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序章
掟の破綻
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『いいかい? 何があろうが絶対に他人に顔を晒してはいけないよ。それにね、忌まれた者は名を教えてはいけないのさ』
亡き祖母に〝掟〟を言われたのは、幼き日の事だった。
祖母は理由を言わなかった。だから、彼女も詳しい理由は知らなかった。それでも、幼くも聡明な彼女は〝きっと忌まれた自分を守る為の制約〟と理解していた。
顔と名を知る者は祖母と祖母のその弟子──二人のみ。
掟は常識であり当たり前だった。だから、それを不便だと思った事は一度も無い。勿論、命尽きるその日まで従っていくつもりだったのに……。
十八年目の春、掟はいとも簡単に破れてしまった。
花の匂いをたっぷり含んだ春のつむじ風は、顔を隠すフードを捲り上げたのである。
──緩く波を打つ長い苺金髪には、霧のような白髪が一房。橄欖石によく似た黄緑色の瞳に白磁のように白々とした肌。
『異端の魔女』と呼ばれる割に、禍々しさの欠片も無い彼女の素顔は人前で晒された。
しかし、風が強かった所為だろう。道行く人は誰一人として彼女の失態に気付いていなかった。忌まれた存在だから、誰もが目を向けようとしなかった事が幸いか。
けれどそれは、ある一人を除いての話だった。
……その結果、この失態が災いし、彼女は今、前代未聞の窮地に追い込まれていた。
今にも泣きそうな面持ちを浮かべた彼女の前には、狡猾な笑みを浮かべた赤銅髪の男。彼は彼女を覗き込んでニタリと笑む。
「いいか。率直に言う。俺はお前に一目惚れした」
──忌まれし異端。
『霧の魔女』と呼ばれた娘──ネーベルの運命の歯車はその日から動き始めた。
亡き祖母に〝掟〟を言われたのは、幼き日の事だった。
祖母は理由を言わなかった。だから、彼女も詳しい理由は知らなかった。それでも、幼くも聡明な彼女は〝きっと忌まれた自分を守る為の制約〟と理解していた。
顔と名を知る者は祖母と祖母のその弟子──二人のみ。
掟は常識であり当たり前だった。だから、それを不便だと思った事は一度も無い。勿論、命尽きるその日まで従っていくつもりだったのに……。
十八年目の春、掟はいとも簡単に破れてしまった。
花の匂いをたっぷり含んだ春のつむじ風は、顔を隠すフードを捲り上げたのである。
──緩く波を打つ長い苺金髪には、霧のような白髪が一房。橄欖石によく似た黄緑色の瞳に白磁のように白々とした肌。
『異端の魔女』と呼ばれる割に、禍々しさの欠片も無い彼女の素顔は人前で晒された。
しかし、風が強かった所為だろう。道行く人は誰一人として彼女の失態に気付いていなかった。忌まれた存在だから、誰もが目を向けようとしなかった事が幸いか。
けれどそれは、ある一人を除いての話だった。
……その結果、この失態が災いし、彼女は今、前代未聞の窮地に追い込まれていた。
今にも泣きそうな面持ちを浮かべた彼女の前には、狡猾な笑みを浮かべた赤銅髪の男。彼は彼女を覗き込んでニタリと笑む。
「いいか。率直に言う。俺はお前に一目惚れした」
──忌まれし異端。
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