41 / 80
第八話 強襲の美術設定
4
しおりを挟む
「失礼致します! 報告に参りました!」
ドアの向こうから、四角張った声が聞こえ、市川は三村を振り返った。
三村は、ぐっと背を伸ばし、王子らしい物腰を取り戻していた。
「入ってよろしい!」
凛とした、王子らしい命令口調である。市川は、三村の変貌ぶりに呆れた。
がちゃりと音を立て、ドアが開くと、全身を、ぴんと突っ張らかせた騎馬隊長が立っている。相変わらず、口髭はこってりとポマードで固め、両端をピンと撥ね上げていた。
「現在、飛行船はバートル国の領内に入りました! 護衛の者、総て到着に備えておりますので、是非とも殿下の謁見を賜りたく存じます!」
市川たちの視線が素早く交わされた。山田は市川の向かい側に立ち、頷く。無言で「設定画を完成させた途端だな!」と目が語っている。市川も頷き返した。
つまりは、隣国が存在を始めたのだ。
「分かった……。今、行く」
三村は鷹揚に頷いていた。三村の態度は、微塵も元々の気弱さを感じさせない。
かちゃん! と踵を打ち合わせ、騎馬隊長はきびきびとした敬礼をして退出した。
「おい! ストーリーが動き出したじゃないか!」
新庄が爛々と目を輝かせている。
市川はさっと身を翻すと、窓に顔を近づけ、外を覗き込んだ。
地平線の彼方に、森に囲まれた王宮と、その周りを城下町がぐるりと取り囲んでいる。全体に中世ぽい雰囲気で、ごつごつとした岩山に、へばりつくように城が聳えている。
市川は子供のように叫んでいた。まさしく、たった今、山田が設定したお城である。
城のデザインは、中世ヨーロッパに準拠していたが、山田は中近東らしき、モスクの建築様式も取り入れ、どことなく無国籍な雰囲気を漂わせている。
「バートル国の王宮だ!」
市川の側に洋子が近づき、顔を並べた。
「本当だわ! 凄く綺麗……」
無意識であろうが、洋子の胸が市川の背中にぎゅっと押し付けられていた。柔らかな胸の丸みが、はっきりと感じられ、市川は思わず顔が火照るのを感じていた。
「おい! 外を眺めるのは、いつでもできる! それより、謁見だ!」
新庄の言葉に、市川はぎこちない仕草で、窓から身を離した。
洋子も身を離し、市川の背中の二つの重みが消えた。もう少し、堪能したかったのに!
ドアを出て、狭苦しい廊下を三村を先頭にぞろぞろと歩く。
真っ直ぐ進むと、船尾部分に向かう。そこは広々として、公的な行事を執り行える構造になっている。
船尾には、すでに三村の──いや、アラン王子の謁見を待つ護衛の兵が整列していた。
みな、きちんと制服の皴を伸ばし、背筋をぴんと反らし、アラン王子の今や遅しと、到着を待っていた。
「アラン王子殿下! 謁見──!」
入口で待ち受けていた儀場兵が、爵杖を振り上げ、高々と語尾を延ばして叫ぶ。ざざっと音を立て、全員が直立した。
ゆったりと王族の威厳を漂わせ、三村が歩き出す。市川たちは御付きの者であるので、入口付近に立ち止まって控えている。
と、市川の視線が、列の真ん中付近に立っている一人の女兵士に止まった。
あの女だ!
なぜか女兵士は、ぎらぎらと怒りの視線を三村に注いでいた。口許がぎゅっと引き絞られ、強情そうな意志の強さを顕している。
三村が女兵士の前を通り過ぎると同時に、女は腰の剣をすらりと抜き放ち、叫んだ!
「アラン王子! 覚悟!」
ドアの向こうから、四角張った声が聞こえ、市川は三村を振り返った。
三村は、ぐっと背を伸ばし、王子らしい物腰を取り戻していた。
「入ってよろしい!」
凛とした、王子らしい命令口調である。市川は、三村の変貌ぶりに呆れた。
がちゃりと音を立て、ドアが開くと、全身を、ぴんと突っ張らかせた騎馬隊長が立っている。相変わらず、口髭はこってりとポマードで固め、両端をピンと撥ね上げていた。
「現在、飛行船はバートル国の領内に入りました! 護衛の者、総て到着に備えておりますので、是非とも殿下の謁見を賜りたく存じます!」
市川たちの視線が素早く交わされた。山田は市川の向かい側に立ち、頷く。無言で「設定画を完成させた途端だな!」と目が語っている。市川も頷き返した。
つまりは、隣国が存在を始めたのだ。
「分かった……。今、行く」
三村は鷹揚に頷いていた。三村の態度は、微塵も元々の気弱さを感じさせない。
かちゃん! と踵を打ち合わせ、騎馬隊長はきびきびとした敬礼をして退出した。
「おい! ストーリーが動き出したじゃないか!」
新庄が爛々と目を輝かせている。
市川はさっと身を翻すと、窓に顔を近づけ、外を覗き込んだ。
地平線の彼方に、森に囲まれた王宮と、その周りを城下町がぐるりと取り囲んでいる。全体に中世ぽい雰囲気で、ごつごつとした岩山に、へばりつくように城が聳えている。
市川は子供のように叫んでいた。まさしく、たった今、山田が設定したお城である。
城のデザインは、中世ヨーロッパに準拠していたが、山田は中近東らしき、モスクの建築様式も取り入れ、どことなく無国籍な雰囲気を漂わせている。
「バートル国の王宮だ!」
市川の側に洋子が近づき、顔を並べた。
「本当だわ! 凄く綺麗……」
無意識であろうが、洋子の胸が市川の背中にぎゅっと押し付けられていた。柔らかな胸の丸みが、はっきりと感じられ、市川は思わず顔が火照るのを感じていた。
「おい! 外を眺めるのは、いつでもできる! それより、謁見だ!」
新庄の言葉に、市川はぎこちない仕草で、窓から身を離した。
洋子も身を離し、市川の背中の二つの重みが消えた。もう少し、堪能したかったのに!
ドアを出て、狭苦しい廊下を三村を先頭にぞろぞろと歩く。
真っ直ぐ進むと、船尾部分に向かう。そこは広々として、公的な行事を執り行える構造になっている。
船尾には、すでに三村の──いや、アラン王子の謁見を待つ護衛の兵が整列していた。
みな、きちんと制服の皴を伸ばし、背筋をぴんと反らし、アラン王子の今や遅しと、到着を待っていた。
「アラン王子殿下! 謁見──!」
入口で待ち受けていた儀場兵が、爵杖を振り上げ、高々と語尾を延ばして叫ぶ。ざざっと音を立て、全員が直立した。
ゆったりと王族の威厳を漂わせ、三村が歩き出す。市川たちは御付きの者であるので、入口付近に立ち止まって控えている。
と、市川の視線が、列の真ん中付近に立っている一人の女兵士に止まった。
あの女だ!
なぜか女兵士は、ぎらぎらと怒りの視線を三村に注いでいた。口許がぎゅっと引き絞られ、強情そうな意志の強さを顕している。
三村が女兵士の前を通り過ぎると同時に、女は腰の剣をすらりと抜き放ち、叫んだ!
「アラン王子! 覚悟!」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる