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殿下、何してるんですか!?
11 キス魔!
しおりを挟むあれ以降、セシル様は大人の姿に変わる事はなかったが、相変わらずちょくちょく俺にちょっかいを出しに来た。
まあ呪いの手紙とか、そう言うのじゃなくて、ただ俺の元へ話に来ていただけなんだが……。
なんでもレオナルド殿下がどういう人が好きなのか調べる為らしい。俺はなんだか生意気な弟が出来たみたいでちょっと嬉しかった。
以前レオナルド殿下にも作ってあげたハーブを詰めた香り袋をあげれば尻尾を激しく動かし、無邪気に喜んで……あれはちょっと可愛かったなぁ。
しかし元々期間限定で来ていたセシル様は、しばらくして本国へ戻られることになった。
帰国する早朝、朝日が昇ったばかりの頃。
ノース王国の王族だけが使える紋章が入った豪華な馬車が一台と、多くの護衛が並ぶ中。
俺とレオナルド殿下は国王陛下の代わりに、セシル様のお見送りに来ていた。
「世話になったな」
素直じゃないセシル様は腰に手を当てて、偉そうに俺に言った。だがその首には俺が上げた香り袋を下げている。どうやら気に入ってくれたらしい。
「レオナルド様、また会いに来ます!」
セシル様はレオナルド殿下にはキラキラと眩しいほどの熱い瞳を向けて言った。
「ええ、お待ちしておりますよ」
レオナルド殿下は微笑んでセシル様に言った。その事にセシル様は嬉しそうだ。
でもその後、セシル様は俺の元にやってくるとちょいちょいっと手招きした。
ん? なんだろう?
俺はセシル様と同じ視線に中腰になって屈んだ。
「手を出せ」
「手、ですか?」
「ああ」
セシル様は唐突に言い、なんだろう? と思いながら俺は手を差し出した。
すると、ころんっと俺の手にひとつの種を置いた。
「たね?」
「僕の国に咲くミシアの花の種だ。お前にやる」
それはノース王国に生息するミシアと呼ばれる希少な植物の種だった。
ミシアの花は魔力を回復させる効果があり、薬として高く売り買いがされている。そしてその花の種は昔からノース王国では悪いものを払うと言い伝えられ、ノース王国の者は種をお守り代わりに持っている。
きっとセシル様もそうなのだろう。
「でも、これはお守りに持っていたものでは?」
「僕は他にも持っているから、一つはセスにやる。……その、植物が好きなんだろう? 生えるかわからんが、やる! ……今までのお詫びだ」
セシル様はぷいっと顔を背けて言ったが、俺は珍しいミシアの種を手に入れて大興奮だ。ミシアの花は乾燥させて輸入される事はあるが、種はほとんど見ることがない。
ミシアの種は持てば持つほど、悪いものを払うと言われている。故にノース王国の人たちはミシアの種が出来たら、翌年植える分を残して、ほとんど全てをお守りにしてしまうからだ。
「セシル様……」
「なんだ? やっぱり、種じゃだめか?」
セシル様は少し不安そうな顔をしたが植物好きな俺は嬉しさのあまり、感謝の気持ちが溢れてセシル様をぎゅっと抱きしめた。
「ありがとうございますっ! すっごく嬉しいです! セシル様、大好きっ!!」
「ななななっ! なんだ、いきなり! 離せぇ!」
俺が叫ぶようにお礼を言うと、セシル様は驚いて手をバタバタと動かした。でも俺は嬉しくってセシル様を離さなかった。
だけどレオナルド殿下が俺の首根っこをガシッと掴んで、セシル様からベリッと離した。
「セス、セシル様が困っているだろう?」
振り返ってレオナルド殿下を見ると、笑顔なのになんだか怒っていた。
え? なんで??
「全くなんなんだッ」
セシル様は顔を赤くして、むすっとした顔で言った。
その顔を見て、俺ははしゃぎすぎてしまった事を自覚した。
「あ、すみません。つい嬉しくて」
俺は頭を掻いて謝った。どうも珍しい植物を見てしまうと自制が利かなくなってしまう。
しかし、そんな俺をレオナルド殿下もセシル様も仕方ない奴、とでも言いたげな目で見詰めた。
いや、普段はこんなんじゃないですよ? ついつい興奮しちゃってね?
