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「………さて、ミリ。色々と聞きたいことがある。」
「………はい。」

扉が閉まった音と同時に、兄が俺を抱き締めたままそう言った。
多分というか絶対、昨日のことだろう。
小さく頷く俺の背中を、兄は優しい、けれどもたどたどしい手つきで撫でてくれた。
どこか開き直っているような気配がするのは、気の所為か。

「昨日、何があったか詳しく話して欲しい。」

促されるまま、俺は思い出せる範囲で詳しく話してみせた。
さっきの会話から大事なことなんじゃないかと思い、クッキーを丁稚の子から貰った所から、昨日食べて起きたことまで。
ディクセル様が二人見えたから、どちらもディクセル様じゃないと思ったことも………。

「………なんでよりにもよってあの男なんだ………」

趣味が悪いと兄が呆れたようにそう言ったけど、酷くない?
なんでそんなことを言うのか気になるけど、なんかディクセル様が悪いみたいな言い方は宜しくないのでは?
わしゃわしゃと俺の頭を撫でる兄の手は心地好いけど、好きな人を悪く言われるのは嫌だなと思ってしまう。

「………まぁ、いい。誰に見えたかは問題ではなく、。」

どういうことかと思えば、この媚薬はカミラが作ったものらしい。
しかもただの媚薬効果だけじゃなく、【本当に愛してる人に見える】幻覚作用があるらしい。
そしてその副作用なのか、或いは意図的なのか分からないけれど相手の名前を呼ぶことが出来なくなるんだとか。
なにそれこわい。
………と思うけど、あの時俺にディクセル様が二人見えたりディクセル様の名前を呼べなかったのはそういうことなんだろう。
自分の身体で体験したから、間違いない。

「身体に異変は無いか?薬を盛られたのもそうだが、その………ディクセルに抱かれたのだろう?」

言い辛そうに兄からそう言われて、羞恥でカッと全身に血が巡るのを感じた。
忘れていた腰の痛みも復活した気がするし、身体の奥もずくずくと疼き始めているような気もする。
そうだ、俺、ディクセル様じゃない人とセックスしたつもりで本人とシたんだった………!

「あの、俺………ディクセル様に言わないで!」
「ミリ?」

焦ってそう言い出す俺に、兄は訳が分からないといった顔をした。
でもどうしたら良いのか分からなくて、俺は兄に本当の意味で全てを告白した。
愚かにも家族が欲しかったこと。
父が兄に遺したのであろうホムンクルスの装置を、勝手に使ってしまったことも。

「………ミリ、すまない。私が所為で、本当に辛い想いをさせたな。」

でも兄は、責めなかった。
それどころかすまないと謝ってくれた。
あの兄が!
俺はそう驚くと、兄は気まずそうな、それでいて寂しそうな顔で微笑んだ。

「ここに地下があるのは知っていた。私も探し物があったからな。ディクセルに探すように言ってたのだが………」

なるほど、それでディクセル様は納屋に来てたのか。
ん?でもあっさり帰ってたし、地下を気にしていた素振りもなかったよな?
掃除だって、外を掃くことをメインにしてたような?

「だというのに、探す気はゼロでミリばかり構うから困っていたのは事実だ。」
「ふへ?」
「アイツがお前を構っていたのは、本心だということだ。」

呆れたようにそう言う兄には申し訳ないが、胸の中をじんわりとした温かい気持ちで満たれていく。
正直、兄からの監視か嫌がらせだと思ってた。
でも、少しは楽しんでくれていたのかな?

「あ、あの、探し物って、ホムンクルスですか?」
「いや、だ。」

もしかしたらホムンクルスを奪われるのかと思ったけど、兄は首を横に振って仄暗い瞳でそう告げた。
父が………兄を愛していた父が、一体兄から何を奪うというのだろうか?
首を傾げる俺に、兄はただ、諦めているような笑みを浮かべた。
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