上 下
17 / 86
第二章 錬金術師と赤い竜 ~秘密遺言~

エピローグ 後継者

しおりを挟む
そして、数日後……
あの後パウルとモニカらは、
遺産相続できず
意気消沈しているかと思いきや、
あの赤い竜の花火を見て、
新たな商品開発に閃きが浮かんだのか、
再び新たな公示鳥のモデルと
魔法感知薬の開発に勤しんでいるらしい。
前向きと言うか懲りてないと言うか。
ルロイは内心呆れつつも、
レッジョの人間らしいなと、
不思議と頼もしく思うのであった。

「昨日のあの花火、マジパネェよ!
 本当、凄かったぜ!」

「創造せし英明ヘルマンの、
 誉れ高き後継者リーゼ様万歳!」

「魔女だの淫売だのと言ってごめんよ。
 今までアンタを誤解してたんだ……」

 市井の風評とやらも著しく変化に
 富むものらしく、
 リーゼの忌まわしい評価も
 一夜明けると一変しているのだった。
 数日後、ルロイの事務所を訪ねてきた
 リーゼはどこか浮かない表情で
 いることがルロイには気がかりであった。

「リーゼさん。すごい人気ぶりですね」

 ルロイの言葉に
 リーゼは自嘲気味に笑った。

「ああ、ジジイの気持ちがわかったよ。
 こりゃ確かに嫌になるかもねぇ」

 それまで愉快そうに切れ長の瞳を、
 切なげに細めしおらしく物思いに
 耽っているらしかった。
 心なしかルロイには今のリーゼが、

「これでよかったのか?」

 と、天に召されたヘルマンに
 問うているように見えた。
 それも筋金入りの研究者である
 リーゼには似つかわしくないと
 自覚しているのだろう。
 その切なげな表情は一瞬のことであった。
 次の瞬間にはいつもの、
 ふてぶてしい勿体つけた
 表情に戻っていた。

「と言う訳で、
 今度はあの花火を題材にして、
 誰でも広範囲に及ぶ上位攻撃魔法を、
 公示鳥の原型である骨組みに
 動力源として火属性の魔法を込め、
 相手方へ特攻させる。その名も
 『特攻機甲鳥獣フェニックス』を、
 鋭意開発中なんだが当然ここで
 特許申請してくれるんだよねぇ。
 ルロイ・フェヘール?」

 切れ長の緑の瞳が、
 新しい悪戯でも思いついたかのように、
 ルロイを一瞥する。
 どうやら懲りていないのは、
 やはりパウル達よりもリーゼらしい。

「もう好きにして下さい」

「あっそ……ならば、
 好きにさせてもらうぞ」

 ルロイの投げやりな言葉に、
 嗜虐的な琴線を刺激されたのか、
 リーゼは邪悪な笑みを浮かべて
 手元のスイッチを押した。

「そらぁ!」

 その蠱惑的な響きと共に、
 鳥形の造形物が爆音と共に響き渡る。
 瞬間、紅蓮の炎が視界を覆い、
 炎をまとった公示鳥らしい影が、
 事務所の天井めがけ勢いよく
 跳躍して羽ばたいたのだった。

「どうだ、あの花火ほどじゃないが、
 なかなかに画期的だろう!
 私の自信作なんだ」

 盛大な爆発音とともに紅蓮の炎が、
 事務所の屋根に広がってゆく。

「ちょっと。事務所の屋根
 焼かないで下さい!」

 今日も今日とてこんな日常が続いてゆく。
 そんな慌ただしい珍事続きの
 「レッジョの日常」が、
 ルロイは存外うんざりしつつも
 気に入っていたのであった。
 つまりはこういうことだ――――
 今日もレッジョの一日が始まる。
 日常とは素晴らしい。
 ルロイは苦笑いの底にこの街と、
 そこに住まう人々への
 腐れ縁のような親愛を、
 見出していたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~

笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。 鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。 自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。 傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。 炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

収監令嬢は◯×♥◇したいっ!・おまけのおまけ

加瀬優妃
ファンタジー
『収監令嬢は◯×♥◇したいっ!』の後日談には入れられなかったものです。 ※その後SS:後日談以降のSS。その後の様子をちらほらと。コメディ寄り、軽め。 ※蛇足の舞台裏~神々の事情~:『収監令嬢』の舞台裏。マユの知らない真実・シリアス。完全に蛇足です。 ※アフターエピソード:本編・後日談には現れなかった『彼女』の話。 ※表紙は「キミの世界メーカー」で作成しました。 ※せっかくセルフィスを作ったので表紙に貼りたかっただけです(こればっかりや)。

とある辺境伯家の長男 ~剣と魔法の異世界に転生した努力したことがない男の奮闘記 「ちょっ、うちの家族が優秀すぎるんだが」~

海堂金太郎
ファンタジー
現代社会日本にとある男がいた。 その男は優秀ではあったものの向上心がなく、刺激を求めていた。 そんな時、人生最初にして最大の刺激が訪れる。 居眠り暴走トラックという名の刺激が……。 意識を取り戻した男は自分がとある辺境伯の長男アルテュールとして生を受けていることに気が付く。 俗に言う異世界転生である。 何不自由ない生活の中、アルテュールは思った。 「あれ?俺の家族優秀すぎじゃね……?」と……。 ―――地球とは異なる世界の超大陸テラに存在する国の一つ、アルトアイゼン王国。 その最前線、ヴァンティエール辺境伯家に生まれたアルテュールは前世にしなかった努力をして異世界を逞しく生きてゆく――

蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく
ファンタジー
|神代《かみよ》の時代から、創造主:Y.O.N.Nと悪魔の統括者であるハイヨル混沌は激しい戦いを繰り返してきた。 その両者の戦いの余波を受けて、惑星:ジ・アースは4つに分かたれてしまう。 それから、さらに途方もない年月が経つ。 復活を果たしたハイヨル混沌は今度こそ、創造主;Y.O.N.Nとの決着をつけるためにも、惑星:ジ・アースを完全に暗黒の世界へと変えようとする。 ハイヨル混沌の支配を跳ね返すためにも、創造主:Y.O.N.Nのパートナーとも呼べる天界の主である星皇が天使軍団を率い、ハイヨル混沌軍団との戦いを始める。 しかし、ハイヨル混沌軍団は地上界を闇の世界に堕とすだけでなく、星皇の妻の命を狙う。 その計画を妨害するためにも星皇は自分の妾(男の娘)を妻の下へと派遣する。 幾星霜もの間、続いた創造主:Y.O.N.Nとハイヨル混沌との戦いに終止符を打つキーマンとなる星皇の妻と妾(男の娘)は互いの手を取り合う。 時にはぶつかり合い、地獄と化していく地上界で懸命に戦い、やがて、その命の炎を燃やし尽くす……。 彼女達の命の輝きを見た地上界の住人たちは、彼女たちの戦いの軌跡と生き様を『蒼星伝』として語り継ぐことになる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

処理中です...