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【ツッパリ・ランド】
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世之介は二輪車に跨り、どこまでも真っ直ぐ伸びる道路を、ひた走りに走っている。
いよいよ彼方に大きく【ツッパリ・ランド】が見えてきた!
今までは単なる名前だけに過ぎなかったのだが、やっと目の前に現れたことにより、世之介は何か重苦しい気持ちから解放されたような気分であった。
しかし……。
二輪車の側鏡を覗き込んで、世之介は内心、苦りきっていた。
結局、狂送団の全員と、以前の頭目──拓郎の女たちが世之介の後を従いてくる展開になってしまったのである。
輸送車の住居部分には動力源がないため、狂送団の全員が二輪車に引き綱をつけ、牽引している。その様子はまるで西部劇の幌馬車隊である。
女たちは住居部分に集まり、あちこちの窓から顔を突き出し、風に吹かれて呑気そうな表情を浮かべている。中には引き綱を繋いでいる狂送団の仲間と、楽しげに談笑している女もいた。
世之介の隣には、いつものように茜が自分の二輪車を運転している。
が、茜は何が面白くないのか、朝から一切、世之介とは口を利こうとはしない。むすっ、と押し黙り、世之介が話しかけても、プイと横を向いて知らん顔を決め込んでいる。
まったく、女ってのは判らない……。
茜のそんな様子に、世之介は苛々していた。しかし、改まって仲直りなど、今の世之介には無理な相談だ。
そんな雑念をチラとでも考えると、すぐに「男の面目が立たねえ!」と反射的に思う精神構造になっている。知らぬ間に、世之介は番長星を支配する論理に、がんじがらめになっていた。
助三郎と格乃進の二輪車も道路を並走している。二人の二輪車の側車にはイッパチと、光右衛門が各々納まっている。右左にくっついている側車同士、イッパチは道路を挟んで光右衛門と、のんびり話し込んでいる。
「へい、あっしは元々が、寄席で前座や、切符のもぎりなんぞをやっておりました、幇間杏萄絽偉童でござんす。本当はちゃんとした料亭なんぞで、旦那衆のお相手なんかを務めたいところでげすが、生憎あっしの芸能腑呂愚羅無が寄席向きだってことで、前座などを務めさせて貰ってたんでげす」
「ふむふむ」と機嫌よく相槌を打ちながら、光右衛門が尋ね返す。
「それで、どうして寄席のお務めを辞めて、世之介さんのところで働く経緯になったんですかな?」
イッパチは渋い表情になった。
「へえ、それが、失敗を仕出かしましてね。前座で面白おかしく客を沸かせたのは良かったんでげすが、その時やってたネタってのが、お上をやんわり批判するものだったのが、運のつきでさあ。『杏萄絽偉童ごときが、お上を批判するとは怪しからぬ!』と、そりゃあもう、きついお叱りで。そのままだと、あっしは解体所送りになるところだったのが、世之介若旦那のお父っつあんが同情して、身元引受人になってくれましたんで、一命を取りとめた――と、こういう訳でげす。だから、あっしは、大旦那には足を向けて寝られねえ、って訳でして」
「成る程、成る程」と光右衛門はニコニコと柔和な笑みを浮かべて聞き役に徹している。
ちぇ、呑気な奴らだ……。
世之介は前方を見詰めた。
いつの間にか目指す【ツッパリ・ランド】が、前方に大きく見えてきている。
いよいよ彼方に大きく【ツッパリ・ランド】が見えてきた!
今までは単なる名前だけに過ぎなかったのだが、やっと目の前に現れたことにより、世之介は何か重苦しい気持ちから解放されたような気分であった。
しかし……。
二輪車の側鏡を覗き込んで、世之介は内心、苦りきっていた。
結局、狂送団の全員と、以前の頭目──拓郎の女たちが世之介の後を従いてくる展開になってしまったのである。
輸送車の住居部分には動力源がないため、狂送団の全員が二輪車に引き綱をつけ、牽引している。その様子はまるで西部劇の幌馬車隊である。
女たちは住居部分に集まり、あちこちの窓から顔を突き出し、風に吹かれて呑気そうな表情を浮かべている。中には引き綱を繋いでいる狂送団の仲間と、楽しげに談笑している女もいた。
世之介の隣には、いつものように茜が自分の二輪車を運転している。
が、茜は何が面白くないのか、朝から一切、世之介とは口を利こうとはしない。むすっ、と押し黙り、世之介が話しかけても、プイと横を向いて知らん顔を決め込んでいる。
まったく、女ってのは判らない……。
茜のそんな様子に、世之介は苛々していた。しかし、改まって仲直りなど、今の世之介には無理な相談だ。
そんな雑念をチラとでも考えると、すぐに「男の面目が立たねえ!」と反射的に思う精神構造になっている。知らぬ間に、世之介は番長星を支配する論理に、がんじがらめになっていた。
助三郎と格乃進の二輪車も道路を並走している。二人の二輪車の側車にはイッパチと、光右衛門が各々納まっている。右左にくっついている側車同士、イッパチは道路を挟んで光右衛門と、のんびり話し込んでいる。
「へい、あっしは元々が、寄席で前座や、切符のもぎりなんぞをやっておりました、幇間杏萄絽偉童でござんす。本当はちゃんとした料亭なんぞで、旦那衆のお相手なんかを務めたいところでげすが、生憎あっしの芸能腑呂愚羅無が寄席向きだってことで、前座などを務めさせて貰ってたんでげす」
「ふむふむ」と機嫌よく相槌を打ちながら、光右衛門が尋ね返す。
「それで、どうして寄席のお務めを辞めて、世之介さんのところで働く経緯になったんですかな?」
イッパチは渋い表情になった。
「へえ、それが、失敗を仕出かしましてね。前座で面白おかしく客を沸かせたのは良かったんでげすが、その時やってたネタってのが、お上をやんわり批判するものだったのが、運のつきでさあ。『杏萄絽偉童ごときが、お上を批判するとは怪しからぬ!』と、そりゃあもう、きついお叱りで。そのままだと、あっしは解体所送りになるところだったのが、世之介若旦那のお父っつあんが同情して、身元引受人になってくれましたんで、一命を取りとめた――と、こういう訳でげす。だから、あっしは、大旦那には足を向けて寝られねえ、って訳でして」
「成る程、成る程」と光右衛門はニコニコと柔和な笑みを浮かべて聞き役に徹している。
ちぇ、呑気な奴らだ……。
世之介は前方を見詰めた。
いつの間にか目指す【ツッパリ・ランド】が、前方に大きく見えてきている。
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