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続編

49 相談 後編

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「――――そ、そんな事がっ」

 ……だからエニス姉さんの態度がなんだか優し気? だったのかな。でも、まさかそんな会話をしていたなんて。ちびっこドレイクがあの夜、僕に告白したのもそういう事があったから? それなら……あの告白は僕の事が好きで? でもきっとちびっこドレイクのは親愛の情ってやつで。けど、大人ドレイクの告白は求愛で……うーん。

 僕は頭を抱え、そんな僕を見てルーシーは微笑んだ。

「ふふふ、青春ねぇ」
「笑い事じゃないよ、ルーシー。僕は断り方を考えてるのにぃ」

 僕が言えば、ルーシーは少し驚いた顔を見せた。

「あらぁ、断るの?」
「それはそうだよ。別に同性愛を否定するわけじゃないけど、僕は男だし、何より相手はあのドレイクだよ? きっと本気じゃないよ」
「なら、本気だったらどうするの?」
「どうするって……どうもしないよ」

 ……ドレイクは僕にだけ傍若無人だし。デリカシーないし。……まあ、怒ったらすぐに謝ってくれるし。優しいところもあるのは知ってるけど。

 僕はこれまでの事を思い返す。でもやっぱり信じられない。

「それに告白した相手が僕だよ? どう考えたって勘違いしてるだけなんだよ」

 ……そう、勘違いなんだ。僕、ドレイクみたいに格好良くないし、魔法だってほとんど使えない。一方で、ドレイクは体格もいいし、顔も美形だ。それに騎士団でも強いみたいだし。……ホント、なんで僕に告白なんかしたんだろ?

 考えれば考えるほどに不思議に思えてくる。
 けど、そんな事を考える僕にルーシーは笑いながら言った。

「あらぁ、ドレイクはコーディーだからこそ告白したんじゃない。私、ドレイクは見る目あるわぁ~って感心したのよぉ」

 ルーシーが真面目に言うから僕は目を丸くする。

「え? 僕のドコに?」
「ふふ、本人はわからないものかもしれないわねぇ」
「いやいや、僕だよ?」
「知ってるわよぉ。コーディーこそ、ちゃぁーんと鏡を見たことある? 柔らかい黒髪に、可愛い小鼻、澄んだ青い瞳に、笑顔はとってもチャーミング。そして、貴方はとっても優しくていい子よ」

 ルーシーはニコニコしながら僕に言った。だから恥ずかしくなる。

「ぼ、僕はそんなんじゃ」
「いいえ、ダブリン達もきっと同じように言うわよぉ?」

 ……うっ、確かに姉さん達も同じように言いそう。でも本当の僕はそんなんじゃないのに。

 くりんくりんの収まらない黒のくせっ毛。小さい鼻、さめざめとした青い瞳。笑った顔なんて別に普通だ。それに僕は優しくもいい子でもない。みんなに嫌われたくないから、そうしてるだけなんだ。

「ルーシーも姉さん達も僕を盲目的に見過ぎてるよ。僕はいい子じゃない」

 僕はハァッとため息交じりに言う。けどルーシーは取り合ってくれなかった。

「そんな事ないわよぉ。でもコーディーには当たり前すぎてわからないのかもしれないわねぇ」
「当たり前すぎて? 一体何の事?」

 僕が尋ねればルーシーはくりっとした青い目でじっと僕を見つめた。

「コーディー、貴方は小さい頃からずっといい子よぉ。この王都に突然連れてこられたのに我儘一つ言わなかったわぁ。恨み言のひとつ、吐いても良かったのに。その上、恩返しのように今はダブリン達のお手伝いをしてる。ダブリン達の名声を借りて、威張ることもできたでしょうに」

 ルーシーはそう言い、僕は眉間に皺を寄せる。

「それは、僕自身の問題だったからだよ。それに恨み言なんか言える立場じゃないし。そもそも僕が姉さん達の手伝いをしてるのは恩返しなんかじゃなくて、僕にはそれぐらいしかできないからでっ。だから姉さん達の名声を借りて威張るなんてとても!」

 そこまで言うとルーシーは堪えきれず、といった様子でクスクスっと笑った。

「ほぅら、やっぱりコーディーはいい子だわぁ」
「ちょ、ルーシー、僕の話聞いてた!?」
「はいはい、ちゃんと聞いていたわよぉ。コーディーがいい子だってことは」
「もぉーっ、だから僕はそんなんじゃないってぇ」

 そう言うのにルーシーはニコニコするばかりで、これは僕の言い分を聞いてくれそうにない。

 ……僕、本当にそんなんじゃないのに。姉さん達もそうだけど、ルーシーも絶対子供の頃から僕を見てるから、なにか特別な補正がかかってるんだ!

