上 下
86 / 100
続編

66 豊穣祭の翌日 前編

しおりを挟む
 ――――豊穣祭の翌日、いつも通りの朝がやってきた。
 眩しい光を瞼の裏に感じ、目を覚ませば朝日が目に入る。

「んぅ」

 僕は目をぱちぱちっと瞬かせて、それから「ふぁぁっ」と小さくあくびをした。そして目を擦ると自分の肌の色が元に戻っている事に気が付く。

 ……肌、元に戻ってる。あ、髪も。

 僕は長い前髪が黒くなっている事にも気が付いた。これで外に出ても変に思われない。

 ……良かった、元に戻って。いつも翌朝には戻るけど、戻らなかったらすごく困るから。

 なんて僕はまだ寝起きのぽやぽやする頭で考える。でも、不意に横になっていた体を仰向けにすれば、傍にいる人影に本当の意味で目が覚めた。
 なにせ、ベッド側にドレイクが椅子に座って腕を組んだまま眠っていたからだ。

 ……ドレイクッ!?

 僕は驚いて飛び起きる。でもドレイクはぐっすりと眠っているのか、目を瞑ったままだ。

 ……ドレイク、どうしてここに? というか、椅子で眠ってて体は辛くないのかな?

 窮屈そうに眠るドレイクに僕は心配になる。
 そしてドレイクの顔を見ていたら、昨日の夜の事を思い出してきた。
 自分の異形の姿を見られ、それでも変わらずに接してくれたドレイクの事を。

……ドレイク、僕の事、何ともないって言ってくれたな。……けど一晩寝て起きたら、やっぱり違うってなってるかも。

 ドレイクが言ってくれた言葉は嬉しいものばかりだった。だからこそ、また不安になってしまう。ドレイクを信じたいけれど、自分自身でさえ額の瞳は不気味に思っているから。
 僕は閉じている三つ目の瞳をそっと指先で撫でる。
 でも、そうこうしている内にドレイクが目を覚ましてしまった。

「ん……コーディー?」

 ドレイクは身じろぎをして目を開けると、まだ眠そうな目をしながらも僕が起きている事に気が付いた。

「あ……えっと。おはよう」

 先に起きていた僕はとりあえず挨拶をする。するとドレイクはじっと僕を見てきた。

 ……元の姿には戻ったけど、昨日の姿を思い出しているのかな。

 僕の心に不安が過るけどドレイクは「大丈夫そうだな」と呟くと、くわっと大きなあくびをした。それから窓の外の明るさを見て「もう朝か」と言いながら、うなじに手を当てて凝りをほぐすように頭を首を回す。
 まるでいつも通りだ。
 けど、そのあっさりしたドレイクの態度に僕は思わず驚いてしまう。

「ドレイク、昨日の事……覚えてないの?」
「昨日の事? ……ああ、お前がめそめそ泣いた事か?」
「めっ、めそめそなんて泣いてない! ……そのっ、泣いたことは事実だけどぉ」

 からかわれるように言われ、僕は思わずムッとして答える。

「そうじゃなくって、僕の事! この目の事とかっ」

 僕は前髪で隠した額を指差して言った。だけどドレイクの表情は変わらない。

「覚えてる、忘れる訳ねえだろう」

 ドレイクは当たり前だろ、とでも言いたげな顔をした。いつもと変わらないふてぶてしい態度で。
 でもこのふてぶてしさが、なんだか今は嬉しい。

 ……ドレイクは何とも思ってないんだ。

 そう思えたから。

「それよりお前の方こそ寝て俺が言った事、忘れたのか?」

 ドレイクに逆に聞かれて僕は思い出す。ドレイクが僕の姿を構わないと言った事も、僕の事を好きだと言ってくれた事も。
 おかげで僕は少し頬が熱くなる。

「忘れて、ない」
「なら、そういう事だ。だから文通ごっこは終いだぞ。もう待つのは飽きた」

 そうドレイクは言った。その言葉は『一緒に家に帰るぞ』と言っているのと同じで。僕はなんだか嬉しくて、顔がはにかんじゃいそうになる。でも、ぐっと答えて「……うん」と答えた。
 そんな僕にドレイクは手を伸ばし、「コーディー」と言いながら僕の頬を触った。
 でもその途端、体がなんだかおかしくなる。

「んぁっ」

 ドレイクに触れられた途端、体がムズムズッとして、気持ちよくなって、どこからともなく甘い声が出てしまう。なので僕は突然自分から出た声で驚いて慌てて手で口を塞いだ。

 ……なに今の!? なんだか体がムズムズする。まるで、あの例のクッキーを食べた時みたい。

 僕は媚薬が入っていたクッキーを思い出す。でも、今は起きたばかりで何も食べていない。

「おい、やっぱり調子が悪いんじゃないか?」

 変な声を出した僕を見てドレイクはそう言うと、座っていた椅子から腰を上げると心配そうな顔で僕の顔を両手で包んだ。そうされると余計に体がムズムズして、体が熱くなってくる。

「んんぁっ! ……ドレイクっ、手、放してぇ」

 僕が頼むとドレイクはパッと手を離した。すると体のムズムズがちょっと落ち着く。

 ……なんで、体がこんなに? それに……ムズムズするけど、離れたら離れたでドレイクにくっつきたい。

 ドレイクに抱き着きたい衝動が体を巡るが、ドレイクと言えば心配そうな顔で僕を見ていた。

「おい、本当に大丈夫か?」

 ドレイクは僕にそう言うけれど、ドレイクが傍にいるとなんだか襲いたくなってきた。

 ……なんでこんな気持ちにっ!?

 僕は突然自分の中に起こる感情に追いつけなくて困惑する。でもこれだけははっきりしている気がした。

 ……とりあえずドレイクから離れよう。

 僕はそう思ってベッドの隅に移動しようとした。でもドレイクはそんな僕を見逃さず「おい、ちょっと待て」と離れようとした僕の腕を掴む。

「ひゃぁ」

 掴まれたところから気持ちよさが体を巡って、また変な声が出てしまう。

 ……は、早く離れなきゃっ。

「やっぱり、どこかおかしいだろ。こら、逃げるな」

 ドレイクはそう言うと黒猫になった僕を捕まえた時みたいに、ベッドに乗り上げて僕をぎゅっと抱き締めた。すると電撃が体に走ったみたいに、体がムズムズどころかぞくぞくっとして言う事を利かなくなる。

「あぅぅっ」
「コーディー?」

 ドレイクは僕を抱き締めたまま、怪訝な顔で僕を見つめた。琥珀色の瞳がすぐ近くにある。そして薄い唇も。
 その唇を見ていたら、体が勝手に動いてしまった。

「コーディー、どう、ンッ!?」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...