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第七章 竜使いの問題 ~停止条件~

幻術士

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「そんなこんなデカい通路、
 さっき通った時に、
 見落としていたなんてありえない」

 アシュリーが益々混乱し
 髪をくしゃくしゃにする。
 少し前まで虚空であったはずの場所に、
 アナは丹念に意識を尖らせる。

「魔法を使った痕跡がまだ残っています。
 さっきは全く感じなかったのに……」

 アナの発言にルロイは答えを見出す。
 あるはずのない道が、
 突然現れた訳ではない。
 魔法が解除されたことで
 元の状態へ戻ったに過ぎないのだ。
 ならば前来た時にはこの通路は
 魔法を用いて隠蔽されていたことになる。
 その答えが意味するものは。

「久しぶりだな、イカレニンジン頭ぁ」

 やけに尊大で気取った声が響いた。
 その変なあだ名については、
 十中八九ギャリックに向けた罵倒だろう。

「プルァギャア!!
 その名で俺を呼ぶとはテメェ!」

 ギャリックが罵倒の主に吠える。

「グハハハ吾輩だよ吾輩、ホークウッドだ。
 いや、久しいな~脳筋ニンジン頭君」

 馬鹿笑いと共に、
 鷹のような鼻をした壮年の男が、
 ルロイたちが見落としていた
 通路をもったいつけて降りてくる。
 板金性の鎧。
 サーリット式の兜のバイザーを
 気取って上げると、
 蔑みにみちた表情でギャリックと
 その仲間達を鼻で笑う。

「知り合いですか、リック?」

「ああ昔、組んでいた冒険者仲間よ」

 どこぞの騎士崩れか、
 貧乏貴族の子弟がそのまま、
 冒険者になったようなまぁ、
 レッジョではよくいる手合いだった。
 ホークウッドと名乗る男に続いて
 その仲間らしい冒険者たちが、
 三人警戒しながら各々得物を構えて現れ
 ホークウッドの脇を固める。
 妙な螺旋文様の眼鏡を掛けた
 下卑た笑みを浮かべた小男の魔導士に、
 暗い装束と複数のタガーを装備した
 殺気に満ちたシーフの少女、
 異国風の槍穂の付いた長弓を構える
 冷徹な眼差しのダークエルフの女性。
 皆それぞれに一筋縄で行かない、
 強者のオーラが漂っていた。

「諸君、もしかしてこれをお探しかな?」

 ホークウッドがルロイたちに、
 これ見よがしに腕を掲げてみせる。
 その手中には赤く艶めく
 瑞々しい果実がそこにあった。

「まさかあれは天泣グリードチェレステ!」

 アシュリーがしてやられたと叫ぶ。
 ホークウッドの手の中に林檎のような、
 果実があった。
 ルロイはそう言うカラクリかと、
 ホークウッドを睨む。

「もしやあなた方も、
 僕たちと同じ条件でグラモフさんから、
 このダンジョンに挑戦している
 冒険者ではありませんか?」

「グァハ、今更気付いてなんとする?」

 ルロイの詰問にホークウッドが
 つまらなそうに肩をすくめる。

「条件付きの法律行為において、
 僕たちとあなた方は同じ当事者です。
 つまり、僕たちが条件が成就する事で、
 不利益を受けるあなた方は
 僕たちの条件成就を故意に
 妨げたことになる」

 それから先はルロイが
 何を言いたいかを察したのか、
 ホークウッドは馬鹿笑いを引っ込めて、
 すました顔でルロイたちに背を向ける。

「フン、これさえ手に入れば。
 下郎共に用はない。
 吾輩は無駄な闘いはせぬ主義だなのだ。
 ではサ~ラバ~」

 他の仲間達も、
 ホークウッドの合図に従い撤退する。

「待て、逃がさないよ!」

 アシュリーが槍を構え、
 ホークウッドに迫る。
 直後、長弓を構えていた
 ダークエルフの弓使いが、
 威嚇の一矢を放つ。
 これ以上踏み込むなら次は容赦しない
 という事らしい。
 ギャリックが構わず双剣を抜き、
 構わず逃げようとするホークに迫る。

