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第16話 女子高生の行方不明事件ってどうなったんだっけ?
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それから二週間、マールムは現れなかった。
もちろんそれはいいこととはいえ、手持ち無沙汰というのも困る。
時給をいただきながら、勉強をするのは心苦しい。私には魔法少女だけではなく、「社畜」の才能もあるのかもしれない。
とはいえもうすぐ期末テストなので、勉強できることは、助かるといえば助かる。
「来ないということは、活力を蓄えているのかもしれまんよ。油断はできません」
東山ハンドラーにそう言われて、気を引き締める。
そのとたん、オペレーションルームに警報音が鳴り響く。
「ココロンさん、この場所へ!」
「トランスフォルマーレ! ムーヴェンズ!」
目の前にまた二人の男たちがいた。
「お前も懲りないな」
それはこっちのセリフだ。
「あなたたちこそ、なんでこんなことやってるの?」
思わず聞いてしまった。
「なんだ、知らないのか。いいや、やっちまえ」
今度も二人の男を投げ飛ばし、どこかへ瞬間移動させる。
口ほどにもない奴め、なんていうセリフが頭に浮かんだところで、目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。
あ、これ、人が出てくるところだ。
それなら先手必勝だ。
男たちが出てくるところに、手を向けて詠唱する。
ところが向こうもそう考えたようで、出てきながら私に向かって詠唱する。
「「ムーヴェンズ!」」
双方の詠唱が重なる。
一瞬光に包まれ、私は思わず目をつぶる。
恐る恐る目を開くと、私は元の金庫室にいた。
マールムの男たちの姿はない。
どうやら「ムーヴェンズ」合戦に勝ったようだ。これがコスチュームの力なのね。
もう男たちは帰ってこなかったので、私も本部帰還した。
本部での待機中に勉強がはかどったせいか、期末テストは無事乗り切った。
勉強も任務も順調。バイト代も結構貯まった。
社会経験のためにバイトをやろうとしたら、予想外の社会経験を積むことになった。
「魔法少女になって悪の組織と戦う」という、現実世界ではまず経験しないことがこれからの人生にどう役に立つのかわからないものの、バイト代は確実に私の役に立つ。
これまでスマホやパパのお下がりのコンデジで写真を撮ってきたけれど、せっかくのバイト代なので、デジタル一眼を買おうと思う。
そのカメラを持って、夏休みはいろんなところに写真を撮りに行くんだ。写真部のみんなで、海や山へ行くのもいいかもしれないわ。
この調子で、高校一年生の夏休みを思いっきり充実させるんだ。楽しみ!
「銀行の金庫からの現金紛失事件は引き続き起きていますが、最近は事件の発生頻度が少なくなっています」
「一時期大きく増えた一件当たりの紛失金額も、最近はかなり減っているそうです」
「とはいえ紛失の原因は依然わかっておらず、どの銀行の内部調査でも原因究明には至っていません」
「警視庁では捜査本部の規模を更に拡大していますが、手がかりは全くなく、捜査の手詰まり感は拭えません」
「次は金の価格のニュースです。今年前半は上昇を続けてきた金相場が、最近は落ち着きを見せています。専門家は、一時期頻繁に行われた多額の買い付けが一段落したことが原因とみており……」
もうすぐ夏休みというある日、家でパパとママと夕食を食べながらニュースを観ていたら、現金紛失のニュースをやっていた。
これ、私がガッチリ関係していて、ていうか、被害低減は私が頑張った結果だし、犯人も知ってるんだよ!ってパパとママに自慢したいけれど、もちろんできない。
私が好きな魔法少女ものでも、魔法少女の正体は秘密というのが定番ね。
ヒロインは人知れず世の中のために戦うのよ。
「そうそう、ニュースと言えば」
パパがそう言ったので、ちょっとビクッとした。
「春頃にニュースでよくやっていた、女子高生の行方不明事件ってどうなったんだっけ?」
あ、あれ、どうなったんだろう。
「最近は起きていないわね。でも、見つかったってニュースも観てないわ。心配よね」
ママもそう続けた。
「バイト帰りに行方不明になったって言ってたから、パパとママも心配しているんだぞ」
「そうよ、バイトが終ったら、まっすぐ帰りなさいよ」