「はぁー、もうわかったよ。でも、もし僕がそうならそれはルーシーや姉さん達が僕をそういう風に育ててくれたからだよ」

 僕が何気なく言えばルーシーは目を丸くした。

「ん? どしたの?」
「いえ、やっぱりコーディーはいい子ねぇって思って。ふふっ」

 ルーシーは朗らかに笑いながら言った。

 ……もう、僕のいい子補正、どうにかならないかな。うーん。

 しかし頭を悩ませているとドアがノックされた。そしてルーシーが「どうぞ」と言えばドアが開き、彼がやってきた。

「ああ、コーディー君! ここにいたんだネ! 君が魔研に訪れたと聞いて会いにきたよっ!」

 ゴドフリーさんはニコニコしながら僕に言った。

「ゴドフリーさん、こんにちは。お邪魔してます」

 応接間に現れたゴドフリーさんに僕は挨拶をする。

「いつでも来てくれて構わないよ。それよりコーディー君、今日こそ私の研究室でゆっくりしていかないかい!?」

 ゴドフリーさんは僕に近寄り、僕の手を両手でぎゅっと握った。そして爛々と輝く瞳で聞いてくる。相変わらず圧が怖い。

「あ、えっと、遠慮します。今日はルーシーと話がしたかっただけなので」
「そうよぉ。無理強いは駄目よ、ゴドフリー」
「師匠、そうは言ってもコーディー君は私にとって魅力的な存在で!」
「あー、はいはい。わかったからその手を離しなさい」

 ルーシーは呆れ顔で言い、ゴドフリーさんは握っていた僕の手を離してくれた。ほっ。

「それよりコーディー君が師匠に話って珍しいね。一体何の話をしていたのカナ?」

 ゴドフリーさんに何気なく聞かれ、僕はギクッと肩を揺らす。
 まさか騎士団の色男に告白されて困惑してます、って話をゴドフリーさんにするわけにもいかない。
 なので、僕はどう答えたものかと考えるけど先にルーシーが声を上げた。

「プライベートな事よぉ。それよりコーディー、そろそろ魔塔へ戻った方がいいんじゃないかしら?」

 ルーシーに言われて、応接間に置いてある時計を見れば、ここに来てもう一時間も過ぎていた。
 そろそろ姉さん達のお呼びがかかるかもしれないし、いつまでもルーシーを引き留める訳にもいかない。なので僕は腰を上げた。

「うん、そうだね。そろそろお暇するよ。ルーシー、話を聞いてくれてありがとう」
「いいのよぉ、いつでもいらっしゃい。良い報告をまってるわぁ」

 ルーシーはにこっと笑って言い、僕は言葉に詰まる。

 ……いい報告ってどんな報告を期待してるんだか。

「……考えておきます」

 僕は曖昧に答えて、ゴドフリーさんに挨拶をする。

「じゃあゴドフリーさん、また」

 僕が言えばゴドフリーさんは寂しげな顔をした。

「もう行っちゃうのかい? コーディー君はいつも忙しいなぁ。……ところで、来月の豊穣祭は例年通りいけそうカナ?」

 何気なくゴドフリーさんに尋ねられ僕は「はい」と答えた。

「そうか。今年も楽しみにしているよ!」
「……はい。じゃあ」

 期待の目を向けられ、僕は複雑な気持ちを抱えつつ返事をし、そのまま応接間を出た。

 ……豊穣祭、かぁ。毎年の事だけど苦手だなあ。

 僕は長い前髪で隠している額をひと撫でする。
 でも、今は来月の豊穣祭よりも今日のドレイクだ。

 ……結局どうしたらいいか、答えは出なかったなぁ。ルーシーはなんだかドレイクに好意的だったけど。でも断るしかないし、ドレイクは聞いてくれなさそうだけど。……まあ僕に飽きるまで付き合うしかないのかなぁ。

 そんな事を思いながら僕は魔塔への道を歩く。






 ――――しかしその頃、応接間に残ったルーシーとゴドフリーと言えば。

「師匠、コーディー君は自身の能力の事、まだ好きになれてないようですネ」

 ゴドフリーはコーディーが出て行ったドアを見ながら言い、ルーシーは尻尾をふりふりとしながら答えた。

「仕方ないわよぉ、コーディーはそれで大変な思いをしたんだから」
「私は素晴らしい能力だと思うんだけどナァ。豊穣祭の時だってあんなに」
「受け取り方は人それぞれよ、ゴドフリー。でも……コーディーの気持ちを変えるきっかけが何かあればいいわねぇ」

 ルーシーは願うように呟いた。


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