25 / 31
第25話 天上界14日目 その1 別に胸を揉んではいないでしょ
しおりを挟む
「えっと、有島さん、朝ですよ」
きのうはあんなことがあったので、どう起こしていいかわからないわ。
なので、私は恐る恐るこいつを起こしている。
「あ、モニア様、きのうはごちそうさまでした!」
あれ、こいつは何を言い出したのかしら。
「いやあ、きのうはモニア様の優しさをすっかり堪能させてもらいましたよ。おかげですっかり熟睡できました。元気いっぱいです!」
こいつ、元に戻ってしまったわ。元気になったのはいいのだけれど。
「さて、どこまで話が進んでいましたっけ。あ、トイレの話でしたね」
「その話はもう済んだでしょ。天上界のトイレの話を蒸し返すようなら、本気であなたの魂の消滅を申請するわよ」
あれ、きのうはモニア様を心配させたかなと思って、今朝は元気いっぱいに振る舞ったのに、なかなか真意は伝わらないものだな。
それにしても、モニア様の胸、じゃなくて優しさ、最高だったな。
「そうしたら、次は俺のスキルについて決めていきましょう」
「なんであなたが話を進めようとするのよ。まあいいわ、進めましょう」
「スキルというとやはり魔法ですね。でも、魔法といってもたくさんあって迷います」
「どうしても魔法のある世界に行きたいのね」
「魔法のない世界だと、コツコツと努力しないといけないじゃないですか」
「あなたは努力が取り柄じゃなかったの?」
「それは元の世界のことですからね。異世界では新しい自分に生まれ変わりたいです」
「新しい自分って、努力しない人間になることじゃないんですけどね。魔法のスキルを手に入れても、それを使いこなすには結局努力が必要になるのですから」
どのみち努力は必要なら、報われる努力をしたいな。
「それで、俺がもらえるスキルにはどんなものがあるのでしょうか」
「言っておくけど、魔法のある世界に行くといっても、必ずしも魔法のスキルをもらえるとは限らないのよ」
「もらえないこともるのですか?」
「向こうで肩身の狭い思いをしないよう、そういう世界に行く人にはなるべくスキルを授与したいのだけれど、人によっては魔法適性や魔法耐性がない人がいるのよ」
「適性や耐性とはどういうものですか?」
「魔法というのは人体にも影響を与えるの。人によっては魔法を受け入れられなかったり、魔法を使うことに体が耐えられなかったりするの。なので、授与する前に、適性や耐性のレベルを測るのよ」
ということは、適性や耐性がなかったら、スキルはもらえないのか。
普通の人間は、上限をレベル百として、適性も耐性もせいぜい五十くらいなの。
多少は上下があるけど、そのレベルの範囲内の魔法のスキルを授与するわけ。
ただ、どちらかが二十を下回っていたら、残念ながらスキルは授与できないわ。
「じゃあ、あなたの適性と耐性のレベルを測るから、こっちに来て」
「また抱きしめてくれるんんですか」
「そんなわけないでしょ。測るから気をつけをして」
向かい合って、私は左手をこいつの心臓のところ、右手をその少し右隣に当てた。
「わふん!」
「変な声を出さないで。別に胸を揉んではいないでしょ。スキルは人間の心臓に宿るのでこうやって測るのよ。しばらくおとなしくしていてね」
「心電図ですか?」
「静かに!」
私は目を閉じて、こいつのレベルを測ることに集中した。
その結果は……
魔法適性 測定不能
魔法耐性 測定不能
そんなバカなことが!
レベルが低すぎて測れないのではなく、私の神力によるメーターが振り切られてしまって、高すぎて測れないの。何度やっても同じ。
いったいどうなっているの?