「わかってるって、寄り道しないでいつもまっすぐ帰ってるよ」
あの頃、私が気にしていたのは、同じ女子高生の行方不明だった。
あれから自分の身に降りかかったことがあまりにも規格外で、行方不明事件はいつの間にか忘れてしまっていた。
行方不明になったのは、確か三人だったっけ。
バイト帰り……もし私がマールムとの戦いの中で、どこか帰れないところへ瞬間移動させられたら、やっぱり行方不明ってことになるのかな。
ティーツィア、いや、「スペシャルバイト社」は、どう両親に説明するんだろう。当社の業務中に行方不明、なんて説明できないよね。
「いつも通りにバイトを終えてお帰りになりました。当社としても心配しております」
そんな風にすっとぼけるのだろうか。
あの箕輪さんたちはそんなことはしないだろう。でも、ティーツィアプロジェクトは秘匿されている。万が一のときはどうするのだろう。
いや、そんなことを心配しても仕方ないわ。
マールムから世界を救おうと日々努力している人たちを、疑うことなんてできない。
きっと行方不明なんてことは起きないのだろう。
今まで魔法少女が行方不明になったとは聞いていないし、先輩たちはいたけれど、みんな引退して元の生活に戻っているって箕輪さんは言っていた。
「こころ、どうしたの? 食事中に考え事をして。行方不明事件がやっぱり心配?」
ママが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「あ、ママ、ごめんね。バイト代でどんなカメラを買おうかって考えていたの」
「おいおい、こころ、こっちはおまえのことを心配してるっていうのにおまえといったら。でも、カメラ、何を買おうと思ってるんだい。パパが選んであげようか」
パパは写真を撮るのが大好き。私が写真部に入ったのはパパの影響だ。
「もう、パパはいつになっても子供扱いするんだから。カメラくらい自分で選べるわよ」
「そうよ、パパ。そろそろ子離れしなさいな」
いつもと変わらない、我が家の明るい食卓だ。
もちろんそれはいいこととはいえ、手持ち無沙汰というのも困る。
時給をいただきながら、勉強をするのは心苦しい。私には魔法少女だけではなく、「社畜」の才能もあるのかもしれない。
とはいえもうすぐ期末テストなので、勉強できることは、助かるといえば助かる。
「来ないということは、活力を蓄えているのかもしれまんよ。油断はできません」
東山ハンドラーにそう言われて、気を引き締める。
そのとたん、オペレーションルームに警報音が鳴り響く。
「ココロンさん、この場所へ!」
「トランスフォルマーレ! ムーヴェンズ!」
目の前にまた二人の男たちがいた。
「お前も懲りないな」
それはこっちのセリフだ。
「あなたたちこそ、なんでこんなことやってるの?」
思わず聞いてしまった。
「なんだ、知らないのか。いいや、やっちまえ」
今度も二人の男を投げ飛ばし、どこかへ瞬間移動させる。
口ほどにもない奴め、なんていうセリフが頭に浮かんだところで、目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。
あ、これ、人が出てくるところだ。
それなら先手必勝だ。
男たちが出てくるところに、手を向けて詠唱する。
ところが向こうもそう考えたようで、出てきながら私に向かって詠唱する。
「「ムーヴェンズ!」」
双方の詠唱が重なる。
一瞬光に包まれ、私は思わず目をつぶる。
恐る恐る目を開くと、私は元の金庫室にいた。
マールムの男たちの姿はない。
どうやら「ムーヴェンズ」合戦に勝ったようだ。これがコスチュームの力なのね。
もう男たちは帰ってこなかったので、私も本部帰還した。
本部での待機中に勉強がはかどったせいか、期末テストは無事乗り切った。
勉強も任務も順調。バイト代も結構貯まった。
社会経験のためにバイトをやろうとしたら、予想外の社会経験を積むことになった。
「魔法少女になって悪の組織と戦う」という、現実世界ではまず経験しないことがこれからの人生にどう役に立つのかわからないものの、バイト代は確実に私の役に立つ。
これまでスマホやパパのお下がりのコンデジで写真を撮ってきたけれど、せっかくのバイト代なので、デジタル一眼を買おうと思う。
そのカメラを持って、夏休みはいろんなところに写真を撮りに行くんだ。写真部のみんなで、海や山へ行くのもいいかもしれないわ。
この調子で、高校一年生の夏休みを思いっきり充実させるんだ。楽しみ!
