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ビッグ・バッド・ママ

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 足音を忍ばせ、世之介は通路をじりじりと進んでいく。目の前にあるのは、運転席に続く扉である。背後に、女たちの部屋からの光が零れ、何とか形を見分けることは可能だ。
 ちら、と振り返ると、扉を開けて、女たちが首を突き出し、こちらを覗き込んでいる。
 世之介と視線が合うと、どういうつもりか、ニコリと笑顔になって、壮んに手を振っている。一人の娘が、口だけで「ガンバレ!」と声援を送っていた。
 そこへ、助三郎と格乃進が音も立てず、するりと天井の入口から降りてくる。
 女たちは、二人の闖入に、ぎくりとなった。慌てて世之介は唇に指を押し当て、静かにするよう合図する。助三郎は「承知した」というように、無言で頷いた。
 するすると二人が近づき、助三郎が顔を近寄せ、小声で「どうしたのだ?」と囁いてきた。世之介は扉を指し示した。
「ここに頭目の奴が隠れているらしい」
「そうか!」と、助三郎は小声で囁き返す。
 世之介は耳を扉に押し当てた。二人も、世之介と同じように、扉に耳を押し当てる。
 何か聞こえる。啜り泣きだ!
「ママ……ママ……! 僕ちゃん、とっても怖い男に虐められたんだ……! 悔しいよお……!」
 すると何か宥めるような、低い声が応じる。こちらは、よく聞こえない。
 世之介と、二人の賽博格は顔を見合わせた。
 助三郎と格乃進は、口をへの字に曲げ、妙な表情で首を捻っている。
「おい、まさか……?」
 格乃進が酸っぱいものを、口一杯に頬ばったような顔つきになって呟いた。助三郎は頷いた。
「間違いない! あの頭目の声だ。声紋が一致している!」
 世之介は扉に覗き窓があることに気付いた。蓋があり、滑らせるようになっている。指先で覗き蓋をするりと押し開けると、四角い小さな窓から黄色い光が零れてくる。
 世之介は窓に目を押し当てた。
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