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第11話 双丘だって、その頂の美しさで比べれば私の完敗
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次の土曜日、私は恐る恐るつくし先生の家兼道場を訪れた。
「いらっしゃいませ!」
いい加減いかつい男たちの出迎えはやめてほしい。
「今日はこっちよ」
つくし先生がそう言って、私を道場ではなくて家の方へ案内した。
徹夜で乱取りじゃないのかな。それならよかった。
「藤ヶ谷さん、いらっしゃい」
玄関でつくし先生そっくりの可愛い女性が出迎えてくれた。
姿形がつくし先生とほぼ同じ。
「あ、藤ヶ谷こころです。つくしさんにはいつも会社でお世話になっているだけじゃなくて、護身術も教えていただいています。つくしさんのお姉様ですか?」
「あらいやだ、つくしの母よ。そしてこっちがつくしの父」
「つくしの父です。バイト先で友だちができたって、いつもつくしが喜んでいますよ」
いつも門で出迎えてくれる男たちより、更に体格のよい男性がそう言った。
えっ、お母様とお父様?
どう見てもお嬢様とその護衛としか見えないわ。
それにしても、お母様の遺伝子強すぎ。それにお母様若過ぎ。
ちなみに、私たちは親しいバイト仲間ということになっている。間違ってはいない。
「じゃあ、私の部屋へ行くわ」
「夕ご飯ができたら呼びますね。ご飯ご一緒しましょ」
「は、はい、ありがとうございます」
つくし先生の部屋はパステルカラーで内装が統一された、ファンシーな雰囲気。クマや犬のぬいぐるみもたくさん置かれている。
大きなベッドは天蓋付きで、レースのカーテンがかかっている。
天蓋付きって、お姫様か。
「何?」
「え、いや、つくし先生にぴったりのお部屋のような、そうじゃないような」
「何よそれ」
お茶の用意がしてある、小さなテーブルに向かい合って座る。
「お母様、つくし先生そっくりでしたね。お父様は何というかその……」
「ヒグマみたいな立派な体格でしょ。父は先代家元、つまり私の祖父の二番弟子よ」
「一番弟子は?」
「もちろん母よ。父はどうしても母に勝てなかったし、今も勝てないわ」
「体格は全然違うのに」
「言ったでしょ、大切なのは『気』だって。それと、夕ご飯は父が作っているわ。今日は張り切っていたから楽しみにしていてね」
「二番弟子だから夕ご飯を作っているの?」
「そうじゃないわ。料理ではどうしても母は父に勝てなかったの。うちは実力勝負の家だから」
「つくし先生は何を担当しているの?」
「お風呂掃除よ。これは誰にも負けないわ」
私は家ではたまに何か手伝うくらいで、決まった役割はない。反省、反省。
夕ご飯は、ここはフランス料理屋さんかと思う豪華なフルコースだった。
ダイニングテーブルも何人座れるのっていう大きなところに、つくし先生一家と私の四人。
とてもおいしかった。ただ、割烹着(あんなに大きなサイズの割烹着があるとは知らなかった)を着たお父様が給仕してくれたミスマッチ感が半端なかったわ。
「つくしはひとりっ子なのでね、寂しい思いをさせてしまっているんだよ」
「こころさん、道場だけではなく、いつでも家の方にも遊びに来てくださいね」
お父様お母様にそう言われたけれど、ティーツィアプロジェクトのことは内緒だよね。
お腹いっぱいになって、つくし先生の部屋に戻った。
幸せな気持ちでいっぱいになったけれど、戦闘研修の仕上げって何だったのだろう。
まさかこれから乱取りってやらないよね。リバースしそう。
そしたら戦闘研修の仕上げっていつ、何をやるんだろ。
そんなことを考えていたら、つくし先生がこう言った。
「さあ、研修の仕上げ、鍛錬その一よ。お風呂に行きましょ」
お風呂?
