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第八話 強襲の美術設定
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床に散らばった設定画を、新庄は這いつくばるようにして掻き集めていた。
と、その手がぴたりと止まる。一枚の設定画を手に、さっと立ち上がり、無言で手元の紙を見詰めていた。
表情が険しくなっている。
「このキャラ表は?」
市川は、新庄の問い詰めるような厳しい口調に驚いて、顔を上げた。新庄は真剣な眼差しで、市川を睨んでいる。新庄の手にしているのは、お姫様のキャラである。
「ああ、そりゃ三村のお嫁さんだ。つまり、これから行く隣国のお姫様だよ」
「何で、このキャラを設定した?」
明らかに新庄は詰問の口調だ。市川はむらむらっ、と癇癪の虫が、むくりと頭をもたげるのを感じていた。
「何でって、知らねえよ! 手が勝手に動いたんだ! どうして、そのキャラが気になるのか教えてくれよ! 元々は木戸さんが、おれにラフを描いて寄越して、これを後で使うからキャラクター起こしてくれと頼んだんだ」
「そうか……」
新庄は、ほっと肩の力を抜いた。が、眉は未だに顰められ、何か考え込んでいる様子だ。
「どうしたの、平ちゃん?」
洋子が心配そうに声を掛ける。
新庄はぷい、と横を向いた。
「何でもない……」
「何でもなくは、ないだろう!」
市川の声が甲高くなった。一歩、ずい、と前へ出ると、新庄を睨みつける。
「そのキャラ、おれたちが兵士募集で王宮に集まったときにもいたぜ。あんたは顔を合わせているはずだ。憶えてないのか?」
新庄は、ぽかりと口を開いた。目が虚ろになっている。
「あっ! そういえば! 確かに、見た覚えがある……。だが、あのときは、まだ君らに声を掛けられる前で、記憶が戻っていなかった……」
市川は唇をぺろりと舐めた。
「それに、言わせて貰えば、その女。この飛行船にも乗り組んでいる!」
「えっ!」
新庄は今度こそ、心の底から驚いた様子で、両肩ががっくりと下がっていた。よろよろと数歩、後ろに下がり、頭に手をやって呆然となった。
さらに問い詰めようと、市川が息を吸い込んだ瞬間、ノックの音が響いた。
ぎくり、と一同は身を強張らせた。
と、その手がぴたりと止まる。一枚の設定画を手に、さっと立ち上がり、無言で手元の紙を見詰めていた。
表情が険しくなっている。
「このキャラ表は?」
市川は、新庄の問い詰めるような厳しい口調に驚いて、顔を上げた。新庄は真剣な眼差しで、市川を睨んでいる。新庄の手にしているのは、お姫様のキャラである。
「ああ、そりゃ三村のお嫁さんだ。つまり、これから行く隣国のお姫様だよ」
「何で、このキャラを設定した?」
明らかに新庄は詰問の口調だ。市川はむらむらっ、と癇癪の虫が、むくりと頭をもたげるのを感じていた。
「何でって、知らねえよ! 手が勝手に動いたんだ! どうして、そのキャラが気になるのか教えてくれよ! 元々は木戸さんが、おれにラフを描いて寄越して、これを後で使うからキャラクター起こしてくれと頼んだんだ」
「そうか……」
新庄は、ほっと肩の力を抜いた。が、眉は未だに顰められ、何か考え込んでいる様子だ。
「どうしたの、平ちゃん?」
洋子が心配そうに声を掛ける。
新庄はぷい、と横を向いた。
「何でもない……」
「何でもなくは、ないだろう!」
市川の声が甲高くなった。一歩、ずい、と前へ出ると、新庄を睨みつける。
「そのキャラ、おれたちが兵士募集で王宮に集まったときにもいたぜ。あんたは顔を合わせているはずだ。憶えてないのか?」
新庄は、ぽかりと口を開いた。目が虚ろになっている。
「あっ! そういえば! 確かに、見た覚えがある……。だが、あのときは、まだ君らに声を掛けられる前で、記憶が戻っていなかった……」
市川は唇をぺろりと舐めた。
「それに、言わせて貰えば、その女。この飛行船にも乗り組んでいる!」
「えっ!」
新庄は今度こそ、心の底から驚いた様子で、両肩ががっくりと下がっていた。よろよろと数歩、後ろに下がり、頭に手をやって呆然となった。
さらに問い詰めようと、市川が息を吸い込んだ瞬間、ノックの音が響いた。
ぎくり、と一同は身を強張らせた。
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