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続編
49 相談 前編
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――――それからお昼過ぎ、僕は魔研へ訪れていた。
「こんにちはぁ」
扉を開けて入れば、相変わらず魔研で働く魔法使いや魔女さん達が忙しく行き交い、僕はその間を抜けて受付へと向かう。
そして受付には今日もルーシーがいた。
「あらぁ、コーディー。こんにちは、朝にはドレイク、昼にはコーディーが来てくれるなんて嬉しいわぁ」
ルーシーは僕の姿を見るなりそう言った。
……そう言えばドレイク、ルーシーにもお礼を渡すって好物のスモークチキンを買ってたもんな。あの朝の後、ここに来たのかな。意外に義理堅いというか。
なんて思っていると「コーディーは魔塔から何かお届け物?」とルーシーに尋ねられ、僕は首を横に振った。
「いや、違うんだ。ルーシーに相談があって」
僕が言えば、ルーシーはぱちくりと目を瞬かせた。
「あら、アタシに?」
「うん……今、いいかな?」
僕がおずおずと尋ねればルーシーはにこっと笑った。
「勿論、いいわよぉ~。じゃあ、ここじゃなんだから応接間にでも行きましょうねぇ」
ルーシーはそう言うと受付に水晶玉を置き、『受付不在中。御用の方は水晶にご用件を』と書かれていた。
「じゃあ、行きましょうねぇ」
ルーシーは受付からぴょんっと下りて、僕を誘導するように歩いた。そして僕はその後をついて歩き、受付から近い場所にある応接間と書かれた部屋の中に入れてもらった。
「さぁ、そこのソファに座って。紅茶でも飲む?」
ルーシーに聞かれて僕は素直に「うん」と答えた。するとルーシーは浮遊魔法を使って、応接間に用意されているお茶セットで僕に紅茶を入れてくれた。
「はぁーい、どうぞ」
ルーシーはふわふわと浮かしたティーカップを僕が座るテーブルの前に置いた。
なので僕は「ありがとう、ルーシー。頂きます」と言って早速一口頂く。
するとおいしい紅茶に僕はホッとする。そしてルーシーは僕の向かいに座ってから話しかけた。
「で、コーディー。アタシに相談ってどうしたのぉ?」
ルーシーに聞かれて僕はティーカップを置いてから答えた。
「それがね、ルーシー。ドレイクが元に戻ったんだけど……」
僕はそれからドレイクが元に戻り、一緒に暮らすことになった事、告白された事、姉さん達が引き留めない事をルーシーに相談した。
「ドレイクは僕の事を好きって言うけど、きっと子供に戻っていた時の気持ちを引きずってて勘違いなんだ。だけど姉さん達は面白がってて止めないし……ルーシー、どうしたらいいと思う?」
僕がため息交じりに言えばルーシーはにこにこしながら答えた。
「あらぁ、ドレイクと付き合っちゃえばいいじゃない。いい子よ、ドレイク」
「もー、ルーシーまでぇ」
僕はムスッとして口を尖らせる。
……みんなドレイクに騙され過ぎだよ。ドレイク、結構自分勝手なんだよ?!
僕は心の中でそう思うけれど、そんな僕をルーシーは温かい目で見た。
「でも、そうねぇ。コーディーの戸惑う気持ちもわかるわぁ。急に言われても困っちゃうわよねぇ」
「そう、そうなの! しかも姉さん達はなんだかドレイクに好意的だし」
僕がぽそりと言うとルーシーは「ああ、それは仕方がないわよぉ」と言った。
……仕方がないってどういう事?
そう思った事が顔に出ていたのか、ルーシーはニコニコしながら僕に言った。
「あれはねぇ、ドレイクが子供に戻っていた時にコーディーがドローエダに頼まれて街に買い出しに行った時の事よ」
「僕が街に? それって一昨日の事?」
僕はお昼ぐらいに買い出しに行った事をぼんやりと思い出す。でも、だから何だと言うのだろう?
