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続編

10 お手製トマトソーススパゲッティ

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「ーーーーさぁ、出来ましたよ!」

 僕はダイニングテーブルにどんっとお皿に乗っけたお手製のトマトソーススパゲッティを置いて言った。
 ドレイクはすでにソファから席を移動して、ダイニングテーブルの椅子に座っている。

「うまそうだな」

 ドレイクは僕の作った料理を前に言った。不味そうとでも言われたら、なんとしてでも家から追い出したところだが、うまそうだと言われて悪い気はしない。

「食べていいか?」
「……どうぞ」

 不本意ながらも僕が言えば、ドレイクはフォークを手に取り、くるくるとスパゲッティをたっぷり巻いて大きな口を開けて食べた。なんとも豪快な食べ方だ。なんて思っているとドレイクが驚いた顔を見せた。

「お前、やっぱり料理がうまいな」

 ドレイクはそう言うと、もう一口、二口と食べていく。どうやら僕の作ったスパゲッティを気に入ったようだ。気持ちのいい食べっぷりに僕は思わず見とれてしまうが、その本人に声をかけられた。

「食べないのか?」
「あ、いえ。食べます」

 僕はそう答えて、「今日の糧に」とお祈りを捧げるとフォークを手に取る。
 目の前にはたっぷりのベーコンとブロッコリー、バジルと新鮮なトマトソースがかかっているスパゲッティ。
 僕はくるくるっとフォークでパスタを巻いて、ぱくっと食べた。

 ……うん、おいしい!

 僕は心の中で自分のことを誉める。そして、もくもくと食べ進めるが。

 ……そういえば、こうして誰かとご飯を食べるのは久しぶりだなー。姉さん達とも最近は食べてなかったし。……ん? というか、姉さん以外の人とご飯を食べるのって初めてかも? ……でもその相手がこの人。

 なのでちょっと嬉しいような、嬉しくないような複雑な気分になる。でもそんな僕の視線を感じたのか、ドレイクは僕を見た。

「なんだ?」
「いえ……」

 僕が曖昧に返事をするとドレイクは変な奴だな、とでも言いたげに片眉を上げた。でも僕はそれを無視して、ぱくぱくっとスパゲッティを食べ進める。けれど、ドレイクは食べながらも僕に話しかけた。

「こんな風にいつも自分で料理をしてるのか?」

 尋ねられて、僕は何気なく答える。

「まあ……。たまには外で食べたりしますけど」
「それでローレンツの店か」

 ドレイクがあんまりにも親し気に呼ぶので僕ははたと考える。

 ……随分と親し気に呼ぶなぁ。そういえば、ローレンツさんに頼まれて僕を送ったって言ってたよな? ということは、ローレンツさんと親しいのかな? 呼び捨てで呼ぶくらいだし。

「あの、ローレンツさんとは知り合いなんですか?」
「あいつとは幼馴染だ」
「幼馴染!」

 ……いいなー! 幼馴染の男友達!

 友達が欲しいと常々思っているが、姉さん達に育てられ、周りにあまり男っ気がなかった僕にとって男友達というのはもはや憧れの存在だった。

 ……姉さん達が悪いって訳じゃないけど、やっぱり同い年の男友達っていいなぁ。僕も欲しいけど、僕に声をかけてくるのは姉さん達に用がある人ばっかりだし。……ん? まあドレイクは僕自身に用があったけど。

 そう思いつつドレイクに視線を向けるけど僕に近寄ってきた内容がアレなので、やっぱり嬉しくない気持ちになる。

 ……ドレイクはローレンツさん、幼馴染だっていうけど、最初はどうやって友達になったんだろう?

 考えると気になってしまい、僕はドレイクに尋ねてみた。

「あの、ドレイクさん」
「あん?」
「ローレンツさんとはどうやって友達になったんですか?」

 僕の質問にドレイクは不思議そうな顔をした。

「どうやって? 幼馴染だと言っただろう」
「それは聞きましたけど、知り合うきっかけがあったわけでしょ?」

 僕が聞けば、ドレイクは昔を思い出してる顔をした。

「別の知り合うきっかけもなにも、あいつと俺は同じ孤児院育ちだ」
「孤児院かぁ」

 ……それなら気が付いたら傍にいたって感じなのかな? いや、でも他にも子供がいたはずなのに今でも仲良しってことはやっぱり何か特別な繋がりが。

 なんて考えているとドレイクは僕をじっと見ていた。

「……なにか?」
「いや、孤児院育ちについて何もないのかと」
「別に?」

 ……何もって、何かあるのかな?

