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「じゃあ、また来月ねー。でもたまには予定無くても来てね。」
「せんせー、ばいばーい!」

簡易的な検査と問診も終わり、今日も異常無しでなにより。
去年はちょこちょこ熱を出したりして心配だったけど、保育士さんにもソラリス様にも環境が変わったからというのもあるし、そもそも子供なんてそんなもんだとは言われて様子見はしてた。
でも今年は今の所高熱出したりとかは無いから少し安心だ。
油断は出来ないけど。
それよりも………

「今日は注射我慢できたね、偉かったね。」

先月までは採血の注射で痛がって泣いていたけど、今日はキュッと唇を引き締めて我慢をしていた。
かなり涙目だったけど、そんなのはどうでも良い。
泣かずに我慢出来たことは偉いので、そこはしっかりと褒めてあげるのだ。

「うん!だって、ヒーローはちゅーしゃでなかないんだよ!」
「そうなんだ。じゃあ、ヒーローになる第一歩だね。」

ニコニコと笑いながら俺にそう言うリオンに、複雑な感情を抱いてしまう。
例え幻想であったとしても、成りたい存在モノがあることは良いことだ。
でもその理由が父親の不在が理由だというのならば、俺はやはりこの子に苦労を強いているのではないだろうか。
しかしこの子は通常ではない生まれ方をしている。
存在そのものが禁忌であるこの子を、あの人がもしも受け入れてくれなかったら―――

「うん!あのね………」
「………リオン?」
「ううん。なんでもない。ないしょって、フィニスおじさんとやくそくなの。」

何かを言おうとしたリオンが、突如ハッとしたような顔をして口を噤んだ。
内緒?フィニス様と約束?
一体何の話なんだろうと思うが、内緒だと本人が告白していることをわざわざ問い質すこともないだろう。
フィニス様が、悪いことを吹き込むとも思えないし。

「ヒーローにはひみつがいっぱいなの。」
「あら、格好良い。」
「でしょー?」

ムフーっという効果音が付きそうな渾身のドヤ顔。
可愛いと言いたくなったけど、ここで機嫌を損ねるのはどう考えても宜しくないのでグッと我慢する。
不機嫌顔も可愛いけど、わざわざさせたい訳じゃない。

「ママは、パパしってる?」
「え?」

そう思ってると、リオンが純粋な瞳でそう聞いた。
この場合の【知ってる】って何を指すんだろうか?
パパの存在を知っているかという意味なのか、それともパパがどういう人か知ってるかと意味なのか。

「………り、リオンは、パパに会いたい?」

ドキドキと、心臓が嫌な音がする。
リオンの、ディクセル様パパそっくりな瞳が俺を見透かすように見つめてくるのを受け止めながら、俺は敢えてリオンの質問には答えなかった。
卑怯で卑劣な奴だな、俺は。
こんなの、誘導以外のなにものでもないだろう………

「………あいたい………」

小さく、泣きそうな声でリオンが言った。
分かる、分かるよ。
自分で決めた道のクセに、今更会いたくなってるのは俺の方だ。
会って、リオンと俺を抱き締めて欲しいと思っているのも、俺なんだよ。
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