上 下
43 / 86
第五章 ノーヴォヴェルデ ~無権代理人~

エピローグ ゾンビパウダーの応酬

しおりを挟む
 植物ゾンビの騒動から数日後。
 あれからアナが定期的に雑用を
 こなしてくれるおかげで、
 ルロイとしては久方ぶりに
 ゆったり紅茶をたしなんでいられる。
 午後のティータイムをそろそろ切り上げる
 かと思った矢先に玄関のベルが鳴る。 

「おや、リーゼさん」

「こんにちは、ルロイ・フェヘール。
 今回はモリーが世話になったね。
 その挨拶回りで寄っただけさぁ」

 リーゼはルロイに丁重に頭を下げると、
 意味深な笑いを浮かべる。

「まぁ、その前に世間話をしておくが、
 ドルップの商館にあった文言。
 新生なる緑ノーヴォヴェルデあれなんだと思う?」

 ちょっとした謎かけをリーゼは
 楽しんでいるようであった。

「植物ゾンビを作るための
 魔法薬ではないのですか?」

「それも間違いではないんだが……
 まぁ、植物ゾンビを崇める
 新手の宗教セクトと言ったらいいかな」

「市参事会が危険視する
 邪教のたぐいでですか」

「お堅い言い方をすりゃあね。
 連中はレッジョは古の聖域であり、
 冒険者や住人がいない緑に地にする。
 それが新生なる緑ノーヴォヴェルデ
 教義らしいんだけど詳しいことは私でも
 分らん。ドルップはその有力な
 シンパの一人ってこと位かね」

 ドルップが植物ゾンビ化し、
 倒されてしまった以上、
 なぜそんな破滅思考に身を
 委ねてしまったのか知る由はない。

「さんざん悩んだが、
 今回発明したアレは、
 没にしたよ」

 リーゼの声色には少しだけ
 憂いを帯びていた。

「やっぱり、今回の植物ゾンビのことで」

「まだ、アレは世に出すには早い。
 いつか時代が私の発明に
 追いつくか分からないけどね。
 何より今回はモリーに辛い思いを
 させてしまったからねぇ。
 最初から私が矢面に立てば
 良かったんだろうけど、
 この難局をあの子なりに
 どう切り抜けるのかつい、
 観察してみたくなってさぁ……
 結果あの有り様さ」

 ドルップの目的が結局
 植物ゾンビによるレッジョの緑化なら、
 契約不履行による損害賠償など、
 リーゼの発明品を手に入れる脅しの口実
 に過ぎず、モリーが取引に応じようが
 いまいがどの道ドルップは、
 どんな手を用いてもリーゼの薬液を
 手に入れる腹積もりだったのだろう。
 初めからモリーに背負わせるには、
 無理のある問題であった。 

「なんだかんだ言って最後は
 モリーさんを助けるつもりだったですね」

「当り前だ。あれほど私の実験に
 従順な利便的実験動物は
 そうそういない逸材だぞ。
 今後とも末永く有効活用
 するつもりだとも」

 リーゼにこうまで
 真顔でハッキリ言われると、
 ルロイは照れ隠しなのか
 本心なのか分からなくなる。

「ゲスいですね」

「なんか言ったかい」

 色んな意味でモリーが、
 不憫に思えてきたルロイに、
 もう一つの悪い予感がよぎる。

「まさか、アナに住み込みを
 勧めたのも……」

「優秀なネクロマンサーを
 人体実験に使える機会なんて、
 滅多にあるもんじゃないからねぇ」

 いつものおぞましい笑みで、
 リーゼがクックと笑って見せる。

「冗談だよ」

 例によってドン引きしている
 ルロイにリーゼが愉快そうに吹き出す。

「……に見えませんよ」

 一人寂しい個人事務所が、
 アナのおかげで少しは華やかに
 なりそうだったが、
 結果としてルロイの心配事が
 増えてしまった気分である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~

笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。 鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。 自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。 傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。 炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