これじゃ魔法のずっと上位である神力を持つ神のレベルだわ。
「モニア様、俺の適性や耐性のレベル、どうでしたか?」
「ま、まあ、まあまあね。なのでスキルは授与できるわ」
「それはありがとうございます。では、今度は俺がモニア様のレベルを測りますね」
「そんな必要ありません!」
落ち着くの、落ち着くのよ、モニア。
「スキルの前に、あなたの転生先についてなんだけど、あなたの望む気候とか、中世ヨーロッパらしい街並みとかの世界はなんとかあったわ。問題はトイレだったけど、水洗トイレもあったの。千も異世界があればなんとかなるものね」
「便座は洋式でしたか?」
「異世界に和も洋あったものじゃないけど、創造担当の知り合いにお願いして、それぞれの世界のトイレを調べてもらったら、それもなんとかなったわ」
「ありがとうございます。さすがトイレの神様!」
「あのねえ、トイレの神様ってそういう意味じゃないでしょ。おかげでこっちは、なんでトイレなんて調べるのって、知り合いに変な目で見られてしまったわ」
「それは申し訳なかったです。あと、温水洗浄便座はどうなりました?」
ウォシュ……も、シャワー……も登録商標なんだよな。
「それよ、そこであなたのスキルの出番だと思うのよ」
「俺のスキル?」
「指先から、温かいお湯が出る魔法よ。これであなたのスキルの問題も解決ね。さ、これで転生の準備はすべて整ったわ。さあ、新しい世界に」
いや、さすがにそれじゃ。
「モ、モニア様、待ってください。指先から温かいお湯が出るのは何かと便利だとは思いますが、それで魔王とはどう戦うのですか」
「お湯の温度を上げて、魔王にかけてはどうかしら」
「そのやりとり、前に魔法瓶のところでやりましたよね。それに、お湯をかけられる距離に近づいたら、魔王に魔剣とかでバッサリ切られちゃいますよ」
「じゃあ、百メートルくらいお湯を飛ばせるようにしてあげればいいかしら」
「そんなに勢いよくお湯を飛ばしたら、その反動で俺がひっくり返ってしまいますよ」
「魔法のある世界にそんな物理法則を持ち出したら、何もかもおしまいよ」
それはそうだけど、そうそう、温水洗浄便座より、こっちの方が問題だ。
「温水洗浄便座はなんとかしますが、そもそも俺の行く世界に魔王っていますよね? 魔王を倒して、困っている人たちを助けたいんです。それが転生者の憧れですよね」
「魔王ねえ。魔王のいる世界に行きたいの? あまりお勧めしない、というか、そういう世界にあなたを送るのは、あまり気が進まないわ」
「俺のことを心配してくれているのですね。ありがとうございます」
「いえ、そういうわけじゃないのですけどね」
「モニア様は俺のことが心配じゃないんですか?」
「魔王のいる世界に行きたいんじゃないの?」
きのうはあんなことがあったので、どう起こしていいかわからないわ。
なので、私は恐る恐るこいつを起こしている。
「あ、モニア様、きのうはごちそうさまでした!」
あれ、こいつは何を言い出したのかしら。
「いやあ、きのうはモニア様の優しさをすっかり堪能させてもらいましたよ。おかげですっかり熟睡できました。元気いっぱいです!」
こいつ、元に戻ってしまったわ。元気になったのはいいのだけれど。
「さて、どこまで話が進んでいましたっけ。あ、トイレの話でしたね」
「その話はもう済んだでしょ。天上界のトイレの話を蒸し返すようなら、本気であなたの魂の消滅を申請するわよ」
あれ、きのうはモニア様を心配させたかなと思って、今朝は元気いっぱいに振る舞ったのに、なかなか真意は伝わらないものだな。
それにしても、モニア様の胸、じゃなくて優しさ、最高だったな。
「そうしたら、次は俺のスキルについて決めていきましょう」
「なんであなたが話を進めようとするのよ。まあいいわ、進めましょう」
「スキルというとやはり魔法ですね。でも、魔法といってもたくさんあって迷います」
「どうしても魔法のある世界に行きたいのね」
「魔法のない世界だと、コツコツと努力しないといけないじゃないですか」
「あなたは努力が取り柄じゃなかったの?」
「それは元の世界のことですからね。異世界では新しい自分に生まれ変わりたいです」
「新しい自分って、努力しない人間になることじゃないんですけどね。魔法のスキルを手に入れても、それを使いこなすには結局努力が必要になるのですから」
どのみち努力は必要なら、報われる努力をしたいな。
「それで、俺がもらえるスキルにはどんなものがあるのでしょうか」
「言っておくけど、魔法のある世界に行くといっても、必ずしも魔法のスキルをもらえるとは限らないのよ」
「もらえないこともるのですか?」
「向こうで肩身の狭い思いをしないよう、そういう世界に行く人にはなるべくスキルを授与したいのだけれど、人によっては魔法適性や魔法耐性がない人がいるのよ」
「適性や耐性とはどういうものですか?」
「魔法というのは人体にも影響を与えるの。人によっては魔法を受け入れられなかったり、魔法を使うことに体が耐えられなかったりするの。なので、授与する前に、適性や耐性のレベルを測るのよ」
ということは、適性や耐性がなかったら、スキルはもらえないのか。
普通の人間は、上限をレベル百として、適性も耐性もせいぜい五十くらいなの。
多少は上下があるけど、そのレベルの範囲内の魔法のスキルを授与するわけ。
ただ、どちらかが二十を下回っていたら、残念ながらスキルは授与できないわ。
「じゃあ、あなたの適性と耐性のレベルを測るから、こっちに来て」
「また抱きしめてくれるんんですか」
「そんなわけないでしょ。測るから気をつけをして」
向かい合って、私は左手をこいつの心臓のところ、右手をその少し右隣に当てた。
「わふん!」
「変な声を出さないで。別に胸を揉んではいないでしょ。スキルは人間の心臓に宿るのでこうやって測るのよ。しばらくおとなしくしていてね」
「心電図ですか?」
「静かに!」
私は目を閉じて、こいつのレベルを測ることに集中した。
その結果は……
魔法適性 測定不能
魔法耐性 測定不能
そんなバカなことが!
