上 下
62 / 106
ビッグ・バッド・ママ

3

しおりを挟む
 思い切り扉を押し開くと、その音に頭目と母親がギョッとなって、世之介に顔をねじ向ける。
「ママ! こいつだ! こいつが、僕ちゃんを虐めたんだ!」
 頭目が口を一杯に開き、目をまん丸に見開いて喚いた。顔には恐怖の表情が貼りつき、血の気は引いて、真っ青になっている。
 運転席から身体を捩り、母親は憤怒の表情を顕し、世之介を睨みつけた。母親の怒りの表情のほうが、頭目より数十倍も迫力があった。
「お前かい? あたしの可愛い拓郎ちゃんを虐めたのは! 許さないよ!」
 驚くほど身軽に、母親は一挙動で運転席から飛び出してきた。ぱっと居間に飛び降り、がばっと両足を開き、身構える。
「そっちから仕掛けたんだろう? 売られた喧嘩は、買うのが筋ってもんだ!」
 世之介の返答に、母親は益々かっかと熾き火のように顔色を燃え上がらせた。
 化粧をたっぷり塗りたくっているのに関わらず、どす黒く鬱血した顔は、まるで仁王である。いや、むしろ歌舞伎の隈取のようで、凄い迫力だ!
 頭目は、すでに運転席へ避難して、ぶるぶるガタガタ震えて隠れている。
 真っ黒な衣装を身に纏う母親の姿は、まるで大猩々ゴリラそっくりである。母親は大猩々そのもののように大口を開け、一声がおーと吠え立てると、両腕を伸ばして世之介に掴みかかってきた。
 母親の両手がぎりぎりと世之介の首根っこを掴み、猛烈な速さで振り回す。だだだっ、と両足が動いて、世之介の背中を、運転席の壁に叩き付けた。
 衝撃に、世之介は息が詰まった。
「死ねえ……!」
 ぐいぐいと母親は両手を使って、世之介の首を締め付ける。世之介の両足の爪先が、床から浮き上がった。頚動脈が圧迫され、どかんどかんと血流が頭の内部で反響している。
 必死の努力で、世之介は足を持ち上げ、ぐっと力を込めると、蹴り上げた。
「うわあっ!」
 母親の巨大な身体は、一蹴りで反対側の壁へと叩きつけられる。
 どすん、と大きな音が響き、天井のシャンデリアがチリチリと音を立て、派手に揺れた。
 そこへ、二人の賽博格が飛び込んでくる。
「待て、それまで! こんな狭い所で暴れるのは危ないぞ!」
 助三郎が大きく両手を広げ、制止する。
 母親は、ぐいっと二人に顔をねじ向けた。
「なあんだい、また新手かい?」
 格乃進は穏やかに話し掛ける。
「われわれは、旅の者だ。走っていたところ、いきなり襲われ、やむなく反撃した。だが、それは本意ではない。われらは【ツッパリ・ランド】の〝ウラバン〟とやらに非常に興味を持っている。そなたが〝ウラバン〟と懇意なら、教えて欲しい。いったい〝ウラバン〟とは、何者なのだ?」
 ひくひくと母親の唇が痙攣した。
「〝ウラバン〟の正体を知りたかったら、【ツッパリ・ランド】へ行くこった! しかし、生きて帰れると思うなよ! 〝ウラバン〟は、あたしらの味方さ! あたしが連絡したから、あんたらは〝ウラバン〟にやっつけられる手筈になってるんだ! いい気味さ」
 運転席から頭目が叫ぶ。
「ママ! その二人は、もっと手強いよ! きっと賽博格なんだ!」
「何っ!」
 母親は驚きの表情を浮かべ、頭目に尋ね返した。
「本当かい? その二人が賽博格ってのは」
 頭目は震えながら答えた。
「そうさ! 隆志って〝ウラバン〟の手下が、そいつらのことを報告しているんだ。賽博格相手じゃ、いくらママだって敵わない。ねえ、逃げようよ!」
「くくくっ!」
 母親は、ぐっと睨み返すと、さっと運転席に立ち戻る。
 一声「おさらばだよ!」と叫ぶと、ぐいっと手元の梶棒レバーを力一杯、引いた。
 がくん、と衝撃が走り、目の前の運転席が出し抜けに離れていく。輸送車の前部分の接続を切断したのだ。
 見る見る先頭部分が後部と離れ、前方へと小さくなっていった。世之介の立っている後部には動力源がなく、従って、どう対処することもできない。
 三人は呆然と遠ざかる先頭部分を見送っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドレスを着たら…

奈落
SF
TSFの短い話です

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

転校生

奈落
SF
TSFの短い話です

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

処理中です...