「その時にね、昼食をダブリン達と一緒にとったのだけれど……」
ルーシーは思い出しながら、僕に教えてくれた。
その時に一体、何があったのかを――――。
◇◇
――――お昼時。魔塔の食堂にある円卓には、王城から運ばれた数々の美味しそうな料理がずらりと並んでいた。
そして席には魔女達が座り、不在であるコーディーの代わりにルーシーが。その隣には少し高めの椅子にドレイクがちょこんっと座っている。
でもドレイクの食は進まず、コーディーの代わりにルーシーが盛り付けた取り皿の料理をもそもそと食べるだけ。
そのしょんぼりとした姿に、スモークチキンを齧っていたルーシーはごっくんと飲み込むと、ドレイクに話しかけた。
「ドレイク、食事が進んでないわねぇ。やっぱりコーディーがいないから寂しい?」
ルーシーが尋ねるとドレイクは素直にこくりと頷いた。その様子を見ていたゴールウェイがドレイクに尋ねた。
「ふふっ、寂しいなんてカワイイっ。ドレイクはコーディーが好き?」
「……すき」
ドレイクはぽっと頬を染めて小さく答えた。その愛らしさに円卓に座っていた魔女全員が手を止める。
「あら~っ! じゃあ、コーディーのどんなところが好きなの?」
「……やさしいとこ。……あと、コーディーかわいい」
ゴールウェイの問いかけにドレイクは答えるけれど、更にポポポッと頬を染め、恥ずかしそうだ。そのいじらしい姿に魔女達は微笑ましい目で見つめる。
「そーよね! コーディーは優しいし、可愛いわよね! それに気配り上手だし、実は努力家だし、思いやりもあるし、謙虚で」
「ゴールウェイ、落ち着け」
ゴールウェイがついつい熱弁すると、それをドローエダが止めた。でも代わりにドレイクがぽそっと呟いた。
「……それにコーディー、ぎゅっとしてくれる。いつもいいにおい」
ドレイクが言うとゴールウェイは目をキラキラして楽し気に声を上げた。
「アラ~ッ!! ふふっ、ドレイクは本当にコーディーが好きなのねっ。もう結婚しちゃえばいいのに」
「けっこんってなに?」
その質問に答えたのは先生のルーシーだった。
「ドレイク、結婚っていうのはねぇ。ずっと二人で幸せに暮らしましょうってお約束する事よぉ」
「ずっとふたりで……コーディーと約束したらできる?」
「そうねぇ、『僕と結婚してください』って言ってコーディーが『はい』って答えてくれたらできるわよぉ。でもその前に好きって気持ちを伝えないといけないわねぇ」
「……つたえる」
ドレイクは何やら真剣な面持ちで考え始めた。その表情を見てエニスはゴールウェイにじろっとした視線を向けた。
「おい。ゴールウェイが変な事を言うから、ちびドレイクが考えこんじまっただろ」
「別に変な事なんて言ってないわよ~。真剣に悩んで可愛いじゃない」
「お前、大人のドレイクがどんな奴か知ってるだろ。俺は許さないぞ」
エニスがフンッと鼻を鳴らして言えば、その会話を聞いていたドレイクが悲しそうな顔でエニスを見た。
「……ぼく、コーディーとケッコンしちゃだめなの?」
しょんぼりとした顔をして尋ねられ、さすがのエニスも気まずそうな表情を見せる。
「うっ、いや……しちゃだめだと言う訳じゃないが。……ドレイクが誠実になったら考えなくもない」
「せいじつ……。せいじつになったら、ケッコンしてもいい?」
ドレイクの問いかけにゴールウェイも便乗して「どうなの~?」と聞いてくる。そんなゴールウェイにエニスはまたじろっとした視線を送る。
けれど小さなため息を吐いて、答えた。
「だから考えなくもない、と言っただろう。それにコーディーの気持ち次第だ」
「つまりはオッケーって事よ、ドレイク」
「おい、そこまでは言ってないだろう」
「あら、そう言う事でしょう?」
「あのなぁ!」
二人のトークが段々白熱してきたが、そんな二人を置いてドレイクは他の魔女達に尋ねた。
「ね、ぼく、コーディーとケッコンしてもいい?」
その問いかけに三人の魔女達はそれぞれに答えた。
「コーディーが、したいなら、いい」
「そうだな。エニスも言っていたが、コーディー次第だ。だが、誠実であることも大事だぞ」
