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25.待ち人来たる!
しおりを挟む「よぉ、お前の相棒はどうした?」
翌朝いつもの様に与えられた仕事(洗濯なんだけど)、今日はいつもなら隣にいるはずのツンデレ少年がいない。昨日のことがあって確実に避けられているんだろうなぁと思う。とはいえ、積極的に関わろうとするタイプでもないわたしなので関係の改善をはかろうなどと思うこともなく今に至る。
来るもの拒まず去るもの追わず。それがわたし。
「そういえば今日は朝から見ていません」
「冷たいなぁ!仲良かったろうに。何かあったか?」
「まぁ、あったと言えばあった…ですかね。はいはい、全てわたしが悪いんです。ごめんなさい」
「軽いな!しかも俺に謝るなよ。で?何があったんだ?おじさんに相談してみ?」
「おじさんって…年でもないじゃないですか」
ヒューゴさんは、わたしの感覚で言うなら見た目年齢は三十代半ばくらい。ん?十分おじさんだって?いやいや、枯れ専のわたしにしたら四十代でもまだまだひよっこなのよ。ロマンスグレーでやっと大人の男性と認めることが出来るのよ!
まだまだひよっこのヒューゴさんは短髪でがっしりとしていて、当然のように色素の薄い金髪。
と、言うより、この建物の中で見かける人達は皆色素が薄い。やっぱりというか何と言うか、染髪しているにもかかわらず、わたしの髪色は濃い部類に入るんだと改めて実感する日々だ。ちにみにヒューゴさんの場合、肌は日に焼けていてTシャツの袖口あたりから色が変わっている。もうポッキーにしか見えない。あぁ…食べたい、日本が誇るポッキー。
「…おい、涎垂らしながら俺の腕を凝視してんのは何故だ…」
「ノスタルジーに浸っているだけです」
「何で俺の腕がお前の郷愁を誘うんだよ?!」
「だって美味しそうで…いや、ちょっと太すぎる。もっとこう上から下まで細さが均一で、尚且つプレッツェルとチョコの黄金バランスによる――」
「ますますわかんねーよ。そしてお前の指が食い込んでる!」
ポッキー愛が爆発して、いつの間にかヒューゴさんの腕をギリギリと鷲掴みにしてしまっていた…。あ、指の後がついてる。右手の握力が十六のわたしでも、我を忘れると火事場のバカ力というものが発揮されるようだ。…ポッキーごときで我を忘れるわたしもわたしだけど。
くっきりとわたしの五本指の跡が残った腕をさすりながら、そもそもポッキーって何だよ…と呟くヒューゴさんを無視して洗濯の続きを始める。
「そもそも、諸悪の根元はヒューゴさんですから…」
「俺?何かしたか?」
「帰っていいって言ったのヒューゴさんでしょ?それなのに全っ然外に出られないじゃないですか。魔法か何かでそうしてるのわかってますからね!」
ああ、あれか、結構面白い仕掛けだろ?と、くつくつと笑いながら言ってるけど、この状況では全然面白くない。今の心境にカラクリ屋敷は求めてませんから。
そりゃ、魔法は凄いですよ?もしここが忍者村的なテーマパークだったら、カラクリ屋敷すげーっ!ってなるけどもっ!
「でもそれが何で俺のせいになるんだ?」
「…ツンデレ少年にお前は帰りたいのかって聞かれたので、あなたは帰りたくないのって…」
「あー…なるほどな…うん。でもまあ、お前は悪くない。何の説明もしてないのはこっちだからな」
ヒューゴさんの反応から察するに、やっぱりわたしの発言が地雷を踏んだらしい。
それより説明って何?
腕組みをしながら、こてんと首を曲げたヒューゴさんは、うーんとか、でもなーとか、いやいや、でも決まりだしなーとか、独りで自問自答している。この誘拐事件の秘密とかなら好奇心で聞きたいけれど、今のツンデレ少年との仲違いの解決になるような秘密とかなら要らないよ?
そもそも、出会って数日で相棒扱いもどうかと思うけど。小学生くらいの子供達の中では比較的年齢が高いと思われるツンデレ少年と、こっちの世界では実年齢よりは若く見られるわたしが同じ括りにされてペアを組まされてるという感じなんだろう。
「お前の仲間がここに辿り着くまで時間の問題だからな。心配しなくても帰れるさ。それまでもうちょっとガキどもの相手してってくれや」
「えー…」
「ははは!んじゃな」
片手をヒラヒラと挙げて行ってしまった。
辿り着くまで時間の問題…ということは、もうレイナルドさん達はここを突き止めているということなのだろうか?それだったら無理に出ていこうとさずに、じっと待ってる方が得策なのかもしれない。迷子になったらそここら動くなって言うしね!
