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第14話 私が世の中のためになった! これが魔法少女だ!

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 こころが本部を出たあと、東山が箕輪に話しかける。
「これでまたマールムの企みを防ぐようになれますね」
「ココロンを養成している間、やられ放題でしたからね」

「彼女はどれくらいもつことができるでしょうか?」
「さあ。テイルによる研修を取り入れた成果を期待したいわね。いままでみたいな何の心得もない子とは違うでしょう。少なくても次の戦力が育つまではもってくれないと、マールムがますます力を蓄えてしまうわ」

「テイルが戦力にならないことがわかったときは正直がっがりしました。彼女が戦力になってくれれば、この間の奴らの企みをもう少し防ぐことができたはずなのに」
「まあ、過去は仕方ありません。それより、早く次の戦力の育成に取りかからないといけません。いくらココロンが頼りでも、毎日出勤はさせられません」

「親御さんに不審に思われてはなりませんね」
「ええ、このまま彼女には、できるだけ長く働いてもらわないといけません」
「せっかく我々がここまで育てましたしね」

「そうね。正直いつまでもつかわからないとしても、今は彼女だけが頼りです。彼女を使っている間に、なんとか戦力を増やして毎日カバーできる体制を作りましょう」
「前も体制を作れたと思ったら、ああなってしまったのは残念でした」

「私たちの育成も甘かったかもしれませんね。適性のある少女を探すことは難しいのはよくわかっていますが、毎日カバーでき、いずれは『いつでも替えがきく』状況に、一日も早くもっていきましょう」
「はい、私も頑張ります。私たちの同胞と、私たちの世界を守るために」

 次の出勤日、学校のあと私は緊張して本部に出勤した。
 今までの研修とは違い、今日からは実戦だ。
 時給もちょっとだけ上がった。
 それに、マールム阻止一件ごとに手当も出るそうだ。

「今日からはこの部屋で待機し、私の指示により現場に出てもらいます」
 東山さんが案内してくれたのは、パソコンのモニターがずらっと並んでいる部屋。
 ここはオペレーションルームというとのこと。
 数人の男女がモニターを眺めている。

「この人たちはマールムの探知が仕事で、ディテクターと呼んでいます。彼ら彼女らがマールムが瞬間移動のウィースの行使を検知すると、モニター上に表示が出ます。私はその表示と私自身が検知したことを合わせて、『出撃』すべき状況か判断します」

 そういえば、最初会ったときに、東山さんはハンドラーって紹介されたっけ。
「私はどうしていればいいですか」
活力ヴィガーの問題もありますから、マールムもそうしょっちゅう現金強奪を企む訳ではありません。空振りの日もありますよ。私が出撃の指示をするまでは、本を読んでいてもスマホをいじっていてもいいですよ。その間も時給はお支払いします」

「じゃあ、学校の宿題をやっていてもいいですか?」
「さすが優秀な学生さんだけありますね」
 実は私は学校の成績はそこそこいい。だけどそこまで調べてはいないだろうから、お世辞と取っておこう。

「変身はしておいた方がいいですか?」
「その方がすぐに出撃できますが、魔法少女の姿で学校の宿題ってできますか?」
 魔法少女姿で教科書を開く自分を想像した。

「いや、そんな非日常の姿で、日常の固まりのような宿題をやるのは難しそう……」
「まあ、いつでも出撃できる気持ちでいてくれればいいですよ」

 最初はモニターや東山さんの姿が気になって宿題が進まなかったものの、すぐに慣れた。
 この適応能力の高さでここまでこれたのだろうな。
 適応し過ぎっていう気もしなくはない。

 夜九時まで待っても、実戦出勤最初の日はマールムは現れなかった。
「今日はお疲れさまでした。今日はここまでにしましょう。奴らも活力ヴィガーを蓄える時間が必要でしょうからね、次に期待しましょう。いや、奴らが現れなければそれにこしたことはありませんが」
 東山さん、いや、東山ハンドラーがそう言い、この日の仕事は終った。

 その次の出勤日も、またその次の出勤日もマールムは現れなかった。
 本当にマールムっているの?
 もしかしたら、私、箕輪さんたちに担がれている?
 魔法少女ヲタの女子高生で遊んでいる?

 そんな思いが待機中に頭をよぎったある日、オペレーションルームに警報音が鳴り響いた。
「マールムが現れました!」
「複数名のウィースの行使を検知しました」
「山の手銀行の四谷支店です! モニターに表示しました」
 ディテクターの人たちの声が響く。 

「これは間違いない。ココロンさん、モニターを見て場所をしっかりイメージして飛んでください!」
 東山ハンドラーの指令が降りた。
 よし、行くぞ。

「トランスフォルマーレ! ムーヴェンズ!」
 即座に魔法少女に変身し、モニターに示された場所を、そして金庫室をイメージして瞬間移動を行う。

 一瞬意識が飛んだと思ったら、私はある部屋の中にいた。
 紙の束がたくさん積まれている。
 これが金庫室の中なのか。

 そして目の前に黒ずくめの男が二人いた。マスクをしているので表情は見えないが、こっちを見て一瞬動きが止った。
 この二人がマールムか!

「ティーツィアか!」
「また出てきたか!」
「やっちまえ!」

 そう言って一人が飛びかかってきた。
 よし、習った通りだ。
 飛びかかってきた男の手を掴み、投げ飛ばす。
「ムーヴェンズ!」

 倒れたところに手を向けて、二人ともどこかへ瞬間移動させる。
 やった、仕留めた! 任務成功だ!
 私が世の中のためになった!
 これが魔法少女だ!

 嬉しさで思わずガッツポーズをして、金庫室内でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
 非常ベルが鳴り響く。
 あれっ、私が飛び跳ねたので鳴らしちゃった?

 それとも初の任務に夢中で、鳴っていたのに気が付かなかった?
 ベルの音で我に返った私は、マールムの二人が戻ってこないことを確かめたあと、瞬間移動で本部に帰還した。
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