「お前は同情したり、蔑んだりしないんだな」
「え、同情?」
「孤児院育ちだと言えば、態度を変える奴もいる」
「どうして態度を変える必要が?」
「どうしてって」

 ドレイクは戸惑う顔をして僕に言う。でもなんで戸惑う顔をするんだろう?

「だって、どこで生まれたって、どこで育ったって、その人の善し悪しはその人自身の問題じゃないですか?」

 ……そもそも僕の体をつけ狙う人にどう同情しろと。

 僕はじとっとドレイクを見る。でもドレイクはフッと笑って「そうだな」と小さく答えた。しかし、何か気になったようで僕をじっと見る。

「なんですか?」
「そういえばお前は魔女達に育てられたんだったな。だがどうして魔女達に? お前の親はどうしている?」

 ドレイクに聞かれて僕は一瞬言葉に詰まる。でも誤魔化した。

「そ、そんな事どうでもいいでしょ! それより食べ終わったんじゃ?!」

 僕はドレイクの前にある空になったお皿を見て言う。

「あ、ああ。美味かった。ごちそうさま」

 ドレイクは妙なところで律儀にお礼を言い、僕はちょっと嬉しくなる。でも、それとこれとは別だ。

「さあ、食べ終わったんならお帰り願えますか?」

 僕はにっこりと笑って玄関を指差した。そうすればドレイクは詰まらなさそうな顔を僕に見せる。

「お前って意外と強引だと言われないか?」

 ……ハイーッ!? あなたにだけは言われたくアリマセンよッ!

 僕は微笑んでいる顔が引きつりそうになる。しかしドレイクは「まあ、約束は約束だからな」と言うと席を立ち、皿を持ってキッチンへ向かった。

「片付けてから帰る」
「いいえ。大丈夫ですので!」

 僕がハッキリと言うとドレイクは暫しの沈黙の後「わかったよ」と言うと、すごすごと玄関へと向かう。僕はスパゲッティがまだほんの少し残っていたけれど、席を立ってドレイクを見送る。
 というか、ちゃんと家から出るのを見届けねば!

「では、お気をつけて」

 僕は玄関先で、やっと帰るドレイクの後姿を見ながらにこやかな笑顔で告げる。そんな僕にドレイクは振り向くと憎たらし気に僕を見た。

「全く、嬉しそうな顔をしやがって……。ところでコーディー、明日は休みか?」
「は、明日ですか? 日曜日なので休みですけど」

 突然の質問に僕は安易に答えてしまった。そして、その答えを聞くとドレイクはにこぉっと嫌な笑みを見せた。

 ……な、なんなのっ。

 僕は背筋がぞくっとするけれど、ドレイクは「そうか」と言うと玄関のドアノブに手をかけた。なので、もう帰るのだと僕はホッとする。それがぬか喜びだとも知らないで。

「じゃあな、コーディー」
「ええ」

 僕は返事をするとドレイクはドアを開けて、ようやく帰って行った。そしてドアが閉まると同時に僕はすぐに鍵をしっかりとかけて、「はぁーっ」と思いっきり息を吐く。

 ……ようやく帰ってくれたぁー。なんだかんだと言って『まだ居させろ』とか言われるかと思ったけど、意外とあっさり帰ってくれてよかった。

 僕は心底胸を撫でおろす。しかしドレイクとの最後のやり取りが妙に気になった。

 ……僕が休みだと何だって言うんだろう。なんで、あんな確認を……まさか、明日も家にやってきたりしないよね?

 そう思うが今までのドレイクを思い出し、朝から家に押しかけてくる未来が何となく浮かんでしまった。

 ……うぅ、ドレイクならこっちの事情もお構いなしに朝からやってきそう。……朝からあの人の相手なんて面倒だよ。こうなったら明日は朝から魔塔に逃げ込もう! あの人でも魔塔には入ってこれまい。

 僕は明日の予定を早々と決める。本当は買い出しやら、家の掃除やらをしたかったが、それはまた別の日だ。
 そしてそうと決まれば、今日は早くお風呂に入って寝る事に限る。
 僕は席に戻り、冷えてしまった残りのスパゲッティを食べる。でも食べながら、不意にドレイクの食べっぷりが思い出された。

 ……めちゃくちゃな人だけど、あんな風においしそうに食べてくれたのはちょっと嬉しかったな。

「へへっ」

 僕は思わずはにかみながら残りのスパゲッティを口に運ぶ。
 そして食べ終わった後は、お皿を片付けて、早々にお風呂に入り、寝巻に着替えて歯磨きをした。
 もう寝る準備は万端だ。


 ――――――でも、そんな時、それはやってきた。

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