収監令嬢は◯×♥◇したいっ!・おまけのおまけ

加瀬優妃
ファンタジー
『収監令嬢は◯×♥◇したいっ!』の後日談には入れられなかったものです。 ※その後SS:後日談以降のSS。その後の様子をちらほらと。コメディ寄り、軽め。 ※蛇足の舞台裏~神々の事情~:『収監令嬢』の舞台裏。マユの知らない真実・シリアス。完全に蛇足です。 ※アフターエピソード:本編・後日談には現れなかった『彼女』の話。 ※表紙は「キミの世界メーカー」で作成しました。 ※せっかくセルフィスを作ったので表紙に貼りたかっただけです(こればっかりや)。

世界樹とハネモノ少女 第一部

流川おるたな
ファンタジー
 舞台は銀河系の星の一つである「アリヒュール」。  途方もなく大昔の話しだが、アリヒュールの世界は一本の大樹、つまり「世界樹」によって成り立っていた。  この世界樹にはいつからか意思が芽生え、世界がある程度成長して安定期を迎えると、自ら地上を離れ天空から世界を見守る守護者となる。  もちろん安定期とはいえ、この世界に存在する生命体の紛争は数えきれないほど起こった。  その安定期が5000年ほど経過した頃、世界樹は突如として、世界を崩壊させる者が現れる予兆を感じ取る。  世界を守るため、世界樹は7つの実を宿し世界各地に落としていった。  やがて落とされた実から人の姿をした赤子が生まれ成長していく。  世界樹の子供達の中には、他の6人と比べて明らかにハネモノ(規格外)の子供がいたのである。  これは世界樹の特別な子であるハネモノ少女の成長と冒険を描いた壮大な物語。

とある辺境伯家の長男 ~剣と魔法の異世界に転生した努力したことがない男の奮闘記 「ちょっ、うちの家族が優秀すぎるんだが」~

海堂金太郎
ファンタジー
現代社会日本にとある男がいた。 その男は優秀ではあったものの向上心がなく、刺激を求めていた。 そんな時、人生最初にして最大の刺激が訪れる。 居眠り暴走トラックという名の刺激が……。 意識を取り戻した男は自分がとある辺境伯の長男アルテュールとして生を受けていることに気が付く。 俗に言う異世界転生である。 何不自由ない生活の中、アルテュールは思った。 「あれ?俺の家族優秀すぎじゃね……?」と……。 ―――地球とは異なる世界の超大陸テラに存在する国の一つ、アルトアイゼン王国。 その最前線、ヴァンティエール辺境伯家に生まれたアルテュールは前世にしなかった努力をして異世界を逞しく生きてゆく――

蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく
ファンタジー
|神代《かみよ》の時代から、創造主:Y.O.N.Nと悪魔の統括者であるハイヨル混沌は激しい戦いを繰り返してきた。 その両者の戦いの余波を受けて、惑星:ジ・アースは4つに分かたれてしまう。 それから、さらに途方もない年月が経つ。 復活を果たしたハイヨル混沌は今度こそ、創造主;Y.O.N.Nとの決着をつけるためにも、惑星:ジ・アースを完全に暗黒の世界へと変えようとする。 ハイヨル混沌の支配を跳ね返すためにも、創造主:Y.O.N.Nのパートナーとも呼べる天界の主である星皇が天使軍団を率い、ハイヨル混沌軍団との戦いを始める。 しかし、ハイヨル混沌軍団は地上界を闇の世界に堕とすだけでなく、星皇の妻の命を狙う。 その計画を妨害するためにも星皇は自分の妾(男の娘)を妻の下へと派遣する。 幾星霜もの間、続いた創造主:Y.O.N.Nとハイヨル混沌との戦いに終止符を打つキーマンとなる星皇の妻と妾(男の娘)は互いの手を取り合う。 時にはぶつかり合い、地獄と化していく地上界で懸命に戦い、やがて、その命の炎を燃やし尽くす……。 彼女達の命の輝きを見た地上界の住人たちは、彼女たちの戦いの軌跡と生き様を『蒼星伝』として語り継ぐことになる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...