~っ」
父さんは俺を見つけるなり、俺に駆け寄りぎゅっと抱きしめた。
いつでもどこでも、なかなかに愛が重い。
「相変わらずですね。ウィル薬長」
ウィギー薬長は苦笑していい、他の同僚もくすくすっと笑った。
は、恥ずかしい……っ。
「もー、父さん、離れて」
「あー、すまんすまん」
父さんはデレデレした顔で俺に謝った。反省はしていないな、これは。
けど、そんな父さんが背負っている鞄に気が付いた。
「父さん、そんな大きな鞄を持って、どうしたの?」
「ああ、これか? みんな目の色変えるぞ!」
そう言いながら、父さんは鞄を床に下ろして、近くの空いているテーブルに鞄の中から珍しい薬草や他国の薬を取り出していった。
そして俺は勿論、ウィギー薬長や同僚も披露された品々に興味津々だ。
「父さん! これってもしかしてユニコーンの角!?」
「これはマンドレイクの根だ!」
「ウィギー薬長! こっちも見て下さい!」
俺やみんなは珍しい品々に大いに騒ぐ。その横で父さんは、すごいだろー! とドヤ顔で腕を組む。しかし少し離れた俺の机のすぐ側、窓際に置いている植木鉢に気が付いて父さんは声を上げた。
「おい、セス! あれはミシアじゃないか!? どこで手に入れたんだッ!!」
俺と同じ薬草オタクな父さんは俺がセシル様から貰って大事に育てているミシアの植木鉢を見つけるなり、すぐに俺の腕を引いて尋ねた。
「ああ、あれはノース王国の王子様に貰ったんだ。この前、うちの国に来ててね? 種をくれたんだ」
「なんだって!? ノース王国の!? ……まあ、確かに王族ならミシアの種を多めに持っているはずだが、他国の者にやるなんて珍しいな。セス、よっぽど気に入られたんだな」
「そうかな?」
むしろ嫌われていたと思うんだけど。
「そうだよ……。しかし、うちの国でミシアを見ることになるとは思わなかったなぁ」
父さんはすくすくと育っているミシアを眺めながら言った。今はにょきにょきと育って、10㎝の高さまで育っている。本当はここじゃなくて自室に置きたいのだが、レオナルド殿下がこれを見るとなんでか不貞腐れた顔をするので俺は薬科室で大事に育てていた。
「ちゃんと育てて、偉いな。セス」
父さんに褒められて俺は少し照れくさい気持ちになってしまう。その照れ臭さを誤魔化す為に、俺は頬を掻きながら父さんに言った。
「でも、父さんはミシアがいっぱい生えているところを見たことがあるんでしょう? 俺もいつか見てみたいなぁ」
それは何気ない言葉だった。でも父さんは真面目な顔で俺を見て、尋ねた。
「それなら……次の旅はセスも一緒に行くか?」
「へっ?」
一方その頃、レオナルドと言えば。
薔薇園の四阿で、リーナと対面していた。そしてレオナルドの隣にはこの薔薇園の主である王妃のカレンも同席している。
秋とは言えど、昼間は陽気な天気が温かく、お茶をするなら絶好の日和だ。しかしレオナルドとカレンの表情は険しい。
「全て、母上から聞いて知っているのでしょう? リーナ」
レオナルドは目の前で優雅にお茶を飲むリーナに尋ねた。リーナはティーカップを置き、レオナルドに視線を向けた。
「ええ。でも、まあこうなる事は予測していましたから、たいして驚きもしませんでしたけどねぇ」
そうリーナはおっとりと答えた。
そんなリーナに対してレオナルドは涼しい風が吹くのに、たらっと汗を流した。
もう何もかもリーナは知っているのだ。自分が同性婚を施行させたこと、父上を唆してセスに自分と結婚するよう命じたのも。
「卑怯な事をしたのはわかっています。……でも、セスを愛しているんです」
「愛しているなら、何をしてもいいと? セスはこの事を知らないのでしょう?」
レオナルドの言葉をリーナはバッサリと切った。
「……はい」
「セスが知ったらどう思うでしょうね? 殿下」
問い詰めるように聞くリーナにレオナルドは何も言い返せない。これがリーナでなければ、なんとでも言える。しかし子供の頃、乳母としてほとんど母親のように接してくれたリーナに嘘は付けなかった。
「セスに知られても私がセスを愛している事には変わりません。許してもらうまで謝ります」
レオナルドが言うと、それを援護するように黙っていたカレンも声を上げた。
「リーナ、息子の愚行を許してあげて。セスの事が本当に好きなのよ」
カレンが言うとリーナはふぅっと息を吐いた。
もしかして嘘を吐いた私を許してくれないかもしれない……。
リーナの態度にレオナルドはそう思ったが、リーナは「知っているわ」と言ってくすっと笑った。
途端、一気に解れた空気にレオナルドとカレンは同じタイミングで名を呼ぶ。
「「リーナ!」」
「二人共、緊張しすぎです。私は別に怒っていませんよ。セスがレオナルド殿下と結婚して幸せそうなのは見て明らかですし、昨日も言いましたが、セスはちょっとぽやっとしているからレオナルド殿下ぐらいしっかりしている人が相手なら私も安心です。それにレオナルド殿下は昔からあの子の事、気に入っていましたからねぇ。……遅かれ早かれ、こうなる事はわかっていましたよ」
リーナの言葉にレオナルドはようやくほっと息を吐いた。しかし、安心するのはまだ早い。
「け・れ・ど、レオナルド殿下。せめてあの子との結婚式ぐらいは私達も参加させて欲しかったものです! まあ? セスが心変わりするんじゃないか? とか、ウィルが止めるのを危惧して、早々に結婚したんでしょうけれど。結婚式は一度きりのことなんですよ!」
責められるように言われて、レオナルドは肩身を狭くする。
「うっ……それはすまなかった」
「まあ、過ぎたことを言っても仕方ありません。……今後はこういう事がない様にお願いしますよ?」
釘を刺され、レオナルドは「勿論」と答えた。
そして二人の会話が一段落ついたところでカレンが声を上げた。
「リーナ、その件に関しても謝罪するわ。でもこれを用意しておいたから!」
それはレオナルドとセスが結婚した時の絵だった。
その存在を全く知らなかったレオナルドは、いつの間に! と思った。と同時に、ぬかりないところは自分の母親だな、としみじみ感じた。
「腕利きの画家に描かせたのよ! ぜひ、一枚貰って頂戴」
「わー、ありがとう、カレン! きっとウィルも喜ぶわぁ!」
リーナはカレンにお礼を言い、額に入った絵を喜んで受け取った。
……私も欲しいな。とレオナルドは思ったが、そんなレオナルドを他所にカレンとリーナの女同士の話が始まった。とはいっても、話の内容はほとんどセスの事についてだ。
……とりあえず、リーナは説得できたな。しかし一番の難関はやはり。
レオナルドはお茶を飲みながらウィルを思い浮かべて苦い顔をした。
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