「あらあら、ドレイクはコーディーと本気で結婚したいのねぇ。それならルーシーの言っていた通り、好きって気持ちをまずはちゃんと伝えないといけないわ。そして、コーディーが受け入れたなら私達からは何も言う事ないわ」
キラーニ、ドローエダ、ダブリンが伝えるとドレイクは意気込んだ顔で返事をした。
「ぼく、せいじつになって、コーディーに好きって、ケッコンしてっていう!」
ドレイクが宣言するように言い、聞いていたルーシーは微笑ましさにふふっと笑みを零した。
――――それがドレイクが大人に戻る前日、今より一昨日の事だった。
「こんにちはぁ」
扉を開けて入れば、相変わらず魔研で働く魔法使いや魔女さん達が忙しく行き交い、僕はその間を抜けて受付へと向かう。
そして受付には今日もルーシーがいた。
「あらぁ、コーディー。こんにちは、朝にはドレイク、昼にはコーディーが来てくれるなんて嬉しいわぁ」
ルーシーは僕の姿を見るなりそう言った。
……そう言えばドレイク、ルーシーにもお礼を渡すって好物のスモークチキンを買ってたもんな。あの朝の後、ここに来たのかな。意外に義理堅いというか。
なんて思っていると「コーディーは魔塔から何かお届け物?」とルーシーに尋ねられ、僕は首を横に振った。
「いや、違うんだ。ルーシーに相談があって」
僕が言えば、ルーシーはぱちくりと目を瞬かせた。
「あら、アタシに?」
「うん……今、いいかな?」
僕がおずおずと尋ねればルーシーはにこっと笑った。
「勿論、いいわよぉ~。じゃあ、ここじゃなんだから応接間にでも行きましょうねぇ」
ルーシーはそう言うと受付に水晶玉を置き、『受付不在中。御用の方は水晶にご用件を』と書かれていた。
「じゃあ、行きましょうねぇ」
ルーシーは受付からぴょんっと下りて、僕を誘導するように歩いた。そして僕はその後をついて歩き、受付から近い場所にある応接間と書かれた部屋の中に入れてもらった。
「さぁ、そこのソファに座って。紅茶でも飲む?」
ルーシーに聞かれて僕は素直に「うん」と答えた。するとルーシーは浮遊魔法を使って、応接間に用意されているお茶セットで僕に紅茶を入れてくれた。
「はぁーい、どうぞ」
ルーシーはふわふわと浮かしたティーカップを僕が座るテーブルの前に置いた。
なので僕は「ありがとう、ルーシー。頂きます」と言って早速一口頂く。
するとおいしい紅茶に僕はホッとする。そしてルーシーは僕の向かいに座ってから話しかけた。
「で、コーディー。アタシに相談ってどうしたのぉ?」
ルーシーに聞かれて僕はティーカップを置いてから答えた。
「それがね、ルーシー。ドレイクが元に戻ったんだけど……」
僕はそれからドレイクが元に戻り、一緒に暮らすことになった事、告白された事、姉さん達が引き留めない事をルーシーに相談した。
「ドレイクは僕の事を好きって言うけど、きっと子供に戻っていた時の気持ちを引きずってて勘違いなんだ。だけど姉さん達は面白がってて止めないし……ルーシー、どうしたらいいと思う?」
僕がため息交じりに言えばルーシーはにこにこしながら答えた。
「あらぁ、ドレイクと付き合っちゃえばいいじゃない。いい子よ、ドレイク」
「もー、ルーシーまでぇ」
僕はムスッとして口を尖らせる。
……みんなドレイクに騙され過ぎだよ。ドレイク、結構自分勝手なんだよ?!
僕は心の中でそう思うけれど、そんな僕をルーシーは温かい目で見た。
「でも、そうねぇ。コーディーの戸惑う気持ちもわかるわぁ。急に言われても困っちゃうわよねぇ」
「そう、そうなの! しかも姉さん達はなんだかドレイクに好意的だし」
僕がぽそりと言うとルーシーは「ああ、それは仕方がないわよぉ」と言った。
……仕方がないってどういう事?
そう思った事が顔に出ていたのか、ルーシーはニコニコしながら僕に言った。
「あれはねぇ、ドレイクが子供に戻っていた時にコーディーがドローエダに頼まれて街に買い出しに行った時の事よ」
「僕が街に? それって一昨日の事?」
僕はお昼ぐらいに買い出しに行った事をぼんやりと思い出す。でも、だから何だと言うのだろう?