「銀行の金庫からの現金紛失事件は引き続き起きていますが、最近は事件の発生頻度が少なくなっています」
「一時期大きく増えた一件当たりの紛失金額も、最近はかなり減っているそうです」
「とはいえ紛失の原因は依然わかっておらず、どの銀行の内部調査でも原因究明には至っていません」
「警視庁では捜査本部の規模を更に拡大していますが、手がかりは全くなく、捜査の手詰まり感は拭えません」
「次は金の価格のニュースです。今年前半は上昇を続けてきた金相場が、最近は落ち着きを見せています。専門家は、一時期頻繁に行われた多額の買い付けが一段落したことが原因とみており……」
もうすぐ夏休みというある日、家でパパとママと夕食を食べながらニュースを観ていたら、現金紛失のニュースをやっていた。
これ、私がガッチリ関係していて、ていうか、被害低減は私が頑張った結果だし、犯人も知ってるんだよ!ってパパとママに自慢したいけれど、もちろんできない。
私が好きな魔法少女ものでも、魔法少女の正体は秘密というのが定番ね。
ヒロインは人知れず世の中のために戦うのよ。
「そうそう、ニュースと言えば」
パパがそう言ったので、ちょっとビクッとした。
「春頃にニュースでよくやっていた、女子高生の行方不明事件ってどうなったんだっけ?」
あ、あれ、どうなったんだろう。
「最近は起きていないわね。でも、見つかったってニュースも観てないわ。心配よね」
ママもそう続けた。
「バイト帰りに行方不明になったって言ってたから、パパとママも心配しているんだぞ」
「そうよ、バイトが終ったら、まっすぐ帰りなさいよ」
「わかってるって、寄り道しないでいつもまっすぐ帰ってるよ」
あの頃、私が気にしていたのは、同じ女子高生の行方不明だった。
あれから自分の身に降りかかったことがあまりにも規格外で、行方不明事件はいつの間にか忘れてしまっていた。
行方不明になったのは、確か三人だったっけ。
バイト帰り……もし私がマールムとの戦いの中で、どこか帰れないところへ瞬間移動させられたら、やっぱり行方不明ってことになるのかな。
ティーツィア、いや、「スペシャルバイト社」は、どう両親に説明するんだろう。当社の業務中に行方不明、なんて説明できないよね。
「いつも通りにバイトを終えてお帰りになりました。当社としても心配しております」
そんな風にすっとぼけるのだろうか。
あの箕輪さんたちはそんなことはしないだろう。でも、ティーツィアプロジェクトは秘匿されている。万が一のときはどうするのだろう。
いや、そんなことを心配しても仕方ないわ。
マールムから世界を救おうと日々努力している人たちを、疑うことなんてできない。
きっと行方不明なんてことは起きないのだろう。
今まで魔法少女が行方不明になったとは聞いていないし、先輩たちはいたけれど、みんな引退して元の生活に戻っているって箕輪さんは言っていた。
「こころ、どうしたの? 食事中に考え事をして。行方不明事件がやっぱり心配?」
ママが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「あ、ママ、ごめんね。バイト代でどんなカメラを買おうかって考えていたの」
「おいおい、こころ、こっちはおまえのことを心配してるっていうのにおまえといったら。でも、カメラ、何を買おうと思ってるんだい。パパが選んであげようか」
パパは写真を撮るのが大好き。私が写真部に入ったのはパパの影響だ。
「もう、パパはいつになっても子供扱いするんだから。カメラくらい自分で選べるわよ」
「そうよ、パパ。そろそろ子離れしなさいな」
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