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第25話 天上界14日目 その1 別に胸を揉んではいないでしょ

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「えっと、有島さん、朝ですよ」

 きのうはあんなことがあったので、どう起こしていいかわからないわ。
 なので、私は恐る恐るこいつを起こしている。
「あ、モニア様、きのうはごちそうさまでした!」
 あれ、こいつは何を言い出したのかしら。
「いやあ、きのうはモニア様の優しさをすっかり堪能させてもらいましたよ。おかげですっかり熟睡できました。元気いっぱいです!」
 こいつ、元に戻ってしまったわ。元気になったのはいいのだけれど。
「さて、どこまで話が進んでいましたっけ。あ、トイレの話でしたね」
「その話はもう済んだでしょ。天上界のトイレの話を蒸し返すようなら、本気であなたの魂の消滅を申請するわよ」

 あれ、きのうはモニア様を心配させたかなと思って、今朝は元気いっぱいに振る舞ったのに、なかなか真意は伝わらないものだな。
 それにしても、モニア様の胸、じゃなくて優しさ、最高だったな。
「そうしたら、次は俺のスキルについて決めていきましょう」
「なんであなたが話を進めようとするのよ。まあいいわ、進めましょう」
「スキルというとやはり魔法ですね。でも、魔法といってもたくさんあって迷います」
「どうしても魔法のある世界に行きたいのね」

「魔法のない世界だと、コツコツと努力しないといけないじゃないですか」
「あなたは努力が取り柄じゃなかったの?」
「それは元の世界のことですからね。異世界では新しい自分に生まれ変わりたいです」
「新しい自分って、努力しない人間になることじゃないんですけどね。魔法のスキルを手に入れても、それを使いこなすには結局努力が必要になるのですから」
 どのみち努力は必要なら、報われる努力をしたいな。
「それで、俺がもらえるスキルにはどんなものがあるのでしょうか」

「言っておくけど、魔法のある世界に行くといっても、必ずしも魔法のスキルをもらえるとは限らないのよ」
「もらえないこともるのですか?」
「向こうで肩身の狭い思いをしないよう、そういう世界に行く人にはなるべくスキルを授与したいのだけれど、人によっては魔法適性や魔法耐性がない人がいるのよ」
「適性や耐性とはどういうものですか?」
「魔法というのは人体にも影響を与えるの。人によっては魔法を受け入れられなかったり、魔法を使うことに体が耐えられなかったりするの。なので、授与する前に、適性や耐性のレベルを測るのよ」
 ということは、適性や耐性がなかったら、スキルはもらえないのか。

 普通の人間は、上限をレベル百として、適性も耐性もせいぜい五十くらいなの。
 多少は上下があるけど、そのレベルの範囲内の魔法のスキルを授与するわけ。
 ただ、どちらかが二十を下回っていたら、残念ながらスキルは授与できないわ。
「じゃあ、あなたの適性と耐性のレベルを測るから、こっちに来て」
「また抱きしめてくれるんんですか」
「そんなわけないでしょ。測るから気をつけをして」

 向かい合って、私は左手をこいつの心臓のところ、右手をその少し右隣に当てた。
「わふん!」
「変な声を出さないで。別に胸を揉んではいないでしょ。スキルは人間の心臓に宿るのでこうやって測るのよ。しばらくおとなしくしていてね」
「心電図ですか?」
「静かに!」
 私は目を閉じて、こいつのレベルを測ることに集中した。
 その結果は……

 魔法適性 測定不能
 魔法耐性 測定不能
 そんなバカなことが! 
 レベルが低すぎて測れないのではなく、私の神力によるメーターが振り切られてしまって、高すぎて測れないの。何度やっても同じ。
 いったいどうなっているの?
 これじゃ魔法のずっと上位である神力を持つ神のレベルだわ。 

「モニア様、俺の適性や耐性のレベル、どうでしたか?」
「ま、まあ、まあまあね。なのでスキルは授与できるわ」
「それはありがとうございます。では、今度は俺がモニア様のレベルを測りますね」
「そんな必要ありません!」
 落ち着くの、落ち着くのよ、モニア。
 
「スキルの前に、あなたの転生先についてなんだけど、あなたの望む気候とか、中世ヨーロッパらしい街並みとかの世界はなんとかあったわ。問題はトイレだったけど、水洗トイレもあったの。千も異世界があればなんとかなるものね」
「便座は洋式でしたか?」
「異世界に和も洋あったものじゃないけど、創造担当の知り合いにお願いして、それぞれの世界のトイレを調べてもらったら、それもなんとかなったわ」
「ありがとうございます。さすがトイレの神様!」

「あのねえ、トイレの神様ってそういう意味じゃないでしょ。おかげでこっちは、なんでトイレなんて調べるのって、知り合いに変な目で見られてしまったわ」
「それは申し訳なかったです。あと、温水洗浄便座はどうなりました?」
 ウォシュ……も、シャワー……も登録商標なんだよな。
「それよ、そこであなたのスキルの出番だと思うのよ」
「俺のスキル?」
「指先から、温かいお湯が出る魔法よ。これであなたのスキルの問題も解決ね。さ、これで転生の準備はすべて整ったわ。さあ、新しい世界に」
 いや、さすがにそれじゃ。

「モ、モニア様、待ってください。指先から温かいお湯が出るのは何かと便利だとは思いますが、それで魔王とはどう戦うのですか」
「お湯の温度を上げて、魔王にかけてはどうかしら」
「そのやりとり、前に魔法瓶のところでやりましたよね。それに、お湯をかけられる距離に近づいたら、魔王に魔剣とかでバッサリ切られちゃいますよ」
「じゃあ、百メートルくらいお湯を飛ばせるようにしてあげればいいかしら」
「そんなに勢いよくお湯を飛ばしたら、その反動で俺がひっくり返ってしまいますよ」
「魔法のある世界にそんな物理法則を持ち出したら、何もかもおしまいよ」

 それはそうだけど、そうそう、温水洗浄便座より、こっちの方が問題だ。
「温水洗浄便座はなんとかしますが、そもそも俺の行く世界に魔王っていますよね? 魔王を倒して、困っている人たちを助けたいんです。それが転生者の憧れですよね」
「魔王ねえ。魔王のいる世界に行きたいの? あまりお勧めしない、というか、そういう世界にあなたを送るのは、あまり気が進まないわ」
「俺のことを心配してくれているのですね。ありがとうございます」
「いえ、そういうわけじゃないのですけどね」
「モニア様は俺のことが心配じゃないんですか?」
「魔王のいる世界に行きたいんじゃないの?」
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