「その時にね、昼食をダブリン達と一緒にとったのだけれど……」
ルーシーは思い出しながら、僕に教えてくれた。
その時に一体、何があったのかを――――。
◇◇
――――お昼時。魔塔の食堂にある円卓には、王城から運ばれた数々の美味しそうな料理がずらりと並んでいた。
そして席には魔女達が座り、不在であるコーディーの代わりにルーシーが。その隣には少し高めの椅子にドレイクがちょこんっと座っている。
でもドレイクの食は進まず、コーディーの代わりにルーシーが盛り付けた取り皿の料理をもそもそと食べるだけ。
そのしょんぼりとした姿に、スモークチキンを齧っていたルーシーはごっくんと飲み込むと、ドレイクに話しかけた。
「ドレイク、食事が進んでないわねぇ。やっぱりコーディーがいないから寂しい?」
ルーシーが尋ねるとドレイクは素直にこくりと頷いた。その様子を見ていたゴールウェイがドレイクに尋ねた。
「ふふっ、寂しいなんてカワイイっ。ドレイクはコーディーが好き?」
「……すき」
ドレイクはぽっと頬を染めて小さく答えた。その愛らしさに円卓に座っていた魔女全員が手を止める。
「あら~っ! じゃあ、コーディーのどんなところが好きなの?」
「……やさしいとこ。……あと、コーディーかわいい」
ゴールウェイの問いかけにドレイクは答えるけれど、更にポポポッと頬を染め、恥ずかしそうだ。そのいじらしい姿に魔女達は微笑ましい目で見つめる。
「そーよね! コーディーは優しいし、可愛いわよね! それに気配り上手だし、実は努力家だし、思いやりもあるし、謙虚で」
「ゴールウェイ、落ち着け」
ゴールウェイがついつい熱弁すると、それをドローエダが止めた。でも代わりにドレイクがぽそっと呟いた。
「……それにコーディー、ぎゅっとしてくれる。いつもいいにおい」
ドレイクが言うとゴールウェイは目をキラキラして楽し気に声を上げた。
「アラ~ッ!! ふふっ、ドレイクは本当にコーディーが好きなのねっ。もう結婚しちゃえばいいのに」
「けっこんってなに?」
その質問に答えたのは先生のルーシーだった。
「ドレイク、結婚っていうのはねぇ。ずっと二人で幸せに暮らしましょうってお約束する事よぉ」
「ずっとふたりで……コーディーと約束したらできる?」
「そうねぇ、『僕と結婚してください』って言ってコーディーが『はい』って答えてくれたらできるわよぉ。でもその前に好きって気持ちを伝えないといけないわねぇ」
「……つたえる」
ドレイクは何やら真剣な面持ちで考え始めた。その表情を見てエニスはゴールウェイにじろっとした視線を向けた。
「おい。ゴールウェイが変な事を言うから、ちびドレイクが考えこんじまっただろ」
「別に変な事なんて言ってないわよ~。真剣に悩んで可愛いじゃない」
「お前、大人のドレイクがどんな奴か知ってるだろ。俺は許さないぞ」
エニスがフンッと鼻を鳴らして言えば、その会話を聞いていたドレイクが悲しそうな顔でエニスを見た。
「……ぼく、コーディーとケッコンしちゃだめなの?」
しょんぼりとした顔をして尋ねられ、さすがのエニスも気まずそうな表情を見せる。
「うっ、いや……しちゃだめだと言う訳じゃないが。……ドレイクが誠実になったら考えなくもない」
「せいじつ……。せいじつになったら、ケッコンしてもいい?」
ドレイクの問いかけにゴールウェイも便乗して「どうなの~?」と聞いてくる。そんなゴールウェイにエニスはまたじろっとした視線を送る。
けれど小さなため息を吐いて、答えた。
「だから考えなくもない、と言っただろう。それにコーディーの気持ち次第だ」
「つまりはオッケーって事よ、ドレイク」
「おい、そこまでは言ってないだろう」
「あら、そう言う事でしょう?」
「あのなぁ!」
二人のトークが段々白熱してきたが、そんな二人を置いてドレイクは他の魔女達に尋ねた。
「ね、ぼく、コーディーとケッコンしてもいい?」
その問いかけに三人の魔女達はそれぞれに答えた。
「コーディーが、したいなら、いい」
「そうだな。エニスも言っていたが、コーディー次第だ。だが、誠実であることも大事だぞ」
「あらあら、ドレイクはコーディーと本気で結婚したいのねぇ。それならルーシーの言っていた通り、好きって気持ちをまずはちゃんと伝えないといけないわ。そして、コーディーが受け入れたなら私達からは何も言う事ないわ」
キラーニ、ドローエダ、ダブリンが伝えるとドレイクは意気込んだ顔で返事をした。
「ぼく、せいじつになって、コーディーに好きって、ケッコンしてっていう!」
ドレイクが宣言するように言い、聞いていたルーシーは微笑ましさにふふっと笑みを零した。
――――それがドレイクが大人に戻る前日、今より一昨日の事だった。
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