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―――その夜から、早いもので二年経った。

その二年間はいろいろあった。
初めての引っ越し、初めての就職、初めての二人暮らし。
そして当然、初めての子育て。

子育てという部分で言えば、リオンはあの身体になるまで急激だったのにも関わらず、そこから先はゆっくり………というか、人間の子供と同じ年の取り方をし始めた。
知能だって、他の子よりちょっと賢い程度。
やっぱりホムンクルスじゃないナニカなんだろう。

俺はソラリス様の伝手で、街の役場に就職することになった。
仕事は正直、出来る方ではないと思う。
それでも万年人手不足に悩まされていた役場ではすごく歓迎されて、二年目になる今でも【辞めないでいてくれてありがとう】と感謝される。
感謝するのはこっちもなんだけどなぁ………。

役場での仕事は朝が早くて、その分夕方には終わる。
とはいえそんな長い時間リオンを一人にさせるのは不安だったし、かといってソラリス様に迷惑をおかけするのは違うと思うし………。
最初はそう思っていたけれど、敷地内に託児所があったから遠慮なくそこに預けることにした。
リオンがホムンクルスだってことは、伏せている。
そうした方が良いと言ったのはソラリス様で、実際、今のリオンの成長ペースだと寧ろホムンクルスだと紹介した方が違和感がある程だった。

「ミリさーん!この書類どこだっけ?」
「はーい!これですね!この間コピーしたのでまだ余裕ありますが、無くなりそうなら言ってください。」

今日も今日とて、役場はわたわたと忙しい。
このイルハナタというダンジョン街は、冒険者の人は多いが住み着く人は少ないというのが今までだったんだけど………何故かここ最近移住希望者の冒険者さんが増えている。
急激にっていう訳ではないけれど、でも全くのゼロだったこの数年から考えるとかなり忙しくなっている。
なんて言ったって、今までしなかった仕事が全部押し寄せてきたんだ。

「ミリー!お客さーん!」
「はーい!………あ、チャーリーさん!」
「よお。」

お客様?
心当たりはないけれど、呼ばれた場所へと向かう。
………と、そこに居たのは俺にとっては初めてのお客様であり、そこそこ仲の良いご近所さんでもあるアリサちゃん………のお兄さんのチャーリーさんが居た。
アリサちゃんとはそこそこ話すけど、チャーリーさんは正直、苦手なんだよなぁ………。
何がどうって訳じゃないけど、雰囲気が怖い。
冒険者さんだから?
でも他の冒険者さん達の中でも一番怖い気がする。

「悪いな。対応中だったか?」
「いいえ、急ぎではないので。どうされました?」

冒険者さんだから、役場というよりはギルドに立ち寄ることが多い。
身分証明関連はギルドカードがあるから、ある程度の書類発行とかもギルドで出来ちゃうしね。

「給付金申請したいけど、やり方がいまいち………ギルドの連中も役に立たねぇから直接来た。」
「ああ。これ、結構複雑ですもんね。こちらで少々お待ちください。」

渡された書類はギルドでも申請出来る給付金の申請書類だ。
ただ、書き方とかが結構複雑で、初めて見た時は俺達役場職員でもよく分からないと思うんだから仕方ないと思う。
俺はチャーリーさんをカウンターに案内して、あらかじめ自分用に作っていた(けど、皆使いたがるから複製も作った)色んな書類の書き方サンプルを入れたファイルを手に取ってチャーリーさんの所に戻った。

「恥ずかしながら、俺も見ながらじゃないと分かってなくて………」
「悪いな、こんな面倒なこと手伝ってもらって。」
「いいえー。それが俺の仕事ですし、何なら俺自身の勉強にもなりますので。」

二人でサンプルを見て確認しながら、必要欄を埋めていく。
とは言っても、チャーリーさんは理解力が高いので殆どサンプル見ただけで理解して埋めて行ってしまうから俺はほぼ見てるだけだけど。

「そういやアンタ、カタリナ出身だったか。」
「え?ええ………。」

カタリナ。
それが俺が住んでいた街だった
知ったのはイルハナタに移り住んでからなので、正直耳馴染みが無さ過ぎる。
しかも何でも若い人を中心に麻薬が横行しているらしい。
そんなことも、俺は知らなかったし分からなかった。
多分、兄さん達が対応していた真の目的ってそこなんだろうなとか、兄さんが俺に【納屋掃除が終わるまで出て来るな】って言ったのは俺が巻き込まれないようにする為だったんだろうなとか、そんなことだけがこの街に移り住んでから分かった位だ。

「家族もそこに居るのか?」
「いいえ、今は王都の筈です………どうしました?」
「いや、この間カタリナに寄った時に、大規模な暴動が起きててな。」
「え………」

サラサラと書類を記載しながら、チャーリーさんは平常と変わらないトーンでそう言った。
反対に俺は、ドクンと心臓が変な跳ね方をしているのを全身で感じていた。
そんな話、兄さんから聞いてない。
王都に居るから?
暴動って何?
どんな規模の?
兄さんもだけど、フィニス様は無事なの?
………ディクセル様は?

「普段ならスルーするんだが、そういやアンタの地元だって思い出してな。家族に一応連絡しときな。」
「………は、はい!ありがとうございます。あ、この書き方は………」

チャーリーさんはそこまで言って首を傾げたので、俺は書き方を説明しながらもぐるぐると同じことを考える。
もしかしたら、兄さん達は何も関係無いかもしれない。
でも、解決したという連絡も来ていないことは事実だ。
気になる………これは、聞いても良いのだろうか?
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