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9.王子の悪事を暴け

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「大丈夫ですか?」

 その時不意に背後からマーティン王子とは別の低い声が響いた。ルキだ。

 瞬間マーティン王子の私の顎を掴む手の力が弱まり、マーティン王子は驚いたようにルキの方を振り返る。


「あなたは騎士団の……。僕に何の用だ」

「ルキと申します。マーティン王子と気づかず、うちの団員が迫られて困っているように見えたのでお声がけしてしまいました」

「イルアが困ってるだと?」

「はい……。僕の目にはそう見えましたが、違いましたか?」


 マーティン王子は決まりが悪そうに唇を噛む。

 さすがに公に話を強引に進めることはしなさそうだ。

 マーティン王子は少し参ったように小さく息を吐き出すと、外面のいい声で口を開いた。


「違いますよ。僕は彼女と今後について話し合っていただけです」

「今後について……」

「君も知っての通り彼女は僕の大切な婚約者だからね」


 ルキはその言葉に面食らったような顔をして、僅かに眉を寄せた。

 それも当然だろう。マーティン王子が私に向かって婚約破棄してきたことは周知の事実なのだ。

 それがいつのまにか私がまたマーティン王子の婚約者になっているだなんて誰が想像ついただろう。

 マーティン王子は勝ち誇ったような笑みをルキに向けると、颯爽と歩いていった。


 少しの間の後にルキが私に話しかける。


「マーティンとまた婚約することになったのか?」


 ルキにそう問いかけられて私は思わず肩を震わせた。

 マーティン王子の話の流れから、私はまたマーティン王子と婚約せざるを得ないのだろう。
 けれど私は、またマーティン王子の婚約者になりたいわけではない。
 むしろなりたくないのだ。
 きっと彼と結ばれたって、ろくなことがないのは目に見えている。

 ルキにはあまりマーティン王子とのことは知られたくなかったが、こうなってしまっては仕方がない。

 だって今のままでは、私はマーティン王子に逆らうことができないのだから。

 私は心の内を打ち明けるようにルキに話していた。

 婚約破棄を突然言い渡された話から、公には知られていない私が卒業後に偽の同窓会の招待状を送られて、マーティン王子の指示により襲われそうになったことを……。

 ルキは私が話している間、神妙な顔持ちで耳を傾けてくれた。
 そして私が全てを話し終えた時、私の両肩に手を添えて真剣に口を開いた。


「その話が本当なら、マーティン王子がイルアを襲わせた証明をしよう。そして、マーティン王子の悪事を暴こう」

「でも、そんなこと……」

「俺も一応同じ学園の卒業生だ。学園の知り合い繋がりで証拠をあぶり出してやる。マーティン王子が黒だとはっきり証明できれば、きっとこの婚約は完全に白紙に戻るだろうし、マーティン王子もこれ以上好き勝手できないはずだ」


 マーティン王子には二つ年下の優秀な弟がいる。現時点で王家の長男のマーティン王子が後継者になっているが、マーティン王子の悪事を証明できればその話すら覆ることになるだろう。


「イルア、一緒に戦おう?」


 上手くいくのかと不安になる中、ルキは私に優しく語りかける。
 私はルキを信じて力強く返事を返した。


「うん……!」
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