「ダンジョンで真っ先に逃げ出して、
 いつも仲間に戦わせばかりの
 チキンホークさんよぉ」

 図星を突かれてか、
 一瞬ホークは足を止め、
 ギャリックに振り返る。

「その名で呼ぶな……」

 ギャリックの意趣返しに、
 掛ったホークが睨み返すと同時、
 ギャリックが獰猛な嘲笑を
 浮かべて飛び掛かる。

「ピャルルガー
 いくぜぇ、
 ヘタレのチキンホーク!」

 シーフの少女とダークエルフの弓使いが、
 立ちはだかる。
 弓使いが弓に取り付けた槍の穂先を、
 突撃するギャリクに向け双剣による
 突撃を受け止める。
 どうやら間合いに応じて
 弓にも槍にも使える柔軟な武器らしい。
 その隙にシーフががら空きになった
 ギャリックのわき腹を狙い
 握ったダガーを振りかぶる。

 ルロイがシーフのダガーの握られた手に、
 ケープを投げつけ斬撃を
 寸でのところで阻止する。

「まったく、やっぱりこうなるんですね」

 チンクエデアを抜き、
 ルロイもシーフと切り結び、
 ギャリックに助太刀する。

「オッサン。早くあいつを追ってくれ」

 アシュリーも槍で突貫し、
 ダークエルフの戦士と得物を
 ぶつけ合い正面から激突する。

「ヒャーもちろんよ。
 やっぱテメェはホークじゃなく
 チキン野郎おぉ!」

 小太りの魔導士と共に逃げるホークを
 ギャリックは狩人の表情で追ってゆく。

「アナはリックを補佐して下さい。
 多分、あの魔導士が……」

 そこまで言って、
 ルロイの言葉はダガーの一撃で、
 遮られてしまう。
 おしゃべりをしている余裕は
 微塵もなさそうだ。

「はっ、はい!」

 必死に自らを奮い立たせ、
 ロッドを握りしめながらアナは、
 ギャリックの背を追いかける。
 
「ヒャァ、今夜は
 チキンウッドのブッた切りぃ!」

 全力疾走でホークの背に追いついた
 ギャリックが吠えた切り、
 双剣による回転斬りを見舞う。
 直後、何かが光ったような
 煌きが生じホークの姿は消え失せ、
 ギャリックの剣は虚しく空を切る。 

「なんだ。消えた!」

 バランスを崩しギャリックは、
 たたらを踏んでしまう。

「グハハハ、どこを見ている脳筋め!」

 ホークが消えた場所から右斜め後ろから、
 馬鹿笑いをするホークと、
 回転する眼鏡を掛けた魔導士が姿を現す。
 ギャリックに追いついたアナが、
 ホーク傍らで気色悪く笑っている。
 アナはロッドを掲げ光らせ、
 魔導士の周辺に漂う独自の
 霊気の流れを確かめる。

「やっぱり、今の幻術は、
 いいえ今までのも全部あなたが
 仕掛けたんですね」

 少し離れた場所で
 なぜか戦いに加わるでもなく、
 高みの見物をしている小太りの魔導士が、
 螺旋型の眼鏡レンズを回転させ、
 アナに不敵に笑う。

「デュフフ、なんのことなのねん。
 お嬢ちゃん?」

 魔導士がヌメリとアナに笑いかけ
 小馬鹿にしたようにしらを切る。

「ヒヒャア、
 どんな小細工をしようが、
 腐れチキンをぶった斬って
 お宝を奪えば万事解決よぉ!」

 いきり立ち罵倒を続けるギャリックに、
 ホークも堪忍袋の緒が切れたか、
 すまし顔を崩し遂に剣の柄に手をかける。

「無能な貴様にチキン呼ばわり
 されるのもいい加減、癪に障るな」

「プルヒャア!じゃあどうする。
 チキンホークに俺が殺れんのかぁ?」
 
「いいだろう、
 たまには正々堂々と、
 ここで貴様に引導を渡してやろう」

 これまでとは打って変わって、
 ホークが真正面から
 ギャリックに斬りかからんと、
 剣を構える。

「ヒッシャアァ、上等だコラァ!」

 少しばかり見直したとばかり、
 ギャリックが楽し気な笑みを浮かべ、
 自らも正面から飛び掛かる。
 アナがロッドを掲げ場の霊気を、
 集めを何かを読み取る。

「気を付けて下さい!相手は……」

 アナがギャリックに忠告を
 しようとした直後、
 魔導士の男の眼鏡のレンズが回転し、
 光った気がした。
 瞬間、ギャリックの後方から
 ホークの勝ち誇った声が響く。

「残念だったな。吾輩は冷静なのだよ」

 ギャリックの剣がまたも虚空を斬る。

「挑発に乗せられたのは、
 吾輩ではなく貴様の方なのだ」

「ひっ!」

 アナが短く悲鳴を上げる。
 いつの間にかギャリックの後方に、
 移動していたホークは、
 アナを後ろから拘束し剣の白刃を、
 アナの首筋に添えている。
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