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幕間:曰く付きのベッド
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―――世間というものは、案外狭いんだなと思った。
そう大きくないけどそれでも街で一番の腕利きの家具屋さんで、理想通りのベッドはあっさりと見付かった。
大きさもデザインも理想的なベッドで、しかも値段だって想像よりも安かった。
………え?曰くつきか何か?
失礼ながらそう思えば、本当に曰く付きだった。
じゃあ買わなきゃ良いじゃんって話なんだろうけど、その曰くは俺にもディクセル様にも関係大有りな曰くだったんだ。
店主は話す。
このベッドは、とある貴族の三男坊からの依頼だったそうだ。
その三男坊は騎士となった際、とある愛らしい錬金術師に心底惚れこんだらしい。
そうしてその三男坊は口説きに口説き、やがてとうとう口説き落とせたらしく、結婚の約束までこぎつけそうだ。
しかし錬金術師は、その条件に様々な要求をした。
その内の一つが、このベッドだったそうだ。
しかしこのベッドが完成し、じゃあいざ引き渡しをしようとした時に、悲劇が起きた。
その錬金術師はその愛らしさを悪用し、悪行と贅の限りを尽くしていたのだ。
三男坊のような男だって山ほど居たし、三男坊よりも金持ちで見目麗しい愛人だってたくさん居た。
しかし悪いこととは長く続かないもので、錬金術師は王都の騎士団に捕縛されて処刑された。
だが三男坊は深く錬金術師を愛していたらしい。
三日三晩悲しみに暮れた後、自死してしまった。
そうして未納金と共に残されたのが、このベッド。
「………と、いう訳なんじゃ。いやー、長く生きていてこんなことは初めてじゃ。」
さて、どんなのいいかね?
ここ最近の鉄板ネタらしく、その大きなお腹を揺らしながら朗らかに店主は笑った。
俺もディクセル様も引き攣った笑みを浮かべながら、頭を抱えたい衝動を必死に抑えた。
今の話、絶対にカミラの話だ。
処刑された云々の真偽は分からない。
ただ、カミラに関する話題を兄さん達が一度も話そうとしていない以上、もしかしたら本当のことなのかもしれない。
まぁ、どうであれ。
俺や兄さんと血が半分繋がっているだろう弟が掛けてしまったであろう迷惑だ。
不幸中の幸いか、ディクセル様のお金を使わなくても(多少苦しくはなるが)俺の貯金で払える金額だ。
ここは責任を取るべきではないのか?
だけどディクセル様も使う予定のベッドだ。
そんな義務感で買って良いのか?
「このベッド、ください。あ、今日払えます。」
「「え?」」
そう思って躊躇していた時に、ディクセル様はあっさりとそう言って曰く付きのベッドを指さした。
本当に、良いの?
正直な話、ディクセル様はカミラのことを嫌っているように思っていたから、このベッドだって嫌がるかと思ってた。
思わず唖然としてしまう俺と店主を他所に、ディクセル様はさっさと支払いや設置の手続きを済ませてしまう。
「多分、その三男坊は死んでない。心当たりある奴一人居るけど、ソイツも捕縛された上に単純に勘当されてる。」
全部の手続きを終えたディクセル様は、俺にだけ聞こえる声でそう言った。
………なるほど。
勘当されたからベッドの引き取りも出来なければ、ベッドの代金を払う事も出来ない。
そしてこの国の貴族の勘当は、大体がイコールで死んだこととして処理される。
死人には遺産も小遣いも領地も与えられないからだ。
「嘘には本当のことを混ぜると真実味が増すというが、一体どれが本当なことやら。」
家具屋さんに設置されたキッズスペースで遊んでいたリオンを抱っこしながら、ディクセル様はニヤニヤと笑う。
死んだという事だけが真実だとしたら、それはそれで悲しいことだなと思う。
「………で、ディクセル様。それどうするの?」
「ん?リオンが気に入ってるから買う。」
「ママみて!おうちつくれる!」
キッズスペースに置いてあった積み木と同じ物が入った箱を会計に置いたディクセル様に、さっきまでのしんみりとした気持ちが一気に吹っ飛ぶ。
家具屋さんが拘りの木材で作った上にセット数が多いから、かなりお高めな積み木セットだ。
うちにも安物とはいえ積み木セットあります!無駄遣いをするなって言ったじゃないか!
そう言いたいが、リオンがめちゃくちゃキラキラした目で見て来るからグッと飲み込んでしまう。
他の子と比べてリオンは物欲が少ない。
我慢しているとかじゃなくて、本当に欲しくないらしい。
だから比例して我儘を言わないから、たまの我儘は叶えてあげたい。
叶えてあげたいけど………高い………。
「積み木はある程度大きくなっても遊べるからな。無駄じゃねぇよ。なー、リオン。」
「ねー?」
「………はぁ………分かった。リオン、大事に遊んでね。」
2対1は、普通に卑怯だ。
そう大きくないけどそれでも街で一番の腕利きの家具屋さんで、理想通りのベッドはあっさりと見付かった。
大きさもデザインも理想的なベッドで、しかも値段だって想像よりも安かった。
………え?曰くつきか何か?