「あ、私、ご家族のみなさんが済ませたあとでいいですよ」
「何言ってるの。研修って言ったでしょ。さ、行くわよ」
お風呂で研修? まさかと思うけれど、裸で乱取りなんてしないよね。
それに普通の家のお風呂って、そんなことができる広さはないし。
ここは普通の家じゃなかった。
お風呂は女湯と男湯が分れている、旅館みたいな大きさ。
「弟子のみんなが泊まり込み合宿をすることがあるからね。今日はほかの人はいないわ」
脱衣場ではついついつくし先生を凝視してしまう。
抱きしめ合った感触は柔らかだったけれど、実は脱いだら凄かったりして(筋肉的に)。
「何見てるの?」
「いや、どれだけ筋肉付いているのかと思って」
「見てもいいけど、言ったでしょ、『気』が大切だって」
確かに無駄なお肉は付いていなかった。かと言って筋肉質って感じは全くなく、キュートって感じのお体だった。
私は二つの丘では勝ってはいるけれど、あちこちお肉が付いているのでトータルでは大敗。
双丘だって、その頂の美しさで比べれば私の完敗。
ここは潔く負けを認めて、つくし先生との入浴を楽しもう。
いや、でも、研修って言ったよね。
「ほら、早く」
私も急いでお風呂場に向かう。
広い洗い場に、サウナも付いている。銭湯か温泉場かここは。
しっかり掛け湯をしてから、二人並んで大きな湯船に浸かる。
「あ、あの、ここで鍛錬ってどうするんですか?」
「あなたにもっと『気』を分け与えるの」
抱きしめ合って呼吸を合わせるあれを、ここで、裸でやるってこと?
心臓が耐えられそうもない。
「そ、それは……」
「正確には、あなたがもっと『気』を受け取れるように鍛えてあげるわ」
「受け取れるように?」
「そう、サウナへ行きましょ」
ホッとしたような、残念なような。
サウナでも二人並んで座る。
ハンドタオルを腿の上に置いているだけなので、二人とも流れる汗がよくわかる。
それにしても、つくし先生、私にピタッとくっついている。
「ここで抱き合ったら、汗でヌルヌルになっちゃうから、この姿勢で呼吸を合わせてね」
つくし先生が息を吐き出すのに合わせて、私が息を吸い込む。
ただ、サウナの中は息苦しい。
「きちんと正面を見て、背中をピンと張って。そうしたら大きく空気を吸い込めるわ」
正面を見たら、汗が流れるつくし先生の肌が見えない……じゃない。
でも、これが鍛錬なのね。
五分ほどしっかり呼吸をしてから、サウナを出る。
「このあとは水風呂ですか?」
「水風呂は慣れない人もいるから、うちはぬるま湯ね」
ぬるま湯につかって一息ついたあと、サウナに戻る。
これを三回繰り返した。
三回目はかなりしっかり呼吸ができた気がした。
「ととのいました~」
「あのね、ととのいに来たんじゃないわよ」
そのあと髪や体を洗って、もう一度大きな湯船に浸かって、「お風呂鍛錬」はおしまい。
背中の流しあいっこはやらなかったよ。
「いらっしゃいませ!」
いい加減いかつい男たちの出迎えはやめてほしい。
「今日はこっちよ」
つくし先生がそう言って、私を道場ではなくて家の方へ案内した。
徹夜で乱取りじゃないのかな。それならよかった。
「藤ヶ谷さん、いらっしゃい」
玄関でつくし先生そっくりの可愛い女性が出迎えてくれた。
姿形がつくし先生とほぼ同じ。
「あ、藤ヶ谷こころです。つくしさんにはいつも会社でお世話になっているだけじゃなくて、護身術も教えていただいています。つくしさんのお姉様ですか?」
「あらいやだ、つくしの母よ。そしてこっちがつくしの父」
「つくしの父です。バイト先で友だちができたって、いつもつくしが喜んでいますよ」
いつも門で出迎えてくれる男たちより、更に体格のよい男性がそう言った。
えっ、お母様とお父様?