パンパンと洗濯物の皺を伸ばしながら干していく。木から木に紐をピンと張った物干し竿もどきは使いづらいったらない。洗濯物の重さで中央が沈んでいくから、せっかく伸ばした皺も乾く頃にはヨレヨレのシワシワに型がついてしまう。機能的な物干し竿が欲しい!日曜大工の得意なヒューゴさんなら作れると思うんだけどなぁ。なんだったら洗濯機が欲しい。手洗いツライ。手絞りキツイ。柔軟剤必須。わたし現代っ子ですから。
非現実的な事に逃避しながら無心で残りの分を洗濯していく。ほんとにこの洗剤で汚れ落ちます?的な、なかなか泡立たない謎の粉を足しながらジャブジャブ洗っていたところに、背後から影が射した。
「ねぇ、…あなた一人でその量のお洗濯をしてるの?」
後ろから急に話し掛けられて驚いた。振り向くと二十歳くらいの儚げな美人が立っていて、薄いミルクティー色の長い髪が風に靡いて今にも消えそう。ここに来てから初めて見る顔だった。
「あの…大丈夫?」
「あっ!えーと、はい、今日は一人でやってます」
「今日は?いつもは他にもいるのね?」
「そうなんですけど、ちょっと喧嘩中?でして…」
「まぁ」
ふふっと微笑む彼女はほんとに美人だ!いや、可愛い…かな。少しずつ近付いてきて瞳の色が分かるまでの距離になった時あることに気付いた。
「マノン…さん?」
「…え?」
心底驚いたという表情の彼女はただでさえ大きな目を限界まで開いているようだ。
あぁ、やっぱりそうだ。
わたしから見て、左側の瞳がブルー。右側の瞳がアンバー。ジルさんの言っていたオッドアイの彼女と同じ特徴。何か大事なことを忘れているような気がしていたのは、彼女のことだった。
…忘れててごめん、ジルさんよ。でも恋人(予定)見つけましたよ!
彼女も他の子供達同様、表情も雰囲気も穏やかで冷遇を受けている印象は見当たらない。同意の上でここにいる、ということ?
「どうして名前を…私達何処かで会ったことあったかしら?」
「ああっ!そうですよね、急にごめんなさい!ジルさんはご存知ですよね?わたしは最近知り合ったんですが…」
「?!彼の仲間…?!」
あ…あれ?何だか不穏な空気…。ツンデレ少年と似たような状況になってない?デジャブ?!この世界きてからデジャブばかり起きるんですけど!
今度はジルさんが地雷なの?!
「いえ、仲間というか、保護して貰ったというか…」
「保護…?あなたのそれ、眼鏡…よね?平民でも買えるようになったけど、それでもまだまだ高価で簡単には手は出せないわ。でもここにいるってことは、そうなのよね?でも…ああ、なるほど…ね、そういうことなのね」
え?何?こわいこわいこわい!何か一人で納得してるんですけど…。
「えーと、ジルさん心配してました。血相変えてマノンが拐われた!って…」
「…ジル様は、いえ、ここの領の騎士団は皆口だけなの。あなただってここにいるということは、そういうことでしょ?助けが来るなんて夢見ていては駄目よ?」
「…あの、でも、わたしは、ある日突然気付いたらこの国にいて、常識もお金も身寄りないのに親身になってくれました…けど…」
ジルさんとマノンさんは恋人同士とはいかないまでも、それなりに良い関係を築いていたわけではないの?一緒に出掛ける予定もあったのに?残念ながら当日にマノンさんが拐われるという悲劇が起きてしまったわけだけど…。
でも今無事を確認出来ただけでも良い報告が出来る。
…そう、思っていたけど…。
「そう…なの。でも私には何もしてくれなかったわ。何処に行ったって同じ仕打ちしか受けてこなかった。ここも地獄だったの。…私だけじゃない、…同じ境遇の仲間は…皆…もう…」
「え…?あの…もしかして…亡くなったの…?」
「え?いいえ?ここにいるわ」
「いるんかーい!」
ガクッと思わず芸人の典型的なリアクション取っちゃったわ。いや、生きてて良かったけど。言い方が!溜めるから~!
「え?どうして斜めによろけたの?足が悪いの?」
ぐっ…芸人殺し!そういうのは聞いちゃ駄目でしょ。渾身のボケやツッコミに対して「え?それどういう事?」って意味を聞かれるほど恥ずかしいことは無いのよ?
「んんっ…んっ。お気になさらず…。それよりわたしここの施設(?)がどういったものかまだよくわかってないの。だから教えてくれると嬉しい…かな」
キョトンとした表情のマノンさんはどこかプレーリードッグを彷彿とさせていて…、いや、オコジョだったかな?テン?ハクビシン?まあ、そういう感じの動物なんだけど、儚げな美人とのギャップにちょっと笑ってしまった。
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