失礼ながらそう思えば、本当に曰く付きだった。
じゃあ買わなきゃ良いじゃんって話なんだろうけど、その曰くは俺にもディクセル様にも関係大有りな曰くだったんだ。
店主は話す。
このベッドは、とある貴族の三男坊からの依頼だったそうだ。
その三男坊は騎士となった際、とある愛らしい錬金術師に心底惚れこんだらしい。
そうしてその三男坊は口説きに口説き、やがてとうとう口説き落とせたらしく、結婚の約束までこぎつけそうだ。
しかし錬金術師は、その条件に様々な要求をした。
その内の一つが、このベッドだったそうだ。
しかしこのベッドが完成し、じゃあいざ引き渡しをしようとした時に、悲劇が起きた。
その錬金術師はその愛らしさを悪用し、悪行と贅の限りを尽くしていたのだ。
三男坊のような男だって山ほど居たし、三男坊よりも金持ちで見目麗しい愛人だってたくさん居た。
しかし悪いこととは長く続かないもので、錬金術師は王都の騎士団に捕縛されて処刑された。
だが三男坊は深く錬金術師を愛していたらしい。
三日三晩悲しみに暮れた後、自死してしまった。
そうして未納金と共に残されたのが、このベッド。
「………と、いう訳なんじゃ。いやー、長く生きていてこんなことは初めてじゃ。」
さて、どんなのいいかね?
ここ最近の鉄板ネタらしく、その大きなお腹を揺らしながら朗らかに店主は笑った。
俺もディクセル様も引き攣った笑みを浮かべながら、頭を抱えたい衝動を必死に抑えた。
今の話、絶対にカミラの話だ。
処刑された云々の真偽は分からない。
ただ、カミラに関する話題を兄さん達が一度も話そうとしていない以上、もしかしたら本当のことなのかもしれない。
まぁ、どうであれ。
俺や兄さんと血が半分繋がっているだろう弟が掛けてしまったであろう迷惑だ。
不幸中の幸いか、ディクセル様のお金を使わなくても(多少苦しくはなるが)俺の貯金で払える金額だ。
ここは責任を取るべきではないのか?
だけどディクセル様も使う予定のベッドだ。
そんな義務感で買って良いのか?
「このベッド、ください。あ、今日払えます。」
「「え?」」
そう思って躊躇していた時に、ディクセル様はあっさりとそう言って曰く付きのベッドを指さした。
本当に、良いの?
正直な話、ディクセル様はカミラのことを嫌っているように思っていたから、このベッドだって嫌がるかと思ってた。
思わず唖然としてしまう俺と店主を他所に、ディクセル様はさっさと支払いや設置の手続きを済ませてしまう。
「多分、その三男坊は死んでない。心当たりある奴一人居るけど、ソイツも捕縛された上に単純に勘当されてる。」
全部の手続きを終えたディクセル様は、俺にだけ聞こえる声でそう言った。
………なるほど。
勘当されたからベッドの引き取りも出来なければ、ベッドの代金を払う事も出来ない。
そしてこの国の貴族の勘当は、大体がイコールで死んだこととして処理される。
死人には遺産も小遣いも領地も与えられないからだ。
「嘘には本当のことを混ぜると真実味が増すというが、一体どれが本当なことやら。」
家具屋さんに設置されたキッズスペースで遊んでいたリオンを抱っこしながら、ディクセル様はニヤニヤと笑う。
死んだという事だけが真実だとしたら、それはそれで悲しいことだなと思う。
「………で、ディクセル様。それどうするの?」
「ん?リオンが気に入ってるから買う。」
「ママみて!おうちつくれる!」
キッズスペースに置いてあった積み木と同じ物が入った箱を会計に置いたディクセル様に、さっきまでのしんみりとした気持ちが一気に吹っ飛ぶ。
家具屋さんが拘りの木材で作った上にセット数が多いから、かなりお高めな積み木セットだ。
うちにも安物とはいえ積み木セットあります!無駄遣いをするなって言ったじゃないか!
そう言いたいが、リオンがめちゃくちゃキラキラした目で見て来るからグッと飲み込んでしまう。
他の子と比べてリオンは物欲が少ない。
我慢しているとかじゃなくて、本当に欲しくないらしい。
だから比例して我儘を言わないから、たまの我儘は叶えてあげたい。
叶えてあげたいけど………高い………。
「積み木はある程度大きくなっても遊べるからな。無駄じゃねぇよ。なー、リオン。」
「ねー?」
「………はぁ………分かった。リオン、大事に遊んでね。」
2対1は、普通に卑怯だ。
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