どう見てもお嬢様とその護衛としか見えないわ。
それにしても、お母様の遺伝子強すぎ。それにお母様若過ぎ。
ちなみに、私たちは親しいバイト仲間ということになっている。間違ってはいない。
「じゃあ、私の部屋へ行くわ」
「夕ご飯ができたら呼びますね。ご飯ご一緒しましょ」
「は、はい、ありがとうございます」
つくし先生の部屋はパステルカラーで内装が統一された、ファンシーな雰囲気。クマや犬のぬいぐるみもたくさん置かれている。
大きなベッドは天蓋付きで、レースのカーテンがかかっている。
天蓋付きって、お姫様か。
「何?」
「え、いや、つくし先生にぴったりのお部屋のような、そうじゃないような」
「何よそれ」
お茶の用意がしてある、小さなテーブルに向かい合って座る。
「お母様、つくし先生そっくりでしたね。お父様は何というかその……」
「ヒグマみたいな立派な体格でしょ。父は先代家元、つまり私の祖父の二番弟子よ」
「一番弟子は?」
「もちろん母よ。父はどうしても母に勝てなかったし、今も勝てないわ」
「体格は全然違うのに」
「言ったでしょ、大切なのは『気』だって。それと、夕ご飯は父が作っているわ。今日は張り切っていたから楽しみにしていてね」
「二番弟子だから夕ご飯を作っているの?」
「そうじゃないわ。料理ではどうしても母は父に勝てなかったの。うちは実力勝負の家だから」
「つくし先生は何を担当しているの?」
「お風呂掃除よ。これは誰にも負けないわ」
私は家ではたまに何か手伝うくらいで、決まった役割はない。反省、反省。
夕ご飯は、ここはフランス料理屋さんかと思う豪華なフルコースだった。
ダイニングテーブルも何人座れるのっていう大きなところに、つくし先生一家と私の四人。
とてもおいしかった。ただ、割烹着(あんなに大きなサイズの割烹着があるとは知らなかった)を着たお父様が給仕してくれたミスマッチ感が半端なかったわ。
「つくしはひとりっ子なのでね、寂しい思いをさせてしまっているんだよ」
「こころさん、道場だけではなく、いつでも家の方にも遊びに来てくださいね」
お父様お母様にそう言われたけれど、ティーツィアプロジェクトのことは内緒だよね。
お腹いっぱいになって、つくし先生の部屋に戻った。
幸せな気持ちでいっぱいになったけれど、戦闘研修の仕上げって何だったのだろう。
まさかこれから乱取りってやらないよね。リバースしそう。
そしたら戦闘研修の仕上げっていつ、何をやるんだろ。
そんなことを考えていたら、つくし先生がこう言った。
「さあ、研修の仕上げ、鍛錬その一よ。お風呂に行きましょ」
お風呂?
「あ、私、ご家族のみなさんが済ませたあとでいいですよ」
「何言ってるの。研修って言ったでしょ。さ、行くわよ」
お風呂で研修? まさかと思うけれど、裸で乱取りなんてしないよね。
それに普通の家のお風呂って、そんなことができる広さはないし。
ここは普通の家じゃなかった。
お風呂は女湯と男湯が分れている、旅館みたいな大きさ。
「弟子のみんなが泊まり込み合宿をすることがあるからね。今日はほかの人はいないわ」
脱衣場ではついついつくし先生を凝視してしまう。
抱きしめ合った感触は柔らかだったけれど、実は脱いだら凄かったりして(筋肉的に)。
「何見てるの?」
「いや、どれだけ筋肉付いているのかと思って」
「見てもいいけど、言ったでしょ、『気』が大切だって」
確かに無駄なお肉は付いていなかった。かと言って筋肉質って感じは全くなく、キュートって感じのお体だった。
私は二つの丘では勝ってはいるけれど、あちこちお肉が付いているのでトータルでは大敗。
双丘だって、その頂の美しさで比べれば私の完敗。
ここは潔く負けを認めて、つくし先生との入浴を楽しもう。
いや、でも、研修って言ったよね。
「ほら、早く」
私も急いでお風呂場に向かう。
広い洗い場に、サウナも付いている。銭湯か温泉場かここは。
しっかり掛け湯をしてから、二人並んで大きな湯船に浸かる。
「あ、あの、ここで鍛錬ってどうするんですか?」
「あなたにもっと『気』を分け与えるの」
抱きしめ合って呼吸を合わせるあれを、ここで、裸でやるってこと?
心臓が耐えられそうもない。
「そ、それは……」
「正確には、あなたがもっと『気』を受け取れるように鍛えてあげるわ」
「受け取れるように?」
「そう、サウナへ行きましょ」
ホッとしたような、残念なような。
サウナでも二人並んで座る。
ハンドタオルを腿の上に置いているだけなので、二人とも流れる汗がよくわかる。
それにしても、つくし先生、私にピタッとくっついている。
「ここで抱き合ったら、汗でヌルヌルになっちゃうから、この姿勢で呼吸を合わせてね」
つくし先生が息を吐き出すのに合わせて、私が息を吸い込む。
ただ、サウナの中は息苦しい。
「きちんと正面を見て、背中をピンと張って。そうしたら大きく空気を吸い込めるわ」
正面を見たら、汗が流れるつくし先生の肌が見えない……じゃない。
でも、これが鍛錬なのね。
五分ほどしっかり呼吸をしてから、サウナを出る。
「このあとは水風呂ですか?」
「水風呂は慣れない人もいるから、うちはぬるま湯ね」
ぬるま湯につかって一息ついたあと、サウナに戻る。
これを三回繰り返した。
三回目はかなりしっかり呼吸ができた気がした。
「ととのいました~」
「あのね、ととのいに来たんじゃないわよ」
そのあと髪や体を洗って、もう一度大きな湯船に浸かって、「お風呂鍛錬」はおしまい。
背中の流しあいっこはやらなかったよ。
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