俺は心の中で言い訳を呟くが、二人は大きなため息を吐いた。
でもそんな折、セシル様の従者が「そろそろお時間です」と声をかけた。セシル様はこくりと頷き、俺達を見る。
「では、僕はこれで失礼します。お世話になりました。また我が国にも遊びに来てください、レオナルド様」
セシル様ははきはきと言い、レオナルド殿下も「ええ、きっと伺いましょう」と答えた。
やっぱりレオナルド殿下だけをお呼びですよね~。
そう思ったが、セシル様はちらっと俺に視線を向けた。
「セスも……来たかったら、レオナルド様と来てもいいぞ」
「え?」
俺が驚くと、セシル様はにっと笑って「では、また!」と言い、ぺこりと頭を下げて馬車に乗り込んだ。そうして従者の合図でノース王国の一団は動き出し、セシル様は馬車の窓から手を振って去って行った。
……なんだか色々あったけど、お別れは寂しいなぁ。
俺はセシル様を見送り、振り返していた手を下ろして少し寂しく思う。
だが手の平を開いて貰った種を見つめて、俺は笑みを零す。セシル様がくれた親愛の証。
うまく育てられるといいな。
俺は種をぎゅっと握って、一人思う。だが、しかし……。
なんだろうか。隣からすごーーーーーーくっ、不機嫌なオーラを感じる……っ。
「あ、あの、レオナルド殿下?」
恐る恐るちらっと視線を向けると、レオナルド殿下は顔は笑っているのに怒っていた。
「レオナルド殿下、怒ってます?」
「……何かな?」
笑顔のままでレオナルド殿下は俺に言った。でもやっぱり怒っている。
俺、何かしたか? なんでレオナルド殿下は怒ってるんだ??
俺はわからなくて、おどおどとした。でも、そんな俺にレオナルド殿下は呆れたように小さく息を吐き、笑顔から一変、じとっと俺を見た。
俺がレオナルド殿下の不機嫌の理由をわからなかったからだろう。
「セスは酷い男だ」
「へ? 酷い男!?」
言われなき言葉に俺は反論する。だが、レオナルド殿下は言葉を続けた。
「そうだ。私には大好き、なんて言った事ないのにセシル様にはあんな風に簡単に言うなんて」
レオナルド殿下はぶすっと不貞腐れて言い、俺はすぐに声を上げた。
「な! そんな事ないです! 俺だってレオナルド殿下に今までっ……イマまで……イママデ、イッタコトナイデスネ?」
俺は言ったことがあると答えたかったが、思い返せば『大好き!』と言った事はなかった。言われた事は何度もあるのに。
「セスは酷い」
「れ、レオナルド殿下っ」
俺が声をかけるとレオナルド殿下は、ここで今すぐ言って、と目で俺に訴えかけた。
しかし、周りにはセシル様を見送る為に出てきた使用人達がたくさんいる。
う、うーん。と俺は考えた結果、レオナルド殿下の腕をくいくいっと引っ張って耳元に顔を寄せると、小さな声でこそっと伝えた。
「レオ、だ、大好きっ、ですよっ」
レオナルド殿下に俺はどもりながら伝えた。
でも言ったからにはこれで機嫌は直るだろう。親しみを込めて、レオって呼んだし。ふぅっ、やれやれ。
俺はそう思ったのもつかの間。ガシッと両手で顔を包まれると、ぶちゅーっとレオナルド殿下にキスをされた。
「んぷっ! なっ、何を!」
キスされた後、案外すぐに解放された俺は顔を真っ赤にさせてレオナルド殿下を見る。そして視界の端に使用人の皆さんが目に入ったのだが、各々気まずそうな顔をしていたり、顔を赤く染めていた。
は、恥ずかしぃ――!
「ごめん、我慢できなかった」
えへ? とでも言いそうな顔でレオナルド殿下は言い、俺は真っ赤な顔で湯気がいきおいよく出るやかんのようにプピーッ! と怒った。
「もーっ、レオナルド殿下のキス魔!」
俺は思わずそう言ってしまった。だがそんな俺にレオナルド殿下はにこっと笑った。
「おや? 私にそんな事を言っていいのかな? これでも色々と我慢しているんだよ? ……でもそうだなぁ。セスにわかって貰うには体で教えた方がいいのかもしれないね?」
あ、これ、寝た子を起こしたってヤツだ……。
俺はやばい空気を察知して、すぐにレオナルド殿下から離れようとしたが、気が付けばレオナルド殿下に抱き上げられていた。
「ぴゃっ!」
「さぁ、部屋に行こうか、セス。私はキス魔らしいからな?」
「レオナルド殿下、ごめんなさいぃぃーーーっ!」
謝ったけれどレオナルド殿下はそのまま俺を連行し、その後昼過ぎまでベッドでめちゃくちゃに抱かれた。たーーーっぷり体中にキスマークを付けられて。
しかも気を失って、次に目を覚ましたら浴室の中だった。お尻に指を突っ込まれた状態で。
「んぎゃっ! 殿下、何してるんですか!?」
「ん? セスの中を綺麗にしてるんだよ?」
笑顔で言われ、もう一度イかされて、また気を失った俺は固く心に誓った。
もー、殿下ってキス魔だけど、キス魔って二度と言わないっ!
****あとがき****
明日は「殿下、何してるんですか?!」の最終話!
この前、投稿したばかりなのに、あっという間だな~。
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