レベルが低すぎて測れないのではなく、私の神力によるメーターが振り切られてしまって、高すぎて測れないの。何度やっても同じ。
いったいどうなっているの?
これじゃ魔法のずっと上位である神力を持つ神のレベルだわ。
「モニア様、俺の適性や耐性のレベル、どうでしたか?」
「ま、まあ、まあまあね。なのでスキルは授与できるわ」
「それはありがとうございます。では、今度は俺がモニア様のレベルを測りますね」
「そんな必要ありません!」
落ち着くの、落ち着くのよ、モニア。
「スキルの前に、あなたの転生先についてなんだけど、あなたの望む気候とか、中世ヨーロッパらしい街並みとかの世界はなんとかあったわ。問題はトイレだったけど、水洗トイレもあったの。千も異世界があればなんとかなるものね」
「便座は洋式でしたか?」
「異世界に和も洋あったものじゃないけど、創造担当の知り合いにお願いして、それぞれの世界のトイレを調べてもらったら、それもなんとかなったわ」
「ありがとうございます。さすがトイレの神様!」
「あのねえ、トイレの神様ってそういう意味じゃないでしょ。おかげでこっちは、なんでトイレなんて調べるのって、知り合いに変な目で見られてしまったわ」
「それは申し訳なかったです。あと、温水洗浄便座はどうなりました?」
ウォシュ……も、シャワー……も登録商標なんだよな。
「それよ、そこであなたのスキルの出番だと思うのよ」
「俺のスキル?」
「指先から、温かいお湯が出る魔法よ。これであなたのスキルの問題も解決ね。さ、これで転生の準備はすべて整ったわ。さあ、新しい世界に」
いや、さすがにそれじゃ。
「モ、モニア様、待ってください。指先から温かいお湯が出るのは何かと便利だとは思いますが、それで魔王とはどう戦うのですか」
「お湯の温度を上げて、魔王にかけてはどうかしら」
「そのやりとり、前に魔法瓶のところでやりましたよね。それに、お湯をかけられる距離に近づいたら、魔王に魔剣とかでバッサリ切られちゃいますよ」
「じゃあ、百メートルくらいお湯を飛ばせるようにしてあげればいいかしら」
「そんなに勢いよくお湯を飛ばしたら、その反動で俺がひっくり返ってしまいますよ」
「魔法のある世界にそんな物理法則を持ち出したら、何もかもおしまいよ」
それはそうだけど、そうそう、温水洗浄便座より、こっちの方が問題だ。
「温水洗浄便座はなんとかしますが、そもそも俺の行く世界に魔王っていますよね? 魔王を倒して、困っている人たちを助けたいんです。それが転生者の憧れですよね」
「魔王ねえ。魔王のいる世界に行きたいの? あまりお勧めしない、というか、そういう世界にあなたを送るのは、あまり気が進まないわ」
「俺のことを心配してくれているのですね。ありがとうございます」
「いえ、そういうわけじゃないのですけどね」
「モニア様は俺のことが心配じゃないんですか?」
「魔王のいる世界に行きたいんじゃないの?」
10
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
キモオタ レベル0★世界最弱のオタク高校生の僕だけレベルアップ!美女に囲まれハーレム青春物語
さかいおさむ
ファンタジー
街中にダンジョンが現れた現代日本。
人々には戦士としてのレベルが与えられる。
主人公は世界最弱のレベル0。
レベルの低さに絶望していたある日、戦士のレベルの10倍の強さになるというボスが現れる。
世界で倒せるのレベル0の主人公だけ。
ダンジョンで戦うことは諦めていた主人公だが、その日から自分だけがレベルアップできることに。
最強戦士になって、美女の仲間たちとダンジョンの秘密を解き明かす。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる